斜陽
病みかけてる虎杖が日車を攫う話
何でも許せる方向け
元々「睡 姦書きてぇ〜!!」という純度100%の下心で生まれた産物なので続きがあればR18です
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任務終わり、真夜中の闇が深まる頃。
「うーわべったべた…」
討伐した呪詛師の返り血で、虎杖の服はすっかり赤く染まってしまっていた。迎えの車を汚してしまうのも申し訳なく思ったので、今は徒歩で帰路についている所だ。
「早く洗った方が良さそうだな」
「えー…落ちるかなこれ」
隣には、共に高専の一級術師として働いている日車の姿。「帰ってくれてて良かったのに」という虎杖の言葉に「夜風に当たりたかっただけだ。気にするな」と声が帰ってくる。ちなみに、日車の黒いスーツには血飛沫一つ飛んでいない。
そのまま何気ない話をしながら街を練り歩く。人通りは殆どなく、会話の合間に静かな風の音が聞こえた。
「今日、最後に襲ってきた男なんだが」
任務の話だろうか、前をまっすぐ見ながら歩く日車の横顔を流し見る。憂いを帯びたその表情はどこか綺麗で、思わず手を伸ばしたくなるのを虎杖はぐっと抑えた。
「…左手の薬指に、指輪を嵌めていた。当たり前のことだが…彼等にも、愛する人が居たと思うと、胸が締め付けられた」
虎杖の脳裏に、一人叫びながら日車に飛びかかる若い男の姿がよぎる。「こんなことは止めて足を洗え」という日車の忠告を聞き入れることなく、男は呪力で強化された拳を振るう。日車はそれを無駄のない動きで避け、短い溜息ごとガベルの一振りで消し去った。
血溜まりの中で倒れる男の左手には、確かに愛の結晶が光っていたのを思い出す。
虎杖はポケットの中の固いものをギュッと握りしめながら、軽く眉を顰めた。
今日の任務は、ある呪詛師集団の壊滅。彼らは登録されていない呪物を集めては、その危険性を問わず一般人や他の呪詛師に売り飛ばしていた。
紛うことない悪の所業なのだろうが、今の虎杖には何が善で何が悪なのか、その境界すら不鮮明で。
「…日車はさ、考えすぎなんだよ。愛だの恋だのなんて、元々そんな綺麗なものじゃないでしょ」
達観した口振り。虎杖の顔が微かに歪む。
急に冷たくなった風が、二人の間を通り過ぎた。
虎杖がそのまま俯いていると、見慣れた革靴が己の方を向いているのに気づく。日車の、深い呼吸音がはっきりと聞こえた。
「ずっと言おうと思っていたが…虎杖。何か、悩んでいることがあるんじゃないのか」
は、と顔を上げると真剣な表情をした日車と目線が合って。なんで、とかそんな言葉しか乾いた喉からは出てこない。かち合ったその真っ直ぐな瞳がどこか痛くて、思わず日車から目を逸らす。
「最近の君は見ていて…痛々しい。俺では不甲斐ないだろうが、少しでも助けになりたいんだ」
そこまで態度に出ていただろうかと、内心絶句する。心臓の鼓動が速くなる。息が詰まる。その動揺を悟られまいと、虎杖は小さく笑おうとした。
「…ぁ、いや、別になんともないよ。今日だって普通に元気だったでしょ?だから日車は考えすぎだっ…て、」
口角は不自然に上がり、自分でも上手く表情が作れていないのが分かった。これ以上詮索してくれるな、と密かに願う虎杖の心は、次の瞬間、簡単に打ち砕かれる。
「嘘だな。では何故…俺の目を、見られない」
図星を突かれて、頭に一気に血が昇った。虎杖の心の中に、ドス黒い何かが流れ込んでいく。
「…ッ、俺のことなんて、ほっといてよ!!…日車には、関係ないだろ?」
思わず荒げてしまった声に、やってしまったと今更後悔する。日車は怯む様子もなく、虎杖の方に近づいて、優しく手を取った。
「すまない、追い詰めすぎてしまったな。…やはり俺では駄目か、虎杖」
その手を振り払って逃げることもできる。ただ虎杖はそれをしなかった。もう、楽になりたかったから。裁いて、いっそのことその手で殺してほしかったから。
震えながらも息を吸うと、乾いた空気が肺を満たす。虎杖は全てを諦めたような口調で、ゆっくりと胸の中を曝け出していった。
「俺さ、日車のこと好きなんだ」
恋をした、と言えば聞こえはいい。だが自分が抱いているこの感情が、そんな美しいものでないことも、自分が一番分かっていた。
「どうしようもないくらい好きで、どうしたら日車が俺のになるか毎日考えて、その度に現実見て勝手に辛くなって」
一度溢れた言葉は、止め処なく流れ出る。
「日車は俺のことなんか好きにならないし、俺のものになったりしない。でもやっぱり俺は日車が好きで…ははっ、何言ってんだろ俺」
頬は興奮で紅潮し、口から漏れ出る息は荒い。今まで隠していた醜い心を本人の前で曝け出してしまうのは、少し気持ちが良かった。
「俺の『好き』ってさ、多分他の人らが思ってんのと違うんだ。こんなの初めてで、自分でもよく分かってないんだけど。あっ、でも大事にしたい、っていう気持ちがない訳じゃないよ?ただ俺は、日車のこと、」
そこで言葉を区切って、日車の手を強く握った。
「…滅茶苦茶にしたいし、泣かせたいし酷くしたい。どこかに閉じ込めて逃げられないようにして、俺のことしか見れないようにしたい」
ね、俺っておかしいのかな?と据わった瞳で日車を見る。日車は分かりやすく揺らいでいて、何の言葉も出せないような様子だった。
駄目だ日車、逃げてくれ、と己の中の残った良心が暴れ狂っている。その声も徐々に小さくなって、虎杖を衝動へと突き動かしていく。
虎杖は日車の手をそっと離して、静かに笑った。自分が自分じゃなくなる感覚に、肌が粟立つ。
「だから…何も聞かなきゃ良かったんだよ。そうだったら、俺だって諦めがついた」
そう言いながらポケットの中に入れた、ライターのような形をした呪物を取り出す。親指で強くレバーを引けば、カチャ、という音と共に青い炎が灯った。
「でももう、止まれない」
蒼越しに見た日車は、何かを叫ぼうとしている。でも今は、決意が揺らいでしまう前に、早く終わらせてしまいたかったから。
「…ッ、待て虎杖!俺は…君のことが!!」
その言葉を待たずに、一息で炎を吹き消す。
それと同時に日車の身体が力を失って、地に倒れようとするのを、両手で受け止めた。
瞳は閉じていて、目を覚ます気配はない。支えた身体は案外に軽く、どこか虚しさすら覚えた。
「ごめんね、日車」
その懺悔は、誰にも届くことはない。
もう落ちないだろうなぁ、なんて思いながら、虎杖はパーカーの袖をぼんやりと見つめた。
読ませていただきました。 続きがとっても気になります…!