生徒会長平成綾華は語り合いたい。

@HaLu_

生徒会、アッセンブル

第1話 生徒会長・平成綾華!!

「誰かが言った――――」


 ふたりしか居ない放課後の生徒会室。その最奥にある生徒会長席に座っていた黒髪の生徒会長様は、真面目な顔のまま唐突に語り出した。


「全身の肉がすべて舌の上でとろける霜降り状態の獣がいると――」


 俺はその語りを一旦無視し、自分の作業を続けた。


「プリっプリで身のずっしりつまったオマール海老や、タラバ蟹の身が一年中生る樹があると――」


 無駄に感情を入れて語るな。腹が減ってくるだろ。


「琥珀色の上質で芳醇なブランデーが、たえまなく湧き出る泉があると――」


 あぁ。だから今日はブドウジュース飲んでるわけね。納得。


「人々は魅せられる!未知なる美味に――!!」


 盛り上がってきたのか、椅子から立ち上がり、高らかに宣言した。


「世はグルメ時代!未開の味を探求する時代!!」


「今はテスト期間だし、時代は令和ですよ平成会長」


「…………すまない。昨日、『トリコ』を全巻読んだんだ」


「ずいぶんと余裕だなオイ」


 一学期最初のテスト期間中だと言うのに、我らが生徒会長、平成ひらなり綾華あやかは漫画を一気読みしたらしい。何してんだ。


「息抜きのつもりだったのだが……一話の導入で心を掴まれてしまってな……」


「掴まれすぎだろ。なんでフルコースの完成まで見届けてんだ」


「だっ……だって!トリコが『思い立ったが吉日ならその日以降はすべて凶日』って言ってたんだ!」


「名言を都合のいいオタクの言い訳に使うな」


「ぐぬぬ……!」


 平成会長は悔しそうに椅子に座り直し、再び静かになった。


 しかしその数秒後……


「しかしだな悠真ゆうま……今日の授業でな?先生がオートファジーについての話をしていてだな?」


「あー…………」


 モジモジウズウズとしていた幼馴染みの言動に俺の方が耐えられなくなり、仕方なく話を聞いてやることにした。


「一回だけですよ」


「っ……!憂太ゆうた!!」


「憂太じゃねぇ悠真だ。分かりづらいボケすんな」


「君が拾ってくれるからな!つい!」


「はいはい……」


 ようやくウズウズから解放され、満面の笑みを浮かべた平成会長は、生徒会室にあるホワイトボードまで使って本格的に語り出した。


「やはりトリコの一話目、特に冒頭の掴みは完璧だった。誰もが味を想像し、ワクワクしたことだろう」


 それは否定できない。実際俺もさっき想像してたし。


「あの短いページと台詞で世界観を提示し、一気に読者を引き込む。そして登場するトリコという大人の主人公!酒の底を外して一気飲み、指パッチンでタバコに火をつける!只者ではないと瞬時に分かる!いやはや何度見ても素晴らしい導入だ……」


「……確かに」


 俺はいつの間にか机の上に置かれていたトリコの1巻を読みながら会長の話を聞いていた。改めて見ると面白いなホントに。


「それにトリコは技も良い!どれも奇抜だが、少年ジャンプらしいカッコ良さと豪快さを併せ持っている!」


 会長は両腕を前にシュッシュッと突きだして何かの真似をしていた。トリコの話をしているんだからてっきりツイン釘パンチかと思ったが、どうにも違う気がする。


「…………それは何を?」


「あぁこれか?『栓抜きショット』だ」


「この令和に!?栓抜きショットを!?」


「なんでだ!カッコいいだろ!『奥義コルクスクリュー』カッコ良かっただろ!」


「確かにカッコ良かったけど!一気読みした人間の熱量でしか出てこない技を出してくんな!」


「…………なら君で試してやろう」


 何を思ったのか、平成会長は俺の下腹部に両拳を当ててきて、脅してるかのように囁いてきた。


「骨盤の中心にある逆三角形の骨である仙骨を抜き取ってやる。抵抗はムダだぞ」


「ちょっ……お前はホントに出来そうだからやめろ!てか仙骨の説明したいだけだろ!」


 本人はふざけてるだけだから気づいてないんだろうが、なかなか際どい所に拳を当てられている。しかも顔近いし。見た目ばっかり美人になりやがってこのジャンプっ子が。


「すいません。平成会長いらっしゃいますか?」


「っ、あぁいるとも。どうしたのかな?」


 テスト期間中だから誰も来ないだろうと油断し、くだらないことをしていた生徒会室に一般の生徒がやってきてしまった。会長は瞬時に俺から離れて姿勢を正し、その生徒のもとに行き、相手をし始めた。


「今度の文化祭についてなんですけど――」


「あぁそこはだな――」


 会長はさっきまでのおふざけが嘘みたいに生徒と真面目な話を交わしている。




 何を隠そう平成会長は表向きには完璧で厳格な生徒会長として活動しているのだ。去年の生徒会長選挙では一年生にも関わらず、支持率驚異の90%。どうなってんだ。



 支持率はあったとして、校内の誰も会長の正体を知らない。平成綾華という人間の本質を分かってない。


 コイツはただジャンプ作品全般が好きで、意外と良く笑って、ダル絡みが多くて、誰もが考えているような一人で何でも出来る完璧超人なんかじゃない。


「――分かった。私の方からも先生方に相談してみるとしよう」


 ただの……頑張り屋の俺の幼馴染みだ。





 これは、そんな完璧幼馴染みとただの平凡な男子生徒による、何一つ完璧ではない日常の記録である。

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