2026年1月1日から、フランスに長く住む外国人に向けて 「市民試験(Examen civique)」 が新しく必須になりました。対象になるのは帰化(Naturalisation)だけではありません。一定条件を満たした人が申請できる複数年の滞在許可(Carte de séjour pluriannuelle)や、より安定した10年カード(Carte de résident)にも影響します。
フランスの価値観・制度・権利義務を「試験で確認」される時代になるということです。さらに申請の前に合格証明が必要になるため、準備が遅れると手続きが止まる可能性があります。とくに複数年カードや10年カードを新規で取りたい人は、今のうちに流れを知っておくと安心です。フランス語が不安な人も、出題の軸を押さえれば対策はできます。この記事では、法律の概要、対象者、試験の仕組みや内容などをお伝えします。
※本記事は、フランス政府公式サイトの制度概要をもとに、整理しています。 制度の原文概要は Service-public(フランス政府公式) で確認できます。
目次
2026年から何が変わった?まず全体像
今回の制度変更の核心は、フランスに長く住む人としての「基本」を、試験という形で確認する点にあります。
これまでは、複数年カードや10年カードなどの手続きにおいて、主に書類や条件をもとに評価が行われてきました。しかし今後は、長期滞在や定住に関わる一定の申請において、市民試験に合格したことを示す合格証明の提出が求められます。
この市民試験 (examen civique) は、2024年1月26日に制定された移民関連法に基づいて新設されました。この法律では、フランスに長期的に居住する外国人について、共和国の原則や価値観や、社会の仕組みを理解しているかを確認する方針が示されています。
その結果、手続きの流れも変わります。今後は、申請の前に研修と試験を終えていることが前提となり、条件がそろっていても、試験に合格しないと申請が進まない仕組みになります。
- 🧭 制度の方向性:長期滞在・定住を希望する人に対し、市民としての基本理解を確認
- 📌 実務上の変化:2026年1月1日から申請前に市民試験の合格が必要
- 🔑 影響を受ける人:複数年カード/10年カード/帰化を新規で申請する人
この制度は、短期滞在者や観光客向けのものではありません。フランスで生活の基盤を築き、長く暮らすことを前提とする人を対象とした仕組みです。
市民試験は誰が対象?対象外?
2026年1月1日以降、市民試験の要否は、フランスで暮らすのに滞在許可証が必要な国の人かどうか、そして手続きが新規か更新かで判断されます。
※ この滞在許可制度は、CESEDA(フランスの外国人入国・滞在を定めた法律)に基づいています。
具体的には、次のような「新規での申請」に当たる場合が、市民試験の対象になります。
- ✅ フランス国籍の申請(帰化): フランス国籍を新たに申請する人 (naturalisation)
- ✅ 複数年の滞在許可を初めて取る場合: 数年有効の滞在カードを 初めて申請する人 (carte de séjour pluriannuelle)
- ✅ 10年の滞在許可を初めて取る場合: 10年間有効の滞在カードを 新規で申請する人 (carte de résident)
一方、同じ種類のカードをそのまま更新するだけであれば、市民試験は求められません。
- 🚫 複数年カードの更新
- 🚫 10年カードの更新
- 🚫 国際的保護の受益者: 難民などの保護ステータスに基づく場合
「更新」のつもりでも、カードの種類を変えると新規扱いになることがあります。今の滞在許可の種類と、次に申請する種類が同じかどうかを、必ず確認してください。
口頭試験ではない:選択式テストと合格ライン
市民試験 (examen civique) は、面接官と話す口頭試験ではありません。指定された試験会場に行き、画面に表示される質問を読み、選択肢の中から答えを選ぶ試験(フランス語で questionnaire à choix multiples、略して QCM )です。
申し込みや会場の案内は、内務省が指定した機関を通じて行われます。
- 🏢 パリ商工会議所(CCI Paris / CCIP):複数年カード・10年カード向け試験の実施機関
- 🏛️ France Éducation International(FEI):今後、順次試験センターと申込方法を案内
制限時間は最大45分、問題数は40問、32問以上正解で、合格となります。
- 🕒 形式:画面を使った試験(デジタル方式)
- 📝 出題:40問(知識問題28問+状況判断12問)
- 🎯 合格基準:32問以上正解(80%)
- ✅ 解答方法:4つの選択肢から正しい答えを1つ選ぶ
ここで重要なのが、状況判断の問題です。これは暗記だけでは対応しにくく、文章を読んでフランスのルールとして適切な行動を選ばせる問題です。職場、学校、行政手続きなど、実際の生活場面が想定されます。
つまりこの試験は、知識があるかどうかだけでなく、実際の場面で正しく判断できるかも見ています。そのため、公式資料の言い回しに慣れておくことが、得点につながります。
出題は5分野:公式資料がそのまま範囲
試験対策の中心になるのは、内務省が公開している分野別の公式資料 です。この資料に書かれている内容が、そのまま試験範囲の基準になります。
出題は、大きく次の5分野から行われます。共和国の原則、政治と制度の仕組み、権利と義務、歴史・地理・文化と社会生活です。
- 🏛️ 共和国の原則(Principes et valeurs de la République)
- 🗳️ 政治・制度の仕組み(Système institutionnel et politique)
- ⚖️ 権利と義務(Droits et devoirs)
- 🗺️ 歴史・地理・文化(Histoire, géographie et culture)
- 👨👩👧👦 フランス社会での生活(Vivre dans la société française)
さらに、出題される知識問題の公式リストもすでに公開されています。これは、実際に出題され得る質問の一覧です。
必要な範囲を事前に把握できるため、対策として必ず確認しておきたい資料です。
日本人にとって特に分かりにくいのが、政教分離の原則です(laïcité)。これは宗教を否定する考え方ではなく、国や公的機関が特定の宗教に肩入れしないというルールを意味します。
また、政治や制度の分野では、細かい年号や専門知識よりも、フランスの基本的な仕組みを理解しているかが問われます。誰が法律を作るのか、国の権限がどう分かれているのか、といった大枠を押さえることが重要です。
市民研修24時間と「いつ受けるか」
市民試験(examen civique)は、市民研修(formation civique)と並行して位置づけられています。2026年以降は、滞在許可や帰化の申請前に、市民研修と市民試験をそれぞれ済ませておくことが求められます。
市民研修は、合計24時間で構成され、4日間に分けて実施されます。
研修は、1日9時から17時まで行われ、昼休憩は1時間設けられています。4日間は連続である必要はなく、最長4か月まで分割して受講することができます。
研修の実施場所や日程は、OFII(移民・統合局)から送付される招集通知で案内されます。研修の受講費用は無料です。また、フランス語に不安がある人のために、研修中は通訳が配置されます。
研修修了後には、 出席と受講を証明する書類 (attestation de sérieux et d’assiduité)が発行されます。 これはCIR(共和的統合契約)に基づく研修を受講したことの証明です。
一方、市民試験に合格した場合には、別途 市民試験の合格証明 (attestation de réussite)が発行され、複数年の滞在許可(CSP)や10年カード(CR)を取得するために、2026年1月1日以降は必須となります。
この市民試験の合格証明は有効期限がなく、 試験はいつでも、必要な回数だけ受験することが可能なため、万が一不合格になっても、再受験できます。
この変更により、研修と試験の予定を事前に把握し、計画的に進めることが重要になります。仕事や家庭の予定がある人ほど、早めの準備が現実的です。
フランス語が不安な人の現実的な対策
市民試験はすべてフランス語で行われます。そのため「フランス語ができないと無理なのでは?」と不安になるかもしれませんが、丸暗記だけでは厳しいものの、対策次第で合格ラインに届く試験です。
実際には、問題文や選択肢が読めないと当てずっぽうになってしまいます。特に状況判断の問題は、単語を知っているだけでは問題の意味を正しく理解できません。
そこで有効なのが、次の4つの対策です。公式資料を少しずつ読む、同じ言い回しに慣れる、短い日本語に置き換えて理解する、生活に直結する語彙を増やすことです。
- 📘 公式資料を毎日少しずつ読む (分野別の公式資料/Fiches par thématique)
- 🧠 よく出る基本語を押さえる 例:政教分離(laïcité)、義務(devoir)、責任・義務(obligation)、平等(égalité)
- 🗣️ 長い文章を短く言い換える練習 難しいフランス語を、日本語に訳して理解する
- 🧩 生活場面を想定した問題に慣れる 学校・仕事・行政手続きなどの場面 (状況判断問題/mise en situation)
この試験は80%で合格です。100点を目指すより、よく出る軸を落とさない方が現実的です。読むスピードに不安がある人は、時間を意識して問題を読む練習もしておくと安心です。
申請前チェックリスト:落とし穴を回避
制度が変わると、つまずきやすい点も変わります。申請の前に整理しておくことが重要です。
確認すべきは、今の滞在許可の種類、次に申請する内容、試験が必要かどうか、研修の予定を確保できるかの4点です。
- ✅ 今の滞在許可の種類 (1年の滞在カード/複数年の滞在カード/10年の滞在カード)
- ✅ 次に申請する内容 (複数年カード/10年カード/フランス国籍の申請〔帰化〕)
- ✅ 手続きが「更新」か「新規」か ※ ここで市民試験の要否が分かれる
- ✅ 研修と試験の準備ができているか (市民研修24時間〔4日間〕+公式資料を確認)
また、家族構成や働き方が変わる予定がある人は、申請を後回しにするより、条件が整っている時点で進めた方がスムーズな場合もあります。人によって事情は違いますが、共通して言えるのは、準備不足が一番のリスクになりやすいという点です。
まとめ
2026年1月1日から、EU国籍以外の人がフランスの長期滞在や、帰化をめぐる手続きに市民試験(examen civique)が加わり、申請の前に合格証明が必要となります。試験は口頭ではなく選択式で、5分野から出題されます。
一方で「更新だけ」の人は対象外とされているため、まずは自分の手続きが更新なのか新規なのかを確認することが最初の一歩です。
フランス語に不安があっても、公式資料や公式質問で表現に慣れ、生活場面の語彙を押さえれば現実的に対策できます。制度変更の年は、早めに準備して「申請できない」事態を避けましょう。