2025年は個人勢の時代と言われていたけれど。
2024年10月27日、結城さくながデビューしました。ご存じの通り、これまで湊あくあとして活動してきた女性の新しい活動であり、100万人に迫るチャンネル登録者を獲得し、デビュー配信の同時視聴者数は最大で38万人にもなりました。
これは大手事務所に所属する人気Vtuberが個人勢として独立したあとも十分な人気を獲得できることの証左となり、これを受けて「2025年は個人勢の時代だ」と言われたのが、本記事のタイトルの由来です。もっと言ってしまえば、卒業して個人勢になるVtuberが続出するのではないか、くらいのテンションで言ってました。
半年経過しての現状
ホロライブからは卒業が相次ぎましたが、2025/5/1のがうる・ぐらの卒業を最後に、卒業発表はありません。
沙花叉クロヱ、セレス・ファウナ、紫咲シオン、七詩ムメイ、がうる・ぐらと続いた卒業ラッシュは、湊あくあやワトソン・アメリアの卒業を受けて決断に踏み切ったメンバーだと私は考えています(実際にどうかわわかりませんが)。これまで違和感を抱えながら活動していたメンバーが決断したという流れです。
本当に個人勢にそこまでメリットがあるのであれば、もっと卒業者が続出してもいいのではないか。そうならないのはなぜなのか。そのような疑問点から、状況を一旦整理してみようという記事になります。とはいえ、ホロ以外は自分はよくわかってないので、基本的には企業はホロライブの話になります。
個人勢と言ってはいるけれど……
個人勢といっても幅は広いです。一般的には事務所(複数のVtuberをマネジメントする企業)に所属していなければ個人勢と言われていると思いますが、実態としては本当に一人でやっている人から、裏で複数のスタッフを動かしながら活動している個人事務所のようなものまで含まれます。実際、トップクラスの個人勢Vtuberは個人事務所の形をとっている場合が多く、配信の中で「スタッフさん」という言葉が出てくることもよくあります。最初に例に挙げた結城さくなも、たびたび「スタッフさんにやってもらった」みたいなことを言ってます。
本記事では、後者の個人事務所の形をとっているVtuberについて論じます。ホロライブから転生し、同様の強度で活動するためには事務所の形をとることが工数面で不可避と思われるためです。
チャンネル登録者数や視聴者の獲得
企業所属の一番のメリットは間違いなくこれです。ホロライブだと、デビュー時で登録者数は最低でも10万、デビュー配信の同時視聴者数は現状で17万人前後の獲得が見込めます。
現在、Vtuberは星の数ほど存在していて、毎日新しいVtuberが生まれています。その中でこれほどの初速を獲得できるのは企業のブランド力が無ければ不可能です。
今回、企業所属から転生した場合にファンがついてきて十分な(というか十分すぎる)初速を獲得できることがわかったので、一旦企業所属で人気を獲得してしまえば、企業に所属するメリットが無いのではないか、というのが個人勢に流れるのではないかと予言された一番の根拠です。
活動収入は個人勢に軍配
一方で個人勢の一番のメリットといわれているのは、売上から企業に分配される分がなくなり、すべてが自身の手元に入ってくるため、収入が増加することです。
しかし、実際にはこれまで企業にとられていた分がすべて収入になるとは言えません。なぜなら、個人事務所の形をとっているので、スタッフの報酬があらたな支出として発生するからです。
とはいえ、企業所属の時より自身の収入は上がるでしょう。
活動規模は当然企業のほうが優位
企業のほうが活動規模は大きくなります。たとえば、大規模な会場でのライブは企業に所属することの大きなメリットとなります。そもそも予算規模で個人勢は及びようがないですし、会場側としても小さな個人事務所には貸しづらいということがあります。
また、3D技術も企業が先行しているので、3Dライブの質も企業のほうが良いものとなる傾向があります。たとえばCOVERは先日Unreal Engineを使用した3Dライブを配信しましたが、このような最先端の技術と機器を自社で保有しているため、所属しているVtuberはその恩恵を受けることができます。
また、大規模な案件についても、企業所属のVtuberに依頼が飛ぶことが多いので、個人勢は不利になります。
しかし、規模の小さな案件や日々の配信については企業所属と個人勢で大差はありません。YAGOOが卒業ラッシュに対して出したコメントで、企業所属の価値を述べた中に配信のサポートが含まれていないことが話題になりました。これはYAGOOが現状を理解した上での発言だと私は捉えていて、配信自体は誰もが可能な環境になってしまったので、普通に出来て当たり前、企業に所属することのメリットにはなっていないのです。
いつもホロライブプロダクションを応援いただき、ありがとうございます。 卒業に関するお知らせが続き、皆さまにご心配をおかけしていることを真摯に受け止めております。 私たちもタレントの旅立ちを見送るたびに、皆さまと同じように寂しさを感じています。…
— 谷郷元昭(YAGOO) / COVER Corp. CEO (@tanigox) March 6, 2025
トラブル発生時のサポート体制
とはいえ、配信まわりで企業に所属することで発生するメリットはまだあります。機材トラブルが発生したときに、企業側の識者に協力を仰ぐことができるのは大きなメリットです。身バレに配慮しなければいけないVtuberとして、すぐに頼ることができる存在がいることは大きな利点です。
また、企業側のスタジオを使用することで機材の修理中でも配信をすることが可能です。音乃瀬奏がネットを止められた時に使っていたり、ラプラスもわりとよくスタジオから配信しているイメージがあります。
スタジオの話だと、会社のスタジオをMixで使えるので、いつも同じ環境で収録ができて良いということを常闇トワが話していました。Mix担当者のスタジオでの収録で性的な嫌がらせを含む権利侵害が発生した事件もありましたし、女性にとっては大きな安心材料でしょう。
さらに、誹謗中傷に対する対処が進めやすいという話もあります。企業には専門のチームがいますので、培った知見をもとに効率よく対処することが可能です。
また、自分自身に健康上の問題などが発生してしばらく活動ができない状態に陥った場合にも、企業に所属していればある程度のサポートが期待できます。休業をとることになっても、休業中の事務サポートや復帰後の活動に対する準備を企業側でやってもらえることは安心要素ですし、なにより休止中のスタッフの人件費を考慮しなくてよいのは大きなメリットです。
企業方針による活動の制約
一方で、企業所属である以上、コンプライアンス的な面で配信内容が制約されます。センシティブな内容の配信や、賭博やアングラを扱う配信については企業側から禁止されています。
また、ホロライブでは先日までポケモン配信が禁止されていました。これもコンプライアンス面からの制約です。
さらに、企業所属しているVtuberのなかである程度公平性を保つために、いくらか活動内容が制限されています。新モデルの作成など、タレント自身が負担すれば作成できるものについても、所属タレント間での差異にならないように制限されています。
一方、個人勢は自己責任の下で何でもできます。活動内容によって案件が減少するなどのデメリットはあるでしょうが、実施することは自由です。具体的には結城さくなのパチンコ配信や雨海ルカの1on1トークがついたメンシプなどですね。
企業という信用で広がる活動領域
企業に所属して活動するということは、企業の信用をベースに活動できるということです。企業からの依頼しか受けないクリエイターに対する制作依頼や、企業に限った配信の許諾などは、企業という信用をもとに行える活動です。ホロから転生したくらいの大手個人勢Vtuberであれば、個人事務所という会社所属になる上に注目度も高いのでそれなりには扱われますが、やはり違いは出てきますし、受けたとしても納期は企業勢のほうが優先される、みたいなことも多いです。
前述のライブ会場の利用可否についても同様ですね。上場企業ということで得られる信用は大きく、スムーズに仕事が進められるでしょう。
コラボ相手の制約
ホロから転生した個人勢Vtuberにとっての一番のデメリットは、ホロライブ所属のVtuberとコラボできないことだと思います。
ホロライブだけでなく各企業は自身の事務所という箱に顧客をつける戦略をとっています。いわゆる、箱推しというやつです。個人での配信よりも複数のVtuberが絡む配信のほうが人気が出る傾向は明らかで、それを箱内で循環させて所有するIPの価値を高めるのが企業の表の狙いです。しかし、もう一つ狙いがあると思っていて、それは所属Vtuberを企業につなぎとめるための施策です。
現状で、ホロライブでは卒業し転生したVtuberとのコラボは実施されていません。おそらく禁止されているのだと思います。オフの話でも転生前の名前で語られることがほとんどで、転生後の名前を出したのは、オンラインゲームで偶然出くわしたケースを除けば、一条莉々華が夜空メルの転生先である花宮莉歌とオフで遊んだ話をしたくらいしか無いと思います。
視聴者としてはコラボを見たい気持ちが出てくるのは当然ですが、許可してしまえばタレントが企業にとどまる理由が一つ無くなってしまうので、実現は難しいと思います。
逆に転生した個人勢としてはこの制約は大きいです。女性Vtuber界隈でホロライブの影響力が大きいのは周知の事実で、それらのメンバーとコラボできないのは大きな足枷となります。にじさんじなど、他の大手事務所とはコラボできるんでしょうか。前例はなさそうな気がしますし、企業としても避けたいところかと思います。
そうすると、自分のチャンネルの露出機会が減るので、成長に大きなハンデを負った状態です。さらに、ホロライブメンバーとの絡みが面白くて追いかけていた視聴者は徐々に離れていってしまうでしょう。
転生者同士のコラボは英語圏では盛んで、日本でも先日、海月雲ろあ(元:紫咲シオン)と雨海ルカ(元:沙花叉クロヱ)がコラボして話題になりました。
しかし、いつもそれでは視聴者には飽きられてしまうでしょうし、まだ転生者界隈が狭いので難しいかじ取りになります。転生者が増えてくれば状況は変わってくるでしょうし、なし崩し的に所属メンバーとのコラボも解禁される可能性はあると思いますが、まだまだ時間が必要です。
事務所という箱の中の序列
しかし、事務所に所属することで避けられない問題もあります。それは所属する他メンバーと比較され続けることです。チャンネル登録数、動画再生数、同時接続者数、配信頻度、配信内容、歌や踊りの上手さ、また外には出てきませんがグッズ売り上げ、案件の要望具合、などなど、あらゆる面で比較され続けます。
ホロライブが女性Vtuber界隈でトップの存在である限り、それ相応の才能が集まり続け、その中で自身の数字を折り合いをつけながらやっていかなければいけません。それだけならまだしも、外部からそのように比較され、劣るメンバーには容赦ない誹謗中傷が浴びせられます。
転生して個人勢になれば、そのような目からは逃れることができます。しかし、転生者が増えればその中でまた比較されてしまうでしょうし、Vtuberとして活動していく以上は逃れられないことなのかもしれません。
総じて考えると企業所属のほうが
企業所属と個人勢のメリット・デメリットを論じてきましたが、私個人の感覚としては個人勢に鞍替えする理由はそれほど大きくはないかな、というのが素直なところです。
金銭的なメリットは確かにありますが、ホロライブ所属の段階で十分な収入は得ていると思いますし、その状態で長く活動を続けていくことを考えた場合に、企業に所属し続けたほうがセーフティーネットが充実しているので安心して前向きに活動できると思います。
湊あくあの卒業に際し、百鬼あやめが「今はやめれないなって思いました」と語っています。単純に「やめない」ではなく、かなり凝った言い回しですね。
湊あくあは卒業して転生しても十分に活動できることを示しましたが、同時にその後の困難さも可視化したと思います。デビュー後に体調を崩してほとんど配信ができなくなったり、担当イラストレーターの不祥事があったりと、決して順風満帆ではない状況ですべてが自身に降りかかっているのを見ると、単純に転生しても難なくやっていけるとは思いづらい状況です。結城さくなはちょっとババ引きすぎとは思いますが(苦笑)。
上記の百鬼あやめの発言は湊あくあの卒業直後のものなのですが、転生後の計画はもちろん聞いていたでしょうし、自身をそのような活動体制に当てはめて考慮した上での発言だったのかなと思います。
余談ですが、結城さくなはイラストレーターの不祥事について、自分は特に焦らなかったけどスタッフさんが焦ってたと語っていました。そりゃそうでしょう。トラブルがあって活動継続が困難になっても結城さくな本人は活動をシュリンクしてやっていけますが、スタッフさんは切られちゃいますからね……。
果たして個人勢の時代は訪れるのか
タイトルに戻ります。
私はまだ個人勢の時代とはならないと思っています。企業に所属していたほうがやれることも増えますし、活動全体の安心感もあります。
よく言われるのはアイドル路線へのシフトが合わないということですが、ホロライブだと4期生くらいから既にアイドル路線にシフトした活動になっていて、5期生だと尾丸ポルカが「アイドルになるためにホロを選んだ」と言っているように応募の時点で周知の事実となっていました。ここ1年くらいのライブイベントラッシュを経て、古いメンバーの大半がソロライブの開催経験を持ち、まだ開催していないメンバーも多くがソロライブを目指していると公言していることからも、アイドル路線を嫌って離れるというのはもはや理由にはなりにくいかなと思います。
そう考えると、まだまだ企業所属が優位な状況は続くのではないかなというのが私の予想です。でも、個人勢になるという別の道が示され、確固たるものになったのはいいことだと思います。メンタル的にしんどい、先が見通せないなど、行き詰った時に選択肢があることは余裕につながりますからね。


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