空白の部屋を埋めるために
篤寛同棲シリーズ4話目
渋谷で2人が新生活のため爆買いする話です。
一日中いちゃこらデートしてるお話になりました。
書いてる期間、街中で2人がもしかしたらそこにいるんじゃないか?と錯覚を起こしました。
未読の方は1話目から読んで頂くのがおすすめです♡
シリーズはこちらから
novel/series/15837950
感想をいただけるととても励みになります♡
マシュマロ↓
https://marshmallow-qa.com/j4x755g103e9ek6?t=a5mlDv&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
- 46
- 39
- 806
「…っげ、結構暑いじゃねえか、今日……」
「5月だが、半袖にしておいてよかったな」
二人でこっそり手を繋ぎながらマンションの階段を降りれば眩しい陽射しを浴びる。今日は新居の家具を揃えるため渋谷に向かう計画だ。電車と車、どちらがいいか悩んだが家具は注文になっても細かい日用品や雑貨を抱えて帰るにはここは駅まで歩きて15分かかること、大荷物で電車に乗っていれば周囲の迷惑になってしまうことなどを踏まえて日下部の車で向かうことにした。マンションから徒歩3分の場所にあらかじめ契約されている月極駐車場にたどり着けば二人の車が見えた。
「なんかいいな、俺と日車の車が並んでるの」
「そうだな、たまたま隣同士の番号が空いてたから運がよかった。内見の予約の時についでに日下部が問い合わせてくれて助かった」
日車の車は国産のSUV車。限定のメタリックグレーのカラーが晴れの日は日差しの反射で輝き、雨の日はボディが濡れればまた違った表情を見せ無骨に、だが上品な印象を持たせる。電動駆動の走り心地と静粛性、優れた走行性で雪道や山道などの悪路でも圧倒的な安定感を発揮するこの車を彼は気に入っているらしい。
初めて日車の車に乗ってドライブデートに行った時、なぜこの車にしたのかを聞いたところ実家の岩手への帰省や仕事の調査など、どのような道でも走れる車という点が一つ。もう一つは外車に乗っていた時期もあったが修理の際、必要な部品を取り寄せるのに時間がかかってしまい不便な生活を強いられ仕事に支障が出たとのこと。
日車らしい、と思いレザーシートの助手席に腰掛け、彼の運転に身を任せながらデートに行ったことを日下部は思い出す。
隣に並ぶ日下部の車は彼の同じメーカーのバンタイプのサンドベージュカラーの車で、業務用に荷物の運搬を主な目的とした箱型のタイプだ。業務用、と言われればお世辞にも格好いいとは言えないが近年のバンタイプは趣味にコミットした売り出し方をしている。それは釣りやキャンプなどのアウトドア好きをターゲットにした売り方だ。
彼は車内への積載量はもちろんのこと、内装外装のカスタムの幅の広さ、山や川へ行った際の飛び石対策や汚れが落ちやすいメーカーの加工など細かい点に惚れてしまい、この車を購入したらしい。
先日、彼の荷造りに付き合った際、荷物を隠していたことは知っていたが引っ越し当日パズルのようにぎゅうぎゅうに詰められた荷物を取り出すのに二人で苦労したのはご想像にお任せしよう。
「車の中暑……ッ、ちょっとエアコンかけて後ろ整理するから待ってろ」
「わかった、俺はそこのコンビニに行ってくる。日下部は先に乗っていてくれ」
まだ5月半ばとはいえ、日光がジリジリと当たれば車内の温度は上昇しドアを開けた途端もわっとした温度を感じる。適温に戻すためエンジンをかけてエアコンを入れる。
一方日車はすたすたと駐車場の目の前にあるコンビニ向かう。店内に入店すればふわっと冷房を浴びてうっすら背中にかいていた汗が引いていく。レジ前の冷凍ケースを開けてLサイズとMサイズの氷の入ったプラカップをそれぞれ取りレジで会計後マシンにセットしてアイスコーヒーを作る。彼は運転する時のお供はいつもこれがルーティンだ。
「待たせたな日下部。今日は運転よろしくな」
「お、ありがとな。いいのか日車は?そのサイズで」
助手席に腰をかけ、先ほど家を出る前にも飲んだしな、君とは胃袋のサイズが違う。と揶揄えば運転席に座る恋人はいはいと微笑みながらあしらう。
慣れた手つきでインテリアショップへの目的地を設定する。画面を触っていればナビに登録してあるお気に入りの目的地が見えた。上から日車が一人暮らしをしていたタワーマンションの住所、その下は彼がたまに通うキャンプ場、続いて下には釣り堀が登録されていた。
自分がかつて暮らしていた場所が一番上に登録されており心が満たされるような満足感を覚えながら購入したアイスコーヒーを一口流し込む。気付かぬうちに口角が上がっていたのかどうした?と彼に聞かれるが気にしないでくれ、と返した。こんなささやかなことで幸せを感じている自分が照れ臭くなった。
此処から設定した場所へは車で30分、土曜日ということもあり道路が混んでいることを想定し、ゆとりを持って出発する。彼の緩やかにアクセルを踏む運転が好きだった。
過去に一度ドライブ中に道路に野良猫が出てきた時、咄嗟に急ブレーキを踏み急停止。その時彼はブレーキを踏み、右手はハンドルを握ったまま、左手は自分の胸元に手を伸ばし身体に負荷がかからないようにしていた。あ、ごめっ、妹とか甥っ子にやる時の癖で…と慌てていたが彼の運転なら身を任せてもいいと心を許したのが懐かしい。
窓の外を眺めていればまだ自分たちには見慣れない風景が続く。大きな河川敷、商業施設、街を歩く人々。何気ない景色だが今日からはこの景色が自分たちの日常になるのだと心を躍らせながら二人は目的地へ向かうのであった。
目的地への案内が終了しました、運転お疲れ様でした。と機会的なナビの声がすればコインパーキングへ車を停める。表通りからは距離はあるがなんせ土曜日の午前、人通りは多い。
一店舗目は元々アパレルブランドの店舗がアメリカンヴィンテージやインダストリアルに特化され展開したインテリアショップ。コインパーキングから3分ほど歩けばガラス張りで入り口には観葉植物とチェアがいくつか並ぶ二階建ての建物にたどり着いた。
「……ここか、俺入っていいのか。なんか敷居高いんですけど……」
「問題ない、不安だったら俺の後ろをついてくればいい」
気持ちがはやるのかひと足先に向かう彼を追いかけて入店する。店内は落ち着いた雰囲気で入店した途端、観葉植物の土の香りと家具の木材の香りがふわっと香る。
店内のBGMは落ち着いた海外の曲で客層も大人が数組ほど。店員もこちらに軽く挨拶をすれば押し売りはせず落ち着いている。何かお探しですか?と聞かれれば日車がスマートフォンに保存していた写真を見せながら話し始めた。
こちらは当店で作っている家具なので2階にご案内しますね、と2人は案内され、階段を上がればアメリカンヴィンテージな家具がずらっと並んでいた。お見せいただいた写真の商品はこちらとこちらなのでご不明な点があればお申し付けください。と2階のレジへ店員は向かう。
今日のお目当てはリビングのダイニングテーブル、椅子、ソファ、ローテーブル、キャビネットに寝室のベッドとあまりにも多く引っ越し前の彼の口から聞いた時、日下部は目眩を起こした。
「……そんなに一気に買わなくても良いんじゃないんですか……日車先生……」
「いいじゃないか、日下部。俺の夢だったんだ、この日を昔からどれだけ待ち望んだか」
ハメを外して沢山買うかもしれないが見守っててくれ、と内心ノリノリで引越し準備をしていた彼を思い出す。
二階は部屋のようなレイアウトで家具が置かれており、実際の暮らしをイメージしやすい並びとなっていた。木製の家具が多くまず目についたのはリビングをイメージしたダイニングテーブルと椅子。材質をすり、と触り家具に貼られた説明と価格をじーっと恋人が見つめる。椅子に座れば背もたれや肘掛けの位置をチェックすればちら、と日下部の顔を見る。
「この椅子はどう思う?日下部」
「……良いんじゃないですかねぇ?」
もっとあるだろ、意見とかないのかと言われれば言葉が詰まる。なぜなら日下部は椅子よりも楽しそうに生き生きと家具を物色する彼を眺めていてたからだ。
「……いや、家具じゃなくてあんたの方見てたから……楽しそうで、つい……」
「…恥ずかしくないのか、ストレートに言葉にするのは」
う、うるせ!と言いながら日車が座っている椅子とダイニングテーブルを挟んで同じ椅子があったので向かい合うように日下部も座ってみた。椅子の座面は木製で真っ直ぐかと思えば少し丸みを帯びたデザインとなっており腰や尻への負担を軽減するデザインとなっている。
もし、今の新居のリビングにこの家具があったら…夕飯を並べて、日車が急に思いつきで変な話をして、自分がツッコミを入れて、2人で笑いながら食事をして…と考えていれば「意外といいな」と口から溢れていたらしい。
それを聞き逃さなかった彼がそうか、そうか日下部。と冷静さを装いながら先ほどの店員にこれとこれを購入したいが……と声をかけに行った。
この2種類の家具はもうあらかじめ目星をつけていたものらしく自分の一押しがあれば確定で購入と決めていたと。注文の伝票に必要事項を記入している間にソファやローテーブル、キャビネットも彼より先に見ておく。木製のキャビネットが気になりしゃがんで扉を開ければ見た目はシンプルなのに反して大容量、天板や扉の手触りもいい。
「日下部、それが気になるのか?」
君がこういうのを、触って眺めるのは珍しいな、と声をかけてきた彼の手には注文した家具の控えの伝票があった。
「いや、実用性あるし。何より日車が持ってたキャメル色のリビングの棚と合うかなと思ってデスネ...」
俺が家具について口出しするのも変だよな、忘れてくれと照れ臭く言えばいや、買うぞ買うぞと財布からクレジットカードを取り出しながら身を乗り出し流石に止めた。俺が今日はこの恋人のブレーキ役にならねばならない。近くの他の店も回るだろ?な?そこでいいのがなかったらそうしようと宥めればまぁ、そうだな……と呼吸を整えていた。
一店舗ではダイニングテーブルとそれにぴったりの椅子を2脚、ニ店舗目ではソファとローテーブルを、三店舗目は目ぼしいものはなく結局日下部が気になっていたキャビネットは始めの店で注文する流れとなった。
渋谷では最後に日車がリストアップしていた中で唯一、日下部も見たことがある、と気になっていた店に向かう。こちらも一店舗目と似たようなコンセプトのアメリカン系の雑貨がメイン、家具はぽつりぽつりと置いてあるくらいだ。
店内に入ればおお、うおお。と日下部が小さく歓喜の声を上げながら見て回る。手に取ってはこれだったら自分の部屋におけそう、これは車の中でもいいな、とカゴに躊躇もなく入れていく。初めの店舗で日下部が自分を見ていた時はこんな気持ちだったのか、と思いながらさりげなく自分も彼のカゴに気になる雑貨を忍ばせるのであった。
家具の注文と雑貨の購入を済ませて駐車場へ戻る途中にあったベーカリーで昼食を購入し車に乗り込む。日下部はカツサンド、メロンパン。日車は塩パンにパン•オ•ショコラとそれぞれ甘さとしょっぱさを味わえるコンビを選んだ。
車で食べていればじぃっと日下部の視線を感じ……いるか?と聞けば一口、と言われがぶりと食べられた。彼の一口は自分にとって二口だがあえてここでは指摘せずそっとしておこう。
「……んまいな、このチョコのやつ。俺もこっちにすりゃよかった」
「また一緒にくればいい、次は君の行きたいところについて行こう」
新居への帰り道、行きで通った商業施設を車から眺めていれば馴染みのある看板が2人の目に入った。赤と黒が混じったようなえんじ色の背景に白文字の店。衣服、生活雑貨、食品など、暮らしの全てが揃うライフスタイルブランドだ。
「……大きな店舗あったのか、こんなところに」
「まだ引っ越してすぐだもんな〜、なんか買うものあるか?」
「ん……、 玄関につける棚?だな。あれが見たい」
「俺なんか食料品買おっかな〜、レトルトのカレーめちゃくちゃあるだろ、ここ」
自宅にまっすぐ帰る予定だったが予定変更、ウインカーを出して店舗の駐車場に車を停めて2人で入店。各国の民族音楽のような穏やかで牧歌的なBGMが流れ、サンプルのインテリアフレグランスのひのきの心地よい香りが鼻腔を掠める。
店内の入り口には季節の商品と衣服が陳列されており、順路を辿って進めば家具や日用品、食料品もある。
衣服のコーナーを見れば思い出したかのように一目散に日車はパジャマコーナーに進む。恋人の後ろを日下部もきょろきょろと周りを見ながらついていく。彼はじっと見て何か悩んでいるらしい。
「…なぁ日下部、俺の勝手なこだわりだが……その…一回でいいから寝巻きをお揃いにしたくて…どう思う」
いや、やはり忘れてくれ。30代半ばの男の提案として痛いなと耳を赤くして周りの客を気にして顔を伏せる。あらぁ……と意外な提案をする恋人の隣にしゃがむ。
「いいんじゃねぇの?その代わり俺、真夏になると上タンクトップで下ハーパンとかになるけど」
「まぁそれは仕方ないだろ。それか冷房を強めにして無理矢理にでも着せるか」
おお、弁護士の日車先生はおっかねぇ、なんて冗談を言えばこっそり笑い合う。
日車が気になっていた寝巻きはシンプルなデザインと通気性の良い作りでオーガニックコットンを含んだ上下セットのもの。上はダークグレー、くすんだネイビーのシャツに下はブラックのハーフパンツ。
これ、色違いならどうだ?とこちらにほんのりねだるように聞けば否定するなんてできるわけがない。むしろ彼がこんなにぐいぐいと買い物を楽しんでいるのは自分からすれば貴重だった、ときめく心を抑えながら彼の意見を全肯定する。近くにあった買い物カゴを取り日車は上はネイビーの、日下部はダークグレーの寝巻きを選んでカゴに入れる。
店内を進めば家具のコーナーに進む。あらかじめサイズは採寸していたようで玄関につける棚はすぐに決められたこれもカゴに追加された。大型の家具もあるようで眺めていればベッドが目に入る。
「そういえば今日、渋谷じゃ良いのなかったなぁベッド……って日車?」
隣を見れば俯き、顰めっ面でぶつぶつと呪言を呟くような恋人がいた。先ほどのあまあまの可愛い彼はどこへ行ったのか。
「……本当は、すのこのベッドがよかった……そもそもどの店舗にもない……何故オンラインしかないんだ……ブツブツ」
彼の言い分によればロータイプなため部屋が広く見えるらしい、インテリアガチ勢の彼からすれば憧れのアイテムらしいが日下部は本音を言うと反対であった。
「……とは言え、あれあんま良くないでしょ。1人で寝るならまだしも2人ですよ、日車先生」
「そんなに嫌なら俺を言葉で言い負かしてみろ」
「……はぁ…、まず思ったのは、低いから起きづらいだろ。日車、忘れたか?一人暮らしの時にぎっくり腰で起き上がれなくて朝一俺に助けてって連絡してきただろ」
ぎくっ、と忘れていた記憶が蘇る。
付き合って半年の頃、明け方にスマホの通知が鳴り恋人から連投でスタンプが送られてきて何事だと思い日下部が確認したところぎっくり腰だ、起き上がれない、助けてくれ、と泣いている何かのキャラクターのスタンプでボコン、ボコンと通知が止まらなかった。
すぐさま仕事の準備を済ませ車を飛ばして先日受け取った合鍵で入れば寝室にはシクシクとベッドにうずくまる恋人がいた。2徹明けに仮眠をとろうと寝ようとしてくしゃみをしたらビキッと腰が終わりを告げたらしい。
現在は元気だが、昔妹の介護をしていた記憶を思い出しながら彼の体に負担がかからないように起こしたり、歩くのを手伝ったりした。少し様子を見て帰ろうとしたら服の袖を掴まれて小さな声でひとりにしないでくれ、日下部。と甘えられた途端に休暇の連絡を職場に問答無用で投げつけ、付きっきりで看病した記憶が蘇る。
「……それは忘れてくれ。よく覚えてるな」
「まぁ、それが一個の理由で、もう一個は……」
周りに人がいないことを確認すれば彼の耳元でひそひそと囁く。
「……その、夜とか。2人で寝たり動いたりしたら耐久性ないだろ。ちゃんとしたの買わないと…」
「っは!??、く、日下部っ、〜〜ッッ」
ぼんっと爆発しそうなくらい真っ赤になってプスプスと煙が出ているように動けなくなる恋人。これが俺の本音だから一回2人で考えような?と伝えればひゃい……と小さく返事をした。今回の判決は日下部に軍配が上がった。
本当はこっちのフレームがしっかりしたのが良いんだよなぁ…と見ていればシンプルなベッドがあった。今横で真っ赤で動けない恋人を他所目に彼が言っていたように二つのベッドをくっつけて一つの大きいベッドとして使えないか。スマートフォンを取り出し検索したところ実際に一人用のサイズを二つくっつけて使っている夫婦の動画が出てきた。気になり動画を押せば有名な動画サイトに遷移され、消音にし字幕ありで動画を眺める。
この店舗のブランドの一人用のサイズのベッドそれぞれの隣接する足の部分を固定用のベルトを使いずれないようにし、マットレスの隙間は専用のパッドをいれ、最後に二つを連結したサイズにちょうど良いシーツをかければぱっと見は大きなベッド、しかも耐久性のある理想のものが完成すると言う仕組みらしい。
いまだに顔を真っ赤にしてぼーっとしている日車をつんつん、と肩を指で押してこれ、どうだ?と一通り見せればまぁこれなら...確かにいいな、とすんなり太鼓判をもらったので二人で選んで注文することにした。マットレスの硬さや寝心地も確認するためそれぞれ交代して寝っ転がれば納得のいくものになった。シーツや枕もバラバラのためサイズを測って後日買いに来ることとして、先ほどの動画で出ていたベルトや連結用のパッドも商品の前に置いてあったカタログでベッドのサイズを確認してからネットで購入を済ませる。
今日は沢山回ったし、あとはこれで終わりにしようと一息、着いていれば息を潜めてどこからか持ってきたのか二つのスリッパをそっと日下部の腕にかかるカゴに入れる。
「あっ、こら!どんだけ今日買うんだよ…」
「最初にも言っただろ、この日を俺がどれだけ待ち望んでいたか…ハメくらい外させてくれ。君との同棲がやっと始まるんだからな、これは俺が買う」
洗濯機でもネットに入れれば洗えるというベージュとカーキのスリッパをカゴに捩じ込んできた。
家計担当、本音を言うとケチなところがたまに出る彼がこれだけはしゃぐと言うことはどれだけ楽しみにしていたのかを考えるとまぁいいかと思えた。最悪俺のコンビニの無駄遣いを今月は抑えれば彼には何も言われないだろう。
レジ前にある食料品やお菓子も少しだけ購入し会計をして店を後にすれば真っ直ぐ二人は新居へと戻るのであった。
時刻は夕方、駐車場に車を停め、後部座席のドアを開ければ今日買ったものがこちらを早く連れて行け、と言わんばかりに溢れている。
「…買いすぎたな、これ」
「俺は楽しかったぞ、これがいまからあのがらんとした新居にはいるなんて…二人の城を作るみたいだな」
「まぁなんもないよりは良いか。部屋に運んだらシャワー浴びて簡単だけど夕飯作るから、荷物の仕分け頼んでも良いか?」
コクっと頷き二人で荷物を部屋に運び込めばリビングには買ったものでぱんぱんの紙袋がいくつも並んでいた。
料理を作る日下部が先にシャワーを浴びていればその隙に今日買ったお揃いの寝巻きの値札をぱちん、とハサミで切って脱衣所に置く。同時のタイミングで丁度浴室の扉が開きさんきゅ、と言われる。彼が新しい寝巻きに身を包めば同棲の実感がさらに湧き自分も一刻も早く着たい衝動を抑え、彼と入れ替わりで浴室へ向かうのであった。
新しい寝巻きを身につけ、リビングへ向かえばおかえり、と日下部はカウンターキッチンで夕飯の支度をしていた。なんでも引っ越しそばを食べるらしい。
昔は引っ越し先の近所に配るのが定番だったが現在はそうではなく、自分たちが食べて源を担ぐのが主流だそうだ。
彼がお湯を茹でている間に自分は今日買ってきたものの仕分けをしなくてはならない。買うのは楽しいが買って終わりではなく、箱から取り出したり、タグを切ってしっかりあるべきものに戻すまでが買い物だ。
まずは玄関の壁につける棚を出そうとえんじ色の看板の店で買った袋から段ボールを取り出し、カッターの刃をチチチ、と出し開封しようとしたが─、
「っい"!?、ッッ……」
カッターで梱包されたテープを切ったのはいいものの、段ボールの端で左手の人差し指を切ってしまった。声に気づいたのか鍋の火を止めて日下部が駆け寄る。
「大丈夫かよ、うわ…血出てる」
「……ッ問題ない、そんなに大したことないから…、ッ!?」
彼に心配をかけないよう返答をしていたら左手を持たれ、人差し指を咥えられていた。口の中に含み、肉厚な舌で一度舐められちくっとした痛みと彼の舌から伝わる体温が全身にびりびりと響く。
早く離せ!汚いだろ!?といえばつ、と口から離せば絆創膏持ってくるわ、とパントリーに向かった。頭のいい日車は恋人の今の行動が大切な人を守りたいという強烈な本能と、深い独占欲のあらわれだということを瞬時に理解し心臓がばくばくとし、空いた口が塞がらなかった。
持ってきた絆創膏をぺり、と巻かれればちゃんとうがいしたか?と心配される。へいへい、してきましたよ、と言えば恥ずかしいのか日車は顔をほんの少し赤らめ俯いている。
「今日は買い物で何ヶ所も回ったから疲れたしなぁ。メシ食って今日はゆっくりするぞ」
明日俺も一緒に仕分けと荷解きするし、と言いながら頭をわしわしと撫でられる。自分の気持ちが昂りすぎてやりたいことが多い中、彼を連れ回したり自分が怪我したり、迷惑をかけてばかりだと肩を落とす。
「そんな顔するなよ、今日ほんとに楽しかったし。まずは飯食うぞ、手伝ってくれ」
よいしょ、と両手を握られ彼に立たされる。目を合わせれば陽だまりのように明るい彼の気遣いにネガティブを帯びた心が溶けていくのを感じた。
リビングでお揃いの色違いの寝巻きに身を包み、仮で使っている日下部キャンプチェアと折りたたみ式のテーブルを使い手を合わせていただきます、と声を揃えれば引っ越しそばを食べる。
帰り道で一瞬寄った個人経営の小さなスーパーでネギと天ぷらを買い、引越しの荷物にあった七味を入れれば簡易的だが今日の夕飯の引っ越しそばとなった。
日車の家にあったテレビは床にまだ直置きされておりBGM程度に流していればニュースに切り替わり明日の天気予報が表示される。最高気温は25度、カラッと晴れるでしょう。最高のお洗濯日和です。とのこと。
「……じゃあ明日は今日買ってきたものの片付けと荷解きだな」
「ああ、……あまり焦りすぎないでのんびりやろうと思う」
「まだ気にしてんのかよ?一緒に少しずつやってこうぜ。それも醍醐味だろ、同棲の」
引っ越しそばを食べながら互いに笑い合えば、俺の恋人にはやはり叶わない。彼と一緒になれてよかった、と心から思う日車であった。