七十九話 ライフがゼロになったプレイヤーは直ちに敗北する




 




 少し話をしようか。

 己は知っての通り、闇のファイターだ。

 無論信頼も信用も出来ないだろう。

 だが、とりあえずこうしている理由の説明をさせて欲しい。

 己の名はスカー。

 本名はもう捨てた、正確にはあるし憶えているが知ったところで嫌な気持ちになるだけだから伝えられない。

 話を戻すが、俺がこうなる前、闇のファイターになる前があった。

 己は親がいない、施設暮らしだ。

 両親だが、片方に捨てられた。

 何故かって? 親の片方が、闇のカードに手を出したからだ。

 詳しい経緯は知らん、興味もなかった……昔はあったが、今はそれどころじゃないから気にしていない。

 闇のカードというのは、使うのは当然だが、所持しているだけでも危険なものだ。

 そう、それを保持していた奴の家族が親類縁者から縁を切られるぐらいには。

 己の親はそういう目にあった。

 周囲からの偏見や非難、仕事も失い、毎日のように自称正義の味方からの電話のコール、窓に投げつけれる投石、家への落書き。

 まあ真っ当に学校にも通ってる暇もないし、右も左もわからない子供なんて抱えている余裕はないのだろう。

 親は己を家に置き去りにして蒸発した。

 どこにいったのか。まあ真っ当に生きていてればいいと思う、それぐらいだ。

 そうした結果、近所の通報で発見された己は色々あって施設に流れ着いた。

 親戚一同、誰もが引き取りを拒否したんだ。

 ……そんな顔をしないでくれ、厄ネタを拒否するのは当然のことだ。

 誰にだって護りたい生活はあるものだ。

 そんな誰も引き取り手がなかった己に手を差し伸べてくれた施設があった。


 名前は<キャンプ・ライト>

 もうどこにもない施設だ。


 とある私人団体が経営する施設で、引き取られた己は驚いたよ。

 何故かって?

 己以外、みんな女性や女の子しかいなかったんだ。

 ちなみに己は男だぞ、見ればわかるようだろうが。

 何故女性しかいないのか、理由を聞いて知った。

 そこは闇のカード。

 その関係者やその末裔が集まる施設だったんだ。

 そう、”魔女”と迫害された人たちのな。


 ……実のところ、こういった互助団体というのは珍しくない。

 闇のカードは表向き都市伝説だが、それによる被害や豹変した異常者による犯罪という形で記録は残るし、ニュースにもなる。

 異常を追い払うのは人間の性質だ。

 だから、同じような者同士で助けあおうという考えは決しておかしくない。

 俺を引き取ってくれた施設もそういう細やかな善意だったんだ。男手が欲しかったなんてのはまあとってつけた理由だったんだろうな。

 そこには同じような境遇な子がいたり、世間から白い目で見られて、就職などが困難な人がいた。

 そういう人間同士が集まって助け合う、なんらかの伝手で仕事を流してもらったり、学校の勉強を教えたり、社会復帰のための手助けとかだな。

 寄る辺のない生活というのは想像以上にしんどいものだ。

 どこにいても自分がいるべき場所じゃないという違和感、見知らぬ馴染みのない天井、将来への不安。

 知らないほうがいいものがある。

 己がそこで引き取ってもらえたのは、捨てた親がここの関係者だったんだ。

 真っ当に生きようとして幸せになれないということもある。

 話を戻そう。

 そこでだな、まあそこで世話になりながら高校にも通うことが出来た。

 大検でもよかったんだが、高校ぐらいはまともに出ないと人間性が駄目になる。そんなことを言われたな。

 工業高校に通いながら、少しでもこの施設に恩が返せればいい。

 そんな風にぼんやりと考えてたよ。


 前触れなんてなかった。


 共同生活で、夕飯の仕込みの手伝いをしていた時だったな。

 ガシャンって音がした。

 誰か皿でも割ったのかな、などと呑気に考えていたぐらいだ。

 振り向いて、そこで誰かが悲鳴が上げた。

 それには割れた皿が落ちていた。その側にカードが落ちていた。

 理解が追いつかなかった。


「お姉ちゃんが消えちゃった!」


 そう誰かが言って、それを持っていた人が消えたのがわかった。


 突然目の前の人がカードになったことはあるだろうか?

 ないなら幸運だ。

 そんな経験はないにこしたことはない。

 だが不運にも己はあった。

 それには何の前触れもなかった。

 驚くとか、想像もしなかったとかそういうのじゃない。わけがわからなかった。

 そうだろう? 

 何が起きたのか理解が追いつかずに、どんどん悲鳴が上がっていった。

 なにか起きている、そう考えて己は、みんなを逃がそうと外に出るように声をかけた。

 もしかしたらなんらかの犯罪者が入ってきたのかもしれない。

 そんなことも想像力豊かに考えてしまってな。

 取るものも取らずに外に出していって、そして逃げ遅れていた娘を見つけて抱き抱えて逃がそうとして。

 それで。

 抱き抱えた娘が、不意に軽くなったんだ。

 キョトンと何が起こってるのかもわからない顔を浮かべてた。

 手とか足が透けていって、泣きだしてしまって、それで……いや、説明はやめよう。

 結論から言えば、彼女はカードになった。


 己の手に残ったのは紙切れの1枚だった。


 妹のように思っていた娘だった。

 それがLifeのカードになっていた。

 そして、振り返った先にあったのは玄関に散らばったカードの山だった。

 何十枚ものカード。

 残ったのは己だけだった。

 そうして己は家族を失った。

 それからだな、まあ愉快な話じゃないが、当然原因を探しにいったさ。

 こんな超常現象起こせるものなんて知らなかったが、色々なことをした。

 そうして風の噂に知ったのは人をカードにするファイターがいるということ。

 ああ、知ってたのか。そうだよ。


 教授プロフェッサー、彼の仕業だと思ったんだ。


 彼を探し出し、仇を討とうとしたよ。

 結局のところ誤解だったんだが……いや、誤解でもないのか?

 結論から言えば彼のせいでもあった。

 ”101人目”、それを倒すためのアンティ――敗者がカード化するというペナルティ。それを”101人目”が受けて、その身代わりに彼女たちがされていたということだ。

 ああ、悪意なんてなかったんだ。

 教授は教授なりに奴を倒そうとしたんだ。

 運が悪かったんだろう。

 たまたま、そうたまたま己の身近な人間が選ばれて、カードになった。間違いない、あいつを倒そうとした時期と<キャンプ・ライト>がなくなった時期は重なっていて、数十回以上も倒して倒して、結局倒しきれずに逃げられた。

 それで他にカード化された人がいるなんて教授も知らなかったんだ。

 悪いのは1人だけ、”101人目”あいつのせいだ。それだけなんだ。

 それからだな。

 教授の生徒に、己がなったのは。

 教授なりの贖罪だったんだろうな。

 ”101人目”を今度こそ倒す、そう行動しようとした己を止めて一緒に行動するとあの人から言ってくれたんだ。

 奴の過去の足跡を色んなところを歩き回って探した。

 そして、カード化された他の魔女だった娘を探して、保護してた。

 その途中途中で、他の闇のファイターを倒したりもした。

 不思議か?

 ああ、教授だって最初から悪いやつだったわけじゃない。

 あの人が闇のファイターになんて堕ちたのにも理由がある。

 同情して欲しいわけじゃない、ただそういう人でもあった。それだけ覚えておいて欲しいんだ。

 ……困ったな、大体話すべきことがなくなったな。

 ”101人目”の戦法は前に説明した通りだ。

 もしも断頭戦が成立しなかったら最初に己が挑む。

 もしもSi☆STARでも倒しきれなかった場合は出来る限り時間は稼ぐつもりだ。

 その間に十二聖座に連絡を、レガシーで倒してくれ。

 負けたらアンティで操作される? 大丈夫だ。

 闇のファイトには踏み倒す方法がある。

 闇のカード、領域を展開しているカードを犠牲にすれば無効試合に出来る。

 それと同じ方法で、己が絶命すれば相手は勝利するが――敗者から何も毟り取れない。無効にできる。

 死ぬのは己だけだ。

 ……気にしなくていい。

 まあ復讐なんてそんなものだ。

 真似はするな。

 己がくたばったら、そういう駄目な見本があったのだと思ってくれればいい。

 あと出来れば、彼女たちだけは回収してくれ。


 それだけでいい。


 それだけで十分だ。




 そう思っていた。


「……十分だったはずなんだがな」


 目の前の光景を見ながら呟く。

 そこには。


「あ゛あ゛嗚゛呼゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」


 勝てるかどうかもわからないはずだった化物の終わりがあった。


「リーサルだ。バトルフェイズ、2オドを消費し」


 手を掲げる。

 祈りを託す。


「みんな、頼む」


 願う言葉に、彼女たち――かつては守らなければならない幼い子や年上であった娘たちは皆年下になってしまった――が駆け出す。

 守るものも何もない影に、全員が武器を構えて。


「やべデ! やめ」


「攻撃」


「やヴぇろおおおおおおおおおお!!」 


 六人の刃がその体を貫いた。


「ガ」


 ライフデッキが飛び散る。


「犠」


 黒い血潮が貫かれた箇所から飛び散って。


「ご」



「ライフゼロ。勝利条件を満たした、お前の負けだ化物」



「あがががああああああああああああああ゛あ゛ア゛あ゛?!」


 身体がドロドロと崩れ出て、倒れる。

 その足元から……いつの間にか現れたカード、それに吸い込まれていく

 いつか見た光景のままだった。


「カード化が始まったな」


 どうやら賭けには勝ったようだ。


「教授といい、カードになるってのはこういう感じか」


「うん?」


 少年の言葉に少し気になったが。

 ……地柩セトの信頼も厚い少年だ、教授を倒した時にも同席してたのだろう。

 すぐに自己解決する。


「うぞだ! ごん、ご、ぉな」


 ”101人目”が叫ぶ。

 必死に手を伸ばしながら、足元から吸い込まれるカードから逃れようと足掻ている。

 己は近寄らない。


「だずげて!」


 己は答えない。


「やだ! 消えだぐナイ! なんDeモずるがら!」


 己たちは応えない。


「おねが「お前の末路を説明する」い゛」



「カードになったお前はすぐに引きちぎり、金属箱にいれてガソリンで燃やし、灰は薬剤を使って溶かして箱ごと深海に沈める」



「え゛」


「お前の復活はもはや起こらない」


「やダ」


「貴様を殺した罪は己だけのものだ、だから――好きに恨め」


 これはどれだけ化物に成り果てたとしても、元は人間だ。

 それを殺すということは人を殺すということだろう。

 これまで誰も殺してこなかったわけではない。

 討つべき邪悪はいた。

 それでも殺人を肯定していいわけじゃない。

 己は地獄に落ちるだろう。

 自分1人で戦えなかった弱さが、彼女たちを使って戦い続けた罪はある。


 だが、それでも、ここで貴様を滅ぼすのは己の復讐エゴだ。


「死んでくれ」


「い゛や゛ああああ゛あ゛ア゛」


 叫び、叫んで、必死に手を伸ばす、それを己はただ最後まで見つめて。


 ――瞬間、”101人目”の顔に刃が突き立った。


 》。


「なに?」


 振り返る。

 そこには手に持っていた武器を投げ放った彼女シスターたちがいた。

 勿論、己は何も命じていない。

 オドも使っていない。


 そんな中で一番前にいた顔も見えない……己だけが覚えているスールが、なにか言う。

 怒ったように口を動かして。


 ”      ”


 そして最後に微笑んで、消えた。

 他の皆と同じように実体化が切れた。


「……終わったな」


 少年の声に振り返る。

 そこには、何も残ってなかった。

 いや、1枚のカードだけが残っていた。


「……死に際を見損ねたか」


「そんなもん、見なくていいんじゃないか」


 ?


「この世のゴミがなんか死んだ。よかったよかった。もう誰も苦しまなくていいんだ、そんな風でいいと思う」


「そんなわけが」


 少年の言葉をとっさに否定しようとして。


「……いや、そうだな」


 肯定した。


「そんなものだ」


 苦笑する。

 少し歩き、落ちていたカードを拾い上げる。

 ”101人目”が飲み込まれたカード。

 それにはカードの名称、レアリティ、能力が記載されていた。

 それは恐ろしいほどに強いカードだった。


「それをどうするんだ?」


「こうする」


 己は迷わず破いた。

 一回、二回、四回と細かく千切った。


「有言実行だ。この後燃やして、灰も全て知られないように処分する」


「一つ提案していいか」


「なんだ?」


「処分する前に携帯のカメラで写真を送ってくれ。店長や市長たちにぶっ殺しましたって説明したいし」


「ああ。そうだな、メールで送る」


 苦笑。

 どうやら少年は、このカードに一切興味がないらしい。

 随分と地柩セトの薫陶がきいているようだ。

 それとも、いや、この少年がそういうものなのだろう。

 なんとなく同じ男だからわかる。


「少年はいい奴なのだな」


「……あんたほどじゃないさ」


「こんな怪しげな男と付き合って、命がけでファイトする奴よりもか?」


「じゃあ同レベルってことで」


「だな」


 お互いに苦笑する。

 愉快だった。

 何年も味わったことがないぐらいに晴れ晴れとしていて、空が綺麗に見えていた。


「……おい、スカー」


「うん?」


「アンタの右目が」


 怪訝そうな目つきの少年の指す右目に、手を添える。

 そういえばサングラスを外したままだったな。

 指が見えている。


 


「そうか。奴が死んだからか」


 奴の残機、身代わりは魔女がする。

 しかし、それ以外の男は、血族は何も背負わないのか。

 そんなわけがない。


 奴に無数にあった眼球、精命力、それらは全てアンティで奪ったもの。


 ありとあらゆるものをたくさん見続けたい、世界を見渡したいという身勝手な我欲で奪い取った【視力】。

 白濁した見えない右目を持つ障害者の男を生み出した呪い。

 

「……少しは帳尻がついたか」


 サングラスを付け直す。

 この慣れない眼には、今の世界は眩しすぎる。


「感謝を。地柩セトにはよろしくいっておいてくれ」


「あんたはこれからどうするんだ? 奴が死んだら、闇のファイターを続ける必要は」


「……奴が死んでも、シスターたちは解放されていない」


 デッキを見る。

 Si☆STARのデッキ、そこに閉じ込められた彼女たちが解放される様子はない。


「これを解除する手段を探すのが1つ」


「1つ?」


「それに……まだカード化された魔女がいる。彼女たちを見つけて、保護する」


 教授は100回、”101人目”を倒した。

 だが己の手元にあるのは63枚、各地を探し回って手に入れたが全てではない。

 残り37枚。


「そのためにもまだファイターをやめるわけにはいかない」


「そうか……なにかあったら連絡してくれ、手を貸すぜ」



「戦友だからな」



「ククッ、感謝する。己も同じ気持ちだ、力になれることならなんでも連絡してくれ。飛んでくる」


「アンタ本当に闇のファイターに向いてないと思う」


「よく言われる」


 言われるんだと呆れる少年。

 だが、事実だ。

 変わり者だからな、己は見ての通り。


「ではな」


 そろそろ警察か、教会辺りのものが嗅ぎつけてくるだろう。

 残った説明を任せるのは心苦しいが、時間切れだ。


「そういえば」


 用意しておいた車の元へと足を進めようとして、ふと思い出したことがあって振り向いた。


「うん? なにか忘れ物か」


「いや、見事なデッキだったと言い忘れてた」


「ああ。ありがとう、これはいいデッキなんだ。俺もまだ完全に使いこなせてるわけじゃないんだが」


 なるほどなるほど。

 まあたしかにな。



「――




「はいっ?」


















――――――――――――――――――――――――――――――


 大丈夫、ボクらがいるさ。


            ――電光のカミーユ

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