第141話「シン、拘束された(本人了承済み)ステラと修行をする」

 俺たちがいるのは、ステラが予約した修練場しゅうれんじょうだ。


 セキュリティは完璧かんぺき

 修行中に誰かが来ることはないし、声や音が外にれることもない。

 決められた時間になるまでは、教師も来ない。


 壁際には緊急用きんきゅうようのボタンがある。

 怪我人や、重傷者じゅうしょうしゃが出たときのためのものだ。

 押すとセキュリティが解除されて、保健医ほけんいがやってくる。


 でも、それを使うことはないだろう。

 俺たちが行うのは実戦じゃない。交流戦のための練習なんだから。


 ステラは緊張きんちょうした表情で、俺の前に立っている。

 彼女が着ているのは買ったばかりのビキニアーマーだ。


 色は白。

 チューブトップのビキニアーマーで、ステラの細い身体に巻き付くようになっている。

 下は短いパレオがついたものだ。


 ステラが『シンに選んでほしい』と言ったから、似合いそうなものを選んだらこうなった。

 本人も気に入っているみたいだ。よかった。


 そんなステラの細い首には、革製かわせいの首輪がある。

 首輪の正面には革紐かわひもくさりつなぐぐための接続具せつぞくぐがある。

 もちろん、革紐や鎖はつけていない。

 代わりについているのは、小さなすずだ。


 ステラが首輪をつけるのは『拘束こうそくされていることを自覚するため』だからな。

 常にそれを実感できるように、鈴をつけてみたんだ。


「どうかな。ステラ」

「う、うん。確かに、鈴があった方がいいね」


 ステラがうなずくと、りん、りりん、とんだ音がする。


「音を聞くたびに……首輪がついてるって……シンにつけてもらったって実感できるから……ね」

手枷てかせ足枷あしかせは大丈夫か? めすぎてない?」

「大丈夫。ただ……着けているとすごく……ドキドキする……ね」


 ステラの手首と足首には、革製かわせいのリングがついている。

 左右のリングは革紐かわひもつながっている。


 ひもの長さは、60センチ前後。

 長さとしては、ステラの肩幅かたはばよりも広いくらいだ。

 それがステラの動きを制限せいげんしている。

 なんとか歩くことはできるけれど、走ったり跳んだりするのは難しい。


「本当に大丈夫か? 危ないようだったら……」

「だ、大丈夫」


 ステラは真っ赤な顔で、首を横に振った。


「これで練習……するのぉ。やめるの……やだぁ」

「わかった。でも、無理だと思ったら止めるからな」

「…………う、うん。従う。ぼく……シンの言うとおりに、するぅ」

「それじゃ、ルールを説明するよ。出てこい、パチパチ」


 俺は『使い魔の宿』から、フロートアイのパチパチを呼びだした。


『ぱちぱち! ぱちっ!』

「……あ、パチパチくんだぁ」

「今回の修行の目的は、拘束こうそくされた状態のステラが、どれだけ動けるかを見ることだ」


 俺は説明をはじめた。


「ステラには手足を拘束された状態で動いてもらう。俺たちはおたがいに相手の身体に触れたら1ポイント。3ポイント先取で1ラウンド終了ってことにしよう」

「うん。わかった」

「魔術を使うのはありだ。俺も【ウォーター・アーム】を使うけど、問題ないよな」

「もちろん……だよ。ぼくも【雷身ライトニング・加速アクセラレーター】を使うから」

「わかった。あと。パチパチへの攻撃は禁止だ。パチパチはステラの動きを制限するのを手伝ってくれるんだからね」

「う、うん。それはいいんだけど……」


 ステラは手枷と足枷を見て、


「この状態でもぼくは「【雷身ライトニング・加速アクセラレーター】で動けると思う。となると、ぼくの方がシンより有利じゃないのかな……?」

「そこは考えてあるよ」


 ステラは雷光をまとって高速移動することができる。

 その技は、手足を拘束こうそくされていても使える。

 いつも通りというわけにはいかないけど、俺から逃げるくらいはできるだろう。


「俺は【ミスト】でステラの視界を封じることにするよ」

「……ぼくの視界を」

「そうだ。ステラは手足の動きも、視界も封じられた状態で、俺の手からのがれなきゃいけない。大変だろ?」

「う、うん。それは……すごいね。ぼくは肌もあらわな姿で……拘束されて……逃げそこなったら、シンがぼくに触れて……くれるんだ……」


 ごくり、と、息をのむステラ。

 この修行のきびしさがわかったらしい。


「これは追いかけっこみたいなものだ。でも、この修行をすれば、拘束こうそくされた状態での戦い方をマスターできると思う」

「そうだね。すごく……やってみたいよ」

「難しいかもしれない。ステラも、拘束された状態で【雷身ライトニング・加速アクセラレーター】を使うのは大変で──」

「……わ、わかったから……シン」


 ステラは、とろん、とした目で、俺を見ていた。


「はやく……して。ぼく……シンとしたい……。おあずけ……やだぁ」

「わかった」

「あと……お願いをしてもいい……?」

「いいよ。言ってみて」

「シンがポイントを取ったら……指を鳴らしてほしいな」


 ステラは真っ赤な顔で、そんなことを言った。


「拘束された状態だと……ポイントを取られたのが、わからないかもしれないから……だから、ぼくにわかるように、音で示して……ほしい」

「了解だ。それじゃ、修行をはじめよう」

「う、うん。するぅ。シンにたくさん……してもらう……からぁ」


 こうして俺たちは修行を開始したのだった。






「それじゃ発動【ミスト】!」


 修行開始と同時に、俺は霧を生み出す魔術【ミスト】を発動した。

 真っ白な霧がステラを包む込む。

 視界は封じた。だからステラの次の手は──


「【雷身ライトニング・加速アクセラレーター】!」


 予想通りだった。


 濃霧のうむの中から、雷をまとったステラが飛び出す。

 方向は真上。【ミスト】の範囲外はんいがいだ。


 ただし、移動速度はいつもより遅い。

 両手両脚を動かせないのと、霧の中で雷を使ったせいだ。

 きりで雷が拡散かくさんして、威力いりょく減衰げんすいしたんだろう。


 それでも、ステラは【ミスト】の外に出た。

 彼女は空中で新たな雷を身にまとう。

 そのまま、俺の方に向かってくるつもりだ。


 だけど──


「対策はしてある。発動【ミスト】!」

『ぱちぱち、ぱちぱち!』


 空中で、フロートアイのパチパチがまばたきをした。

 位置は空中。ステラの斜め上。


 そして、パチパチの身体から濃密のうみつきりき出した。


「────え!? なんで!?」


 空中でステラがバランスをくずした。

 視界をふさがれたことであせったんだろう。


 だったら──



「行け! 【ウォーター・アーム】!!」



 ぽんっ。



 動きの止まったステラの背中に、俺の【ウォーター・アーム】が触れた。

 その直後、俺は指を、ぱちん、と鳴らす。


「んっ。は、はぅっ!?」


 ステラの身体が、びくん、と震えた。

 俺は【ウォーター・アーム】で彼女の身体をつかんで、優しく地上に降ろした。


「な、なんで? どうしてパチパチくんからきりが出てくるの!?」

「俺はフロートアイを通して【ミスト】を使えるんだよ」


 フロートアイは涙を流すことができる。

 淫魔いんまはその涙を、好きな成分に変えることが可能だ。

 眠り薬にもできるし、相手を発情させる薬にもできる。


 だったらきりにもできるんじゃないかと思ってやってみたら、できた。

 俺はフロートアイのパチパチを通して、【ミスト】系の魔術が使えるようになったんだ。

【スリープミスト】も【パッションミスト】も。


 ステラはその効果範囲に、見事に入ってしまったわけだ。


「……は、はぅぅ。そんなの……予想外すぎるよ……すごいよ」

「止まったままだと2ポイント目がいくぞ。ステラ」



 つ────っ。



「ひゃ、ひゃぁんっ!」


【ウォーター・アーム】の指先が、ステラの背中をなでた。

 ステラはなんとか立ったまま。だけど、そのあしはがくがくとふるえている。今にも座り込んでしまいそうだ。

 足枷あしかせのせいで、バランスを取るのが難しいんだろうな。


 俺にはその姿が見えている。

 淫魔いんまには相手の体温を見る力──サーモグラフィがあるからな。


「これで2ポイント。次で1ラウンド終了だよ」


 俺は、ぱちんと指を鳴らした。


「動かないと3ポイント目が行くけど、どうする?」

「んっ。あ……ぅん。う、うぅ……」

「どうすろ? 手枷てかせ足枷あしかせのうち、どっちかを外そうか?」


 サーモグラフィで見ると……ステラの体温が上がってきている。

 修行をはじめてすぐなのに、息も荒い。

 ステラにとって、この修行法はきびしすぎたのかもしれない。


「どうする。やっぱり、足枷あしかせを外した方がいいかな……?」

「……やだぁ。このままがいい……の」


 ステラはひざをこすりあわせながら、肩で息をしている。

 それでも【雷身ライトニング・加速アクセラレーター】で真横にび、【ウォーター・アーム】をける。


 ステラがふたたび、きりの外に出てくる。

 白い肌を上気させて。

 うるんだ目で、まっすぐに俺を見つめながら、


「ぼ、ぼくは……自分の……限界が知りたい……の」


 ふるえる足で地面を踏みしめながら、ステラは宣言した。


「シンにしてもらうことで……ぼくは……新しい自分が……。この先の……すごいところに……たどりつけそうな気がするんだ。だから……もっと……しよう……よ」

「わかった。でも、限界だと思ったらそう言ってくれ」

「んっ」


 ステラがうなずく。

 俺はふたたびステラを捕らえるために、動き出す。



 そうして俺たちは、また修行を続けるのだった。






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 書籍版「エロゲのヒロインを淫魔スキルで支配する」は、2026年7月1日発売予定です。

 ただいまスニーカー文庫様のX (旧ツイッター)にて、アイナのキャラクター紹介が掲載されています。そちらもぜひ、チェックしてみてください。





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