電気技術者が伊東のメガソーラー事業について少し見てみた
伊東市長が不信任決議を受け、伊東市議会を解散したことで、メガソーラーに関しても少々の関心を集めているようです。他の自治体に住む人にとっても、重要なことだと感じられるのかどうかまでは分かりません。
ただこの機会にメガソーラー事業や工事の進め方に関して、外部の人間が想像して、当のメガソーラーについて簡単に言及してみましょう。簡単と言うより、調査不十分で、それでいて6000字超もあって恐縮ですが。
もちろん、確実なことばかりを書いていくわけではなく、当該地に関する資料もあまりみておらず、推測・推量を多分に含みます。あらかじめご了承ください。
メガソーラーの基本計画
メガソーラーには必要な物資や技術がいくつかあります。それを簡単に書いておきましょう。
メガソーラーに必要な物資
まず物資的な面として。
土地、ただし、この後の文脈では地盤という意味をも含む
太陽電池モジュール
太陽電池モジュールを支える架台
逆変換器、あるいはパワーコンディショナー(以下PCS)
変圧器、そして電力の授受のための受変電機器
機器を置くための基礎
電力を運ぶための電線・ケーブルと、碍子・電柱などその支持物
メガソーラーを作る計画要素(電気的)
電気的な計画として。通常は電気技術者はこの部分を中心に考えます。複素数で計算をするのもここらです(簡易計算で加減乗除で済むけれど)。
送配電線は最重要です。外部電源でもあり、それはすなわち交流電力の同期をするための基準ともなり、何より発電電力を送る媒体ともなるので。それを、送配電事業者の設備の事情を踏まえて折り合いをつけるのです。
送配電線との接続、また送配電線の電気的条件
構内の受変電機器、PCSの配置と、それに基づく構内配線・構内電圧の選定、さらには電圧降下・電力損失の計算
PCSの選定とそれに合わせる変圧器の選定
計画段階での簡易積算、工事前の精密な積算
周辺の競合事業者の有無や事業規模などの想像
電気的な素案計画の取りまとめと、申込書作成を含む電力協議
メガソーラーを作る計画要素(基盤)
この項目は電気以外の土木などの技術者が見ることが建設業者としては標準的になるとは思うのですが、残念ながら太陽光発電含め再エネの業界は十分な技術・能力・資力・人員・配慮・倫理・教養(うん?)がある業者ばかりではないので、このあたりも状況次第では電気技術者も幾分関与せざるを得ません。
しかしこれこそが、現在のまた将来の周辺住民にとって重要な影響を及ぼす可能性がある要素なのです。
所在する地域の条例・規則などの法令その他の制限の調査
用途地域、農地、林地、自然公園地域、その他の地域的な指定の調査
消防当局への事前問い合わせ
埋蔵文化財地域の調査
地盤強度の把握、測量
大規模開発の場合は届出や許可
土地形質変更の計画作成、場合によっては土壌分析
災害その他の悪影響の想定、できれば伝承なども含めて
伊東メガソーラーパークの概要
伊東メガソーラーパークの基本情報
伊東メガソーラー事業について、私は詳しく存じませんが、経済産業省の公開情報と照らし合わせると、次の発電所だと推測します。この情報はあくまで事業者が申請書に書いたものを元にしています。
設備ID:AB38602C22
事業者名:伊豆メガソーラーパーク合同会社
発電設備の所在地:静岡県伊東市八幡野字郷堀1571
伊東メガソーラーパークについてのこれまでの経緯
これは報道を寄せ集めたものです。
もともとはシリコンバンクが計画を立てて、当時の設備認定を受けたらしいです。
その後の行政の動き。
note にも記事がいくつかあります。
news23 のものについては、テレビ番組を記録したという性格上、詳細までは書かれていませんが、市民の不安を簡略的に把握できます。書かれたのが2017年なので、伊東市美しい景観等と太陽光発電設備設置事業との調和に関する条例(以下、伊東市条例)は、当時まだ制定されていません。
すーださんの記事もまとめとしてはいいものです。ただし、法律や条例の制定などの記述に見られるように正確さに欠けるところがいくつか見受けられるので、市内の情勢として読むのが適当でしょう。
一応伊東市役所でもページを作っています。伊東市例規集も示しておきます。
裁判もあります。従来の河川法の裁判の判例とは趣旨の異なるせめぎ合いがあったようなので、解説記事として提示します。
伊東メガソーラーパークの計画に事業の進め方を合わせてみると
土地はあるけれど地盤として適当かどうか
確かに土地の広さはあるようですが、それは平面としてみた場合のことで、実際に建設に適しているかどうかは、起伏や地盤や土壌まで含めて考える必要があります。
国土地理院の地形図を見てみます。以下では受電地点近くを仮想しています。他の地図サービスも見比べてみるといいでしょう。
なお、利用に当たっては次のリーフレットをご覧の上、各自で申請などご判断ください。
https://www.gsi.go.jp/common/000223838.pdf
詳しくは土木や地理や画像処理に詳しい方々に解説を委ねたいですが、これは切土だけの造成ということは予想し難いです。ということは、切った土で谷を埋めることになりそうです。鴨川メガソーラーほどではないにしても。静岡県ということからは、残土搬入もありえたところですが。
ということで、地盤としては弱くなるものと想像します。それが限定的な沈下で収まるか(これはよくある)、発電所外部に及ぶ地滑り・土砂崩れに至るかどうか。
また広さからして、土壌汚染対策法の対象になりそうです。そして、自然由来の有害物質が現れる可能性も考えなければなりません。国立公園の区域が含まれているかどうかは、わかりません。
構内の電気設備に関しては不明
不明ですが、適切な機器選定と工事をすれば、大きな問題とはなりません。塩害対策をする必要はあります。
土地形状から見ても、高低差は大きく、地盤の耐力があるかどうかは問題ですが、それ以外は思いつくものはありません。よからぬ機器を選定し、または不適な工事をした場合に受信障害を起こす可能性はありますが、現時点での評価はできません。
送電線との接続は比較的容易
計画地内、あるいは計画地至近となるところに、66kV送電線があります。電圧階級としてはおそらく問題ないので、これと接続する計画になっていると想像します。154kVを選択しても、さほど有利にはなりませんから。
送電線は電気的にはまずまずのはず、競合業者で情勢変化
メガソーラー計画で早々に問題となるのが、送配電事業者が保有する送配電線の空き容量です。これは電線の太さや種類、あるいは上位変電所の構成にもよるので一概には言えませんが、2012年当時の東京電力の基準で、66kVの電圧階級で、最も細い電線では500A前後が熱的容量の限度となっており、これが送電線運用容量でよくみられる57MWに相当するものでしょう。
で、伊東メガソーラーパークの計画では発電出力50MW、日経の報道ベースでは40MWとなっていることから、住宅含め、より早く動いた競合に押されていた可能性もあります。現に八幡野地区にもいくつか太陽光発電所・発電設備があります。
で、高圧そして特別高圧になると複素数の虚数部X分の方の影響が大きくなってくる(むしろ実数部R分の影響が小さくなる)のですが、ここについては変電所は遠くなく(といっても峠越えあり)、送電線の長さもそこそこなので、極端な制約にまではならなさそうです。
なお、この項では旧東京電力および現東京電力パワーグリッドの資料は参照しましたが、リンクは省略しました。リンク許可制なので。
送電線容量が足りない場合には電線引き替え、これは大変
伊東メガソーラーパークが、送電線の引き替えまで含めて東京電力に接続検討を申し込んだかどうかは、私は知りません。この規模では費用支出してでも引き替えを容認する検討を申し込んだと見るのが相当でしょう。ただし、繰り返しになりますが、今の状況は不明です。空き容量の資料からは、現時点で伊東メガソーラーパークが容量を(少し減らして)押さえてあるように推測します。
引き替えを選んだ場合、発電事業者が何年と待てるかどうか。また東京電力パワーグリッドはかなりの工事を強いられます。送電線をより太いものに引き替えることになります。だけなら簡単そうに思えますが、支持物の強度も増やさなければならないので、鉄塔も建て替えることが通例です。数キロメートルに亘って、何十本と、山の中を。日本円で billion を軽く超えますね。それでも送電線新設よりは安いかと想像します。
そして、送電線の経路、大室山の南側から西側になりますが、別荘地があります。さすがに送電線直下となると多くの住宅が避けているようですが、それでも建物がいくつかあります。これら近隣住民の理解は得られるでしょうか。
電線って結構太くて固いのですよ。太ければ、イメージとして綱を金属製にしたようなものなので。そんなのがもし暴れたら、家屋損壊になるかもしれません。何より引き替え工事では電工さんは空中・地上のそれぞれで危険と隣り合わせで作業することになります。
東京電力から東京電力パワーグリッドは何十回の会議を事前にしなければならなくなるでしょうか。しかも、こちらは国立公園の特別地域にもかかります。各方面との会議・折衝だけで億に達する潜在的な費用がかかるでしょう。
今となっては上位系統の制約があるので、伊豆半島内で"しばらくは"できることも限られてきますが。
搬入経路はあるのかどうか
いくつかの地図サービスの航空写真から見た限りでは、工事の進捗は一部にとどまっているだけに見えます。準備工事を含めてこれからのようですが、物資の搬入はこれからなのでしょう。
特に問題になるのが、変圧器です。66kVの50MVA主変圧器として数十トン、地図だけ見ても運べるのかどうかと。20MVAが3台でもどうでしょう。さらに小容量ですが、おそらく10数台の変圧器を必要とします。
道路は狭く急な坂があり、市内の橋が頑丈に作られている根拠は地図からだけだと見出せません。新しく道路や橋を作ることもあり得ますが、土砂が流出しますね。河川占用のやりとりはここと関わっているのかもしれません。
蛇足ですが、接地抵抗
これは大きな問題ではないですが、一応当該発電所の特性を想像したものです。
火山性の地質の山地ともなれば、接地抵抗が高いことが予想されます。現場レベルでの話になりますが、工事を進める際には少々の問題は発生するでしょう。落雷時の異常電圧にまで影響が及ぶとまでは言い難いですが。
外部から伊東メガソーラーパークへの反対運動の問題点を眺めてみると
住民の思惑が異なることは容易に想像できる
すーださんが書いているように伊東市は別荘地が広がります。別荘として一時的に、または通年居住の邸宅の中で安穏と暮らせているならば、メガソーラーがどうのこうのという問題に関心を寄せる人は少ないはずです。
もっとも、土砂災害の危険性、送電線の引き替えあるいは鉄塔の建て替えの可能性と、八幡野地区においては無関心でいられません。伊東市の他の地域がどう関心を寄せるでしょうか。
そしてメガソーラーへ反対の意向をもつ方々の中でも、電気のみならず、地域環境への関心や知識の違いはさまざまなはずで、意見の集約をするのは簡単ではないことでしょう。
条例が弱い
伊東市条例はメガソーラーに対する抑制とはなっていますが、その手段は限られており、心許ないように見えます。
伊東市条例が措置し、または事業者に要求するのは、次に限られます。
第7条による抑制地域の指定
第9条による説明会の実施の要求
第10条による届出の要求
第11条による市長同意
地域の指定など詳しいことは別に定めた条例施行規則による
しかし、次のことは含められていません。
再エネ特措法第2条による定義以外の発電設備
説明会終了後の住民の意見の反映
発電所の個別の適否に関する市の審査の仕組み
事業が他人に引き継がれた場合の対抗措置
条例に違反した事業者への強制措置
再エネ特措法第2条による発電設備であっても、除外される設備が多いこともまた、問題です。八幡野地区には低圧分割と思しき発電設備もあるのに。
もちろん、既存の法令の土地規制を準用するという形で、条例の施行規則では相当に規制を盛り込んでいるのですが、それら土地規制に該当しない場所にまでは追いついていません。行政手続法との整合性は図られているようなので、形式的に条例を早く作ることを優先したものと考えられます。
法的な解決の方向もそれぞれ
論点が固まらないことには法的解決の方向性をも左右することになります。民事事件とするのか、行政の不法または不当な行為として扱うのか、立法措置を起こすのかが分かれてきます。これまでの動きは、逆に法的な抑止のために、論点を後付けしているようにも見えます。再エネ特措法が強すぎる(電気以外の考慮が乏しい)が故のやむなき手段なのかもしれません。
伊東メガソーラーパークに対しては、静岡県での行政許認可では抑制とはならず、伊東市での条例立法の措置、住民グループによる民事訴訟および行政訴訟となっているようです。
原告団に土木的な観点からの参加者はいるのですかね。
訴訟については、訴えの利益が問われる
そして、訴訟についての要件として見逃せないのが、訴えの利益の有無。訴えの利益を明確にできないと、原告としての適格を認められないことが基本です。特に行政訴訟にあっては。
では、裁判所に認められる訴えの利益を何に置くか、これが訴訟においての基本戦略となります。
上で見てきたところでは、電気的な事項で太陽光発電に反対する論拠は見出しにくいです。やはり災害防止や地域環境の保全を理由にして訴えの利益とすることが適当なのですが、それには土木や気象の技術的知見を応用して、当該地域で何が起こるかを具体的に予見して、裁判の場で説明できなければならないでしょう。これまでの行政訴訟ではそこまで及ばなかったのではないでしょうか。
なお熱海市伊豆山土石流災害が2021年7月にあり、それによる反省から法令が改正されたのがその後、しかも現時点ではその災害に関連する裁判が未だ終結していません。当然伊東市メガソーラーパークに関する司法判断にはその災害からの反映はなされていません。
おわりに、次の選挙は大勢を変化させそうにない
伊東市議会の解散を受けて議員または会派の構成に変化は生じる可能性はありますが、側から見た限り、大きく変化するとも思えません。選挙で土木の知見が問われるわけでもありません。すでに盛土規制の法令・条例が国と県との段階で改正として制定されています。
もしメガソーラーを抑制するのならば、伊東市条例もまた改正して、より緻密な規制とすることです。議会の会派の構成が少々変化したところで、改正はできるでしょう。ただ、条例は地方自治法の制約を受けるので、条例単独では行政上の強制執行は導入できません。ならば再エネ特措法の改正(以下略)。
全国的に見ると、盛土または廃棄物の埋立地を太陽光発電所として使っているところはあります。少しづつ、漸進的ではあれ、伊東市での動きも他の自治体へ影響を及ぼしていくことでしょう。
やはり太陽光発電に関連した具体的な土木分野の研究が進むことが、不適正な発電所の排除に役立つものと考えられますし、それが法令や条例に反映されることが望ましいです。


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