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潜在一遇/Novel by アマノCQ

潜在一遇

2,895 character(s)5 mins

新宿前あたりの話。
レスバで勝てない相手(日車)には物理で口を封じたらいいと思って衝動的にキスする日下部の話。
衝動的にやったので、色恋沙汰に行くかは微妙なラインの二人。

2026.5.4 日下部さんのことを何故か探偵だと思っていた。その周辺での文章修正。

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呪術師になって何年経ったとか気にしたことは無いけどさ。
「……二週間で領域展開まで?」
虎杖悠仁と同じくらいイレギュラーじゃねえのか、この日車って男。

羂索が現代呪術師として覚醒させた内の一人『日車寛見』は、つい二週間前まではただの弁護士(というには少しばかり経歴が優秀すぎて引いた)であり、己の術式によって二名の一般人を自らの意思で殺害している。
客観的に裁判の経緯を見れば「そうなってもおかしくない」と、日下部は資料を捲りながら口の中の飴を転がした。

精神の不調は「見て分かる」ものと「見ても分からないもの 」に分類される。
妹は前者だ。夜蛾さんに頼まなければ、大切な肉親を更に失う羽目になっていたと思う。
だが、日車は後者だ。国選弁護人を引き受けるのはキツいと、知り合いの弁護士に聞いたことがある。
「そりゃあ誰も受けたがらないですよ。損得以前に、メンタルがもたない。勝ち目のない裁判……あとは『確実に黒だと思っている人間』の弁護をするんですから」
日下部にこの話をした弁護士は、思い出すだけでも嫌だと顔を歪めていた。
それに比べれば、日車の表情はイマイチ読み取りづらい。
だから、精神がぶっ壊れるその時まで、自覚しなかったんだな……と日下部は遠くで虎杖たちと話している日車を見た。

もしかして、表情の読み取りづらさは、極端に少ないまばたきのせいか?

日車が呪術高専の奴らに何かしでかさないか警戒し、監視していた時期もあったのだが、日下部が見ている範囲でまばたきをしているのは片手で数えられるほどだった。
「ドライアイとかになんねぇのかな」
それか猫みたいに目の表面が常に潤ってるとか?と、心の中に冗談を留めていれば、話し終えた日車がこちらへ歩いてくる。
「日車」
「なんだ?」
呼び止めれば素直に立ち止まり、抑揚の無い声色でこちらを見た。
……背丈が近いからまだいいんだけど、この目力でまばたきしないって、結構圧あるな。
まじまじと顔を見ていれば、日車から非難混じりの「用が無いのであれば部屋に戻ろうと思うのだが。用件は?」と言葉が続いた。
「悪い悪い。お前の術式について詳しく聞こうと思ってな」
「以前説明したが」
「おっしゃる通り。ただ、現代呪術師の中だとお前の術式って、法律周りに詳しいヤツなら扱えそうだからよ」
「高羽の術式は?」
「あいつのメンタルとギャグセンスを最後まで貫き通せるヤツがいたらな……」
日車がお笑い芸人について詳しいかは分からないが「あぁ」と答えてから何も言わなくなったので、理解はしたのだろう。というか、高羽の術式を見たことあるのか?世代的には同じだが、バラエティー番組は見ていない気がする。
「ということで、個人的に知りたいワケよ。日車先生」
先生、という言葉に日車はやや眉をひそめた。よかった、この男にも感情はある……というか、無ければ呪術師として覚醒してないよな。

改めて、日車の術式を教えてもらうが、聞けば聞くほど頭が痛くなってくる。
「ジャッジマンは六法に基づいて判決を下している」
「いやいや、分かってるって。分かってるけどさ」
術式は本人の技量や呪力によって威力や効果範囲が変わる。基礎中の基礎の話だが、シン・陰流の当主だからハッキリと言える。
こいつ、バケモンか?
まず「六法に基づいて」の時点でおかしい。書店で見かける六法全書の分厚さを見たことがある人間がいるなら、その異常さは理解できるだろう。
あんな分厚い書籍の内容を全部把握しているから、式神であるジャッジマンが召喚された。
「一応聞くけど、ポケット六法は……?」
「よく裁判で扱われるものが大半なんじゃないか?」
なるほど、ポケット六法は逆に読んだこと無いんだな。俺は教師と言う業務上、たまに必要な時があるから、持ってんだけどさ……と日下部はため息をついた。
次に、領域展開の習得。秤の例もあるので、これ自体がおかしいワケではない。
「……二週間で、か」
「後から聞いたが、本来は難しいものらしいな」
「お前の場合は術式に組み込まれてるし、必中必殺ではないから何とも言い難いんだけどよ」
口の中に含んでいた飴を、ガリッと噛み砕く。
なんと言うか……他の呪術師が命かけて習得することもあるものを、ポッと出のこの男がすんなりと扱えてしまう事実に、「ままならねぇ〜」と思ってしまった。こちとら、人の寿命を奪ってる術式だってのに。コートのポケットから、ひとつ飴を取り出し包み紙を破る。

ぱちり。
日車がまばたきをした。思わず、その目をじっと見つめた。
「ん?」
「……俺は現代呪術師として覚醒してしまった人間だ。だから、先に呪術師として生きていた人物たちの精神を土足で穢すものではないかと」
「え、お前そういう感覚あったの?」
「術式によっては様々な歴史、縛りがあることは理解している。俺や高羽といった現代呪術師の使う術式は、あまり歓迎されないと思っている」
ナチュラルに高羽も巻き込み事故食らってんな……と思いつつ、日下部は大きく息を吐いた。
「ぶっちゃけた話、その通り。ただ、何も変わらない……それこそクソな伝統だけが残り続けるのも良くない話だろ?めんどくせーけど、後世に残すためにはそういう意識とか制度とか変えてかなきゃなんねえのよ」
冥冥が上手くやってくれるだろうけど、とは言わずに飴を口に入れる。
すると、フフッ。と皮肉げな笑い声が日車から挙がった。
「呪術界も法律の世界も大して変わらないんだな」
「……まぁ、そうかもな」
「世の中、苦いものばかりだから甘い飴を食べているのか?」
「禁煙中なんだよ」
「分かっている、冗談だ」
また皮肉げな笑い声で返される。何だかその態度にイラつきつつも、すとんと気持ちが楽になる。
こんな真面目な話、誰かにしたことがこれまでにあったか?
……無自覚で精神面にキてたのは、俺もなのか?

眉間を軽く揉んでいると、日車は「君はすでにグレてるから、逆に素直になった方がいいかもな」と、人のコートのポケットに手を突っ込み、飴をひとつ取り出した。
「その代わり、俺がグレてやる」
「どういう理論だよ!って、返せ!窃盗罪!」
「君が警察なら現行犯逮捕ができるな」
日車は日下部から盗んだ飴を、再びコートのポケットに戻した。何なんだこのよく分からん行動は。
「このコートには同じフレーバーしか入っていないのか?今舐めているものと同じだったぞ」
「気に入ってんだよ……」
「ほう。では今度、正規のルートで手に入れるとしよう」

さっきまで術式やらこいつの呪術師としての能力の高さ、知識の多さなど真面目な話をしていたのに。
すました顔をしている目の前の男が、ほんの少しだけ許せなくて。

日下部は再び飴を噛み砕き、去っていこうとする日車の手を引いて、彼の口の中にそれを押し込んだ。

「ッ!?」
「……っ、ほらよ、正規のルートだ」
「……合意の上でなければこの行為は……ッ!」
皮肉屋な弁護士の口を封じる手段、これが一番早いんじゃねえかな。

Comments

  • 小夜双☆スカィWeb
    May 3rd
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