【QC勉強会資料】第十九改正日本薬局方における質量計量と有効数字:QC実務における天秤選択の重要性
第十九改正日本薬局方における計量管理のパラダイムシフト
日本薬局方(以下、日局)における質量の計量規定は、第十八改正第二追補(2024年6月)から第十九改正(2026年4月告示予定)にかけて、科学的合理性と国際整合性を基盤とした抜本的な変革の途上にある 。この変革の核心は、長年QC(品質管理)現場で「経験的」あるいは「慣習的」に運用されてきた天秤の選択基準が、数学的な「有効数字(有効桁数)」の概念によって再定義された点にある。
これまでの日局では、通則において「精密に量る」という用語を、規定された数値の10倍の桁まで、すなわち0.1%の相対精度で量ることと定義してきた。これは、「量るべき目標値(規定された数値)に対して、さらにもう一つ下の桁(10分の1の単位)まで正確に読み取れる性能を求める」という意味である。
また、0.1%の相対精度とは、秤量における「誤差の許容範囲」や「不確かさ」を、秤量する量全体の 0.1% 以内に抑えるというルールである。例えば、100mg を量る時に 1mg ズレても良いのであれば精度は 1% となるが、日局の「精密に量る」ではその10倍厳しい 0.1mg (0.1%) の精度が求められる。
しかし、最新の分析科学においては、測定機器の表示値の末尾桁には常に不確かさが伴うという認識が一般化している。第十九改正日本薬局方原案検討委員会に設置された「天秤WG」は、この科学的事実に基づき、一般試験法「9.62 計量器・用器」の改正案を提示した 。
QCメンバーが最も解釈に苦慮している「有効数字と天秤の関係」を紐解く鍵は、表示された数字をそのまま信じるのではなく、その数字がどのような測定原理と不確かさの下で生成されたかを理解することにある。本note記事では、新規定の背景にある論理を整理し、定量試験、溶出試験、類縁物質試験という具体的な事例を通じて、現場が直面する天秤使い分けの判断基準を示す。
有効数字の定義と読取限度桁の峻別
第十九改正に向けた改正案の中で、QC実務に最も大きな影響を与える一文は、「はかり(天秤)の、読取り限度桁の数字は試験での計算に使用するが、規格値の判定の際に使用する有効桁数とは見なさない」という規定である 。これは、天秤のディスプレイに表示される最小単位の数字は、あくまで計算の過程で端数処理の誤差を蓄積させないための「バッファ」であり、規格の適否を判断する際の「信頼できる数字(有効数字)」としては機能しないことを意味している。
この概念を正確に理解するためには、天秤の種類と、それぞれの読取限度(最小表示)が確保できる有効数字の関係を整理しなければならない。一般に、化学はかり(化学天秤)の最小表示は 0.1mg、セミミクロ化学はかりは 0.01mg (10μg) 、ミクロ化学はかりは 0.001mg(1μg)、ウルトラミクロ化学はかりは 0.0001mg(0.1μg)である 。新規定下では、例えば 100.0mg という質量に対して 4 桁の有効数字を確保したい場合、表示が 0.1mg 単位の化学天秤では不足であり、0.01mg 単位のセミミクロ天秤が必要となる 。
天秤の種類と読取限度の対応
この対応関係に基づき、第十九改正では、必要な有効桁数と採取量に応じて使用可能な天秤が厳密に規定されることとなる。QCメンバーが理解すべき「肝」の第一は、「規格判定に使いたい桁数よりも、常に一つ下の桁まで読める天秤を選ばなければならない」という大原則である 。
規格値の判定と数値の丸めに関する基礎理論
天秤の選択基準を論じる前に、日局における規格値の判定ルールを確認する必要がある。通則には試験結果の算出と判定のプロセスが規定されている 。
判定における桁数の確保
日局における基本的な判定ルールは、「n 桁の数値を得るには、通例 (n+1) 桁まで数値を求めた後、 (n+1) 桁目の数値を四捨五入する」というものである 。この「(n+1) 桁まで求める」という行為が、天秤の選択に直結する。
例えば、規格値が「98.0 ~ 102.0%」である場合、判定の対象となるのは小数第1位(n=4 桁目)である。このとき、判定の根拠となる数値としては小数第2位(n+1=5 桁目)までを算出する必要がある。もし計算結果が 97.95%であれば、小数第2位の「5」を四捨五入して 98.0% となり「適合」と判定される 。逆に 97.94% であれば、四捨五入して 97.9% となり「不適合」となる。
数値の丸め方(JIS Z 8401の準用)
薬局方における数値の丸め(四捨五入)は、明示的な四捨五入の適用が一般的である。
・0,1,2,3,4 の場合は切り捨てる。
・5,6,7,8,9 の場合は切り上げる。
最小計量値と繰り返し性の数学的根拠
天秤を選択する際、もう一つの重要な科学的指標となるのが「最小計量値(最小秤量値)」である 。これは、天秤の性能(繰り返し性)から算出される、その天秤で「精密に量る」ことが可能な最小の質量を指す。
一般試験法「9.62 計量器・用器」の改正案では、繰り返し性(併行精度)の要件として、同じ分銅を10回以上載せ降ろしして得られた標準偏差 s を用いた管理が求められている 。
ここで 0.0010(0.10%)という数値は、日局の「精密に量る」の定義(不確かさの許容限界)に由来する。QC現場で使用している天秤の標準偏差 s が 0.01mg である場合、その天秤の最小計量値は 20mg となる 。つまり、その天秤で 20mg 未満の試料を量ることは、統計的に 0.10% の精度を担保できないことを意味し、たとえ表示が細かくても「精密に量る」要件を満たさないことになる。
このように、天秤の選択は「表示桁」だけでなく、定期点検や日常点検で得られる「繰り返し性の標準偏差s」にも依存する。QCメンバーに対しては、単に天秤の種類を覚えるだけでなく、その天秤のコンディション(性能)が有効数字を支えていることを教育する必要がある 。
定量試験における天秤の使い分けと実務的判断
定量試験は、主成分の含量を担保する最も重要な試験の一つであり、通常 4 桁から 5 桁の有効数字が要求される。ここでは、規格が 95.0%∼105.0% の場合を例にとり、具体的な考え方を提示する。
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