日本の防衛の要である自衛隊。その根幹を揺るがす深刻な事態が、いま水面下で進行している。
それは「深刻な人手不足」だ。少子高齢化が進む日本において、自衛官のなり手は年々減少しており、防衛省が掲げる採用目標には届かない年が続いている。
防衛力の抜本的強化や防衛費の大幅増額が叫ばれる一方で、それを運用する「人」が決定的に足りないという皮肉な現実がある。
2022年末の戦略3文書策定過程では、特に深刻な海上自衛隊の艦艇乗員不足を補うため、外国人を充てる案が出たとも報じられている。
自衛隊への外国人登用、すなわち「外国人自衛官」は、本格検討こそ見送られたものの、人的基盤の危機が深まる中で一度は案として浮上した禁忌に近い論点である。
画像 : 防衛省が設置される防衛省庁舎A棟(左奥)と防衛省庁舎正門(手前) 本屋 CC BY-SA 3.0
国防の危機と採用の限界
長年、自衛隊の採用基準において「日本国籍を有すること」は絶対条件とされてきた。
国家の主権と国民の命を守る実力組織である以上、当然の帰結である。
しかし、その前提を維持することが極めて困難なほど、自衛隊の人的基盤は脆くなっている。
近年、自衛官候補生の採用は計画を大きく下回っており、2023年度は採用計画10,628人に対し、実際の採用数は3,221人、計画達成率は30%にとどまった。定員に対する現員の割合である充足率も、特に「士」では2024年度末に67.8%という低い水準となっている。
特に若年層の人口減少は、今後さらに加速することが確実視されている。
給与や手当の見直し、生活・勤務環境の改善、女性自衛官の登用拡大などが進められているものの、構造的な人手不足の根本的な解決には至っていない。
このままでは、どれだけ最新鋭の戦闘機や護衛艦を配備しても、それを動かす人間がいないという「張り子の虎」になりかねないのだ。
諸外国の現実と組織のジレンマ
目を海外に向けると、軍隊への外国人登用自体は決して珍しいことではない。
例えばアメリカ軍では、永住権(グリーンカード)を持つ外国人の入隊を認めており、軍務を通じて市民権取得への道が開かれる制度が存在する。
また、フランスの「外人部隊」は歴史的にも有名であり、世界各地から集まった志願者が、フランス軍の一員として任務に就いている。
しかし、日本がこれを真似るにはあまりにもハードルが高い。最大の懸念は、安全保障上のリスクである。
仮に外国人登用を認めた場合、日本と緊張関係にある国の影響を受けた人物が組織内に入り込む可能性をどう排除するのか、内部情報の流出や有事の際の忠誠義務をどう担保するのかという問題は避けて通れない。
とりわけサイバー戦や宇宙、情報戦といった現代の高度な安全保障分野において、身元の不確かな人員を抱えることは致命的な弱点になり得る。
画像 : 自衛隊 那覇基地 防衛省
主権の境界と未来への選択
自衛隊への外国人登用をめぐる議論は、単なる労働力不足の解消という次元の話ではない。それは「国家とは何か」「誰が国を守るのか」という、国家の根幹に関わる思想的・法的な問いを我々に突きつけている。
仮に外国人登用に踏み切るとしても、その対象を「日本への帰化を前提とする者」に限定するのか、あるいは「特定の同盟国・友好国の国籍保持者」に限るのかなど、緻密な制度設計が必要不可欠である。
さらに、現行の募集・任用制度における国籍要件、公務員制度との整合性、国民感情の反発をどう乗り越えるかという高い壁も立ち塞がる。
その一方で、人員不足が深刻化すればするほど、こうした選択肢が再び検討される可能性も否定できない。
経済界が技能実習生や特定技能という形で外国人労働者に依存するようになったように、国防の現場でも、人材確保の在り方をめぐる議論はいずれ避けられなくなるのかもしれない。
参考 :
佐久間惇『自衛隊の人的基盤をめぐる状況―厳しい採用環境と処遇改善を中心とした取組―』『立法と調査』第472号、2025年、防衛省『令和8年度 2等陸・海・空士(任期制自衛官)採用要項』防衛省『令和6年版 防衛白書』他
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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