つくば駅は、2025年のLIFULL HOME’S(ライフルホームズ)賃貸における駅別問い合わせ数で国内1位となった。2005年開業の「つくばエクスプレス(以下「TX」という。)」により、東京都心方面と直結し、人口増加が続くつくば市は、近年、注目を集めている。こうした注目の高まりは、東京方面への交通利便性、豊かな自然環境、研究学園都市としての都市イメージなど、つくばが持つ複数の魅力の表れといえる。一方で、つくば駅周辺では、西武筑波店やイオンつくば駅前店の閉店など、駅前商業のあり方が大きく変化してきた。人口が増えているにもかかわらず、中心市街地のにぎわいや駅前商業の再生が課題となっている。
こうした背景には、計画都市としての分散型構造の成り立ち、TX開業後の市街地拡大、郊外型商業施設との競合がある。本稿では、つくば駅周辺の過去・現在・未来を多角的に整理していく。少し長くなるが、つくば市への移住・居住を検討する方の一助となれば幸いだ。
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筑波研究学園都市の成り立ち
つくば市は茨城県の自治体のなかでも人口増加が進んでいる地域の1つである。下図は2005年と2025年の人口を示したものだが、茨城県南部の自治体の増加率の高さに加え、東京圏の郊外に位置するつくば市も増加率がプラス(約34%)であり、継続的に居住者が増えていることが分かる。なお、2025年10月(国勢調査速報値)時点のつくば市の人口は、県庁所在地である水戸市を上回り約27万人が居住している。
この背景を理解するには、「筑波研究学園都市」としての成り立ちを押さえる必要がある。筑波研究学園都市が成立した背景には、戦後の高度経済成長に伴う東京への人口・機能集中と、研究機関の刷新・集約という2つの政策課題があった。1961年には、東京都区部に必ずしも位置する必要のない官庁・附属機関・国立学校等の集団移転を検討することが閣議決定され、これに科学技術研究都市構想や学園都市構想が合流していった。1963年9月の閣議了解では、研究・学園都市の建設地を筑波地区とし、計画規模を概ね4,000ヘクタール、日本住宅公団(現:UR都市機構)が用地取得・造成を担うことが決定された。
1970年には筑波研究学園都市建設法が制定され、1980年までに43の試験研究・教育機関等の移転・新設が完了し、東京の北東部に新しい都市が概成した。さらに、1983年にはつくば駅前につくばセンタービルが完成、1985年の万博を経て、研究・教育機能を核とする都市としての性格が強まり、1987年には4町村(谷田部町、大穂町、豊里町、桜村)の合併によってつくば市が誕生した(2002年に茎崎町編入)。
こうした成り立ちゆえ、筑波研究学園都市はもともと研究機関・大学・住宅地・商業施設、新都市整備前の旧町村の既存集落が広く配置される分散型都市構造を持ち、都市内交通は自動車依存を前提とする面が強かった。既往研究でも、筑波研究学園都市は分散型都市として成長したこと、また現在の課題の遠因として分散型都市構造や自動車依存型の都市形成があることが指摘されている。この構造が、後述する市民意識調査における「住みにくさ」の根本原因としても明確に表れている。同時に、研究機関や大学を核とした知的な都市イメージと豊かな緑の環境は、他の郊外都市にはないつくば独自の魅力としても機能しており、居住選択肢としての評価を高める要因ともなっている。
TX開業が変えたもの。陸の孤島からの脱却
TX開業前のつくば市は、陸の孤島と呼ばれることがあった。筑波研究学園都市は国家プロジェクトとして計画的に整備された都市でありながら、東京方面と直結する鉄道を長く持たなかったためである。TX開業前、つくば市中心部から東京へ向かう一般的なルートは、路線バスでJR土浦駅またはJR荒川沖駅へ出て(約30分)、そこからJR常磐線に乗り継ぐというものだった。常磐線で上野駅まで約70分を要し、乗り換え時間を含めると上野駅まで2時間近くかかった。常磐線特急を利用すれば速達性は一定程度確保できたものの、つくば中心部から常磐線駅までの移動、乗換、運行本数、費用を考慮すると、日常的な通勤・通学の利便性には限界があった。
また、1980年以前には常磐自動車道も東京方面まで十分に整備されておらず(谷田部〜柏間の供用開始は1981年、柏〜小菅ランプ間は1985年)、自動車交通の面でも東京との接続性は限定的だった。TX線開業前の2000年におけるJR常磐線混雑率は205%と著しく高く、茨城県南部・千葉県北西部地域にとって交通アクセスや交通環境の改善は長年の課題だった。
2005年のTX開業は、この状況を根本から変えた。TXは最高速度130km/hで運行される高規格な都市鉄道であり、秋葉原〜つくば間を最速45分で結ぶ。実際に乗車すると、東京圏内の他の普通列車とのスピードの違いに驚くはずだ。つくば駅から秋葉原駅までが直通で結ばれたことで、東京方面への移動が容易となり、所要時間の短縮だけでなく、経済的な距離も縮まった。さらに、TX整備と同時に進められた各駅周辺での宅地整備により、市街地が拡大し沿線自治体の人口が増加するとともに地価水準も押し上げられた。特に、鉄道交通が脆弱であった地域では、開業以降、人口が急速に増加している。近年注目される機会が多かった流山市や守谷市などは最たる例だ。
開業前後には採算性を不安視する見方もあったが、TXは開業後に利用者数を伸ばし、2008年度に初の営業黒字、2009年度に初の経常黒字を達成した。開業時の目標であった1日平均輸送人員27万人を2010年度に1年前倒しで達成し、2025年度決算では営業利益・経常利益・純利益ともに過去最高益を記録している。なお、2025年度には、1日平均輸送人員は42.3万人を記録しており利用者数の増加が続いている。
TX沿線自治体といっても、東京23区への通勤依存度には差がある。守谷市やつくばみらい市では東京23区への通勤者割合が比較的高く、東京方面への通勤住宅地としての性格が強い。一方、つくば市は研究機関・大学・業務機能を市内に抱えるため、自市内就業率が高い。TX開業はつくばを東京圏の通勤圏に近づけた一方で、研究学園都市としての自立性を残したまま広域的な居住・就業圏へ組み込む役割を果たした。東京への通勤を前提にしながらも、市内でのキャリアや生活を見据えられる点がつくばの特徴といえる。実際、国立研究開発法人や大学、民間研究機関が集積するつくば市では、理工系・研究職を中心に市内就業の選択肢が広く、東京とつくば双方での就業・転職を視野に入れられる点は、他のTX沿線都市にはない大きな強みとなっている。
TX開業後のつくば市の都市構造変化
TX沿線では、研究学園駅周辺をはじめとする新たな市街地形成が進み、市役所の新庁舎も隣駅である研究学園駅周辺に立地した。また、同駅周辺には大規模商業施設であるイーアスつくばやコストコホールセールなどが立地したことで、商業機能の重心もつくば駅周辺から分散していった。これは、TX開業による沿線開発と同市の都市計画方針による結果だ。
こうした流れの中で、つくば駅周辺では西武筑波店やイオンつくば駅前店の閉店など大型商業施設の撤退が相次いだ。人口が増加しているにもかかわらず中心地区の商業機能が弱まっているように見える点は、つくば市の特徴的な課題として語られやすい。しかし、この現象を「人口が増えているのに駅前が衰退している」と単純に捉えるだけでは、つくばの都市構造を十分に説明できない。もともと分散型都市として形成されてきたつくば市において、TX開業がさらに都市の成長軸を広げたことで、従来の中心地区であるつくば駅周辺はその役割を再定義する必要性に迫られているというのが実態といえる。
さらに視野を広げると、つくば市は隣接する土浦市との雇用上の結びつきが強く、都市雇用圏を都市圏と捉えた場合、2025年10月時点(国勢調査速報値)でつくば市・土浦市など12市町村を含む約91.1万人と茨城県内最大の圏域人口を有している。中心地や大型商業施設が広く点在する都市圏の特徴があり、つくば駅周辺はその広域圏の中の一拠点として、役割の再編が進んでいる。近年のつくば市は、茨城県南部の中核都市であると同時に、東京圏の外側に位置しながら、東京都心方面と結びつく住宅地としての性格も高めている。居住先として検討する際には、つくば駅前だけでなく、沿線全体を視野に入れることが重要となる。
市民の声から読み解く住みやすさの実態
実際のところ、つくば市は住みやすいのか。
「2025(令和7)年度つくば市民意識調査」では、定住意向について「住み続けたい」「どちらかといえば住み続けたい」を合わせた割合が85%以上となっている。住み心地についても「住みやすい」「どちらかといえば住みやすい」を合わせた割合が8割半ばに達しており、2023(令和5)年度調査でも同様の傾向が続くなど、近年を通じて高い評価が維持されている。移住検討者にとっては、実際に住んでいる市民の評価が高いという事実は、重要な判断材料の1つといえるだろう。
住みやすいと感じる理由(2024年度調査)は、「日常生活が便利」が59.2%で最も多く、「豊かな自然」が54.1%、「住み慣れている」が45.3%、「居住環境が良い」が44.7%と続く。都市的な生活利便と自然環境の双方が評価されている点は、TX沿線の他都市とも異なるつくばらしい特徴といえる。
一方で、住みにくさを感じる理由は明確である。2025年度調査では「交通の便が悪い」が71.9%で最も多く、「日常生活が不便」が55.4%と続く。2024年度調査では「交通の便が悪い」が81.3%であったことからやや改善しているものの、依然として住みにくさの最大要因であることに変わりはない。
TX開業で東京方面へのアクセスは大きく改善したものの、市内の日常移動まで鉄道だけで完結するわけではなく、日常利用する交通手段として「自家用車」が88.8%を占める。市民が望む交通環境の1位は「公共交通が便利で、自動車がなくても生活できるまち」(53.8%)であり、現実には車に大きく依存しているが、将来像としては車がなくても暮らせる都市を求めているというギャップがある。移住後は車が必須になることは、事前に想定しておく必要がある。
つくばセンター地区のにぎわいについても、市民意識調査から課題が明らかになっている。必要な取組として「商業施設の誘致」が46.8%で最多であり、「駐車場の拡充」34.4%、「公共交通でのアクセスの向上」30.2%、「オープンカフェや朝市の設置」29.7%が続く。単に大型商業施設を呼び戻すだけでなく、分散型都市の中で中心地区へ行く理由をどうつくるかが問われている。
子育て環境については、「安心して子どもを生み育てられる環境が整っている」という肯定的評価が2025年度調査で約6割と、2023年度の53.2%から改善している。充実しているものとしては「子育て世帯への経済的支援」30.3%、「保育施設」29.0%(2023年度の22.1%から上昇)、「放課後児童クラブ」22.6%が挙げられる。一方、不足感が残るのは「産婦人科・小児科医・子ども医療電話相談#8000」24.9%、「病児の保育」22.3%、「地域で子育てを支える仕組み」20.7%、「一時預かり」20.4%など、日常の子育てを支える医療・保育機能へのニーズだ。
子育て世帯にとっては、保育施設や経済的支援の充実を評価しつつも、医療・緊急時の保育体制には引き続き注意が必要といえる。なお、こうした課題はつくば市が積極的に取り組んでいる分野でもあり、2023年度からの改善傾向を踏まえると、今後さらなる充実が期待できる面もある。
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つくば駅周辺で進む中心市街地再生プロジェクト
こうした課題を受けて、つくば市は「つくば中心市街地まちづくり戦略(つくば駅周辺基本方針)」を策定し、つくばセンタービル、つくばセンター広場、中央公園、ペデストリアンデッキ、TXつくば駅周辺などを対象に、公共空間の活用、エリアマネジメント、スマートシティの推進などを進める方針を示している。
なかでも具体化が進んでいるのが、中央公園のリニューアルである。つくば市は2025年に「中央公園リニューアル基本計画」を策定した。今後は基本・実施設計を進め、2027年度以降に順次工事を開始する予定だ。中央公園は、つくば駅・センター広場・中央図書館・ペデストリアンデッキと近接しており、駅前の滞在性や回遊性を高めるうえで重要な公共空間となっている。公園のリニューアルが実現すれば、駅前を訪れる理由づくりにも寄与し、周辺エリアのにぎわい回復につながることが期待されている。
また、つくば駅前の商業再生を考えるうえで、旧西武筑波店や旧イオンつくば駅前店を含むクレオ周辺の経緯は避けて通れない。西武筑波店は2017年、イオンつくば駅前店は2018年に閉店し、駅前の大型商業施設の再活用が課題となった。一時は、市が公的に関与して再生を図る案も検討されたが、取得費用や公共関与のあり方をめぐって議会・市民の間で議論が生じ、最終的に市は計画の議会提案を断念した。その後、駅前商業施設は民間事業者による取得・再生へと移り、現在のトナリエつくばスクエアにつながっている。
この経緯は、つくば駅周辺の再生が単に行政計画どおりに進んできたものではないことを示している。人口が増加する都市であっても、分散型都市構造や自動車依存、郊外型商業施設との競合があるなかでは、中心地である駅前商業の再生は容易ではない。公的関与のあり方をめぐる議論を経て、現在は民間による再活用と、公共空間の再編を組み合わせながら、中心市街地の役割を再構築する段階にある。
さらに、吾妻二丁目の国家公務員宿舎跡地をどう活用するかも、今後のつくば駅周辺を見るうえで重要だ。つくば市内では研究学園都市として整備された国家公務員宿舎の廃止が進んでおり、特に駅に近接する吾妻二丁目については財務省関東財務局とつくば市が共同で、隣接する市有地を含む街区全体を対象とした市場調査を実施している。つくば駅周辺に残された大規模な都市ストックであり、その活用次第で中心市街地の居住・交流・業務・公共機能のあり方に大きな影響を与える可能性がある。民間事業者の参入や新たな居住機能の導入が実現すれば、駅周辺の人口密度や生活環境にも直接影響してくるため、移住・居住を検討するうえでも注目しておきたい動きだ。
つくば駅周辺の再生は、撤退した大型商業施設を埋め戻すだけの話ではない。クレオ周辺の再生をめぐる紆余曲折が示すように、人口増加が続く都市であっても、駅前の商業機能を維持・再生することは容易ではない。中央公園・センタービル・センター広場・国家公務員宿舎跡地という既存ストックを再編集し、買い物の場のみならず、滞在・交流・居住が重なる中心市街地へ転換できるかが問われている。
TXの延伸構想とつくば駅周辺の将来性
つくば駅周辺の将来性を考えるうえでは、TXの延伸構想が重要な論点となる。茨城県が2024年に公表した検討資料では、TX県内延伸の方面を土浦方面とし、JR常磐線と接続する方針を示している。実現すれば、つくば駅は現在の終着駅から、東京方面と土浦・常磐線方面を結ぶ広域交通の結節点へと性格を変える可能性があり、東京圏へのアクセス拠点であると同時に、つくば・土浦都市圏をつなぐ中間的な拠点として再評価されることになる。これは、前述のつくば・土浦都市雇用圏(約91.1万人)という広域的な都市圏の実態と、公共交通インフラ面での接続性が一致していく方向性ともいえる。
さらに長期的には、TXの東京駅延伸と都心部・臨海地域地下鉄構想もある。2016年の交通政策審議会答申では、同地下鉄構想とTX延伸の一体整備が、国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークプロジェクトとして位置づけられている。実現すれば、つくばは秋葉原方面だけでなく、東京駅・銀座・築地・晴海・有明方面とも直結する可能性がある。もちろん長期的な構想であり、実現時期や事業スキームは現時点では未確定な部分が多い。しかし、TX延伸はつくば駅周辺を茨城県南地域・東京駅周辺・東京臨海部をつなぐ広域ネットワークの一部として位置づけ直す契機になり得る。移住・居住先としてつくばを検討する際には、こうした将来的なポテンシャルも判断材料の一つとして念頭に置いておきたい。
まとめ つくばでの暮らしをどう捉えるか
つくばでの暮らしは、都心直結の利便性と、ゆとりある郊外生活が重なったものといえる。TXで秋葉原まで最速45分という東京アクセスを持ちながら、関東地方の観光地の1つである筑波山や田園環境に近い自然の豊かさ、研究機関・大学が集まる知的な都市イメージ、研究学園駅周辺や郊外型の大規模商業施設による広域的な生活利便性が同居している。さらに、つくばは市内だけで完結する都市ではなく、土浦や牛久、阿見などを含む県南地域の広域的な生活・経済圏の中に位置している。
ただし、駅から少し離れると市内の日常移動では自家用車が欠かせず、駅前のにぎわいは再生途上にある点は移住前に理解しておくべき実態だ。一方で、中心市街地の再生プロジェクトや今後のTX延伸構想を踏まえると、つくば駅周辺は過渡期であり、将来的な発展余地を持つエリアとして捉えることができる。
2025年LIFULL HOME'Sにおける賃貸問い合わせ数の国内1位という注目度は、こうした将来性への期待の表れでもあるだろう。TX沿線への移住を検討するなら、つくばは、東京へ通える距離にありながらも自然豊かな茨城県南部に位置し、かつ研究学園都市としての魅力も併せ持つ。TX沿線で住まいを探すなら、単なる郊外住宅地とは違う選択肢として検討したいエリアといえる。そして、つくばを含む茨城県南地域の魅力は今後も向上していくと考えられる。
<参考文献等>
・河中俊・金子弘(2015年1月)、「筑波研究学園都市の現状と諸課題にみる都市形成過程上の問題」、国土技術総合研究所資料No.815
・つくば市(令和7年1月)「つくば市都市計画マスタプラン及び立地適正化計画」
・つくば市(令和2年5月)、「つくば中心市街地まちづくり戦略(つくば駅周辺基本方針)」
・つくば市(令和7年12月)、「令和7年度つくば市民意識調査報告書」
・つくば市(令和6年10月)、「令和6年度つくば市民意識アンケート結果」