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兵庫“メディアの敗北”の真相㉚「一死をもって抗議する」は何に対しての抗議だったのか

1年以上にわたって兵庫県に混乱と分断をもたらしている“文書問題”。「メディアの敗北」とまで言われる事態はなぜ起きたのか。当時、NHK神戸放送局で報道の責任者を務めてきた小林和樹氏が、「表の報道」からだけではうかがうことができない、メディアの内幕や兵庫県の動きの全てを記録に残します。

長期連載「兵庫“メディアの敗北”の真相」、今回は元県民局長が「一死をもって抗議する」として残したメッセージが、何に対するものだったのかを考察していきます。

「一死をもって抗議する」

元県民局長が残したとされる最後のメッセージの中に、亡くなった理由につながる文言が一つだけ存在している。

「一死をもって抗議をする」という言葉だ。

元県民局長は何に抗議をしていたのか。当時から今まで1年以上にわたって、いろんな関係者に話を聞いてきたが、明確に答えられる人はいなかった。故人の最後の言葉であり、本人から聞くことができない以上、誰であれその意味を推測はできても断言はできない。

しかし抗議の対象は、これまで書いてきたように百条委員会ではない。また、前回の記事で取り上げた奥谷謙一議員(当時の百条委員会の委員長)の証言からも、百条委員会で「私的情報」が取り上げられる可能性は少なかったのだから、そのために死を選んだとも考えにくい。

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奥谷謙一議員(撮影:筆者)

「知事に対する抗議の意味」と推察する人もいるが、私はそうは思わない。知事への抗議なら百条委員会で証言をすることが最も有効だし、元県民局長はその準備もしていた。

可能性を潰していくと、一つだけ、元県民局長が強い「抗議」の気持ちを抱いてもおかしくないことがあると気付いた。百条委員会での公表とは関係なく「私的情報」が外部に漏えいされ、拡散されてしまったことだ。

この時点で取り返しのつかない範囲にまでその内容が広まっている状況に、ちょうどそのころ、元県民局長が気づいたということはありうる。

元県民局長が亡くなる以前の情報漏えい

元県民局長の「私的情報」は、後の知事選挙の期間中にネット上で拡散される。「国民の知る権利に応える」という名目で(これが適切な主張かどうかは後述するが)、新聞やテレビが「私的情報」を報じない中で注目を集め、斎藤知事が再選する結果にも影響した。

ただ、ここで検証するのは、選挙中の話ではなく、元県民局長が亡くなる以前の2024年3月から7月7日までの情報漏えいの状況だ。

県が設けた第三者委員会は、2025年5月に情報漏えいについての調査結果を公表している。当時の総務部長が3人の県議に情報を漏えいし、それが斎藤知事や片山元副知事の指示のもとに行われた可能性が高いと結論付けたものだ。これを受けて県は元総務部長を停職3か月の処分とする方針を発表したが、元総務部長は、審査請求および執行停止の申し立てを行っている。

また、斎藤知事は情報漏えいの指示について認めていない。市民からは刑事告発されるなど、この件については未だに事態は収拾の兆しを見せていない。

私の取材では、第三者委員会が指摘する以上に幅広い範囲で情報漏えいが行われていた疑いがある。しかしその前に、まずは認定された事実を見ていく。

第三者委員会は、知事、副知事、県議会議員や人事課の職員など、のべ22人から事情を聴いて事実認定を重ねている。それによると、元県民局長の私的情報は、知事の指示によって行われた3月25日の調査で引き上げられた公用パソコンに含まれ、その後、片山元副知事の指示で、総務部の職員が印刷して元副知事に届けている。かなりの枚数があったため、立体型の封筒に入れられてダブルクリップで留められていた。

しかし、これはすぐに処分されたと認定されている。片山元副知事は「部屋に置いとったらマズいなと思ったので、4月の早い時期にシュレッダーした。職員に見せたらマズいなと思ったので自分でやった」と説明したという。片山元副知事が「私的情報」の内容を目にしていたことがわかる。

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片山安孝副知事(当時)兵庫県議会インターネット配信より

元総務部長も内容を目にしていた1人だ。4月中旬ごろに元総務部長の指示で私的情報の一部が印刷され5部の冊子が作られた。このうち4冊は、まもなく処分されたかロッカーにしまわれたものが見つかっている。ところが元総務部長に手渡された1冊については行方が分かっていない。

総務部内で最初に所在の確認が行われたのは、7月17日発行の週刊文春が情報漏えいに関する記事を載せた直後で、職員の証言によれば、元総務部長に確認すると「受け取っていない」と言われたという。別の職員が手渡したことを指摘すると、元総務部長は慌てた様子で引き出しや書棚を開けるなどして探し始めたが、結局見つからなかった。

第三者委員会の聴き取りに元総務部長は「ファイルを受け取って1週間から10日で人事課に返したと思う」と証言したが、人事課で元総務部長からファイルを受け取った人はいなかったと認定されている。

一方、4月の中旬から下旬にかけて、元総務部長からファイルを見せられたというのが3人の県議会議員だ。このうち1人は、4月19日の午後4時半ごろに会派の控室に1人でいた時に両手に大きいファイルを2つか3つもって元総務部長が入ってきたと証言している。

元総務部長は「これ、見てくださいよ」「ほんまたまったもんちゃうで、元県民局長はなにやっとるんやという感じ。こんな人間が作った文書、信用できるわけないやろ」などと言ったという。

議員は、ファイルの内容が事実かどうかわからなかったことと、ふだんの県民局長のイメージとかけ離れていたために「嘘ではないか。そんなわけはないのでは」「信じられない」などと語り、文書を見せる行為自体がまずいのではないかとも思っていたという。ほかの2人は別の会派に所属しているが、同じように県議会棟の部屋に1人でいた時に、元総務部長から文書を見せられたという証言をしている。

元総務部長が文書を見せた動機については「元県民局長の私的文書を暴露することにより、その人格ないし人間性に疑問を抱かせ、ひいては告発文書の信用性を弾劾することにあった」と3人の県議が受け取っていたと認定されている。

ここから先は会員限定です。元総務部長は「情報漏えい」について第三者委員会にどのように説明し、その証言がどのように変わっていたかについて検証します。

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