近畿霊務局 『話せばわかるなんて言うやつは、話せば勝てると思ってるやつだ』 とあるプレイヤーの私考察 ~ネタバレだらけ~
『近畿霊務局 - Kinki Spiritual Affairs Bureau 』というゲームをご存知だろうか。
2024年10月4日にSteamで発売された霧笛ノト氏による和風ホラーTPSである。「幽霊に思いっきりやり返せるホラーゲーム」をテーマに、セーラー服姿の主人公を操り襲い掛かる幽霊たちを物理的に除霊していく。
筆者がプレイしたのは12月末頃だったが、ストーリーについてとても心動かされるものがあった。
しかしながら、本作はSteamで発売された当初は低評価が多かったのだという。
だが、2025年2月14日現在ではSteam評価で「非常に好評」まで持ち直している稀有なゲームであるといえるだろう。
〇ストーリー
除霊が行政によって行われる、平行世界の日本。
霊務省 近畿霊務局に属する公認除霊師、白石瑞希(27)は、突如としてインターネットから存在が消えた自治体、奈良県賽河村を調査しに訪れた。村内に住民は一人もおらず、自然発生にしては数が多すぎる違法幽霊と遭遇する。
電力・電話・インターネットはいずれも遮断されており、何者かが巨大な結界で賽河村を封鎖しているのを見抜いた白石は、除霊課長の小日向と後輩の丸岡から無線で助言を受けつつ、悪霊の巣窟と化した賽河村の謎を追う。
(Steam 公式紹介文)
〇なぜ発売当初評価が悪かったのか ~あおりと内容のギャップ~
本作は確かに筆者がプレイした時点でも、現代のTPSと比べて操作性がちょっと悪い。ゲーミング用のポータブルPCでプレイした筆者もそれは感じたが、作者様のパッチ配布などで改善された結果なのだという。ただ、昔のTPSをプレイしたことのある人は、「こんなものでは?」という感じではある。
レビューで「理不尽な難易度」という評価もあるので、TPS慣れをしておらず、幽霊をボコボコにしたいというプレイ層が低評価としたのではないかと思っている。
たしかに本作のあおり文句は「幽霊に思いっきりやり返せるホラーゲーム」であり、
序盤はコメディタッチでその通りなのだが、徐々に濃厚なストーリーが展開されていくため、最初から最後までその展開を期待した素直なプレイヤーは、低評価とした可能性はあると思っている。それ自体は悪いことだとは思わない。
一方で、この作品のストーリーを素晴らしい、面白い、と感じたプレイヤーが配信や口コミで広がり、「非常に好評」にまで至る結果になったのではないかと思う。
〇魅力は骨太なストーリー
主人公は白石 瑞希(しらいし みずき)(27)。近畿霊務局 霊事部 除霊一課に所属する一級除霊師で、セーラー服を着ているのは、道に迷った女子高生の姿でいると幽霊がよく釣れるから。元自衛官で、ミャンマーの紛争を経験している。プレイヤーは基本は彼女の視点で、違法幽霊を銃で蜂の巣にし、墓石で殴り倒し、金属バットで殴打し、ときには鉄拳をもって制裁する。
そんな彼女が、悪霊の巣窟と化した賽河村を訪れたのは、ふるさと納税の返礼品である「口噛み酒」が届かなかったことでTwitterを見ていたら、賽河村の公式アカウントが「大規模霊障発生」のツイートの直後アカウントが消えたことに由来する。歩く災害である白石は、無許可で対霊弾の入った自動小銃を背負って賽河村を訪れたのだった。
賽河村で違法幽霊を強制成仏させていく白石であったが、違法幽霊たちを集めた元締めであるオリジナル花子を倒した際、学校もろとも上司である近畿霊務局 霊事部 除霊一課長 小日向 智樹(こひなた ともき)の裏切りよって無人飛行機(ISRドローン)のミサイルで爆破される。
なんとか生き延びた白石だったが気を失っているところを、近畿霊務局員たちによって殺されそうになり、神務庁の管轄である、菊川をはじめとする賽河神社の武装した巫女たち(白石が生きていることにドン引きしていた)に助けられる。話が急展開し出すのは、この辺りからである。
〇霊務省による策謀
賽河神社で目を覚ました白石は、賽河村の賽河神社を代々守る賽川家の跡取り娘、神務庁所属の主任巫女の女子高生である賽川絢音(さいかわ あやね)と出会い、賽河村を違法幽霊が跋扈する中間領域に変えたのは小日向の率いる霊務省 近畿霊務局の部隊であり、代々保有してきた村を守るための霊石鏡による結界技術「幽遷結界」に小日向が目をつけたことが発端であると聞かされる。
「幽遷結界」は神具に札を張ることで村を丸ごと中間領域に隔離し、あらゆる戦火から逃れることができるもので、特定の存在のみ中間領域との通行をフリーパスとすることのできる便利な結界だ。
小日向は多額の補助金やお賽銭(スーツケース2つ分)で賽河神社の宮司である絢音の父に、昼間に結界の儀式を執り行うよう要求。それは防衛省の指示で陽変機(「陽」を「陰」へと変換する事で太陽光を変質させ、幽霊の能力にブーストを掛ける装置。防衛省は国外紛争の鎮圧に利用しようとしていた)の実験を行うためでもあった。陽変機の完全な発動を巫女隊は命と引換えに阻止したが、それを機に小日向は賽河村を結界によって隔離し、2万体の違法幽霊を投下。賽河神社は戦場となる。本殿に踏み込んだ絢音は、小日向に撃たれ気絶。絢音の父親は殺害され、霊石鏡と符は持ち去られてしまう。
陽変機によるジェノサイドで、賽河村は壊滅。村役場で住民を守ろうとした別動隊の巫女たちは違法幽霊によって全滅し、212人の住人は皆殺しになった。結界を発動するためには、集落単位の生命活動が必要だったからだ。
ただ、村役場職員の最後のSOS、ツイッターへの書き込みを見た人間がただ一人いた。狂犬・白石瑞希である。
〇どんなに取り繕っても偶然は策謀を狂わせる
白石は絢音と協力し、占拠された村役場に侵入。村と国との裏取引の数々の証拠を入手し、霊石鏡と符を奪還する。そして、そこに現れた小日向から、クソダサパワポを見せられ、霊務省の紫藤審議官が計画したとされる、フナト計画の全容を明かされる。
霊障災害に悩まされる日本は、幽遷結界によって地方にいくつもの幽霊のゴミ捨て場を作り、そこに幽霊を閉じ込めることによって霊障災害を一挙に解決する、というものだ。いくつかの地方の村は住民もろとも犠牲になるが、補助金や便宜によって周囲の村は潤い、超高齢化社会で違法幽霊の跋扈する日本の社会問題の抜本的な解決となる。
小日向は白石に「テッポーでちまちま除霊しても意味ないってわかってるんだろ?」という。だが、白石は「どんな理由があれ、賽河村の住人を犠牲にしたのはただのジェノサイド」「そして、紫藤審議官の後ろにもっとハイスコアの外道を隠している」と指摘する。時の井田政権のことである。
白石と絢音は、賽河村役場で小日向を見逃し、96式装輪装甲車で市街地を脱出。幽撃連隊を蹴散らしながら、賽河神社へ立てこもりを図る。賽河神社での最終決戦を前にして、残存部隊の巫女たちと会話する白石だったが、その巫女たちもモブに見えながら実はネームドであり、家庭の不仲や学校でうまくいかなかったりと、いろんなことがありながらこの状況におかれつつ、賽河神社を居場所として認識していたことや、絢音を慕っていたことを理由に戦う決意であることを理解する。
だが、幽撃連隊による賽河神社の全方位攻撃作戦は開始され、白石たちの必死の防戦もあり撃退するも、巫女たちは絢音を除いて全滅。巫女たちを取りまとめていた菊川も、絢音と白石の前で、絢音に「東京に行って巫術の研究を続けてほしい」と言い残し息を引き取る。
その後、「結界の内容を書き換え2人で外に出よう」「絢音ちゃんは賽川家に望んで生まれたわけじゃない」「お父さんも絢音ちゃんに賽川家の宿命を終わらせたいと思っていたはず」「死んでいった巫女たちも絢音ちゃんの幸せを願っていた」と主張する白石だが、絢音は「悪霊が密集した状態で結界を解くと、霊圧で1000体を超える霊が飛び出し、隣村に3ケタを超える被害が出る」、「外に出たとしても、結界の技術の知るものは、霊務省からはずっと狙われるだろう」、という理由から、絢音は「幽遷結界」を「冥遷符」で上書きし、賽河村を絢音自身と結界術もろとも外界から隔離することを決意する。その代償として、絢音は人ではないものになってしまう、というが、白石はその決断を覆すことはできなかった。
口噛み酒を軽バンに積み「白石のことを友達のように思っていた」という絢音に見送られながら賽河村を後にした白石。だがここから、白石の『こんなクソみたいな世界に対するたった一人での戦い』が始まるのである。(実際には後輩の丸岡鑑識官(白石より階級は上?)を協力させてはいるが。
〇『こんなクソみたいな世界に対するたった一人での戦い』
白石は小日向との会話の音声データを各マスコミやVtuberなどにリーク。国会議事堂は民衆により焼き討ちに遭い、霊務省でも、証拠を制圧し、痕跡データの抹消を目的とした井田政権の息のかかった警察隊とのにらみ合いが続く。与党、各省庁(総務省や防衛省)、各企業(通信事業者ほか)の思惑が入り乱れていた。
そこに、歌舞伎町とかでよく走っている勧誘デコトラで単身正面突破を図ったのが白石である。重装甲のアーマードレスに身を包み、霊務省の入り口を正面突破。装甲をパージすると、霊務省の職員を蹴散らしながら紫藤審議官の元までたどり着き紫藤審議官を糾弾する。しかし、内閣情報庁や井田政権と取引をしていた小日向によって紫藤審議官を口封じに殺害され、ヘリで脱出を試みた小日向を追った白石は自衛隊のスナイパーの凶弾に倒れる。一方で小日向の乗ったヘリは神務庁のアパッチによって撃墜され、そしておそらく井田政権は倒れる、という結果に至る。
〇職場復帰
奇跡的に一命をとりとめた白石は、近畿霊務局に職場復帰を果たした。しかしながら、彼女は依然と違いたとえ一体一体でも、違法幽霊を除霊していくことに確かな理由があった。絢音への贈り物として、違法幽霊を送り続け、少しでも平穏な日常を守る。それが「友達」と言ってくれた彼女へ、唯一白石ができることなのだから。
長くなったが、ここまでが考察の前提である。
〇ストーリーを前提として、解釈していこう
〇問題に口出しできるのは、当事者だけだ
近畿霊務局をプレイして、中盤以降、ずっと思っていることがあった。それは、筆者の持論ではあるのだが、「問題が起きた時に、本当の解決を図れるのは当事者だけ。関係ない人間は口を出すべきではない」というものである。当事者が問題を解決したいために外から助っ人を呼んでくることはまあいいとしよう。
ただ、何のリスクも負えない/負わない人が、自分たちは何の被害も受けていないのにああすべき、こうすべき、などとわあわあ騒ぐべきではない。オールドメディアやSNSの無責任な報道や、後方監督面がこれに当たる。また、自分と関係しない問題に善人面で首を突っ込んでくる人たちが正論棒などでぶん殴ってくることもわりとある。そういうのは筆者は個人的にいやなのでしないようにしている。撃っていいのは撃たれる覚悟のある者だけだ。一方で、じゃあどういう人間なら、当事者間の問題に深くかかわっていけるのだろう。その答えが、近畿霊務局の中にはあった気がするのである。
〇地方を取り巻く社会問題へのアプローチ
これは本旨として論じたいわけではないが、近畿霊務局には現代日本が抱える、また歴史的な問題として普遍的に横たわる社会問題がある。
ざっくりいうと、「東京が地方から若者を吸い上げ、地方を見捨ててゴミ捨て場にする」というものだ。筆者は、東京在住の地方出身者なので、非常に耳が痛い立場ではあるのだが、東京に住んでいるのにはそれなりの理由がある。それは消極的理由であって、単純に地方の水が合わなかったから、というのもある。地方に住んでいるときに、「バカにしてるのか」みたいな感じであらぬ攻撃をされたことは家族から、親戚から、友人から、その家族から、知らない人から含めて2000回くらいあるし、地方のしがらみみたいなものは結構しんどかった。東京にはそれがなくて非常に楽なのである。
中島みゆきさんの「ファイト」にあるように、「薄情もんが田舎の町に あと足で砂ばかけるって言われてさ 出てくならおまえの身内も住めんようにしちゃるって言われてさ」みたいなことが普通にたくさんあったので、それを我慢してまで地方にいる気はなかった、というただそれだけのことである。それは筆者と筆者のいた地方との関係性の問題で、ただ、地方のことはすごく大事だ、と思っている。そして東京は東京で問題がたくさんある。
けれども、水が合う人もいるだろうし、魅力的な地方、というのも存在する。一方で、魅力的でない地方というのも存在するだろうし、水が合わない人を大量に生み出す地方、というのも存在するだろう。東京一極集中が問題となり、霞が関の役所を地方に移転すれば問題は解決する、というお話もあるが、筆者はそれで解決するとも思っていないし、それだけで解決するとも思っていない。
魅力的でない地方が仮にあったとして、その地方が魅力的になるためには、地方に根差した人たちがゴールラインを設定し、50年くらいの長いロードマップを引いたうえで、200回くらい修正を加えながら、目指すゴールへ向かって周囲の協力を得ながら取組を続けていくしかないのである。
何のかかわりもない都市部の人たちが、「こうすればたぶんうまくいくだろう」と、適当な施策やお金の投入を目論んだとしても、それはただの延命措置でしかなく、持続可能なものではない。何かを移転すれば~とか、工場を誘致すれば~とか、補助金をぶちこめば~とか、そんな短絡的なことで抜本的な解決策にはならないし、抜本的な解決法などないのである。
〇行政や政治の中枢でありそうな問題
おそらく、白石の所属する「近畿霊務局」は、霞が関にある霊務省を白石が「本省」と呼んでいることから、「地方支分部局」に当たるものであると思う。霊務省は省なので、おそらく霊務大臣なるものが存在し、これが内閣を構成する政治家である。そして、官僚としての事務部門のトップとしておそらく事務次官がおり、「近畿霊務局」の長として局長がいるはずである。小日向は課長なので、局長の下くらいのクラス。小日向がパワポで黒幕として名指しした紫藤審議官の審議官というクラスは、省庁にもよるが上から、「次官級」「局長級」「局次長級」の審議官がおり、白石が「ビッグネーム」と言っていたくらいなので、おそらく「次官級」の審議官なのだと考えられる。つまり、近畿霊務局長より偉く、次官はわりと名誉職的な貧乏くじなポストであるとも思うので、次官級の審議官は官僚的な権力ツリーの事実上のトップ、と言えるかもしれない。ゆえに、次官級の審議官は官邸や与党、内閣といった政治的中枢とのつながりも深い。霊的災害に対して治安維持にあたる霊務省であればなおさらだ。局長より偉い審議官の肝いりの施策であれば、局レベルではいうことを聞かざるを得ないだろう。
ただ、官僚はリスクを恐れる傾向にあると思うので、賽河村ジェノサイドのようなことはよっぽどの理由がない限りしない。よっぽどの理由とは、つまり外圧、それもおそらく官邸からのものであると思われる。白石によるリークが発生したとき、霊務省に自衛隊を差し向けていることから、おそらく官邸の関与は大なり小なりあったものと推測される。内閣情報庁(おそらくリアルでのモデルは内閣情報調査室)とつながっていた小日向は、政治家の手先として動いていたわけである。官邸とはつまり内閣官房という内閣総理大臣の意思を実行する事務組織なのだが、建前上「各省庁に自発的にやらせる」というスタイルをとることもよくあるらしい。そこで施策をミスると各省庁のせい、ということになる。
ここでフナト計画を官邸または内閣総理大臣に振り込んだ人は誰かという話になるが、それはどこかの大学教授かもしれないし、利権団体かもしれないし、企業かもしれないし、地方自治体や地方の名士かもしれないし、よその国かもしれない。ただそいつは何の責任もとらない奴なんだろうということは想像に難くない。
そして、おそらく地方と空間的時間的距離がある東京にいる偉い人とその周りの人は「この案であればいま現代日本を苦しめている問題の抜本的解決になる」というふうに、どうやっても感覚が狂ってしまうのである。
賽河村ジェノサイドは他人だからできたことで、そういった「地方に押し付ける」と称されることが、おそらく今の日本になるまでに数多く行われ、また、今このときも考えられ、この先も考えられ続けるだろう。ただ、一方で地方もその恩恵を享受することもある、というのが悩ましい事実である。賽河村はフナト計画の全貌は知らなかったとは思うが、いろいろな裏取引があり、補助金の投入があり、周囲の村もその恩恵に預かっていたと思われるからである。ただ、死んでいった住民や隣村の一般市民が、計画やカラクリを知りえていたかというと、やっぱりそんなことはないのである。
そして賽河村は、霊務省や協力した省庁との対話の結果、騙され、滅ぶことになった。
〇「話し合い」は強者の論理
筆者は、対話や話し合いとは、力関係がイーブンである場合を除いて、強者が弱者に対して、施しを与える/何かを強要する/言いくるめるためのテーブルであると思っている。ここで言う強者とは、権力がある人、味方が多い人、口がうまい人、レスバが強い人、お金を持っている人、発言力がある人、なんでもいい。よく「お互いがお互いの立場を理解し話し合おう。落としどころを探ろう」という言葉が出るが、「お互いがお互いの立場を理解」し、尊重しあっているなら、そもそも話し合いのテーブルなんて必要ないのである。話し合いの相手から、「話せばわかる」「胸襟を開いて」「落としどころ」とか言われた瞬間に「上から目線で言ってんじゃねーよくそがよ」となる筆者もまた、白石のような狂犬的なところがあるのかもしれない。ただ、お互いを理解するための会話を否定するものではない。
〇話して理解できることもある
白石は賽河神社の神社警務隊の巫女たちとの会話から、その素性を理解していく。賽河神社の神社警務隊の巫女たちは、同じ衣装を着て、同じメイクをしているが、それは悪霊に名前を覚えられないための工夫であり、その実は皆ネームドである。
白石が話した菊川、大崎、板倉、橋爪、柴山、西岡の6人もそうだし、回想で賽河村を守りながら死んでいく栗原、七瀬、伊藤、川嶋、長岡、筒井、葛西、鈴木、菅原、飯島、池上もそうである。特に回想では、プレイヤーが実際にプレイアブルキャラとして操りながら戦局を覆すことはできず死に至る過程が描かれているし、墓地での戦闘時に死亡したドローンのミサイルによって死亡した坂井、木塚、前川も同様だ。
巫女たちそれぞれの背景―――全員が隣接する下滝町の出身だったり、時給は1300円だったり、休日はラ〇ワンに出かけたり、学校や家になじめなくて神社で住み込みのバイトをしていたり、戦闘前に怖くて今やめたいと言い出しながらそれでも戦ったり、終わったら時給を1500円に上げてもらおうとたしなめたり―――そこまで知ってしまうと、もう他人ではいられないのである。
そして彼女たちとの会話の中に、下滝町出身の彼女たちが賽河村を守るために戦うという理由のヒント、そして、白石が戦い続けるためのヒントがあると思うのである。それは、熊肉シチューを作っている西岡との会話だ。巫女たちはみんな、隣村のゴタゴタに巻き込まれたのか、という白石に、西岡は言う。
『巻き込まれたとは、思てへんのですよ』
『誰が何と言おうと、ここが家です』
『巻き込まれたんやない』
『実家よりも大事な家が荒らされて、親よりも大事な家族が殺されたんです』
この会話に、近畿霊務局という作品の良さが詰まっていると思うのだ。
〇言葉にして、相手を苦しめることもある
賽河神社防衛戦の後、神社警務隊の巫女たちは全員死亡。残されたのは白石と絢音のみになった。
白石は絢音に、霊務局だけがフリーパスとなっている状況から符を書き換え、二人で外に逃げようと提案する。ただ、絢音曰く、悪霊が密集した状態で一瞬でも結界を解くと霊圧の爆風が発生し、隣村で3ケタくらいの死傷者が出ると首を振る。その説得の中で、白石は
絢音は生まれたくて賽川家に生まれてきたはずではないはずだ。
絢音のお父さんは、賽川家の結界を守る宿命から絢音を開放したいと思っていて、小日向の提案に乗った。
お父さんは、絢音に自分自身の人生を歩んでほしいと思っていた。
巫女のみんなも絢音のことが好きで、東京の大学に行って巫術の研究をしてほしいと思っていた。
その気持ちを無駄にするのか、と言葉にする。隣村の被害は、白石が絢音にやらせたと証言するから、とも。
それに対し絢音は
賽河神社の跡取り娘だから村人が優しくしてくれると感じていて、賽河村が嫌いだった。上京して大学に行ったら、二度と帰らないつもりでいた。
隣村の人々を巻き添えにすることはできない。
もし結界の技術を知るものが外に出れば、それを欲しがる者が現れる。だから、技術を知る者ごと閉じ込める。
ことを理由に、「幽遷結界」を「冥遷符」で上書きし、賽河村を絢音自身と結界術もろとも外界から隔離することを決意する。
ここでの白石は、少しずるい。なぜなら、隣村を犠牲にしてもいいから二人で外に出よう、という理屈は、霊務省が計画するフナト計画のような、「知らない人ならどうなってもいい」という計画と、ほぼ同じ意味合いを持つからだ。絢音を思う白石は、自分が悪者になってもいいから騙されてほしい、と思っているのである。
だが、絢音の側からすると隣村の住人は赤の他人ではない。たとえ生きて出たとして、隣村の3ケタの人間を死傷させたという事実と罪の意識は消えない。
一方で、「悪用される技術を封印する」という建前で白石の誘いを断る。
この場面で、本音を言えば絢音を最も助けたいのは白石自身だったはずである。でも、「私があなたのことを助けたいんだ」なんて言った瞬間に、白石のことをまた大事に思っている絢音は目の前にいる白石の言葉を飲み込まざるを得なくなってしまう。自分をダシにして相手に言うことを聞かせてはいけないのだ。「君、たのむ、死んではならぬ。自ら称して、盲目的愛情。君が死ねば、君の空席が、いつまでも私の傍に在るだろう」は、太宰治の言葉だ。太宰治はクソである。
ただ、自分の気持ちを人質にして絢音に言うことを聞かせたとして、隣村の住人をジェノサイドしたという悲しみは、いつまでも絢音の心に残るだろう。
だから、白石は自分ではなく絢音を取巻くほかの人たちの気持ちを理由にした。そして絢音は白石には否定のしようのない、「悪用される技術を封印する」という建前を理由にした。
本音を言ったって相手を苦しめるだけになる。愛すべきタテマエの、大人の会話がここにある。このシーンが、ものすごく味があるのである。
〇権力や言葉と戦う手段は、暴力しかない
賽河村に一人残った絢音は、冥遷符を発動し、賽河村を現世から完全に隔離。その代償として、生者でも死者でもない何かになってしまうが、その後は描かれない。
一方で、白石はマスコミやネットに小日向が語ったフナト計画の音声データをリーク。国会議事堂は暴徒によって焼き討ちに遭い、霊務省は自衛隊に包囲され官邸や各省庁の証拠隠滅の思惑が入り乱れる中、白石は近畿霊務局 鑑識課の後輩である丸岡が作ったアーマーを着込み、グレネードランチャー片手にデコトラで単身霊務省にカチコミに入る。
ここで、白石が霊務省に対してやり返す必要は、本来ない。賽河村は少なくとも白石にとっては関係ないものだし、自分が殺されかけたから復讐する、というのも理にかなっていない。絢音という友達ができた今だから、霊務省と紫藤審議官が許せない、という気持ちはプレイヤーなら多分わかる。
でも、それを言葉にしてしまうと、大事な友達のことを思う気持ちを対外的な理由として振りかざし、正論棒をふるうことになってしまうのだ。大事な友達だから、なおさら理由にできないのである。だから、言わない。そんなものは自分の心の中に閉まっておいて、タテマエだけあればいい。
白石にできることは、あいつらがムカつく、外道で許せない、だから他人任せにするのではなく、そういう気持ちを狂犬である自分自身のできる範疇の暴力に訴えて暴れることなのだ。この事件に関与した、安全圏でスカしたツラをしている奴ら全員を、地の底まで追い詰めボコボコにすることだ。
何を使ってもいい以上、言葉よりも暴力のほうがよっぽどイーブンだと思う人種は一定層いるのである。思えば警察比例の原則で、白石はここまで素手相手には素手、金属バット相手には金属バット、銃には銃、?には墓石などわりと相手に合わせて暴力を振るってきたのだ。そして暴力という解決手段は、当たり前だが絶対的に悪である。正しい暴力なんてあるわけないのだから。
実際のところ、小日向も紫藤も正しい。一側面においての論理的な正解だ。間違っているというなら対案をよこせ、もあるだろう。その対案は出せるわけなんてなくて、それでも、一側面において絶対的に間違っているとしたら。話し合いは強者の論理だ。だから、やり返すには暴力しかない。
やられたら、思いっきりやり返す。本当の理由は言わずに。
「思いっきりやり返せる」という、アオリ文。
ここに、やっぱり「近畿霊務局」というゲームの主題の一側面があると思うのだ。
〇余談として 人の弱さというもの
小日向を追う白石だが、自衛隊のスナイパーの凶弾に倒れ、神務庁警務隊の巫女たちの応急手当を受けながら薄れる意識の中、まだ近畿霊務局に入りたてのころと思われる、小日向との会話を回想する。
それは若い白石は、鉄砲でチマチマ除霊しても意味があるのか、賢い小日向ならなんとかできるのではないか。そのためなら力になりたい、という言葉だった。
だが、小日向はそんなことはさせない、白石を遮る。この回想から、当時の小日向も、おそらく今も変わらず、違法幽霊による災害が多発する状況を何とかしたいと思っていたのだろうということが見て取れる。
でも、人は弱い。何とかしたい、何とかしないと、という思いは、こうすれば抜本的な解決になる、という甘い罠に陥りがちになる。そしてそのためには、独り歩きした最大多数の最大幸福で、犠牲になる人が出るのはやむを得ない、と、自らの行う悪の部分を正当化してしまう。「よかろう。だが、〇〇人が私の味方だ」というネットミームに甘んじてしまうのである。
弱い心は誰でも、紫藤も、小日向も、白石も、プレイヤーも、現実世界の人間も、誰しもが持っており、その苦しみは、短絡的で場当たり的な、誰かを犠牲にするような抜本的な解決策のようなものに人の思考を至らしめてしまう。
でも、逆に、そういった正常性バイアスのかかった心を本当に客観視して正常化できるのは、白石にとっての、隔絶された賽河村に一人残る、絢音を思う気持ちのように、「大切な人がどう思うだろうか?」という「自分の中の大切な人の立場に立つ気持ち」なのだと気づかせてくれる、非常にロックな素晴らしいゲームだったと思う。まるで、置き忘れてきた映画か何かを見ているような気持ちだった。
〇スペシャル・サンクス(ほかの人のプレイを見るというアプローチ)
以上が、文章書いたりする人が読み解いた、言葉では分かり合えないことを前提とした、近畿霊務局の考察のような感想のような一側面の解読である。1万字にお付き合いいただいて、大変感謝している。
ただ、ほかの考察記事でも書いているように、プレイヤーの皆様は、この解釈にとらわれず、自由にゲームをプレイし、自由にゲームを理解し、そこで得たことに自身で深く切り込んでいっていただくことが最良だ。
ただ、一人でゲームをプレイするだけでは気づけない点もあるので、誰かのプレイを見る、というのも自身の中で理解度を深めていく一つの助けになるだろう。
紅イングリットさんとケイ・カッパーさんという配信者のお二人が、本作について読み上げ配信をしているので、興味があればぜひ参考にしてほしい。
特に紅イングリットさんはTPSがかなり上手いので、本作は難易度が高いと感じるプレイヤーも、ストレスなく作品を体験することができるだろう。
では、ここまで読んでくれた皆様、本当にありがとうございました。
皆様の良きゲームライフをお祈りしております。



コメント
2大変感慨深く読ませていただきました。
ありがとうございます。
細かな点で恐縮ですが1つ気になった点がありまして、
陽変機によるジェノサイドで、賽河村は壊滅。村役場で住民を守ろうとした別動隊の巫女たちは違法幽霊によって全滅し、213人の住人は皆殺しになった。結界を発動するためには、集落単位の生命活動が必要だったからだ。
恐らくここの人数はこの時点では212人ではなかったか思います。
白石が車の中で決意する時には213人(絢音の分)となっています。
何気ないテキストでこちらの感情が揺さぶられましたので、コメント致しました。
本当にク〇リプで申し訳ありません。
読んでくださってありがとうございます。
修正しました!