[篤寛]誘ったのは俺。
煽ったのはお前。→ novel/21445189
の続き。続きそうなのでシリーズ化しました。
篤が寛とのことを真剣に考え始めようとした筈が上手くいかなくて……というお話。えろは無いですが匂わせがあるのでR15くらいでお願いします。
途中飽きたりしたら無理せず読むのをやめて他の方の素晴らしき篤寛に逃げて下さい。賢者モードになっても同じです。コメントは躍り上がるほど嬉しいですが無理はしないで下さい。お願いしますm(_ _)m
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「日車ぁ……お前この間は平気だったっつーか寧ろ俺のこと煽ってたくせになんで今そんな死にそうな顔してんのよ」
日下部は某ホテルの一室のベッドから這い出て裸のままトイレで吐いている男へそう問いかけた。
吐いているというよりもえずいている日車は、それに対して「あの時は特殊な環境だった。吊り橋効果というやつだろう」などと真面目腐った答えと顔をしてから、また顔を歪ませて便器に顔を突っ込む。
そんな日車を見てガウンを羽織った日下部は腰にやった両手をそのままに項垂れ、長く深いため息を吐いた。
この間は確かに特殊だった。
特級呪霊を二人で相手にして祓った後で血が騒ぎ興奮していたし、互いに色々とぶれていた。
だから、日車が今言った言葉もわかる。
分かるが、だからと言ってホテルに誘ってホイホイついてきて、スーツもシャツもズボンも下着も全て躊躇いなく脱いだ後、こちらの戸惑いも無視してベッドへ誘ってきてこちらの服を剥ぎ、ならやるかと覆い被さったらいきなり真顔で「吐きそうだ」はないと思う。
無いだろうよ普通!!!
日下部はそこらへんを声を大にして言いたい。
「背中さするか?」
「とりあえず君は服を着てくれ」
「へいへい」
折角いい部屋を頼んだのだ。
この際日車のことは放っておいてルームサービスでも頼んでツマミ食べて酒を浴びるほど飲もうかと日下部が服を着込んだ頃である。
日車がようやくトイレから出てきたと思ったら、やたらと青白い顔で「酒がたらふく飲みたい」などと言い出した。
「てめぇの面鏡見て言えやゴラ」
「怒っているのか?」
「とりあえず服は着ろ」
「分かった」
素直なことは素直なのだが、今もやたら馬鹿でかい鏡の前で服を着ている、恐らく日下部が顔色を見ろと言った為だろう、けれども言動がやはり常人のソレとは異なるのだ。
やはり七海の言う通り呪術師はクソだし五条の言う通り呪術師はイカれていないと出来ないのだろうか。などと日下部がベッドに腰掛け頭を抱えていると、日車が隣に座ってきて何故か密着してくる。
「…気持ち悪いんじゃなかったのかお前」
「先ほどは裸だった」
「なんだ。弁護士さまは着衣プレイがお好みか?」
「ちゃくいぷれいは知らんが人の裸は見慣れていない」
「それで気持ち悪くなったのぉ?!」
「おそらく。あと、この間のは気が昂っていてそこまで気が回らなかった。…今回も君ならば気にせずイケるかと思ったんだが……」
「ちょちょちょ待て待て待て待て、なんで俺ならイケるんだよ?」
「? 君が好きだからだが?」
「はぁ?! 初耳だが?!」
「言ってなかったか?」
「聞いてませんけどぉ?!」
「そうか。好きだ。日下部」
そういうのは最初から言いなさいよお前さんはと、日下部は足の間に頭を沈めた。
「もう疲れた」と日下部が言えば、日車がさも心配ですとばかりに「大丈夫か?」と言って労ってくる。
それが余計に日下部の気分を下げた。
まるで低血圧症にでも陥ったが如く、日下部はそれから唸りながらびくとも動かない。
流石の日車も自分が悪かったのだと悟ったが、そもそも何がそれほど日下部をそんな風にしているのか分からない。
自分が悪いのは分かるが何が悪いのかわからないと、特に男の場合取り敢えず謝ると言うことをする。
しかし、それは悪手だ。
余計に相手を怒らせる。
しかし、日車はそれをした。
日車から「すまない」と言われ続け、「良いから放っておいてくれ」と日下部は言ったのに、日車は尚も言葉を連ねようとする。
日下部はとうとうキレた。
日車を押し倒し、「あの時俺もそうだと言ったよなぁ?」とやたらと露悪的な顔で嗤い、日車は日車で満更でも無いがわざと怯えるそぶりをして見せる。
それに日下部が見事に煽られ噛み付くような口付けをした。
後はもうこの間の繰り返しである。
日下部も日車も互いを幾度も求め合い、奪い合い、枯れ果てるまで昇り詰めた。
そうして残ったのはぐちゃぐちゃになったシーツとどろどろに汚れた服とベタベタになった二人の体である。
そうして、シャワーを浴びているうちに整えられたシーツを前に、日下部と日車の二人は互いに賢者タイムという名のお話し合い、付き合う付き合わないの言い合いが始まったのだった。
「それで? いやにこういうことに塾れてる感じがするのはなんでだ?」
「…」
「引かねぇから言ってみろ」
「…弁護士時代にもこう言うことが……」
「俺が初めてじゃ無いわけね」
「すまない……」
飼い主に叱られた犬みたいにシュンとなるものだから、日下部はわしゃわしゃと日車の髪の毛を掻き回し、「仕方ねぇなぁ」と笑って見せた。
「本当に引かないんだな」
「そりゃま、仕方ねぇでしょーよ。なに、なんて言って欲しいの。まさか慰めてくれとかか? 俺の柄じゃねぇ」
「ああ、いや、そういうのは結構だ。なんというか、そうだな……興奮したり落ち込んだりが激しいと、その場にいる相手とどうやら肉体関係を結びたがるらしい。同性しかいなかったのは正気を失っていても頭の隅にストッパーがかかっていたんだろうな」
「…。お前ソレでよく刺されなかったな」
「私もそう思う」
そうじゃねぇのよと、日下部は言いたかったが飲み込んだ。言ってもそれこそ仕方ないことだと思ったからだ。
日車は自ら望んでそうなったわけではなく、無自覚に相手を誘ったと言う。
そうなんですかと言えないのは、その手口、と言ったら耳に耐えないが、その見事な熟れた手練手管に自分も引っかかったからだろう。
しかし、だからといって日車を恨んだりしたいとも思わない。
それは今まで術師としての日車と関係をここまで築いて来たからだろう。
ここまで全てにおいて推測や経験則でしか言えないのは、日下部も日車の全てを知った訳ではまだないからだ。
だからと言って詰問する訳にもいかない。
誰しも脛に傷は持っているだろうし、言いたく無いことの一つや二つのあるからだ。日下部にだってそう言ったものがあって日車にはまだ言っていなかったりこともある。お互い様というものだ。
かと言って日車のこの問題をそのままにしておく訳にもいかない。
日車が毎回日下部だけにこう言ったことをする分には日下部的には構わないが、日車的にどうだかわからないし、日車が他の男、術師だろう、そいつと何かあったとしたら、日下部がその男を放っておけるかどうか分からないからだ。
何せ、自分の中にあるその気持ちに気づいてしまった。
日車も口にしたソレに。
好きだとかなんとか、今更この時分湧いてくると思わなかった想いが、まさかのまさか、同年代のおっさん相手に抱くなんて当の本人である日下部でさえ思わなかった。
しかし、実際のところ好きになってしまったことは仕方ない。
認めるしか他はない。
何せ身体はとっくに繋げてしまったのだから、このまま無かったことに……などとはいかない。日車も逃げは許さないだろう。
もしかしたらあのどこかの不気味なマスコットみたいな式神を使って「裁判だ」などと言ってくるかもしれないなどと、日下部が想像して笑ったら日車に訝しげな顔をされてしまった。それはさておき、さて、どうするか。
「まあ、取り敢えずこれから難しい案件出てきたら同行として俺頼れ。大抵任務よりも教職してるから」
「君は任務は嫌いだと聞いたが」
「拾っちまったし知っちまったからなぁ……」
「それは、私に同情してのことか?」
「おいおいふざけんなよ? 同情だけでそこまでしねぇよ。どこぞのお人よしじゃあるまいし。…単なるエゴだよ」
「…。そうか」
「そ」
「そうか……」
日車は俯いたかと思うと、柔く微笑み、ソレに気づいた日下部も照れ隠しに顔を逸らして顎に手をやり「へっ」と笑った。
「ま、取り敢えず高専行ったら家入んとこ行くぞ」
「? 何故だ?」
「なんでって……お前のソレ、一種の病気だろーよ。ソレ治した方がお前も楽だろ?」
「病気なのか……」
「病気だろーがよ、充分」
日車が首を傾げる中、日下部はぐるぐると首を回して、さて家入にどうしたら自分たちの関係を知られずに相談出来るかと頭を巡らせ考えるが……、あの家入である。それは難しそうだ。
そんなこんなで、二人の不可思議な関係が始まったのだった。