ソニーはなぜ驚異的なV字回復を実現できたのか コッターの理論で読み解く組織変革への脳科学的アプローチ

 多くのリーダーが陥る罠がある。それは「危機感をあおれば、人は動く」というものだ。しかしこの方法では、目先の改善はできても、想像を超える成果は生まれにくい。巨額の赤字を計上し、「終わった」とまで言われたソニーがV字回復を果たした背景には何があったのか。その謎を解く鍵が、ハーバードビジネススクール名誉教授ジョン・P・コッターの『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』(ダイヤモンド社)の中にある。ビジネス書の目利きである荒木博行氏が、コッター氏の理論を補助線にソニーの変革を読み解く。

ソニー、5200億円赤字からの回復

『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』(ジョン・P・コッター著、池村千秋訳、ダイヤモンド社)

「ソニーは、終わったのではないか」

 そうささやかれていた時代が、確かにあった。今からわずか十数年前、2012年3月期の連結決算でソニーは過去最悪となる約5200億円という連結最終損失を計上した。 株価は1000円を割り込み、時価総額は2兆円を下回る水準まで落ち込んだ。かつての輝きは完全に失われたかに見えた。

 しかし、2026年現在のソニーはどうか。時価総額は20兆円規模にまで回復し、純利益はこの数年、安定して1兆円前後を保っている。この驚異的なV字回復、すなわち「時価総額10倍超」に回復するまで、裏では一体何が起きていたのか?

 その謎を解く鍵は、組織変革論の巨頭でハーバードビジネススクール名誉教授のジョン・P・コッターが2022年に出した著書『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』(ダイヤモンド社)の中にある。

 コッターといえば、1996年に『Leading Change(邦題:企業変革力)』(日経BP)の中で示した「変革の8段階プロセス」があまりに有名だ。しかし本書『CHANGE なぜ組織は変われないのか』では、不確実性が極まった現代において、コッターは「プロセス」よりもさらに深い、「人間の性質に組み込まれた脳の反応」に焦点を当てている。