人間と人魚が共存を目指す社会。会社を辞めることになりそうになってまで、とある男をさがすひとりの記者がいた。その男の乗る船にたどりついた記者は、かつて船の推進方法を水中生物にとって安全に変えようとしていた男の過去を聞きはじめる……
2025年8月に公開されたアニメ映画。『魔法少女隊アルス』で個性的かつ魅力的な映像を見せていた青木康浩監督が、STUDIO 4℃で制作したオリジナルSFファンタジー。早くもプライムビデオ見放題になっていた。
良くも悪くもオリジナルアニメ映画が注目される近年、絵柄が好みではないという理由で嘲笑や反発が集中した作品でもある。もともとSTUDIO 4℃は一般的な日本の「アニメ」の愛好家とは異なる絵作りで知られた会社なのだが。
アニメ制作会社STUDIO4℃作品のキャラクターデザインが、なぜか最近になって嘲笑や反発の対象になっている - 法華狼の日記
実際に視聴すると期待通り作画アニメとして見どころが充実していた。冒頭の人魚用水流通路で記者が移動する描写から見ごたえたっぷり。ミュージカル的なダンスやクライマックスの説得における水流エフェクト作画も充実。
話題のキャラクターデザインは、鼻根の立体感を記号的に落としこんでいるところが目を引く。鼻の立体表現のアイデアだけで興味深く感じたのは影を唇に落とした『機動警察パトレイバー2 the Movie』以来かもしれない。
上海の猥雑さを凝縮した背景美術も見ごたえがある。先端的な都市の広々とした華やかさから、主人公が住む猥雑な住居、そして海辺まで、どの舞台も魅力的だった。
アバンタイトルで記者がコーヒーに砂糖を入れそこねる描写のように、画面の気づくか気づかないところでキャラクターにつまらない失敗をさせる作風がサブカルアニメという感じでしゃらくさい。しかしそのように完璧ではないキャラクターだけが、それでも良い未来をつくっていこうとするドラマとしての一貫性はある。主人公と人魚の関係を応援する技術者の友人は決定的な亀裂のきっかけをつくってしまう。後半のいなせなタクシー運転手が同時にそそっかしすぎる。
主人公にしても完璧な善人ではない。海中生物を傷つけないようスクリューではなくジェットで推進する船を実現させたがっているのだが、いざ人魚が妻になろうと押しかけてくると拒絶する。実生活において特に魚を愛しているようでもない。そこから後半になって、推進方法の改善には主人公個人の過去に動機があり、どちらかといえば人間のためでしかないことが明かされる。人魚が魚の姿をしている時は距離をとろうとしながら、性的な女体に変化している時には接触しようとする態度も、主人公が人魚ではなく人間にしか興味がない心情の反映だろう。
そうして最初は本心では人魚に興味関心がなかった主人公が、ともに生活するにつれて人魚への愛着を感じはじめ、やがて過去に向きあうドラマとして期待以上によくできていた。
こうしたサブカルっぽいアニメ映画にしては、主人公の選択や行動にかかわる段取りは意外ときちんとしていて、暴走ロボットを止める方法などは日常の描写が伏線として機能している。
ただし他の段取りの説明不足に感じるところは複数あり、たとえば中盤のロボットの暴走や、後半に回想される事故は、なぜそうなったのか、なぜそうなるような行動をしたのかという理屈が画面から見えない。ロボットの暴走はイベントに勝手に乱入した立場なのだから警備が無理に止めようとして故障させたといった描写にしてもいいし、もっと単純に主人公が乱入したチャオに怒ることで人魚が人間の姿を維持できなくなって操縦桿が握れなくなるといった描写でもいい。回想はエンジンを止めていたが嵐の振動でエンジンレバーが起動した描写をいれてもいいし、半端に細かく描写するほどキャラクターが愚かに見えるのだから短くすませても良かった。
また、そもそも主人公の物語を記者が聞きだす枠組みにあまり意味を見いだせなかった。チャウ・シンチー監督の映画『人魚姫』を思い出したが、あちらは御伽噺らしい虚実がはっきりしないところが効果をあげていた。こちらは、ひとつの個人的な御伽噺を社会全体の理想に拡張する機能を感じないでもないが、報道することを記者が選ばないので、知る人ぞ知るドラマにとどまっている。
とはいえ、種族を超えて欠点のある相手であっても尊重しようとする個人の態度を社会へ広げるドラマは、普遍的だからこそ、現代にあらためて描く意味があるとは思えた。