「フィジカルAIにどう取り組み、向き合うべきか」─。ここ半年~1年ほどの間、日本国内の多くの場でこうした議論が沸き起こった。製造業を中心とした大企業、AIやロボットの技術者・研究者、業界団体、スタートアップ、行政など様々なプレーヤーを巻き込んだ形で耳目を集めるトピックとなった。
米国や中国のフィジカルAIのスタートアップは多いところでは数千億円規模の資金を調達し、GPUなどの計算資源含め多くのリソースを投入して開発にまい進している(図1)。「米国や中国がフィジカルAIやヒューマノイドで先行する中、かつてのロボット大国である日本は本当に大丈夫なのか」「フィジカルAIでは日本の現場データが勝ち筋になるのでは」「フィジカルAIは人手不足の打開策になるはずだ」「日本は米国や中国ほどのリソースはないのだから、日本全体で一致団結して戦うべきだ」など、様々な見方・意見が噴出した。
大規模言語モデルをはじめとする生成AIの技術が、ロボットの行動生成にも使えそうなことが分かってきており、生成AIで2022年に起きた「ChatGPT moment」がロボットの領域でも近いうちに起きるのではないか、そしてロボットの頭脳でブレークスルーが起きると、製造業をはじめ物理世界に多大なインパクトをもたらし、産業の姿を一変させるのではないか、というのが将来のフィジカルAIへの期待であり、日本社会の多くのところで議論が沸き起こった要因ともいえる。
本誌は2015年の創刊当初から「ロボットとAIの融合」、今で言うフィジカルAIをテーマに掲げ、ロボット向けのAI技術について積極的に解説・報道してきたが、今回の記事ではフィジカルAIについての議論の高まりを受け、日本としてどう取り組むべきかを資金面も含め俯瞰的な観点で整理する。ロボット・AI研究者に限らず、フィジカルAIを支える様々なステークホルダーに取材した。
危機感が渦巻く
ここ最近のフィジカルAIに関する議論は、総じて「日本は果たして大丈夫なのか」という危機感に裏打ちされたものといえるだろう。専門誌の編集長を務める筆者の下にもこの1年間、様々な企業・業界団体などから、このテーマでのディスカッションの依頼が少なからず寄せられた。立場は異なれど多くに共通するのが「危機感を感じているものの、なかなか有効な打ち手がなく困っている」というニュアンスだ。