電撃的な勝利で幕を閉じるはずだった「トランプの復讐劇」――イランとの戦争は、今や出口の見えない泥沼へと転じている。トランプ政権にとって最大の誤算は、これほどの爆撃を浴びせながらも、イラン政府が抵抗をやめない現実だ。
揺らぐ世界のパワーバランス。各地の戦火が物語る地殻変動の正体とは? 知の巨人たちに、混迷の裏側に潜む「新秩序」の胎動を聞いた。
【前編記事】『なぜトランプは“勝てない戦争”に踏み切ったのか「真の答え」知の巨人たちが言語化したらこうなった』よりつづく。
「イランは簡単にギブアップしない」
イランはけっして抵抗をやめることはない。その根底には、国際社会の合理性では測りきれない「シーア派の原風景」が息づいている。今ベストセラーとなっている『新書 世界現代史』の著者で、共同通信編集委員の川北省吾氏は、彼らが現代の戦場に、西暦680年の「カルバラの戦い」を重ね合わせていると言う。
「イスラム教の預言者ムハンマドの孫フサインが、わずか70人程度の手勢で数千人のウマイヤ朝の大軍に挑み、殉教した。この悲劇こそが、イランの神権体制を支えるシーア派の核です。彼らにとって米国は、腐敗した権力の象徴である『ウマイヤ朝』そのもの。圧倒的な戦力差があっても正義のために戦い、死ねば最高の名誉である殉教者となる。
彼らが守ろうとしているのは、日本でいう天皇制にも似た『国体』です。信念に基づいた戦いである以上、簡単にギブアップすることはない」
シカゴ大学教授のジョン・ミアシャイマー氏は、国際政治における安全保障を冷徹に分析する「攻撃的現実主義」の提唱者として知られる。その理論から見れば、イランの抵抗は「合理的な生存戦略だ」と同氏は指摘する。
「物理的に劣勢な国家が、容易に降伏するとは限りません。国家の最優先目標は『生存』だからです。イランは、正面装備では米軍に敵わない代わりに、ホルムズ海峡の封鎖といった『非対称的な手段』で対抗している。狙いは勝利ではなく、米国にとっての攻撃コストを極限まで引き上げ、抑止力を高めることです」
ホワイトハウスを支配していたのは、「爆撃さえすれば体制は脆くも自壊する」という傲慢な楽観論だった。『アメリカ 異形の制度空間』の著者で、哲学者の西谷修氏が、米国が依拠する「机上の空論」を切り捨てる。
「イランには数千年にわたって、この地に根ざし歴史や文化を重ねてきた伝統があり、そこに暮らす人々の営みがあります。それなのに米国は、彼らを単なる『テロリスト』という記号で一括りにし、その生活への想像力を欠いたまま、無差別な破壊と殺戮を続けてきた。衛星写真を眺めているだけで、何代にもわたって国を守り抜こうとする民衆の底力を推し量ることなど、到底不可能なのです」