え!?ウチの槍弓付き合ってないってマ!?〖バーチャル槍弓プチ〗
タイトル通りぐだ子ちゃんが大暴走しているので、理想のマスター像がある方は読まないことを推奨します。槍弓はくっついてない。マスター名は藤丸立香です。
後半未推敲なので誤字脱字等あったらすみません(汗
すみません需要がわからないんでアンケート置かせてください部数目安の…(スパーク落としてもいつかは出します)10/13スパーク 西2マ41a 箱庭 です
イベント中止ですが、13日になったらBOOTHでエア新刊形式縦書きダウンロード(無配)出すので紙っぽいのがいい方はぜひ!→エア新刊風できました(https://hakoheiya.booth.pm/items/1610904)
次回イベントは春コミ予定です。こちらの作品の完全版出せるよう頑張ります
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それはある日のこと。食堂で昼食をとっている時のことだった。立香はマシュと共にサンドイッチを頬張りながら厨房の主を見つめていた。
「どうしました先輩?」
「いや……」
この時間は食堂に訪れる者もいれば、忙しいからと仕事場に引き籠る者も多い。立香も本腰を入れて素材狩りに行く日などは弁当を渡される。そんな事情も相まってか、昼食は手軽に食べられるものや持ち運びしやすいものを、というのがカルデアキッチンの、特にチーフの方針だ。
チーフことアーチャー、エミヤはカルデアでも最古参のサーヴァントだった。戦闘でも森のドルイドと共にマスターを導いてくれたが、何よりも彼が活躍したのは。多くの人を失い、機能を低下させていたカルデアのライフラインを回復させた。これがアーチャーの一番の功績でもある。
戦闘よりと言えばアーチャーは憤慨するかもしれないが、それくらいに、あの状況は酷かった。
慢性的なスタッフ不足に加えて機材が大破。カルデアはレイシフトプログラムを優先せざるを得ない状態で、リソースの大部分をそこに割いていた。日々を生き抜くのが精一杯で、人間的な生活は二の次。ロマニもダ・ヴィンチも尽力はしてくれたが、お世辞にも生活面で頼りになる生き方をしてきてはいない二人だ。衣食住が荒れていくのは止められなかった。
それを見ていられない、と積極的にカルデアの生活改善を行ったのがアーチャーだったわけだ。炊事洗濯機械修理まで何でもござれの家政婦サーヴァントは瞬く間にカルデアの状態を元に、まで行かずとも充分な安息の場となるまでに戻したのだった。
自分の身を顧みず人に尽くす傾向にあるアーチャーはちょくちょく倒れかけたが、その度に『何度か聖杯戦争で出会ったからコイツの限界はよく知っている』とランサーことクー・フーリンが回収するということが続き。自然とランサーがアーチャー係になった。
アーチャーはかなり嫌がっていたのだが、無理をしなければランサーの世話になることもないと立香が諭せば渋々納得したようだった。案の定、その後もアーチャーは度々倒れかけ、ランサーに回収されていたのだが。
無理は駄目って言ったよね、今は他にもブーティカやキャットもいるんだからと立香が嗜めても繰り返すアーチャーに頭を抱えていた頃、ランサーが言ったのだ。
「アレは死んでも治らないってヤツだからなぁ」
厨房でせっせと仕込みをするアーチャーを見ながら、溜息を吐いて、困ったように笑って。その瞬間立香は思い至ったのだ。
(あ、この二人デキてるのか)
と。立香は素直で純粋な少女だった。アーチャーにもランサーにも幸せになってほしかった。二人を応援しようと奔走するのだが。
立香は失念していたのである。本人たちに付き合っているのか確認するのを……。
「とまあ立香さんは長めの回想をしていたんですが」
二皿目のサンドイッチを口に運びながら立香が言う。相変わらず視線は厨房の主に向いたままだ。
「こんなに美味しいサンドイッチを作れるエミヤが幸せになれる世界を作りたいしその為には槍ニキとラブラブになってほしいわけですよむしろ私はその為に人理を修復しているといっても過言ではない」
「先輩、落ち着きましょう!目に光がありません!」
マシュが心配そうに水を渡す。長めの回想中も立香の目は瞬きすらせず開かれっぱなしだった上、その後発した台詞がこれでは心配にもなる。立香は受け取った水を一気に飲み干すとダァン!と机に叩きつけた。
「だって!槍ニキとエミヤが付き合ってないなんて!私は聞いてなかったんだもん!」
「そこ!五月蠅いぞ!」
酔っぱらいさながらに管を巻く立香に、厨房から怒声が飛ぶ。声の主は言わずもがな、アーチャーである。
幾ら人が少ない時間帯とはいえ、無人ではない。食堂の真ん中でさめざめと泣く(半ば叫んでいる)人類最後のマスターが注目を集めない筈もなく。刺さるような視線にアーチャーがこめかみを押さえた。
「……そうやって被害者のように振舞うのは如何なものかと思うのだがね、マスター」
最たる被害者は私の方なのだが、と食後の紅茶を差し出しながら言うアーチャーは苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。あらぬ噂で話題にされたくはないのだろう。頼むから落ち着いてくれないか、と出された紅茶は絶品だった。
立香が一気飲みするのを見越していたのか、常よりぬるめに淹れられた紅茶が一瞬で干されていく。火傷せずに済んだことを安堵しつつも、行儀が悪いと嗜めるアーチャーに向かってティーカップを突き付けながら、立香は涙目で訴えた。
「私は!わたしはぁ~~!」
「泣きながらカップを振り回すのはやめてくれ……」
ほとほと困ったアーチャー、ティーカップと共に暴れ回る立香、二人の周りでオロオロするマシュ。混沌としか言いようのないその場に現れたのは。
「なんだぁこの騒ぎは?」
「げ……」
アーチャーの顔が思いきり引き攣る。それもその筈。今この場において来てはいけない男が来てしまったからだ。
「槍ニキっ!」
がばっとランサーに突進する立香を難なく受け止めたランサーはアーチャーに目配せした。
どうしたんだこの状況?と。
(今こちらを向くな……)
アーチャーはそっと首を横に振る。初めこそ訝し気にしていたランサーだったが、大体の事情を察したのか乾いた笑みを浮かべ始めた。
「ほらぁまた二人でアイコンタクトしてるうぅう!」
興奮だか混乱だかもうわけが分からなくなっている立香がランサーの胸元をポカポカ叩きながら叫ぶ。
「ちげぇよ!これはそういうアレじゃねぇ!」
「じゃあなんなのさ!」
立香に泣き付かれたランサーがうぐ、と言葉に詰まった。何かと問われれば長年顔を合わせ続けた結果なのだが、今それを言うと却って誤解されそうなのでやめておいた。
「君があちこちで騒ぎ立てているのは我々も知っているからな。この男も事情を察したのだろうよ」
代わりにアーチャーが答えた。マシュにティーセットを渡しながらそろそろミーティングの時間だろうと促す。ロマニの好きな和菓子も盛られたそれに、マシュが時間です先輩と背中を押す。渋々ではあったが漸く立香も動き出し食堂はいつもの静けさを取り戻した。
「行ったか……」
これで一息付けるな、とアーチャーが溜息を吐いた。
「嬢ちゃんも懲りねえなあ」
ランサーがボリボリと頭を掻く。何をどう考えたらオレとお前がデキてることになるんだ?と心底不思議そうに言った。
「皆目見当もつかん。私と貴様が友好的に振舞ったことがあったか?」
「むしろ殺り合ってることのが多いぜ、ったく。とにかく飯食いにきたんだ、今日の当番はお前か?」
キッチンの目の前、カウンターというよりも配膳目的で作られた小スペースにランサーがドカリと腰掛けた。忙しい時間帯はそこに座るとアーチャーは怒るのだが、今はサーヴァントか夕食までの繋ぎを欲しがる食いしん坊職員しか現れない。まあいいだろうとアーチャーは目を瞑る。基本的にサーヴァントが食事をとるのは人間の職員があらかた食べ終わってから、というのが暗黙のルールだった。
「ああ。サンドイッチだ。少々物足りないかもしれんが」
「魔力リソースつっても娯楽みたいなもんだしな。オレは構わねえ」
話しながらも手際よく動かされる手によってランサーの皿にサンドイッチが盛られていく。立香やマシュの分より幾分か多いそれはランサーの食べる量を既に把握しているからだろう。本来サーヴァントに食事は必要ないが、カルデアにおいては魔力源としての役割も果たしている。基本的には電力を変換して賄っているのだが、それだけでは足りないからと食事での補給を推奨されている。特に魔力喰いのサーヴァントは食事と睡眠が必須だ。
ランサーはどちらかと言えば燃費がいい方だが、常日頃から素材集めや何やらで駆り出される上に用がなくともシュミレーターで戦闘をするものだから、今ではすっかりよく食べよく飲みよく眠る健康優良サーヴァントと化していた。人が集まる食堂は嫌って寄り付かないサーヴァントも多いが(彼のオルタなどもその一人である)ランサーはむしろ毎日欠かさず訪れている。長期間カルデアを離れている時以外は、ほぼ毎日。
そしてカルデアキッチンのチーフたるアーチャーも基本毎日どこかしらの時間帯で厨房に顔を出している。厨房を担当できるサーヴァントが増え当番制となった今でもアーチャーの出番は多い。というか本人がギリギリまでシフトを詰めこむので周りが何とか追い返したりシフトを削ったりと日々攻防戦が行われていたりもする。
そんな形で毎日顔を突き合わせていれば、犬猿の仲と言えど多少は態度も軟化するわけで。ついでに勝手知ったる仲だろうと過労気味のアーチャー連行係に任命されたり、女性サーヴァントには頼みにくい夜中に酒の肴を作って貰ったり。なんだかんだと上手くやっていた。
……つまりは、上手くやりすぎて気付いたらうっかりコンビ扱いになっていた、というのが正しい所である。
大抵どちらかに聞けばもう一方の居場所がわかるくらいになっていたのだから仕方のないことだが、まさかそれが原因でマスターに恋人同士だと勘違いされる日が来ようとは二人とも思っていなかった。
「マスターには勘違いだと散々言っている。その内理解すれば忘れるだろうさ」
「多分な。お、ツナうめぇ」
皿に山盛りになっていたサンドイッチはみるみるうちにランサーの腹に消えていき。手を伸ばした瞬間手元に置かれた日本茶にやっぱお前わかってるわ~とランサーは上機嫌だった。
「嫁にはナイけど料理だけなら毎日食っても飽きねぇわ」
「下らん世辞はやめろ。褒めてもそれ以上餌はやらんぞ」
「あ?犬扱いすんなテメェ」
そんなやり取りはアーチャーが昼の皿を片付け、夕食の仕込みに来たタマモキャットに痴話喧嘩は余所でやるんだワンと厨房を追い出されるまで続き。結局二人して廊下でギャンギャンやっていた所をダ・ヴィンチに見つかり二人して戦闘シュミレーターに放り込まれたわけである。
見渡す限りの荒野に降り立った二人は嬉々として得物を構える。そこに大音量で入るダ・ヴィンチからのマイク。
「君たちは暫くそこで頭を冷やすように~!あと、そうやって所構わずじゃれ合っているから立香ちゃんが思い込むんだからね~!そこら辺も含めて反省するように!」
ブツン、と途絶える通信。静寂が広がる中でポツンと立つ二人の英霊は。
「「……は?」」
それはそれは間抜けな顔をしていた。
簡単な話だ。立香は先程ミーティングに行く為厨房を離れた。彼女がマシュを伴いカルデアのマスターとしてミーティングする場所にダ・ヴィンチが同席しない筈がない。
つまり、ダ・ヴィンチがミーティングを終えて部屋から出てきたのなら、近くに立香も当然いたのだ。
やらかした、と天を仰ぐ英霊二人。彼らは暫し無言の後互いの顔を見つめ合い。
「……これは、本気で対策を考えないと拙いな……」
と、二人して頭を抱えたのであった。
一方立香は二人の付き合っていないという言葉を信じたものの。毎日のように見せつけられるやり取りにある別の感情を抱き始めていた。曰く
「これで二人が付き合ってないっておかしくない!?」
とのことだ。恋愛に疎い立香にだってわかる。あれはお互い嫌いと言いつつ力量を認め合い毎回同じ場所に召喚され運命を感じ得意な物を褒め合い仲が悪いと言いつつ実は気付いてないけどめっちゃ仲がいい奴だと。ファッション仲が悪いだと。
「ファッション仲が悪い」
「うんそうファッション。どう考えてもファッション。おっきーはどう思うそこん所」
「引き籠ってた姫の部屋に押し入った理由がこれー!?」
「だっておっきーはBLのパイオニアだから……」
「パイオニアじゃないし生モノは専門外!」
とまあおっきーこと刑部姫の自室に押し入り炬燵を占拠し持論を述べていた。刑部姫の精神安静上割愛するが、立香は延々と今までの二人のやり取り、それに対する自分の感想を言い続けていたのだ。時には机をバンバンと叩き、時には床をゴロンゴロンとのたうち回りながら。
「ねえマーちゃん、姫が言うのもアレだけど今のマーちゃん完全に拗らせたオタクになってるよ……?」
人類最後のマスターが屈強な男同士のカップリング(暫定)に悶え転げているこの状況は如何したものか。
(ん~姫はどちらかというと細身美形男子の方が好みなんだけど……)
そんなに悩む(転がる)くらいならサバフェス用に新刊でも書く?と刑部姫が口を開きかけた所で、立香がむくりと起き上がる。
「……決めた。私、頑張る」
嫌な予感に刑部姫が止める間もなく、立香は高らかに宣言した。
「私、藤丸立香は!持てる全ての力を持って!二人の仲を応援します!」
右手に光る令呪を掲げ宣言する姿は一見頼もしくもあるが、それを人はこう呼ぶのである。
「マーちゃんそれは実力行使って言うんだよ!?」
刑部姫の止める声も聞かず(彼女は引き籠りな上明らかな面倒ごとにわざわざ首を突っ込むまいと部屋からは出てこなかった)部屋を飛び出した立香はパタパタと廊下を走る。丁度角まで来た所で、誰かの胸にぶつかった。
「うぉっマスター?どうしたんですそんなに慌てて」
「ロビン~それがね……」
かくかくしかじかここれこれうまうま。そんな感じで今までの暴走記録を告げた立香にロビンが口端を引きつらせる。端的に言えば絶対に関わりたくない案件である。
ランサー程ではないが、同クラス同系統既知の仲ということでロビンフッドもアーチャーと行動を共にすることはある。当然ランサーとアーチャーのやり取りも見たことがあるので、立香が何を言わんとしているかも大体わかったのだ。
(まあ外野から見りゃ夫婦喧嘩にも見えますし……)
本人は否定しているが世話焼き、お節介、お人好し属性の赤いアーチャーは数多の女性を差し置いて『オカン』とまで呼ばれる男だ。気障で皮肉屋な振舞いをするアーチャーだが、腐れ縁のランサーの前ではその仮面が剥がれやすいのもまた事実。仲が悪いようでいて互いを熟知した掛け合い、そしてタイミングよく提供される熱いお茶。
まさしく熟年夫婦のそれである。
多感な年頃のマスターが何か思うのも無理はない。ロビンフッドからすれば迷惑以外の何物でもないが。
「アイツらだったら放っておいてもその内適当なとこに収まりますって。だから令呪の無駄使いはしなさんな」
一日一画回復する簡易的な令呪とて、上手く使えばそれなりに効果はあるものだ。持続性や強制力は低いが、簡単かつ明確な指示であれば効果を発揮する。それ以前に単純な魔力として宝具解放やサーヴァント治癒に使ったりもするのだから乱用は避けたい。
「そう……だよね。無理強いはよくないよね……」
「気になっちまうのはわかるんで……っと、噂をすれば」
足早に歩くアーチャーと一歩後ろで追いかけるランサーの姿があった。それだけなら偶に見かける光景だが。
(おんや……?)
様子がおかしい。単に雰囲気が悪いなら喧嘩しただけかもしれないが、一方的に怒るアーチャーに追い縋るランサーという構図は初めて見た。今までランサーがアーチャーを怒らせることは多々あったが、へらへらと笑っているか売り言葉に買い言葉で同等の怒りを見せるかのどちらかだったのに。
「貴様の妄言は聞き飽きた。暫く私の前に顔を見せるな」
「はぁ!?おい待てアーチャー!」
ランサーの鼻先にびしりと人差し指を突き付けたアーチャーはスタスタと歩いて行ってしまった。残されたランサーはメシ抜きかよ……などと呟いているが、問題は絶対にそこではない。
「何があったの?」
「マスターが気にするほどのことでもねぇよ」
そう言うランサーの視線はいなくなったアーチャーを追っていて。いつもならスパッとした割り切りの良さが売りの男にしては、未練がありそうな顔だった。
「ちゃんと話して、クー・フーリン」
立香が俗称ではなく真名で相手を呼ぶときは、真剣な時だ。ハッキリとした声音と意志の宿った瞳からも立香が本気であることは感じ取れた。
……尤も、話してくれなきゃ使うぞと掲げられた令呪のせいで色々と台無しな気もするのだが。
「わかったよ。だがまあこんなトコでする話でもないんでな。あー……ちとお前の部屋貸してくれや」
「や、自分の部屋使ってくださいよ」
とばっちりは御免ですとロビンフッドは言うが、ランサーもまたこればかりはと頼み込む。
「オレの部屋だとキャスターの野郎がな……」
ついでに言えばランサーの部屋はカルデアでも数少ない大部屋で、クー・フーリンズ四人が纏めて放り込まれている。年上にちょっかいを出すと倍になって返ってくるプロトと面倒臭がるオルタは首を突っ込んで来ないだろうが、キャスターは導く者の務めだなどと言って冷やかしてくるに違いない。ようは面白がっているのだ。
「オレも一人部屋じゃ……ってああ、この時間は」
「メシ食いに行ってるだろ?」
「よくご存じで」
そろそろサーヴァントが食堂に行き始める時間だ。ロビンフッドと同室のビリーも食事を楽しみにするサーヴァントの一人である。
「お願い!ロビン!」
「……言っとくけど、今回だけですよ」
着々と面倒事に巻き込まれているのを感じながらもロビンフッドは頷いた。主にマスターの為である。
その横で立香があ、私ご飯食べ損ねた~!と嘆いていたのだが、そちらは我慢してもらうより他ない。
(後で何か拝借するかね)
こちらの青いランサーならいざ知らず、自分が行く分には赤いアーチャーも文句は言わないだろう。ロビンフッドはマスターを宥めつつ自分の部屋を会議室として開放するのであった。
予想通りビリーは出払っていたので部屋には三人きりだった。ロビンフッド個人としては場所だけ提供してハイさよならと行きたい所だが、マスターに袖口を掴まれているせいでそれも叶わず。
「我が儘でゴメン。でも私、ロビンにここに居て欲しい」
誰かが居てくれた方が冷静になれると思うから、とマスターが言うのだから、仕方がない。
「それが二人きりの時に聞ければ嬉しいんですけどねぇ」
冗談半分本気半分で軽口を飛ばせば、小さな声でありがと、と感謝を伝えられ。握られた袖口に力が籠る。
「で、何があったのか話してくれる?」
「ああ。ありゃさっき二人してシュミレーターに放り込まれた時の話なんだけどよ……」
ほわんほわんほわんニキニキ~。誰も言わなかったが全員なんとなくそのフレーズを思い出しつつ、ランサーは先程あったという出来事を語り出した。
今までの出来事で立香にあらぬ誤解をされている。どうにかしなければと思い至った両者は、だだっ広い荒野で額を突き合わせていた。
「顔を合わせる回数が多いからいけないのか?」
「なこと言ってもお前食堂に行きゃ大体いるじゃねぇか」
「ならば貴様が控えたらどうだ。サーヴァントなのだから食事を抜いた所で死にはせん」
「テメェ数少ないオレの楽しみを奪う気かよ!」
カルデアには娯楽が少ない。食事はサーヴァントにとっても楽しみの一つなのだ。特にランサーはこの時間を楽しみにしていた。それはアーチャーも知っている。何せ見ていて気持ちの良くなる食べっぷり。余程好きなのだろうとその時ばかりは静かに見守って(口を出すこともあるが)いた。そんな時間を奪うのは確かに不憫かもしれない。
「……では私が食堂のシフトを減らそう。幸い料理上手なサーヴァントも増えたことだし、私は洗濯班にでも……」
それはいい考えだ、とランサーは口を開いた。その筈だった。だが代わりに口から出たのは自分でも予想していない言葉だった。
「それじゃお前のメシが食えねえだろうが」
思わず出た言葉にランサーは驚く。だがそれ以上に目を丸くしていたのはアーチャーの方だった。
しかしそれも瞬きの後には元の仏頂面に戻る。アーチャーはコホンと小さく咳払いをすると淡々と話し始めた。
「君が私の料理を評価してくれたのは素直に受け取っておく。だが何も急に全て辞めるわけでなし、私より料理が上手い者だっているのだから変な拘りは捨てたまえ。それでも私の作ったものが食べたいと言うなら、それこそ私は準備を終えたら早々に立ち去るからその後にでもゆっくりと楽しむがいいさ」
君も小言を聞かなくて済むし一石二鳥だろうと弓兵が満足気に言う。その妙にスッキリした表情にカチンときて、更にはその理由を考えて。
――ストン、と胸の中に感情が収まる音がした。
「……いや、お前が居なきゃ意味ねえんだわ」
「だから食事は用意すると……」
「あー、その。なんつったらいいかね、お前さんの顔を見るのがオレにとっちゃ存外楽しみみたいでな」
つーか、そっちが本命?勿論メシも食いたいけど。
「マスターのことも馬鹿に出来ねえな。オレは思ってた以上にお前の事好いてるみたいだぜ」
少なくとも毎日アーチャーの顔を見ながら食事をしたいと思う程度には。それがアーチャー自身の手で作られたものならば尚更嬉しいと思うくらいには。
生前愛した女たちに告げたような美辞麗句や愛の言葉を紡ぐわけではないけれど。これが恋や情愛の類かもわからないけれど。味方となって、背中を預けてみて。文字通り人類を救う戦いに身を投じて少しばかり嬉しそうに綻ばせる顔を見て。洗濯物が乾けば喜び、料理を褒められれば照れ隠しに茶を差し出す。他人の為に身を粉にしてばかりいる、ちっとも可愛げなんかないこの男が。
愛おしいと、思えてしまうのだ。
アーチャーの瞳に映る己の顔がだらしなく緩んでいる。
仕方がないだろう。死して尚、運命に出会えるとは思わなんだ。いけ好かない所もある弓兵だが、それも一興。
ランサーは、そう思っていたのだが。
「……たわけ。冗談を言うなこの大たわけが」
すうっとアーチャーの顔から表情が消える。喜びも怒りも困惑も何もかもを押し殺したアーチャーからは感情を読み取ることができなかった。
「少々餌付けされただけで好意を示すとは流石だな駄犬。貴様のそれは平和ボケした末の戯言だ」
「テメェふざけんなよ」
「ふざけているのはそちらだランサー。君が私に好意を?人を揶揄うのも大概にしてほしいものだ」
「貴様……!」
アーチャーの肩を掴んで地面に叩きつける。ランサーが馬乗りになって怒りを見せても、アーチャーの瞳は微動だにしなかった。全ての感情を失った、無になっていた。
想いを告げて、拒まれるならばいい。それはこちらの想いと相手の想いが違っていただけのことだ。だがこの男は戯言だと、その想い自体をなかったものだと否定した。
「私はこういう人間だ。幻滅しただろう?悪い夢でも見たと思ってさっさと忘れることだな」
話は終わりだとアーチャーが言えば、シュミレーターが解除されていく。どけ、と押し退けられた体が無様に尻もちをつく。筋力差で負けることはないのに、気圧されてしまっていた。
――感情を失くした迷子のような、アーチャーに。
そして慌ただしくシュミレーションルームから出てきた所を立香たちに見つかったわけである。
「……何やってんですかオタクら……」
「槍ニキ、エミヤにボロックソ言われ過ぎじゃない?」
「アンタも気にするとこそこですかい!?」
他にも色々大変なことはあったと思うが、これ以上面倒事に関わりたくないのでロビンフッドは沈黙することにした。マスターが気にしない事を掘り下げても無意味だ。
「だってやっぱり私の勘は当たってたし」
「オレらがデキてるってやつか?オレはともかく、あの野郎はなぁ……」
ほとほと困り果てたようにランサーが首裏を掻く。そんなランサーを見て、立香がこてんと首を傾げた。
「……槍ニキ、気付いてないの?」
「あん?」
「エミヤは、槍ニキのこと『嫌い』とは一言も言ってないんだよ?あれだけ悪態ついてても、ね」
ぱちくりと紅玉の瞳が数回瞬いて。立香の言わんとすることを理解した紅玉にゆらりと炎が灯る。
「……っのヤロ……!」
カルデア最古参の弓兵は気障で皮肉屋で、ついでに悲観的。それを思い出した槍兵は一目散に駆け出した。
もう一度問い詰めて本心を聞き出さねば。その時はあんな全てを失った表情なんかではなく、こちらに向けて色のついた表情で。
俊足で駆け抜けていったランサーを見送ったロビンフッドが思い出したようにぽつりと呟く。
「まさかとは思うが、食堂出禁になってたりは……」
「……ある、かも……」
立香もまた背中に冷や汗が伝うのを感じた。
カルデアキッチンのチーフは皆に愛されているのだ。それはもう少々過保護なほどに。
立香は食堂へと急いだ。種を蒔いたのは自分だが、これ以上拗れることがないようにと願いながら。
案の定、ランサーは食堂から締め出されていた。入口には『ランサーのクー・フーリンは入るべからず』という張り紙が貼られ、キャスターの誰かが施したのか対ランサー(クー・フーリン限定)用の結界まで張られていた。
「うっそだろオイ……」
愕然とするランサーの横を、キャスターのクー・フーリンが通る。ニヤニヤと笑みを浮かべたキャスターはランサーの肩をぽんと叩いた。
「ようオレ。やらかしたなぁ」
「テメエが張ったんだろこの結界!」
こんな限定的な結界は、対象を良く知る人物でなければ仕掛けられない。というか訳知り顔で近付いてきた時点で絶対にコイツの仕業だ、とランサーは思った。
「アーチャー直々に頼まれて断れるかよ。オレもアイツには弱くてね」
まあ頑張れ、青春と言うにはちと遅いがなと背中をバンバン叩いた後結界を易々と乗り越えたキャスターは、アーチャー、メシー!と大声で言いながら食堂へと入っていった。確実にワザとやっている。
今度キャスターはしばくとランサーが心に決めた頃。立香が食堂前へ走ってきた。結局マスターを心配したロビンフッドもついてきている。
「あ、槍ニキ……ってうわぁ……これはまた……」
「奴さんも相当余裕ないなこりゃ……」
入口にでかでかと貼られた紙に遠い目をしながらもロビンフッドが進言する。
「食堂はマスターに見てもらいますから、オタクは大人しく部屋に戻ったらどうです?少し頭を冷やすいい機会だと思うけどねオレは」
実際どう足掻いても食堂には入れないし、この分だと普段アーチャーが出入りする場所にはそれなりの策が練られているだろう。最悪の場合全部に同じ結界が張ってある可能性も否めない。
「エミヤには私から話してみるよ。ちゃんと二人で話せるようにするから、今は待っててくれる?」
お願い、と立香が手を合わせる。こうなった原因は話をふった立香自身にあると思い申し訳なさそうにしている。
それに立香はまだ諦められないのだ。二人のことを。
……そこに刑部姫が居たならばそっと耳打ちしただろう。マーちゃん推しカプメーカーになってるよ、と……。
立香が食堂へ入ると、常と同じくアーチャーが厨房に立っていた。ここまで同行してくれたロビンフッドは自分がいるとエミヤは素直に話をしないだろうから、と残っていた夕食を確保し押し付け、さっさとテーブルについてしまった。ロビンフッドのささやかな気遣いに感謝しつつも、立香は気を引き締める。
(さて、頑張るぞ)
ここからは一人だ。だがランサーに約束した以上、二人を向き合わせる義務があると立香は思った。その結果、立香が思い描いていたものと違う結末になっても、このまま一方的に関係を断つようなことはしてほしくないのだ。
立香は厨房にいるアーチャーに向かって声をかけた。
「アーチャー!少し話があるんだけど!」
時は少し遡り、アーチャーがランサーとの言い合いを経て食堂へと向かう途中。
「お、アーチャー。暇なら……ってすげー顔してんな」
まだ日は高いがケルト式酒宴の準備でもしているのか、酒瓶片手にふらりと歩いていたキャスターに声をかけられた。暇なら、という言葉の続きは恐らくだが酒のアテが欲しいとかそんな所だろう。
少し歳を重ねた同じ顔が屈託なく笑うのを見て、ますます心がざわつくのをアーチャーは感じる。
「……一つ、頼まれてくれないか」
これ以上、自分の領域にランサーを迎え続ければ、きっと超えてしまう。未来永劫忘れぬと誓った己の罪を。
その贖罪を超えて、たった一人を大切に想うことなど、到底己に許される想いではないのに。生前それすら叶えられなかったからこそ、己が身は守護者になぞ成り果てたのだから。今更気付くなんて、そんな虫のいい話があってはならないのだ。
この心がまた落ち着きを取り戻したら、今まで通りいけ好かない奴として振る舞ってみせるから。だから、今は少しだけ戦略的撤退をするだけだ。
「……時間が、欲しいんだ」
「お前さんの言いたいことはわかるがね。どうせ長くは保たねえぞ」
急ごしらえでまじない程度の結界ではそう長く効果が続かない。ついでに言えばドルイドとして現界しているキャスター程ではないにしろ、ランサーもまたルーン魔術の使い手である。本気を出せば解除も出来るだろう。
勿論、キャスターはやるとなれば手は抜かない。別クラスとはいえ自分が相手なのだ。おいそれと負けるのは癪にさわる。
(お互いに頭を冷やす時間も、必要そうだしな)
「オレとしちゃあ、そんなに難しく考える必要もないと思うが。少なくとも今お前は、人理を守ろうとしている」
「助言は感謝する。だが、オレは」
思考の渦に掻き乱されているアーチャーの頭をキャスターがくしゃりと撫でる。
「責めた訳じゃねぇよ。この現界をどう過ごすかはお前の自由だ。ま、当分はオレに酒とツマミ用意してくれや」
それが今回の駄賃だ、と言われればアーチャーは頷く他なく。すまない、と小さく呟いて厨房へと姿を消した。
「んじゃ、いっちょやるかねぇ」
マスターや槍の自分には怒られるかもしれないが、今回ばかりはこちらに付かせてもらおう。あの弓兵みたいなタイプには搦め手で行った方がいいと知っている癖に、直情的になる槍兵への戒めを込めて。
それから後は、キャスターの自分もまたアーチャーにすっかり胃袋を掴まれてしまっているので。手製のツマミが報酬とあらば、張り切るに決まっているのだった。
アーチャーが厨房へ足を踏み入れれば、ふんわりとシチューの匂いが漂ってきた。今日の当番はブーティカだ。その他にもタマモキャットはじめ何人か手伝っているものはいるが、その数はいつもより少ない。
今日は山盛りバスケットに積まれた焼き立てパンとサラダバー、デザートのプチゼリーも全てビュッフェ形式で、当番が配膳するのはシチューだけだ。粗方準備が出来た時点でブーティカが手の空いた者は上がらせたのだろう。
子供たちに評判だったのと、食堂スタッフの負担軽減を兼ねて時折カルデアキッチンではこの形式がとられる。
なんだかんだ言ってチーフクラスはいつも厨房に入り浸るのだが、それはそれ。要は気分転換である。
「あれ?この時間シフト入ってなかったよね?」
大量の皿を抱えたブーティカが首を傾げた。ちらりとシフト表を見るが、やはりそこにアーチャーの名はない。
アーチャーは自然な動きでブーティカから皿を受け取ると薄く笑った。
「気にしなくていい。ここが一番落ち着くのでね」
「その割には寂しそうな顔してる。……喧嘩でもした?」
誰と、なんて言わなくてもわかっているかのように問われアーチャーはたじろぐ。彼女の言う『喧嘩』がいつもの言い合いという意味でなく、もっと真剣な響きを持っていたのも理由かもしれなかった。
「あたしはここでの二人しか見てないし、偉そうなこと言えないけどさ。みんなにご飯作って、喜んでもらって嬉しいって思うし、その中でも特にこの人に喜んでもらえたらいいなって思うことだってあるよ」
「私は……別に……」
迷子のように視線を彷徨わせるアーチャーに、ブーティカが困ったように微笑んだ。
「憎しみも悲しみも、英霊になったからって完全に昇華できるわけじゃない。それでもここにきて、触れ合ってみて変わった思いもある。それはきっと、自然なことだから」
たとえ分霊だとしても、そこには心が宿る。いつだってままならない物を、死後まで抱え続けるなんて滑稽ではあるが。だからこそ、我々は死して尚ここにいるのだ。
「叶えて、なんて言わないよ。でも、捨てないであげて」
先程とは逆に母親のような柔らかい笑みで告げるブーティカに、アーチャーがそっと口を開き、また閉じる。それを幾度か繰り返した後に、消え入りそうな声で呟いた。
「――「ふははは!入口に御触れを出したから食べ盛りのイヌは出入り禁止だワン!流石我good!」……」
言葉自体は乱入してきたキャットに打ち消されたが、元々誰かに聞かせるものでもなかったので構わない。
「あたしたちはいつだってエミヤの味方だからさ」
生前アーチャーが何を成したかは知らないけれど、代わりに今のアーチャーがどんな人間かは知っている。それだけで充分なのだとブリタニアの女王は微笑んだ。
それにつられてアーチャーがほんの少し口端を上げる。
「アーチャー!少し話があるんだけど!」
入口から立香がぱたぱたと走ってくる。
「もう大丈夫そう?」
「ああ。世話になったな」
じゃ、今日はシフトもないしこのまま行って来たら?とブーティカに言われたアーチャーは、走り込んできたマスターの方を振り向くことにしたのだった。
そして時は戻り。
鼻息荒くアーチャーの元に飛び込んできた立香を落ち着かせると、アーチャーは食堂の隅に立香を呼び寄せた。
「話ならこちらでいいか、マスター」
強硬姿勢でもみせると思っていたのか、立香は一瞬ぽかんと口を開けたが、すぐさま用意された席に着いた。
「あ、うん、えっとね。食堂の張り紙のことなんだけど」
「……アレは些かやりすぎたと反省している。キャスターに頼んで後程解除してもらうさ」
その言葉に立香がホッと息を吐く。まずは及第点だ。だが本題はここからである。
「単刀直入に言うけど……エミヤって、槍ニキのこと好きだよね?友達、とかじゃなくて」
立香の問いに、アーチャーは首を横に振った。でも、と言葉を続けようとした立香をやんわりと制して、アーチャーが吐露する。
「英雄として、クー・フーリンという男を羨望する気持ちがないとは言わない。戦士としても好ましい。だがねマスター。それが恋慕の情かと言われると難しいのだよ」
初めて見たサーヴァント。初めて見た英雄。一度は自分を殺した男。その胸に印を刻み付けた唯一人。
死後に再開した時は、そんなこと覚えていなかっただろう。何度か出会っているが、それを伝えるつもりはない。
「複雑すぎて、私にもわからん。ただ、そうだな――」
あえてこの感情に、関係に名前を付けるとするのなら。
運命、と。
そう呼ぶほかないだろうと。
アーチャーは眩い物をみるように目を細めて呟いた。
「だってさ。槍ニキ」
ていうか部屋に戻ってって言ったのに、と立香が頬を膨らませる。驚いてアーチャーが振り向けば、立香の視線の先、アーチャーの背後にランサーが立っていた。
ランサーは悪ぃ、やっぱ大人しくとか無理だったわとからから笑っている。
「貴様、いつから……」
「心配せんでもたった今だよ。オレにルーン魔術を使わせやがって。骨が折れたっつーの」
どうやら自力で解除したらしい。元々キャスターから長く保つものではないと聞かされてはいたが、ここまで早いとは思わなかった。
「なぁアーチャー。オレはお前に惚れてる。でもそれが恋か愛かなんてわからねぇ」
そんな言葉で収めるにはやはりこの想いは大きすぎる。
だからこれは運命なのだと諦めるしかないのだろう。
「お互い長い現界になりそうだ。それを探してみたってバチは当たらないと思わないか?」
ランサーは太陽の様な笑顔を輝かせて手を差し伸べた。
この関係性に名前を付けるなんておこがましい。それでも、捨てずにいた想いを拾うのならばと。
アーチャーは差し伸べられた手にそっと己のそれを重ねたのだった。
End