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【読書メモ】『赤毛のアン』再読中⑧マリラの変化とその後の消息

 この記事は引用が多いこともあって、わりと長めです。5,000字を超えてしまいました。お時間に余裕がある時にどうぞ。

 ヘッダーは、1979年にフジテレビの世界名作劇場で放送されたアニメ『赤毛のアン』の一場面から。画面左のおばさんがマリラ・カスバート。アンの育ての親です。
 参考までに、この春NHK Eテレで始まる『赤毛のアン』が原作のアニメ『アン・シャーリー』のマリラのお顔はこちら↓。どちらのキャラクターデザインも、厳格で神経質そうな顔立ちです。これらの絵には、マリラの性格がわりと良く表れている感じがします。

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NHK公式サイトより

 孤児院にいたアンが引き取られたのが、グリーンゲイブルズと呼ばれる家。この住人がマシューとマリラの兄妹です。アヴォンリーという村で農園を営んでいます。
 この時マシュー60歳、マリラは50代。気がつくと私はマリラと同じかそれ以上の年齢になっていました。
 なので、今『赤毛のアン』を読むとアンよりもマリラの方に感情移入してしまう。大人になってから読む『赤毛のアン』は、子供の頃にアンの目線で読んだ時とは大きく味わいが違うのです(という話は以前も記事に書きました。今回の記事は、その時の記事と少し重複するところがあります)。


 農園で働かせるために男の子を引き取るつもりが、手違いで女の子のアンがグリーンゲイブルズにやって来てしまったところから物語は始まります。
 農作業には不向きなアンを引き取ることに、マリラは最初反対します。

「私はうるさい子どもが嫌いですからね。孤児の女の子などほしくもないし、かりにもらうとしても、あの子は性にあいません」

『赤毛のアン』第3章より

 しかし、想像力に富んだアンのおしゃべりを聞いているうちに少し興味が出てきます。子供のいない初老の兄妹の暮らしは単調。人づきあいも限られていて、アンのような明るくてよく喋る子がやって来てすごく刺激になったはずです。

「確かに面白い子ではあるがね。私ときたら、今ではあの子が次に何を言い出すか、心待ちにしているありさまだ」

『赤毛のアン』第4章より

 マリラはアンから生い立ちを聞くと、追い返すのがかわいそうになって、アンを養育することに決めます(女の子が苦手なはずのマシューはアンの魅力にイチコロになっていて、引き取ることにはすでに乗り気)。

 マリラはアンと生活を共にするうちに情も移ってきます。
 容姿をけなしたリンド夫人にアンが暴言を吐いてしまい、そのお詫びに2人で出かけた帰り道、アンが不意に手をつないできました。

 アンのやせた小さな手を握って歩いていると、マリラの胸に、なにか温かくて懐かしいものが湧き上がってきたー今までは縁のなかった母性愛のときめきなのかもしれなかった。そんな心地はあまりに不慣れで、甘やかで、マリラはうろたえた。

『赤毛のアン』第10章より

 アンが手を握ってきた時、「きゅん」としちゃったんですね。マリラは平常心を取り戻そうと、慌ててアンに教訓を垂れたりしています。素直になればいいのに。

 ある日、アンは屋根から転落して足を骨折。大人たちに抱えられてグリーンゲイブルズに運ばれてきます。

 それを見た瞬間、マリラは、天の啓示を受けた。ぐさっと胸を突き刺すような不安に突然おそわれ、その時、アンが自分にとってどんなに大切か、悟ったのだ。アンのことが好きだ、いや、アンをとても好きだということは、マリラも認めていただろう。しかし今、死にものぐるいで坂をかけおりながら、アンはこの世でいちばん愛しい子だと思い知ったのだった。

『赤毛のアン』第23章より


 ここで、マリラはアンが自分にとってかけがえのない存在だとはっきりと自覚したんですね。

 マリラのアンに対する愛はさらに深まっていきます。
 アンがダイアナと4日間町に泊まりに行って帰宅した日。マリラはローストチキンを用意して待っていました。

「あんたが帰ってきてくれて、嬉しいよ。本当だよ。あんたがいなくて、寂しくてたまらなかった。こんなに長い4日間は、初めてだったよ」

『赤毛のアン』第29章より

 アンはたった4日間遊びに行っていただけなのですが、当時としてはすごいごちそうである新鮮なチキンを焼いて帰りを待っていたところにも、マリラの気持ちがあらわれています。
 また、はじめのうちは「虚栄心を増長させるだけ」だと華美な服装をさせない方針だったのが、この頃になるとマリラはアンに最新流行のかわいい服を作ってやるようになります。

 しかし、マリラはアンを愛していることを自覚できるようになっても、愛情表現はまだまだ苦手。

愛情とは、言葉にして話し、顔つきでも表して、わかりやすく伝えるべきものだが、そうした愛の知恵をマリラはまだ身につけていなかった。

『赤毛のアン』第30章より

 生身の人間を強く愛することは何か罪深いことのようにマリラは考えていて、その「罪滅ぼし」のためにアンに対してわざと冷淡かつ厳しく接するようなところがありました。生まれつきの性格と習慣はそう簡単には変わりません。
 そのため、アンは自分があまりマリラから愛されていないと思っていました。

アンのほうでは、どんなにマリラが自分を愛しているか、わかっていなかった。マリラは気むずかしく、気持ちを理解してくれないし、話も通じないと、思い悩むこともあった。しかしそのたびに、どんなにマリラの世話になっているか思いかえして、自責の念にかられた。

『赤毛のアン』第30章より

 マシューのほうは、アンへの愛を隠せなかったんですけどね(それはそれで不器用)。

 やがて、アンは成長し、子供ではなくなってゆく。マリラより背が高くなったアンを見てマリラは泣けてきます。

何かを失った気がして、無性に哀しかった。

『赤毛のアン』第31章より

 アンが進学のためにグリーンゲイブルズを離れる日の前にも

「おまえさんの小さかった頃を、ついつい思い出したんだよ。できるものなら、小さな女の子のままでいてほしいと思ったんだよ、たとえ変ちくりんなことばかりするあんたでもいいからね。それが今じゃ、こんなに大きくなって、遠くへ行ってしまうんだね」

『赤毛のアン』第34章より

と言っては泣く。アンが町へ発ってしまった夜は

マリラは胸が締めつけられるように悲しくなり、枕に顔を埋め、アンを想ってむせび泣いた。

『赤毛のアン』第34章より

 血はつながっていないけれど、マリラにとってアンはもはや我が子同然。子供がいない私にはこうした経験はありませんが、大きくなったお子さんを遠くに送り出したことのある方なら共感してしまうのではないでしょうか。

 物語の終盤、マシューが急死。それがきっかけとなって、マリラはついに、アンに対する愛情を口に出すのです。

「ああ、アン、私はずっと、何と言うか、頑固者で、あんたに厳しかったかもしれないと我ながら思うよ…だからといって、マシューほどあんたを愛していなかったなんて、思わないでおくれ。今なら言えそうだから、言うよ。自分の気持ちを口にするのはずっと苦手だったけれど、こういう時なら、言えそうだからね。私はアンのことを、血と肉を分けた実の娘のように愛しているんだよ。グリーン・ゲイブルズに来た時からずっと、アンは私の歓びだった、心の慰めだったんだよ」

『赤毛のアン』第37章より

 マリラはようやく、素直な気持ちを言葉でアンに伝えることができました。マリラもここまで「成長」したんだな(←上から目線)と感じられる場面です。

 ちなみに、少なくとも私の周囲では「愛している」だなんて言ったり言われたりする習慣がありません。もしそんな言葉を親や夫から言われたりしたら何事かと仰天するでしょう。言葉で愛情表現する場合、文化が違う日本では、マリラくらい控えめでもあまり問題はないような気がします(わざと冷淡な態度をとるのはいただけませんが。ストレートな表現は小っ恥ずかしくてちょっとなあ。上手に気持ちを伝えられるようになりたいものです)。

 このあと、アンは地元アヴォンリーの学校で教師を務めたあと、カナダ本土の大学に進学。マリラはグリーン・ゲイブルズで友人のリンド夫人と共同生活を送り、遠縁の子供を引き取って養育したりもします。

 マリラはふと来し方を思います。

不幸ではなかったが窮屈だった子供時代、いろいろな夢を用心深く胸に隠しているうちに希望もしおれていった娘時代、その後は、灰色に塗り込められた、人づきあいのせまい、単調な歳月が、平板な中年時代に長くつづいた。しかし、そこへアンが来たのだー愛情深い心と空想の世界をそなえた、生き生きして、想像力豊かで、活発な子どもが、いろどりと温もりと輝きをもたらし、荒野のようだった人生に薔薇の花を咲かせたのだ。マリラは、60年の人生のうち、生きていたと言えるのは、アンが来てからの9年間しかなかった気さえした。

『アンの愛情』第22章より

 たぶん、マリラはアンを養育する中で、アンを愛する喜びを知るとともに、自分自身の人生を生き直すことができたのではないか、と思うのです。

 アンが帰省する予定の前日。

 台所の扉が開いた。リンド夫人だろうと顔をあげると、アンが立っていた。すらりとして、星のように目を輝かせ、両手いっぱいにメイフラワーとすみれの花を持って。
 「アン・シャーリー!」思わずマリラは叫んだ。驚きのあまり、生まれて初めて自制心を忘れて、わが娘を両腕にかかえ、花束ごと抱きしめると、つややかな愛らしい顔に熱烈なキスを浴びせかけた。

『アンの愛情』第22章より

 マリラはもう、言葉だけでなく全身で愛情表現を炸裂させています。最初の頃の愛想のないマリラを思い起こすと、えらい変わりようです。

 アンは大学卒業はプリンス・エドワード島に戻り高校の校長になります。グリーン・ゲイブルズから離れて下宿生活をしますが、休みにはわりと頻繁に帰省していました。

 やがてアンが嫁ぐ日がやって来ます。結婚式のあと、アンを乗せた馬車が去っていくのを見えなくなるまでマリラは見送りました。

アンが、行ってしまったーグリーン・ゲイブルズは、もう、あの子の家ではないのだ。その家にむき返ったマリラの顔は灰色にくすみ、年老いていた。この家を、アンは14年にわたって満たしてくれた。あの子はたとえ不在であっても、光と生命力で家を満たしてくれたのだ。

『アンの夢の家』第4章より

 マリラの寂しさを思うと読んでいる私まで泣けてきます。
 そういえば自分が結婚した時はどうだったかなと思い出してみたんですが、私の母はなんだか肩の荷が下りてホッとしていた感じでした。リアルな母娘関係だと、責任やら期待やらで重圧が生じてしまい、マリラとアンのようなピュアな愛情を育むのが難しい場合もあるかもしれません。

 その後マリラはアンの出産の時に泊まりがけで付き添ったり、アンが子供たちを連れて里帰りしたりなど交流はあったみたいですが、アンの結婚後はマリラに関する記述が少なくなっていきます。

 一時は失明するかもしれない眼病にかかったりしたものの、マリラは結構長生きし、少なくとも85歳までは生存していたことが確認できます。
 アンの友人、ミス・コーネリアとのよもやま話の中でマリラの消息が話題になっていました。

「マリラは85歳になりました」アンはため息をもらした。髪は雪のように白くなって。でも不思議なことに、目は60歳のころよりいいんです」

『虹の谷のアン』第2章より

 そんな歳になっても目が大丈夫だなんて羨ましいです。

 アンの末娘はリラといいます。これは通称で、本名はバーサ・マリラ。アンの産みの母バーサ・シャーリーと、育ての母マリラ・カスバートから名づけられています。
 そのリラが主人公の『アンの娘リラ』にこんな記述があります。

ウォルターがリラにつけたあだ名は「リラ・マイ・リラ」ー本名のマリラをもじったものだ。この本名は、グリーン・ゲイブルズのマリラおばさんからつけられたのだ。しかしおばさんは、リラが幼いころに亡くなり、リラはおばさんをよく知らず、この古めかしくて堅苦しい名前が嫌だった。

『アンの娘リラ』第2章より

 いつの間に、マリラは死んでいたんですね。マリラ臨終の場面を読んだら私、また泣くだろうなと思っていましたが、意外とあっさり片付けられていて少し拍子抜けしました。
 でもリラにとってはマリラは遠い存在。アンの長男なんかは特にマリラのお気に入りですごく可愛がられていましたけれど、リラにはそういう記憶がないのだから仕方ありません。
 リラは、ひょんなことから孤児の赤ちゃんの面倒を見ることになり、10代で早くも母性愛に目覚めたりしているのですが、そういうところは伊達にマリラの名前を引き継いでいるわけではないな、と感じます。

 今回はマリラという登場人物に焦点を当てて書いてみました。ここまでお読みいただきありがとうございました。

※文中の引用は、文春文庫のシリーズを使用しています。

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アンの物語は長編だけで8巻あります
いつきさんの〈本〉バージョンの賑やかし帯
早速使いたくなりました♡

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コメント

22

エムフジンスカちゃま、いま、アニメのアン・シャーリーの第3話を観たところです。
だんだんとアニメに慣れてアンの雰囲気も好きになってきました😘💕

文庫本は、まだ炉辺荘のアンのまま、停滞しておりまつ😅

今は緑が綺麗な季節🍀
外を歩くだけでも楽しいですよね🌿🎵
夫は福岡だし、近所のカフェに一人で珈琲を飲みに出かけようかしらん、、

もちろん、炉辺荘のアンを持って行きまつね~☕

M夫人
M夫人

ノンシャラン・まりりんさま
新しい番組は慣れてくるまで少し時間がかかりますよね。赤毛のアンは本で読んでいるからまだいいですが、オリジナルのドラマなんかだと登場人物の顔と名前が頭に入るまでたいへんでつ😂

新緑の下をお散歩してカフェで読書とは素敵な休日でつね☕️📖満喫して下さいね🥰

エムフジンスカちゃま、カフェでアンを読んできました‼️
思っていたより、集中して読めました😉☕
癖になるかも🎵

M夫人
M夫人

癖になります(´艸`)

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