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死後の名誉/Novel by アマノCQ

死後の名誉

2,099 character(s)4 mins

時間軸的には最終巻後。結局日車が裁判で無罪になってしまって、弁護士の道に戻るか、それとも呪術師として生きていくか…と考えているみたいなお話。日車と虎杖はお互いのことを太陽・向日葵だと思っているんじゃないかなと。
原作リアタイ14巻で一度挫折し、アニメ三期配信と共に覚悟を決めて最初から見始めたら沼に足を突っこんでいました。
丁度今『大ゴッホ展』がやっているみたいですので、是非行ってみたいですね。

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「なぁー日車! ゴッホの『ひまわり』っていくつもあるんだってさ!」
 勿論、知っている。しかし、あまりにも得意げに言うものだから、ふとそちらへと視線を向けてしまった。
―ああ、眩しい。

 ベンチに座ったまま視線を手元に戻し、少年……虎杖を視界に入れないように努める。
「現存しているのは6点、と言われている」
「なんだ、やっぱ知ってたのかよー。まー、日車って頭いいもんな……弁護士だし……」
「それで、何故急にゴッホの『ひまわり』の話題を?」
 こういった雑学ならば、同級生の友人。虎杖の場合は伏黒や釘崎に話した方がいくらか盛り上がるものだろう。
おおよそ、そういった話を虎杖がしたところで、彼らの反応は予想がつく。邪険にあしらわれること、それでも年相応の空気になることも。
 虎杖は日車の胸元……弁護士バッジを指さした。
「弁護士バッジの花って向日葵なんだろ?」
「よく知っていたな」
「……インターネットで調べましたー」
「自分で調べている点で優秀だと思うが」
 最近はあらゆる情報がインターネットで揃ってしまう。便利な反面、デマやプライべートを無視した情報も勢いよく世界中をめぐってしまう。特に、虎杖のように素直な人間はそれを信じてしまいやすい。
 今回ばかりは、純真無垢な少年の興味を向けたこの弁護士バッジに感謝しよう。
 虎杖はまだ何か言いたげな様子で日車の視界の端に立っている。
「他にまだ何か用件が?」
「いや、そーじゃねえんだけどさー……。やっぱり、まだ俺の目見て話してくんねーのかなって」
 視線が泳ぐ。法廷でこのような挙動をしていれば、間違いなく依頼人を不安にさせていたことだろう。
小さく溜息をついてから手を合わせ、ひとりごとのように呟いた。
「まったく自分でも情けないと自覚はしている。だが、君の言う通りだ。君の目を見て話せない」
「俺以外とは?」
「話せる」
「えぇー……」
 虎杖の残念そうな声が聞こえる。そこで日車はふとした疑問を投げかけた。
「会話するだけであれば、別に目を見る必要は無いと思うが……。何故そこまで虎杖は俺と目を合わせることにこだわっているんだ?」
「それはぁー……なんて言うか……」
 虎杖には珍しく口ごもっている。いや、何か後ろめたいことがある際に口ごもっていた。ならば「目を合わせたい」ことが「後ろめたい」ことに繋がるのか?見当もつかない。
 日車があれこれ思案していれば、しびれを切らした虎杖の方から声があがった。
「最後に目を合わせてくれたのって、宿儺との戦いの最中のあの時じゃん。……それが、怖くて」
「……、…」
「アレが最後になるんじゃないかと思って。だから……弁護士バッジから色々調べて、アンタと共通の話題で広げれないかなって……」
「それで、ゴッホの『ひまわり』の話題を」
「うん」
 最初に見せた太陽のような眩しい笑顔は、決して嘘のものではない。だが、その心の内は柔らかく、見知った人物への喪失を恐れる年相応のものだった。
 虎杖を守り、救おうとした人物は彼の目の前で次々と死んでいった。十五歳の少年の心を傷つけるには十分すぎるほどに。それならば、あの時の戦いで死に損なった自分の命は、少しでも彼の心の拠り所になっているのだろうか。
「ゴッホは生前にあまり評価をされていない」
「……日車、」
「待て、話は最後まで聞いてくれ。……ゴッホは晩年に少しずつ評価されていた。だがその途中で死んだ。諸説あるが、一番有力なのは拳銃自殺だろうか。兄のゴッホを支え続けていた弟のテオも半年後に亡くなっている。その弟の妻、ヨーがゴッホの絵画、そして彼ら兄弟のやり取りの記録を公開したことで、その名前は巨匠として残っている」
 日車は躊躇いがちに伏せていた視線を上げる。そこには、今にも泣きだしてしまいそうな虎杖が立っていた。
「ゴッホは生前売れない画家だったかもしれないが、その絵画に価値があり、残そうとしている者がいた。つまり、だ」
 虎杖の手を取り、隣へ座らせる。
「俺が死んでも、君が俺のことを覚えてくれていれば……それで満足だ」
「……自分が死ぬ前提で話すんなよ、日車」
「呪術師になるのであれば、その覚悟はしなければならないだろう?」
「……そう、だけど」
「ああ、悪い。意地の悪いことを言った。君を困らせたいわけじゃない。ただ、それは君にも当てはまると思ってな」
 宿儺の指を食べ、秘匿死刑に執行猶予がつき呪術師となった少年。祖父の呪いというべき遺言に従ってただ突き進んだ無謀な少年。そしてその果てに起きた『渋谷事変』。
 その場に居合わせたわけでは無い日車は、虎杖と出会うまでの人生は書類上でしか知らない。傍から見ても壮絶なものである。
 それでも彼は手を伸ばし続けた。
「これからは、目を合わせて喋るよう努める」
 その過程で様々な罪と向き合い続け、摩耗した精神を救ってくれたこの少年が報われるような、健やかな人生がこの先続けばいい。
 そんな祈りを込めた思いと共に、虎杖の手を握った。やや躊躇いがちに、その手は握り返された。

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