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寛篤まとめ/Novel by まる

寛篤まとめ

5,070 character(s)10 mins

Xやpixivで上げたものをまとめました。
作品の傾向は平和で甘い!一部芸能人パロあります。

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ドッキリ大成功


番組の打ち合わせが終わったのは午前0時を過ぎたころだった。確かにこの業界はここまで遅くなることはザラにある。だがそれは売れっ子芸人とかの話でしょーが。しがない俳優をこんな時間まで働かせてどういうつもりだ。声には出さないがマネージャーの伊地知に恨みの念を送っておく。ディレクターを見送り一人になった部屋で、もはや特技である高速帰り支度を済ませさっさと退出する。とたんに嫌な予感が日下部の脊髄を走り抜けた。廊下を約30m行き、右折すればエレベーターがあるのだが面倒事が待ち構えている気がしてならん。だが階段を使おうとは思わなかった。なぜなら面倒だからである。面倒の板挟みにされた日下部はついに思考を放棄し、エレベーターへと向かった。

 あれ?杞憂だったか、何事も無いぞ。と思ったとき、曲がり角から黒い覆面を被った男が現れた。げんなりしながら歩みを止めないでいると、男が慌てたように腕を振る。そこにナイフの影が見えた瞬間左足で蹴り上げ相手の手から得物を床に転がした。男が謝り、びくつきながら走って逃げようとしたので追いかけて寝技に持ち込み覆面をひっぺがしてやった。中から現れたのは一緒に仕事をしたことがある中村ADだ。イヤモニも外れて床に転がっている。これは・・・まさか。廊下を数人で走ってくる音が聞こえる。
「くさかべさぁーーん!」
角からドッキリ大成功と書かれた看板を持った派手髪の女優、三輪が現れた。最悪だ。
「・・・ドッキリー、大成功!!」
「どこからどうみても成功してねーだろうがぁ!!」
 それは日下部さんが、と三輪が反論しようとしたところプロデューサーに止められる。なんだ?スタジオと中継が繋がっている?嫌な予感しかしない。スタジオを映し出すスクリーンがやけに歪んで見えた。

 画面中心には大物俳優の夜蛾がなにやらコミカルなステッキを持ち、渋い顔をして鎮座している。その両脇には祓ったれ本舗。五条とその隣にいる女優の家入は椅子から転げ落ちて笑っている。俺の眉間には皺が三本。おそらく今回の首謀者は白髪の野郎だ。
「うおぉぉい!五条!いつまでも笑ってねぇで説明しやがれぃ!」
ようやく涙を拭って五条が青い瞳をみせる。

 端的に言うとこれは五条が企画したゲリラドッキリ特番らしい。俺が包丁を持った男にビビって走り回る様子がみたかったんだと。ふざけるな。因みに追いかけ回して収録スタジオまで走らせるつもりだったようだ。よほどの阿呆のようだ。
まぁ、とりあえず来てよ。と、当然のように歩かされスタジオに着いた。俺ってば優しすぎる。さっきは気づかなかったが上段には被害に遭ったのであろう芸人や俳優が座っていた。ブラジリアンワックスを鼻に突っ込んだままの七海を見て思わず吹き出してしまった。
「いらっしゃ〜い」
五条の間延びした声に苛立ちが蘇ってくる。
「いらっしゃいじゃあねぇよ。そもそもさっきのは番組的に使えねぇだろうが」
「それなら心配いらないよ。これ生放送だから」
「・・・は?」
身体中の毛穴が開きどっと脂汗がでる。胃が急激に下にいく感覚。心臓が肺を侵食している。
「日下部さんにはこれが一番のドッキリのようだね」
変な前髪が朗らかな顔で言う。
「因みに日下部さんには今から天才俳優日車さんに寝起きドッキリを仕掛けてもらうからね」
今度は仕掛ける側だよ、良かったね。なんて言葉はもう頭に入ってこない。助けを求めるように夜蛾大先生を見つめる。

「俺も何がなんだかわからんのだ・・・」

 なんで俺がこんなことに。今流行りの猫ミームよろしく頭を抱えた日下部篤也は、血気盛んなスタジオからとあるホテルへ送り出されていた。結局七海が鼻の中までツルツルにされるところは見れないのか。今頃あの棒を引っこ抜かれているところだろう。これで完璧全身脱毛になるのでは?いやいや、そうじゃなくって。五条、あの野郎。まさか日車と俺が付き合ってることを知っているのか。
 確かに前のドラマ現場で五条とは一緒だった。そこにちょくちょく日車が差し入れを持ってきて、会えたらたまーに話していたぐらいだ。そしてたまーに一緒に帰ったりもしていた。仲良いんだね、という五条の言葉を適当にあしらっていたがここにきて凶がでた。あいつは鬼だ。過去に思考を飛ばしながら車内のモニターを見る。日車は長野県で偽ロケをしていた。確かに前々から長野に出張に行くとは言っていたが、まさかこんな仕事を受けていたとは。面白過ぎて地味に口角が上がる。
「皆さん、こんばんは。日車だ。今日は祓ったれ心霊スペシャルということで長野県○○市の○○に来ている。霊をこのピコピコハンマーで叩くという企画だが、俺はそういうものを信じてもないし見たこともないから上手くいくか不安だな。まぁ、ウロウロしていても仕方ないし丁度そこにいる彼に話を聞いてみよう」
日車が指した方向にはうっすらとしたモヤがかかっていたが人なんてもんは存在していなかった。・・・こいつやべぇ。ワイプで五条が死ぬほど笑っているのを見届けてそっとモニターの電源を切った。疲れた。取り敢えず長野に着くまであと三時間はかかる。その間に寝よう。
 端的にいうと眠れなかった。意外と気にしいな俺の脳みそにはずっと思考が渦巻いていて。寝起きの日車がいつもの癖でハグでもしてきたらどうしようとか、これからの週刊○春の巻き方とか、そもそもいつまで生放送でドッキリ番組やってんだよ、年末か、とか。くだらない考えに雁字搦めにされて寝れなかった自分が可哀想だ。五条には苦言を呈すだけでは飽きたらない。うんと高い酒でも買ってもらおう。
 ついにその時はやってきた。スタッフからマイクを渡され、スタジオと繋がっているイヤモニをつけられる。ちなみに日車は午前2時にホテル入り。現在午前4時だ。今頃ぐっすり寝ているだろう。部屋の前まで来て中継が繋がる。
「おぉぉぉい、五条。お前のせいで俺は東京から長野まできたぞ。ロケバスで!約4時間!」
スタジオは異様な熱気に包まれていた。そりゃあそうだろうな。こんなことをぶっ通しで続けてたら頭もおかしくなるわ。
「日下部さん、おしずかに!日車さんが起きますよ」
意外と口を挟んできたのは七海だった。
「任務は遂行してください」
「お前さんまで狂っちまうとは」
様子のおかしい七海にスタジオは大盛り上がりだ。帰りてぇー。
 寝起きドッキリの要はやはり解錠のシーンだろう。特に何事もなく鍵を開けたが、そこだけは全員固唾を飲んで見守っていた。素直か。中に入ると電気は消してあり、ベッドが少し膨らんでいるのが分かる。女子群が洗面台、洗面台と騒いでうるさいので仕方なく入ってやる。おっさんがおっさんの洗面台物色してんの気持ち悪すぎだろ。あと、日車のプライベートの部分を知っていいのは俺だけだ!と、早朝なのに深夜テンションな俺は内心悪態を吐く。どんどんエスカレートしていく要求を一蹴したときだった。浴室から小さな音が聞こえた。
「日車っっ!!」
電気を点けて風呂のドアを開ける。水を張った浴槽には服を着たままの日車がいた。あまり心配していなかったが先ほどの心霊現場で何か当てられたのだろうか。明るいスタジオとのやりとりに少し上昇していた空気が蒸散する。必死に彼に手を伸ばし声をかける。
「日下部?」
「お前さん大丈夫かっ、こんなとこで寝ちまって!」
「それなら心配いらない。さっきまで布団にいたんだ。ただ、いつも隣にある君のぬくもりが恋しくなって・・・」
「・・・つまり、ぬくもりを求めて風呂に入っていたのか」
「そういうことだ」
あほだ。生粋のあほうだ。五体投地して全てを放り投げたい。とは思いつつ風呂から出るのを手伝ってやる。びしょびしょの日車と向き合いキスをされた。いつもの彼に安心し、俺からもひとつキスを返してやった。
「あのぉ・・・」
第三者の声に身体がびくつく。かんっぜんに忘れていた。カメラの存在。この業界は少しの油断が命取りだと分かっていたはずなのに。言い方が気に入らねぇが同性との熱愛発覚。これじゃあ今までのキャリアがパーだ・・・。
「一応浴室のドアを開けたところから中継切ってたんですけど。そろそろ再開していいですかね?」
「・・・あんた、猪野とかいったか。あとで何でも好きなもん奢ってやる」
「あざっす!」
先輩受け満点の返事をした猪野を生涯可愛がってやると決意した。お二人ってそういう関係だったんすねぇ〜、となにやら意味深な笑みを浮かべてきたのは見逃してやった。そのころには日車も意識が覚醒していて、自分が寝起きドッキリにかけられているという状況を把握していた。すまない、小さな声で呟く。
「何とかなったんだ。あんまり気にしなさんな」
「分かった。逆ドッキリということにしよう」
「はぁ?」
「つまり、君たちが俺にドッキリをしかけようとしたが実は反対で、俺が君たちを騙していた、というわけだ」
「スタッフ含めか・・・?」
「そうじゃないと映像が切れたことの説明が出来ないだろう」
お前は本当にそれでいいのか。それだとお前が五千年に一度のキテレツ野郎になるけれどいいのか。言いたいことはあったが、面倒なので黙っておいた。ちなみに日車の言い訳は通った。さらに最後の一言で爆笑を掻っ攫って行った。

「30半ばを超えてグレてみたくなってな。ドッキリ大成功だ」

Comments

  • 白狐
    October 26, 2024
  • 麟子
    October 26, 2024
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