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[篤寛]大晦日と元旦。・居酒屋あつや。・13[現パロ]/Novel by narrプロフ必読1\1加筆。

[篤寛]大晦日と元旦。・居酒屋あつや。・13[現パロ]

6,506 character(s)13 mins

寛、初めての篤の合鍵と篤との年越し。
書き納め。早いですが初詣まで。
今年もありがとうございました。
来年もよろしくお願いします(^人^)!

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 大晦日。
 実家を出てから毎年この日を一人で迎えるのは中々侘しさを感じている。
 あの店がやっていれば良いのだが、きっと年末年始は休みだろう。
 いや、年末年始こそああいった店は儲かるから休日にはならないか?

 などと、日車は心が冷え冷えとするような一人暮らしの広い部屋で悶々と考えていた。
 この間も思ったが、日車はいずれ自分が孤独死することを薄らとだが感じている。
 結婚をする気も養子を取るつもりもないから、どうせ看取る人もいないで一人ひっそりと死ぬのだ。
 しかしこの間の一件でその考えは徐々に変わり始めていた。
 日下部ならば自分を見てくれるのではないかと、貰った合鍵を大事に載せて見つめる。
 自然口の端が上がった。
分かりにくいが笑ったのだ。
 何せ無愛想だから、日車は誤解されやすい。
 この間も迷子の子どもに泣かれた挙句、自分も迷子になってしまった。
 よくここまで足を使う弁護士などやってこれたものだと、自分を褒めてやりたい気分だと思う日車だが、そう考えること自体間違っているとはいつ気づくのだろうか。
 さて年越しそばでも買いに行くかと外へ行く準備をしていたら、着信音が鳴った。
 何かと思えば日下部からだ。
 急いで電話に出ると、日下部の明るい声が耳に入ってきて少しこそばゆい。
 要件というのは、今夜暇なら家の方に今からでも来ないか? というものだった。
 勢い込んで「行く!」と日車が返事したら、日下部はクツクツ笑って「んじゃ、合鍵使って入っちゃって下さい」と言い、分かったと日車が言うと「んじゃまた」と言って電話は切れた。
 暫く日車は携帯を耳に当てたままぼうっとしていた。
 それから手の中の合鍵に視線を移し見つめる。

「これを……使うのか……」

 呆然としたまま日車は呟く。
 そして何かに決意したようにその合鍵をぎゅっと握りしめ、キリっとした顔で部屋着を脱ぎ始め外出用の服へと着替えたのだった。


 かつて日下部に教えられた通りに居酒屋あつやまでの裏路地を行く。
 何か手土産をと思って、酒蔵と化している部屋から中々値段のする焼酎と、何故か冷蔵庫にあった甘酒の元を持ってきた。
「な〜ん」とどこからか甘えた鳴き声がしたと思ったら、いつか迷った時に見かけた猫である。
 野良猫なのか飼い猫なのか分からないが、やたらと人懐こく餌を強請ってくる。
 それに日車は「すまないが今は手持ちがないんだ」とすまなそうに詫びた。
 すると猫は餌が貰えないと分かったのか、ふいっと背中を向けてどこかに行ってしまう。
 日車は心の中で今度はあの猫の餌も持ってこようなどと思いつつ、居酒屋あつやの店の前まで来ると、そこから裏へ続く小道に入ってドアの扉の前に立った。
 無くさないよう鈴のキーホルダーを付けた鍵を落とさないよう鞄から慎重に取り出して、それをじっと見つめる。

「これを、使うのか……」

 ポツリ呟くと、「日車さん?!」と後ろから声が聞こえた。
 日下部だ。
 何やら段ボール箱を抱えている。

「日下部さん」
「ああ、すまねぇが鍵開けてドアも開けてくんねぇかな。手が塞がっててな」
「分かった」

 再び何かに決意したような真剣な表情で頷くと、日車は緊張のあまり震える手で鍵を持ち、鍵穴に差し込もうとしたのだが中々的が定まらない。

(参ったな)

 そうして暫く鍵穴と格闘した後、漸くガチャっと鍵が開き、ドアも開けて日下部を中へ通した。
 日下部が「あんたも中に入っちゃって!」と言うのでお言葉に甘えて失礼する。

「こんにちは」

 今更の挨拶をすると、荷物を厨房の棚に置いた日下部は、吹き出してツボに入ったから暫く笑い転げ、ヒーヒー言いながら「ああ、こんにちは」と返した。
 その時日車の腹がギュルルと鳴る。

(タイミングが悪すぎるだろう)

 そう思いながら困った顔で日下部を見やると、日下部は「俺も昼まだなんで軽いもの作りましょっか」とニカっと笑ったのだった。


 昼に出たのは温野菜と海老の殻付き塩焼きと試しで作っていたというアスパラガスのスープと近所のパン屋からだと言うパンだった。

「アスパラガスのスープは初めて食べる」
「普通は冷製スープにするらしいんてすがね、真冬に食べるにゃきついでしょ」
「そうだな。うん、この温野菜も腹が温まって良いな。ああ、そういえばローストビーフも美味かった。あれは手間暇がかかっただろう?」
「いやぁ。アレね、裏技があるんですわ」

 そこで日下部はニヤッと笑い、「フライパンで焼き面付けたら後はラップに包んで電子レンジ任せなんですよ」と、日車に内緒話をするようにこそっと喋った。
 日車は顔が熱くなるのを自覚しつつ、それに照れ臭くて俯き「美味かった」と呟く。

「七海が教えてくれたんですよね。覚えてます? あの、金髪緑眼の七三分け」
「ああ、コンビー◯ハッシュの彼か」
「ぶは! そうそう! コンビーフハッ◯ュの彼!」
「…君は親しい人がたくさんいるんだな」
「…合鍵渡したいほど好きな相手はあんたしかいねぇよ」
「!」

 日下部の一言にとうとう何も言えなくなった日車は、後はもう最後に残しておいた海老をもくもくと食べるしかないのだった。


「そういや日車さん、今夜用事ないんですよね? 明日はどうなんです?」
「休みにはなっているな」
「なんだ。噛み切れねぇ答えだな」
「たまに急な案件が入る」
「へぇ? 弁護士家業も楽じゃねぇっつーわけか」
「店をやるのも大変だろう。そう言えば今日と明日、店の方は?」
「ああ、料理は出さねぇけど解放しますよ?」
「? 何かあるのか?」
「暇こいた連中が家から追い出されて来るもんでね。居場所作り! 内輪でがやがややって貰う分には酔っても追い出したりはしない」
「まあ、正月だからな」
「そ、元旦くらいハメ外しても良いんじゃねえかって想うんですよ、俺はね。んで、明日も暇なら泊まって来ません? それとも家でゆっくり寝正月派?」

 日車が「泊まる」と答えると、日下部は嬉しそうに笑って、「なら、初詣行きません? 近くに小さな神社あるんですよ」と提案してきた。

「あまり人混みは……」
「ああ、だいじょぶだいじょぶ。これもこの商店街の連中が取りまとめてお焚き上げとかやってるんで、来るのも近所の連中ばかり」
「初詣は実は実家を出て以来行ってないんだ。…迷うな……」
「甘酒とか出ますよ? 酒もお汁粉も。ま、紙コップ一杯ですけどね」
「是非行きたい」
「んじゃ決まりだな」

 そうして、今夜日車は日下部の家に泊まることとなったのだった。


 昼ごはんを食べ終えると日下部は「適当にみかんでも食ってて下さい」と言い置き、厨房の方へと消えてしまった。
 その横顔を見つめていたが、暫くするとトントントンと包丁で何やら切る音が聞こえ始め、そのうちくつくつと何かを煮る音も聞こえて来る。

(…。何を作っているのかここからじゃ分からんな)

 しかし近づいたら邪魔だろうし、まして背後に立って覗き込むわけにもいかないしで、日車は日下部を見ていた目を炬燵の上のみかんに移した。
 一つ手に取り、中々ぎっしりと身が詰まったみかんの皮を剥いていく。
 これが中々に骨の折れるものだった。
 綺麗に剥きたいのに皮がボロボロになるのだ。
 身がぎっしり詰まっているみかんあるあるである。
 ようやく皮を剥き終わると、みかんの筋を取り除く作業に取り掛かる。
 これは慣れているのでスッスッと出来た。
 終わると一粒口に入れ,その甘酸っぱさを炬燵の中で味わう贅沢さを噛み締めた。
 自宅は暖房で暖かくしているので炬燵は久しぶりだ。
 大学時代実家を出て一人暮らしをするようになり、家事もそれなりにこなして来たし、その頃は炬燵も近所の中古屋で買っていたが、やはり独りで食べる美味くもなく不味くもない食べられるくらいのものよりも、断然何がなんでも日下部が作るご飯には敵わない。
 それに、独りではない。
 その上、その人は合鍵を貰ったし指輪を渡した人だ。
 人生で今が一番幸せなのではと思うほど、平然としながら日車は一人幸せを炬燵の中でみかんを食べながら噛み締めている。
 その内に甘い香りやしょっぱい香りが鼻腔を擽り始め、日車はソワソワし出した。
 日下部は一体何を作っているのかと思いながら、厨房に視線を向けたらちょうど日車へ視線を向けた日下部と目が合う。

「「あ」」

 お互い一声あげて、暫し固まる。
 数秒後日車も日下部も慌てて視線を外すものの、チラと相手を見ればやはり相手も自分を見ていた。
 お互いこの上なく恥ずかしく、そして心が弾みじんわりと腹の奥底から温まるような心地になる。
 はじめに口を開いたのは日車だった。

「何を、作っているんだ?」
「あ、ああ。お節ですよ。一昨日まで忙しくて構えなかったから、昨夜から大急ぎで作ってるんです」
「それは、君一人で食べるのか。ずるいな」
「あんた何言ってんの。あんたと一緒に食べたいから一所懸命作ってんでしょーに」
「そうなのか?」
「そうですぅ。でも俺一人で食べろっつーならこのたくさんのご馳走は他の連中のつまみにしますけど?」
「た、食べたい! 私も日下部さんと二人だけで食べたい!」
「よろしい」

 日下部が大仰に頷くと、日車があからさまにほっとした顔をしてみせたので、日下部はやりすぎたか? と内心少し焦った。
 しかし、折角大切になった人と食べるために一所懸命作っている時に、その相手に一人で食うのかなどと言われてカチンと来てしまったのだ。
 相手が引いてくれたし、拗ねて見せたら思った以上に慌てられたので、かなりの罪悪感がある。
 可哀想だからと、日下部はもう出来立てほやほやのある食べ物をタッパーからひとすくい皿に盛ると、それを炬燵の上に置いた。
 そして、先ほどの受け答えから落ち込んで、完全に炬燵の中で丸くなって萎んでいる日車に声をかける。

「日車さん、ちょっと味見してくんねぇか?」
「私で良いのか?」
「だからあんたと俺で食うんだって。もっと言うならあんたがいる正月だからお節わざわざ作ってんだって」

 もぞりと炬燵の布団が動き、中から布団をめくって日車が顔だけ出した。
 それを日下部は内心猫かよと思いつつ、仕方なしに日車の口の中にソレをねじ込む。
 口いっぱいに広がった優しい甘みに、日車がずるずると這い出て来た。
 そして、日下部と炬燵の上のものを交互に見つめて、「栗きんとんか」と呟く。

「そ、甘さ、ちょうど良いですかぃ?」
「美味い。栗きんとんは自宅でも作れるのか」
「黒豆もありますよ? 味見します?」
「…悩むが、元旦の朝に楽しみは持ち越しにしよう」
「それで、機嫌はなおったか? ん?」
「…不機嫌だった訳では……」
「はいはいそーですねっと。栗きんとんまだたくさんありますけど、食べます?」
「食べたい」

 こうして、日下部はお節を作る傍ら日車へ味見と称して餌を与えつつ、二人の時間は過ぎて行ったのだった。


 日車はジュワッという音と旨そうな香りでぼんやりした意識を覚醒させた。
 どうやら炬燵で居眠りしてらしいと思いつつ、あれだけ食べたのにくるくる鳴り始めるお腹に自分で呆れる。
 視線を厨房へやれば日下部が天ぷらを揚げていた。

(今年は天ぷらそばで年越しか……)

 日下部と過ごす天ぷらそば付きの年越しに何やら感慨深いものを覚えて、日車は日下部の作業を横目に見つめる。
 視線に気づいた日下部が自分を見てパッと顔を明るくするさまがなんだか照れ臭くも愛しくて、この間勇気を出して良かったとしみじみ思った。
 日下部は平べったい天ぷらを一枚皿に盛ると、それを日車の方に持って来て炬燵の上に置き、「はい、おやつにしちゃまあ時間が時間だが……」と言うのに、日車は「いただこう」と天ぷらを摘んで食べた。
 さつまいもの天ぷらだ。
 甘みがあって美味い。
 相変わらず日下部の作るものは美味いなと日車がしみじみさつまいもの天ぷらを食べていると、日下部が今度はなんと海老天を一つ皿にのせた。

「おやつには豪華すぎないか?」
「あれ? 食べないなら俺が食べますけど?」
「食べる!」

 日下部が笑う中、日車はこれは私のものだとばかりに海老天を味わいもせず食べ終える。

「そんなに慌てんでも横取りなんてしませんよ」
「…。すまない」
「あーもう、もう一つ食べます?」
「良いのか?」

 日車のしゅんとした顔を見て、この人は犬なのか猫なのかと、日下部は「今持って来ますからそんな顔しないで下さいよ」と急いで厨房に戻り海老天を持ってくる。
 そして皿に置くと、日車は今度こそ味わって食べた。
 以前店で食べた時は汁で食べたが、今回はシンプルに塩だ。
 なんでも、これに更に柚子胡椒を夕食には出してくれるという。

「今から夕食が楽しみだ」
「夕食が天ぷらそばだから、年越しまでは軽い乾きもんで済むでしょ?」
「…恐らくは……」
「ま、足んなくなったらなんか軽いもん作りますから」
「それも楽しみだ」

 そんなこんなな会話をしつつ、夜も更けて、夕食には天ぷらそばを食べて舌と腹を満足させると、一旦二人は風呂に交代で入った。
 身体を温めると、今度は日車が手土産のことを思い出して焼酎と甘酒の元を日下部に渡す。
 すると日下部はパッと笑顔になり、「甘酒今飲んじゃいましょうか」と言った。
 米麹の甘酒は酒粕で作る甘酒と違いアルコールなどの不純なものは入っていない。
 お子ちゃまでも飲めるやつだ。
 何でも日下部は大の甘酒好きだという。
 その初めて聞く情報を、頭の中の大事なものリストに日車は加えておいた。
 日下部が甘酒を作っている最中、日車は焼酎とグラスを炬燵の上にならべておく。
 そして甘酒が出来る頃には、また日車は炬燵の中で丸くなっていた。
 それを見た日下部はボソリ、「やっぱこの人猫だわ」と呟くのだった。


 腹がくちくなると眠くなるんだとの日車の言い訳を聞き流し、日下部は甘酒と炬燵で暖をとる。
 日車は焼酎を早く飲みたかったが、よくよく考え飲みつぶれるのを恐れ、後に取っておくことにした。
 日下部となら初詣も苦ではない。
 それどころか楽しみだ。
 二人の夜はテレビを見ながら乾き物と日下部が途中途中で作る、簡単でつまみやすいものを食べつつテレビを見てのポツポツとした会話で更けていく。
 その内にやがて午前〇時になった。
 除夜の鐘が鳴り響く中、二人はお互いに向き合い、正座をして新年のあいさつを交わす。
 そうして互いになんだか照れ臭くて笑い合い、その流れで神社へと初詣に繰り出した。
 人はそこそこ来ていて、少しだけ並んだ。
 神社の鈴を鳴らし、二礼二拍手してお願いごとをする。
 本当は自分の名前と住んでる場所と願い事を口に出して言って神様に聞いてもらうのだという日車の雑学を聞きつつ、日下部は町内会の会長と副会長にも新年の挨拶をして日車の分までお汁粉と日本酒をワンカップずつ紙コップで貰ってきた。
 日車は礼を言ってそれぞれ受け取り、二人は日本酒とお汁粉を啜りながら家路に急ぎ、直ぐに風呂を沸かして炬燵に避難する。

「大晦日と元旦ってのはなんでこう冷えるんですかねぇ」
「毎年こうだな。そうだ。だから一人では行かなくなったんだった」
「ああ、一人で大勢の人混みに紛れると余計孤独感強くなりますもんね」
「日下部さんがか」
「いくら顔見知りだからってねぇ。結婚もしてなきゃ恋人もいませんでしたからねぇ」
「そうか。今年は私がいると取って良いんだな?」

 それに日下部は顔を背け耳を赤くすることで応えたのだった。

 そんな、年末年始の二人のお話。

Comments

  • shida
    January 1, 2024
  • なべ
    December 31, 2023
  • 小夜双☆スカィWeb
    December 31, 2023
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