東大地理の入試問題の「ある特徴」
東大の入試問題、特に地理という科目には、ある特徴があります。それは「かなり社会に即した問題が出題される」ということです。
昔から官僚養成学校と言われるくらい官僚になる人の多い東大ですから、まるで自分が官僚になった気分にならなければ解けないような、実社会をそのまま反映した問題がよく出題されるのです。
その最たる例が、今回ご紹介する2016年の地理の問題です。先に断っておきますが、この問題、地理の教科書をどれだけ読み込んでいても、解けない人にはまったく解けない問題です。
この問題で東大が聞きたいことは、たった一つ。「ここに住んでいる人の気持ちになれるか?」です。この山間部に住んでいたとして、合併すると生活する上でどんな困難があるか。どういうところが大変になるか。そういう「人の気持ちになれるかどうか」が、この問題の焦点になっています。
さて、この問題の答えを考える前に、逆のことを考えてみましょう。今回は「合併して発生しうる問題について」が問われていますが、逆に合併するメリットとは何なのでしょうか。
問題文を読むと「行財政の効率化などを目的として」と書かれています。つまりは、市役所や議会、公共施設などが一つになるということですね。
そうなれば、役所であれば多くの人を雇う必要はなくなりますし、病院であればオンボロな病院がたくさんあるよりも、一つ大きくて綺麗な病院がある方が助かる人は多いでしょう。財政的にも行政的にも、その方が効率がいいんだろうな、ということはわかると思います。
実際に市町村合併を経験した人に話を聞くと、「公共サービスを受ける幅が広がる」というのもメリットの一つだと語っていました。今まで使えなかった隣町のグラウンドや体育館が使えるようになったり、隣町の図書館で借りられる本の幅が増えたりすることもあるそうです。
しかし逆に、「統廃合になってしまう」「今まで使えていた施設・サービスが今まで通りには使えなくなる」というのは、やはり生活上大変な点だそうです。今まで人があまり乗っていなくても運転していたバスが、合併を契機に統合されて廃止されたり、村の中学校が廃校になったり、それに伴ってその中学に通っていた子供がいた家族が引っ越したり……。
「昔は顔見知りの人が市役所で働いていたので楽だったが、合併して全然知らない人が働くようになったから手続きが大変になってしまった」という人も多いようです。
「生活上の問題」を考える
それはこの問題にもそのまま当てはまります。
この問題では「山間部」で発生する問題なので、「今までバスが山を登ったところにあるバス停まで来ていたけど、合併で利用者も少ないのでなくなった」とか、「車を運転できないおじいさんおばあさんが、山の下にある役場までわざわざ行かなきゃならなくなった」とか、そういうことってありそうですよね。
こうした「統廃合でサービスが受けにくくなること」が、「生活上の問題」として挙げられることなのです。
「行政上の問題」を考える──市長になったつもりで
ここまで、「生活上の問題」について触れてきました。しかし、難しいのはここから。「行政上の問題」です。
「生活上の問題」ならば、私たちも合併は経験していないにしても毎日「生活」しているので、比較的想像しやすいですね。しかし、「行政」は違います。市政に関わった経験がある人というのは、なかなか少ないですよね。そういう「ちょっと自分から遠い仕事」のことは、想像し難いものです。
こういう時は、思い切って市長になった気分になってみましょう。新A市の市長に自分がなったとして、山間部のことについてどのような問題が生じると思いますか?
例えば、新しい市役所を束ねるのは骨が折れそうですよね。今まで自分の地域のことだけを考えていればよかった人たちが集まって、合併したほかの地域のことまで考えなければならなくなります。「山間部ってどんな生活を送っているんだろう?」「この地域ではどういう問題が発生しやすいんだろう?」と考えなければなりません。
今まさに解いているように、こういう「他の地域の人ってどういう生活してるんだろう?」と考えるのは、東大の問題として出題されるぐらい難しいことです。合併したら、それをやらなければならないわけです。
こうなると、合意形成はとても難しくなりそうですよね。「B町としてはこれは譲れない!」「いやでも、C町としてはこれはやってほしいな」「F村としてはこういうことは絶対忘れないでほしい」と、いろんな市町村の事情を考えて話し合いや合意形成をするのは大変そうです。
ましてそれが山間部のこととなると、とても難しいです。新A市にとって、山間部の住民は少数派でしょうし、生活環境が他のA市の市民とは違っているでしょう。そういう人にも満足してもらえるようなサービスを提供するのって、難しそうですし、考えるのも大変そうです。
こういう「合意形成の難しさ」「意見の反映の難しさ」が、「行政上の問題」なのです。
ということで、一応自分が作った答えを書いておきます。
学問の素になるスキル
いかがでしょうか? 教科書をどんなに読み込んでいても、日々の生活を意識し、自分の住む地域の行政サービスについて考えたりした経験がない人では解けないのがこの問題でした。
東大の入試問題は、このような「いろんな立場で物事を考えさせる問題」の出題が多いです。ビジネスでもよくある、「相手の立場で考える」というやつですね。
これは学問でも必要なスキルで、歴史であれば「この時代の人はこの出来事をどう思っただろう?」、理科や数学であれば「この技術をどう利用したら人のためになるだろう?」というように、自分の目線だけではなく広く物事を考えるのが重要だと言えます。この問題は、そういう「学問の素になるスキル」を聞いていたのかもしれませんね。