25年間、過食で苦しんだ経験を持つ公認心理師の大橋ともさんが、摂食障害の子どもを持つ母親に向けて「わが子が摂食障害になったら読む本」(ビジネス社)を出版した
インタビューズ
摂食障害のわが子に寄り添うには…摂食障害で25年間苦しんだ公認心理師の大橋ともさんに聞く
25年間、摂食障害で苦しんだ経験を持つ公認心理師の大橋ともさんが、摂食障害の子どもを持つ母親に向けて「わが子が摂食障害になったら読む本」(ビジネス社)を出版した。「子どもの話を5分、さえぎらず聞ききる」「会話の3割がつながればOK」と実践可能な子どもとの関わり方が提案されている。大橋さんに自身の摂食障害の経験と、わが子のことで苦しむ親へのアドバイスを聞いた。(聞き手・斎藤雄介、撮影・秋元和夫)
「食べている間だけ、嫌なことを忘れられた」
――摂食障害になったきっかけはあったのですか。
中学2年生の冬、バレーボール部のキャプテンでした。のめりこむタイプだったので、朝練もして、日が暮れても練習というふうに頑張っていました。
ある日、練習が終わった後、体育倉庫を片付けていたら、20人ぐらいの部員がそろっていて、1人ずつ全員から「ついていけない」「あなたのここが嫌だ」と、言われました。
帰宅したあと、普通に夕食を食べたんですけど、体育館の場面が頭に浮かんで、おなかいっぱいなのに、クッキーを食べたんです。食べている間だけ、嫌なイメージとか部員から言われたことを忘れられたんですね。
1枚食べたら、もう1枚となって、クッキーのファミリー用パック2袋と、菓子パンとかおせんべい3袋とか、大量のお菓子を食べたんです。
口開けたら出ちゃうんじゃないかというぐらいおなかに詰め込んで、はじめてトイレに行って吐きました。
何を言われても、家に帰って食べて吐けば、すっきりできるし、何を言われても、なかった事にして平気な振りをしていけると、そのときは思ったんです。
その日以降も、部活動もキャプテンも続けたんですが、他の人たちがやりたいようにやっているところに、ちょっと入れさせてもらうみたいな、影のような存在になりました。
部活行って、家帰ってご飯食べて、お菓子いっぱい食べて吐く、みたいなことを続けていました。
――それはつらかったですね。
自分がいっぱい頑張らないといけないみたいな自信のなさがすごくあって。
部活も、やるならめちゃめちゃ頑張らないといけないみたいな感じで、やりすぎちゃうところがありました。
部員から、いろいろ言われた日が最後の一滴だったと思います。
それまでにもコップの中に、みんなと一緒のことができないとか、自分は駄目だみたいな気持ちが、いっぱいたまっていて、最後の一滴であふれてしまった。
――それからも摂食障害が続いたんですか。
食べて吐くっていう時期が長くあって。
吐くのって結構大変なんですね。のどが焼ける感じがあったり、手に傷が残ったりするので。
しばらく吐かないで、ただいっぱい食べるっていう時期があったり。
中学校は食べ吐きをすれば過ごせると思って、なんとか卒業しました。
高校は、通っていたんですけど、高2か高3ぐらいで学校に通えなくなっちゃって。しばらく不登校の時期があって、でもこのままだと変われないと思って、受験して大学に行きました。
「私はもう動物以上に食欲がコントロールできない」
――小学校の教諭として20年間勤務されたそうですが、摂食障害は続いていたんですか。
波はあったんですが、仕事から帰ってきて、ほっとするといっぱい食べちゃう。
30代で一番やせたいって思った時期には食べ吐きをしていました。知人の先生から「拒食症になったの」なんて言われるぐらいげっそりしたときもありました。
一人暮らしをしていたんですけど、部屋の中に虫が出ないようにきっちり、きれいにしていたんです。
でも、一回食べ出すと、イノシシが畑を荒らしたのか、部屋に泥棒が入ったのかっていうぐらい、ごみや食べカスだらけでしっちゃかめっちゃかになってしまう。
親しい人へのお土産として買っておいたおせんべいまで、引っ張り出して食べちゃったり。
そのとき、「もうこれは駄目だ」「自分はもう人じゃなくて、何か動物みたいになっちゃった」って思ったのです。
動物だっておなかいっぱいだったらもう食べないのに、私はもう動物以上に食欲がコントロールできないって。
もう自分ひとりじゃ駄目なんだと思って、はじめて摂食障害の自助会に電話しました。
「私、いっぱい食べちゃうんです」って言ったら、電話の相手が「苦しいよね」「分かるよ」「私も一緒だよ」って言ってくれて、それを聞いて、同じ人がいるんだと思って、涙が出てきました。
今まで話した人は「いや、そんなの大したことないよ」としか言ってくれませんでしたから。
これが初めてつながった回復への道でした。
そうした場で、摂食障害が治った人にも出会って、私も治りたいと思ったんですね。
私がイノシシみたいに食べちゃうのは治らないかもしれない。でも治った人がいるなら私も治りたい。
そこで、「治るために、今、私はこんなことしています」みたいなことを、ブログに書きはじめたんですよ。
そうしたら摂食障害の当事者からメッセージが来るようになって、「うちの子もなんです」とお母さんからも相談が来るようになった。
そのとき、自分の体験しか知らなくて、「私はこういうふうなことをしたら楽になれた」ってことは言えたんですけど。
住んでいる場所も年齢も生活も違う方に対して、自分の経験だけでアドバイスしていると、「下手したら命に関わっちゃうかもしれない」と思いました。
これが心の病気だとするなら、それを治すための知識も身につけなきゃいけないって思って、40代から大学に行って、心理学を学んで公認心理師の資格を取りました。
ある時、1人で回転ずし店に入ったら、前は30皿を食べても満たされなかったのが、3皿でもうおなかいっぱいと心の底から感じることができたんですね。
自律神経の仕組みやマインドフルネスとかを勉強していて、もうわからなくなっていた空腹感や満腹感を取り戻すような練習をやっていたら、ある時、治っていたという感じでした。
こんなふうに食べられるんだったら、過食は止められるんだ。これを知りたい人はきっといるはずだと思って、今後の人生は食べることに悩んでいる方と関わりたいと思ったんです。
教員を退職してカウンセラーになりました。サポートはオンラインで行っています。
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