[篤寛]居酒屋あつや。・3[現パロ]
今回虎君とあと職業モデル兼俳優の五と夏が高専のノリで出てきます。五の一人称は迷いましたが「僕」です。
※五が作中青い鳥で夏と一緒のところを写メ撮って投下している設定がありますが書いてる人間は青い鳥やっていませんのでおかしな点が多々あると思います。念の為に「日下部愛され」タグを付けました。因みに一応篤寛として書いてるつもりですが書いていてどっちでも良いかなと思い始めているのでお好きなように。それこそ両方受けや両方攻めという読み方でも構いませんのでどうぞよしなに。※
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日車の最近の楽しみはもっぱら「居酒屋あつや」へ行って日下部の顔を見ながら美味いものを食べることとなっている。
ストレス発散にもなっていて癒しにもなっているから、もしもあそこが潰れるようなことがあればと思うと気が気ではない。
元々地元民、商店街の人々の溜まり場となっているあそこだから、商店街がさびれれば自ずとあそこもなくなってしまう。
それを考えると新規の客も呼び込んだ方がいいのではとも思うが、そんなことをしたらあの場所の独特の居心地良さがなくなってしまうことも容易に想像できた為に、顔の何かと広い部下や上司にすら、日車はあの場所のことを告げていない。
今夜も日車は疲れた身体を引きずって、「居酒屋あつや」の暖簾をくぐる。
今日は迷わなかったぞ、などとニヤリ笑いながら……。
「こんばんは」
「お? 日車さん! ここ! こっちこっち!」
「ありがとう」
日下部は相変わらず日車の顔を見るなり笑顔を向けて席を確保してくれる。
その特別な感じが日車には何やら高待遇されているようで、ここへ来てそう言った日下部の心地よい接客態度で格別に嬉しみが増していた。
「今日は迷わなかった」
誇らしげにニヤリと笑う日車を揶揄うことなく、日下部は「へえ? すげえじゃねえか」とまるで子どもにするかのように日車の頭を撫でてきた。
それがなんだかくすぐったくて目を細めると、日下部は「ありゃこれはなんか違うわな。すんません」と他の常連客、特に剣道の教え子である虎杖悠仁がむすくれるのをちらり見て慌てて手を引っ込める。
日車は折角心地よかったのにと少々どころか大分不満だったが、まあ心ゆるされた結果だろうと、これで充足することにした。
さて今夜は何を食べようかと、店内をとりあえず見渡す。
しかし今夜はどうやら店に早く来すぎたか、何やら客がいつもよりも少なく、参考にあまり出来そうにない。
さてどうするかと、思いながらそうだ聞けば良いと日車は日下部へ本日のおすすめを聞くことにした。
そうして口を開こうかとしたその僅かひと時の間に、騒々しく店の扉を叩く音がする。
「なあ! なあ! にいちゃんよお! ここ店譲ってくれねえかなあ?!?!」
その後ドガっと何かに蹴りを入れただろう音。
日下部は眉を顰めつつ「すまんねえ」と日車へ謝りを入れつつ、店の外へ消えていく。
暫くの騒々しい押し問答の末何やら免れざる客人は帰って行ったようで、日下部が戻ってきた。
そのいつも真っ白いエプロンには何やら物騒にもピンク色や赤黒い色をした何やら腐った匂いのする見るからに吐き気を催すものが付着し、日車は思わず席から立ち上がり日下部の元へと急いで駆け寄る。
「一体どうしたんだ」
「あいつら所謂地上げ屋でね。いやあ、モテる男は参っちゃうね」
あはははと笑いながら「ちょっとすまんが匂いと汚れ落としに席外すね、すまんね」と住居スペースへと消える日下部のそのくたびれた背中を見て、メラメラと日車の曲がったことを許せない生来のものが燃え上がった。
そういえば今気づいたが、来た時何やら日下部の顔はやつれていなかったか。商店街のシャッターも閉めている店が多かったではないか。しかもそこにいたずら書きが無かったか。いつも活気があったのに閑散としていなかったか。客が少ないのもあいつらのせいではないか。他にも何か手の込んだ巧妙な嫌がらせを受けているのでは。もっともっとエスカレートしていくのではと、日車は妄想を広げて一人盛り上がっていく。
これは早急に対策しないとと、他の仕事も大事だが安らぎの場を失っては敵わんとばかりに、ぶつぶつと今後の計画と作戦を立てながら「お仕事」を増やして行った。
因みに今夜は和風の豆腐か卵が食べたいと頼み、肉抜きなんちゃって肉豆腐とナスの味噌汁とごはんを食べて、待っている間にひじきと大豆と油揚げの煮付けとドライフルーツとナッツ入りのかぼちゃサラダをちゃっかりしっかり食べたのだった。
さて数日後各種書類やら何やらを持って「居酒屋あつや」へ赴いた日車だったが、あの時の静けさは何だったのかというほど賑やかかつあの店らしい活気が戻っていた。
そして見覚えのない、やたらと背が高くすらりとしつつも鍛えられた体躯の男二人が、いつも日車が座っている席の隣に陣取って何か日下部ににこにこ笑いかけながら喋っている。
一人はサングラスをかけていて怪しいし、一人は前髪が微妙な感じに垂れていてどこか中華風をイメージさせる糸目の、二人とも相当な美丈夫だ。
少し後退して店の入り口の隅を見ると、見慣れぬ看板があった。
簡単なメニューが黒板に手書きで書かれてあり、その真下にデカデカと「五条家御用達」とあり、その下にひっそりと一枚のやたらと美々しい男の写真が貼られている。
(五条悟……? 聞いたことがある気が……)
そして写真をまじまじと見て思い至った答えに戦慄する。
五条悟とは、「あの」五条悟か? と。
あの御三家と言われる裏家業でも多大なる恩を売っている財閥の、しかもその中で五条家は何でも遡れば平安時代まで長連なるという名家で、その中でも現当主五条悟は当主として性格に難ありだが聡く美しく強く、何でも当主の他に個人で仕事をしているという噂があるが、まさかあの五条悟か?! と、日車がではあのもう一人の若いのは誰だ? と疑問符を浮かべた時である。
店内にドッと笑い声が満ちた。
五条悟ともう一人の男が何か言ったらしい。
気にはなるが入りづらい。
今日は帰ろうかと重くなってきた書類を抱えて背を向けたその時である。
「あれ? 日車さん!!! 待って待って!!!」
「! …日下部さん……」
背を向けたまま顔だけ振り返った日車の肩に、日下部がゼェハァ息を切らして手を置き深呼吸した。
「なあーんでなんも言わずになんも食べずに行っちゃうのよ……」
それに、日車はさっと書類を隠した。
するとそれに気づいた日下部が「ごめんね、あんがとね」と泣きそうな笑みを浮かべ、「今夜は筍ご飯なんだ。食べてってよ……」とやけにしおらしく泣きそうな笑顔で日車へ告げる。
日下部のいつになく弱気な様子に目を見開きつつ、脳内の何かがぐらりとゆれる日車。
そうして、結局促されるまま日下部にがっちりと肩をホールドされた状態で、日車は店の中の特等席にいつもの如くストンと座らされたのだった。
取り敢えずビールが出され、隣を見れば銀髪にサングラスの大男と艶やかな黒髪に糸目の大男が二人、筍ご飯と豚の生姜焼きをかっこんでいる。
ごくりと生唾を飲み込み、「二人と同じものを」と日下部に頼んだ。
人参を細切りにしてレーズンを和えた酢の物が出てきて、それを肴にしつつ今度は「残しても良いからね」と何でも「おまけ」だという肉じゃがを出される。
恐らく惣菜の一つだろう。
たかが二百五十円、されど二百五十円。
積もり積もれば、である。
断ろうとしたが、日下部はガンとして譲らなかった。
「食べないなら捨てちゃうよ」とまで脅され た。
これで食べなければバチが当たると、日車は見るからに美味そうな肉じゃがを突きその旨みが凝縮された味に舌鼓を打つ。
そうこうするうちに本日の和風の肉料理、たっぶりの千切りキャベツの上に乗った豚肉の生姜焼きと、旬の筍ご飯と、若竹煮と、和風なはずなのに何故かオニオングラタンスープと、ついでにオニオングラタンスープに付属するだろう小さめのフランスパンが出てきた。
「筍ご飯とパンはお代わり自由だよー!」
「あ、ああ。ありがとう。いただきます」
「日下部さーん、筍ご飯お代わりー」
「私はパンを三枚と筍ご飯をお代わりしようかな」
その食欲にギョッとしつつも食べ始める日車。
筍ご飯は米がピカピカ光っていて程よい硬さで味が沁み沁みで筍のえぐみもなく油揚げがいいアクセントで美味いし、若竹煮もワカメの嫌な臭みもなくトロッとしていて美味い。
オニオングラタンスープは新玉ねぎを使っているのか柔らかく蕩け、上に乗っているチーズは生チーズらしく焦げ目がないがこれはこれで美味い。パンを浸して食べたらまた違った旨さが出た。
日下部ともっと話したかったが仕方ないそろそろおあいそかと席を立とうとすると、サングラスの男が追加で頼んだ猫まんまをかきこみつつ、「日下部さん、見て見て」と携帯を見せている。
見たい。
とてつもなく見たい。
一体何を見せているんだ何かやましいものではなかろうなと、日車は気が気ではない。
その証拠に隣のもう一人の男もやれやれと呆れた様子を見せているではないか。追加で頼んだ中華風雑炊を食べながら。
そんな食欲旺盛な二人を横目に、日車は今夜は引こうと腰を上げ、「おあいそを」と若者に負けじと食べすぎ張った腹をさすりつつ、ややぶすくれた声で告げて勘定し店を後にした。
もう春だというのに、温かい料理をこれでもかというほど食べたというのに、日車の心はどうしてか寒々しかったのであった。
数日後、再び日車は「居酒屋あつや」へ訪れた。
今日はあの二人はいないらしい。
良かったと思う反面、何やら何かに負けてしまったような気がして自分が情けなくもなる。
そんな気持ちを奮起しつつ、暖簾をくぐれば悠仁と日下部が呼んでいた少年が日下部に「師匠!」とかなり興奮した様子で話しかけていた。
今夜は静かにまったり日下部と話しながら食べたかったのにと思った日車だったが、店に入ってきた自分に真っ先に気づき「日車さん、こっちこっち!」といつもの如く席に促され悪い気がしないのも事実。
大人しく座りビールを頼むと、春キャベツのおひたしが出てきた。
すると悠仁と呼ばれていた少年がそれを見て「このおっさんだけずるい!」と何やらゴネ出す。
何のことか分からない日車はきょとんとしながら悠仁と日下部の顔を交互に見つめた。
するとカッと顔を朱に染めた日下部が、まだ何か言い募ろうとする少年の口を手で塞ぎながら、もがく少年をズルズルと奥へと引きずって行って十数分後大人しくなったもののぷすっとする少年を伴い戻ってきて「日車さん、今夜のオススメは和風の魚だよ!」とニカっと笑った。
「ではそれを」と日車が言えば、日下部の隣でしょんぼりしている悠仁がツンツンと日下部の袖を引っ張り、「ししょ〜」と泣きそうな声で嘆きつつ日車をギッと悔しそうに睨む。
なんなんだと当惑していると、日下部の眉尻が下がり、日車が「お、おい?」と狼狽える間も無く悠仁に「悠仁〜……。今日は虎杖のじーさんいねえし宿題も終わってねえだろ!」と何故か顔を赤くしたまま悠仁を店の奥の居住スペースへと追い立てた。
うるっと悠仁の目が潤みつつまた日車を睨んだが、当の日車は何が何やら分からない。
その内に店内に客が入り始め、以前地上げ屋問題が何やら勝手に片付いていた際にいたあの二人組がやってきて、「日下部さん! なんちゃってパフェとグラタン食べたい!」と五条が言い、もう一人が「私もたまにはなんちゃってフォンダンショコラとざる蕎麦かな」とにっこり笑った。
「お前らまた勝手に……。ハァ〜〜〜……。いつものは巻いてきたんだろうな」
「だいじょぶだいじょぶ!」
「気配殺してきたからね」
「その、君たちは……?」
グリンと二人の顔が日車の方を向き、咄嗟に日車はガタンっと椅子を蹴倒して立ち上がって及び腰のファイティングポーズを取った。
サングラスを取った目はどこまでも青く澄んでいて硝子玉みたいで、開かれた糸目は何やら怪しげにゆらめいていて単純に怖かったからだ。
気圧された。
その一言に尽きる。
すると地を這うような声で日下部が「この人にガン飛ばすな」と言ったので、当の二人はにっこりと日車に笑いかけてから、「ガンなんて飛ばしてない」ですよ」と日下部に向き直ったのだった。
それから何故か五条が日車と名刺交換をして、何故かその時弁護士だと知られると「じゃあこっちのも」と家の電話だろう市外局番から始まる電話番号と家名の載った名刺ももう一枚の簡易的な名刺と共に渡された、それに急ぎの場合、特に日下部関係はとメールアドレスと携帯の電話番号の交換をし、「青い鳥も他SNSもしていないしテレビもたまにニュースを見るくらいだ」と日車が言うと、びっくりした顔をしてから、「だからそんなに驚かなかったんだね」とやわら疲れ果てたようなため息を二人同時に仲良く吐かれる。
どういうことだと日下部に目だけで日車が問えば、「こいつら所謂今をときめくモデル兼俳優。しかも某国の映画とかにも出るほどめちゃくちゃ有名で演技上手いしまあ見た目はいうまでもなしだしで女性に人気があってテレビ雑誌ラジオ出まくってて青い鳥でも五条の坊は二人で私生活の写真載せてるから幅広い世代で人気ダダ上がり」と死んだ魚のような目で説明した。
日車が目を僅か見開き二人を凝縮すれば、何故か五条にはにやっと笑われ、もう一人の男には「私はこいつの腐れ縁の夏油です」と笑顔でひらひら手を振られる。
(いや、私は君たちのファンでもなんでもないし、お付き合いさせていただくならなるべく同世代の方がいいのだが……)
などと日車が内心思ったことに気づいたか気づいていないのか、五条と夏油は日下部に八つ当たり気味にやけに早く出されたグラタンとざる蕎麦、それにパフェらしきものとフォンダンショコラらしきものをそれぞれにこにこ笑いながら「来た来た」と言って食べ始めたのだった。
そして暫くすると、日下部が苦笑いしながら「ごめんね、日車さん。落ち着かないでしょ」と謝りながら新玉ねぎとスモークサーモンのスプラウトとイクラが散らされたサラダを「もうちょっと待ってて」と言って出して引っ込んだ。
その背中を目を細めて眺めながら食べていると、何か物珍しいものでも見るように日下部と日車の双方とサラダを件の二人組が見比べ、二人して「へええ」「春だね」とそれぞれ呟く。
何のことだと日車が振り返ると、既に五条はハフハフと美味そうなグラタンを食べる傍らフレークや生クリームや果物が盛られた手作りだろうデザートに手を出して、夏油も夏油でざる蕎麦をするすると食べながら時折フォンダンショコラを見つめていた。
そしてビールをもう一杯貰うかというところで頼んでいたものが来る。
「はい! 今夜の和食の魚はブリカマの塩焼きです! そんで汁物は玉ねぎの味噌汁。味噌汁とご飯はおかわり自由なのは変わらないからねえ」
「ブリカマか。大きいな。これだと一般家庭のグリルでは入らないのでは?」
「うん、だからうちで出してる。それ目当てで定期的にここ来るお客さんもいるからね。塩だけで味付けしたけど美味いよ! 因みに今夜は惣菜になんと唐揚げがあるよ!」
それを聞いた五条と夏油が顔を見合わせ、「唐揚げ追加!」と異口同音で日下部に注文した。
日車はそれにそわっとなりながらも、この間筍ご飯をお代わりして暫く腹がパンパンで苦しかった為に泣く泣く断念する。
にこにこ笑いながら「早く食べてみてよ」と日車を見つめる日下部をぼんやり目を細めて見つめつつ、いかんいかんとサッとブリカマに目を落とし箸でサクサクとブリカマの塩焼きの身を解していった。
身離れが良く、試しに食べてみれば酒で臭みを消したのか臭みもなく脂がいい具合に乗っていてじわっと旨みが口内を広がり美味い。
夢中でブリカマに集中していると、隣で「日下部さん、焼き餃子ちょーだい!」「私はワンタンかな」と聞こえてくる。
ワンタンはともかく「焼き餃子」にまたそわっとなった日車だったが、プリカマに再び集中してひたすら黙々と食べた。
美味いが、唐揚げも焼き餃子も食べたい。
けれどももう歳のせいかそんなに腹に入らない。
大体身体も資本の弁護士とはいえ、大食とは限らないし、むしろ摂生するところは摂生する。
そうしないと腹や腰にいらない脂肪が載るのだ。
この年に来て保ってきた肉体に余計な肉はつけたくない。
(食べたい……)
けれどもブリカマも甘味と出汁の出た玉ねぎの味噌汁も美味いし、ツヤツヤピカピカのご飯も美味い。これ以上求めたらバチが当たる。
そう自分に言い聞かせて、いつの間にか消えていた二人組に驚きつつ、「おあいそを」と顔を上げたらこちらをじっと見つめている日下部と目が合い日車の心臓が跳ねた。
(動悸息切れはやはり年か……?)
などと見当違いなことを思いつつトントンと胸を叩きながらにこにこ笑う日下部に日車も笑顔を向けつつ、レジへと向かう。
そして会計を終え、ポツリ、「私も唐揚げと焼き餃子を食べたかった」と未練がましく呟けば、日下部がニヤッと笑ったかと思うと、「今なら三百円で二パック惣菜お持ち帰りありですよ〜」とやけにいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
日車は急いで「買った!」とサイフからちょうど三百円出すと、まだ熱々の作りたての唐揚げと焼き餃子を一つずつパック詰めでそっと笑顔を浮かべて受け取る。
ありがとうと言おうとしたら、日下部が口に人差し指を当てて「内緒ね」と笑った。
日車はそれにどきりとして暫し目を奪われつつ、「…フ、ああ、内緒だ」と笑う。
すると日下部は笑みを深くしてから、「また来てね日車さん!」と顔のニヤけが止まらなくて背を向けた日車を手を振って見送ったのだった。