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暴力団員が強盗事件への誘いを断わった理由は

 世間にここまで大見得を切った以上、実際に事件が起こった場合にシカトすれば笑いものになる。組員一同、伊達や酔狂ではなく、それなりの覚悟に違いない。彼らは「仁侠道は日本の伝統だ。縄張りを守るのは我々の義務だ」と主張し、行動で証明したいのかもしれない。

 が、犯罪者が碑文谷一家の縄張りを避け、他のエリアで強盗事件を起こせばいいというなら身勝手すぎる。それに法治国家において、暴力は国家の占有であり、私的な暴力的制裁を実行するという宣言は社会秩序に対する挑戦だ。極悪非道な犯罪者相手でも、暴力団に実力行使させてはならない。暴力的な自警団は、容易に排外主義と結びついて人種差別を煽動する。

 そもそも市民生活のただ中で拳銃を振り回し、組織のために対立相手を殺害しようと発砲事件を頻発させ、治安を悪化させている暴力団が、「安心して生活できる縄張りにする」などと喧伝するのは滑稽である。事実、トクリュウ犯罪の影には常に暴力団の姿があるではないか。

 栃木の強盗殺人事件だって、暴力団が関わる可能性が濃厚にあった。ジャーナリストの寺澤有は、とある広域組織の組員にインタビューし、指示役の夫婦から強盗に誘われた経緯の詳細をnoteの有料記事に執筆している。強盗を持ちかけられた暴力団員はなにも仁侠道に反するから断ったのではなかった。単純に取り分が少ないから受けなかったのだ。

 当事者の名前や組織名は確認済みである。幸い、碑文谷一家が属する稲川会ではなかった。が、次に事件が起きた際、一門一統から凶悪事件の実行犯が出ないとも限らない。社会の治安を守る前に、まずは頭の上の蠅を追ってもらいたい。

【プロフィール】
鈴木智彦(すずき・ともひこ)/1966年、北海道生まれ。日本大学藝術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めたのち、フリーに。著書に『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』(小学館)などがある。

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