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図書館は「答え」をくれる場所から「確かめ方」を支える場所へ

― 都立中央図書館の基本方針(案)から考える、レファレンスとデジタル・シティズンシップ ―

都立中央図書館の基本方針(案)が示されるまで

都立中央図書館は、有栖川宮記念公園(港区南麻布)にあり、築50年を超えて老朽化が進んでいます。現地での拡張建て替えが難しいことから移転が決まり、移転先として、旧こどもの城などを含む渋谷区神宮前五丁目地区の都有地が選ばれました。この区域は、都有地を定期借地権で民間事業者に貸し付け、事業者が設計・建設を担い、図書館の建物部分は都が買い取って運営する方式が想定されています。

2025年4月、東京都教育委員会は「都立中央図書館の在り方」を策定し、「Library for Creation(創造・交流図書館)」というコンセプトと新しい図書館像を示しました。同じ時期にまとめられた「神宮前五丁目地区まちづくり方針」では、図書館は「智の創造拠点」づくりの軸と位置づけられています。これらと有識者会議の議論を踏まえ、2026年6月、「都立中央図書館整備に係る基本方針(案)」が公表され、6月末まで都民の意見を募集しています。

本稿は、このパブリックコメントの機会に、デジタル・シティズンシップ教育(以下、DCE)の観点から基本方針(案)への提案を述べるものです。

基本方針(案)は図書館を広げようとしている

基本方針(案)は、図書館を蔵書・閲覧・貸出の場にとどめず、知と出会い、学び、創造し、交流し、発信する場として捉え直しています。"Library for Creation"という方向性は、ヘルシンキのOodiなどに象徴される近年の公共図書館の動向とも重なります。

この方針の意義は、従来の都立中央図書館がもつ蔵書、レファレンス、資料保存、東京資料、広域支援といった強みを土台に、図書館をより開かれた知的公共空間へと拡張しようとする点にあります。

旧こどもの城の場所に立つことの意味

新しい都立中央図書館は、旧こどもの城を含む神宮前五丁目地区に整備されます。こどもの城は、遊び、身体、芸術、造形、音楽、仲間づくりを通じて、子どもの創造性や社会性をはぐくむ場でした。

新しい図書館は、こどもの城を復元する施設ではありません。
けれども、その場所の記憶を引き継ぐのであれば、子ども・若者をどう位置づけるかが問われます。来館者やイベント参加者としてだけでなく、調べ、つくり、発信し、公共空間をともにつくる主体として迎えられるか。

かつて遊びが子どもの可能性をひらいたように、これからの図書館では、情報、メディア、デジタル技術、資料、対話が、子ども・若者と社会をつなぐ足場になり得ます。

生成AIがレファレンスの前提を揺るがした

近年、図書館の専門性は、蔵書そのものよりも、デジタルを含む情報へのアクセスを支えるレファレンスにあると考えられてきました。利用者の問いを受けとめ、適切な資料や情報源にたどり着けるよう導くことが、図書館の大きな役割になってきたからです。

ところが、生成AIの登場でこの前提は大きく揺らぎました。利用者は来館前から、AIによる要約、説明、文献候補、判断材料を手にできます。困りごとは、情報が見つからないことばかりではありません。すでに目の前にある「答えらしきもの」を、どこまで信じてよいか分からない――そこに新しい難しさがあります。

そこでレファレンスは、「答えを探す」支援から「答えらしきものを確かめる」支援へとおよぶ必要が出てきます。司書がすべての正解を保証するわけではありません。利用者が自分で判断できる状態を整えること、すなわち出所や根拠を一緒にたどり、確かめられるようにすることが、いっそう重みを増します。

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「確かめる」は、ただの情報スキルではない

注意したいのは、「情報の確かめ方」を検索スキルやファクトチェックの技術に縮めてしまわないことです。もちろん、出典を確認する、一次情報にあたる、複数の資料を比べる、統計の読み方に気をつける、といった技術は欠かせません。

DCEの観点から見ると、情報を確かめることは、個人のスキルである以上に、他者とともに社会を考えるための条件です。

ある情報を信じるかどうかは、個人の判断に見えます。しかしその判断は、誰かを傷つけ、排除し、誤った理解を広め、あるいは誰かの声を見えなくすることがあります。生成AIやSNSが情報の入口になる時代には、情報判断は私的な行為であると同時に、公共的な行為でもあります。

だから図書館が支える「確かめ方」は、正誤判定にとどまりません。
異なる立場の資料に触れること、根拠の強さと弱さを見分けること、自分の見方がどの情報環境に影響されているかを意識すること、発信する前に出典・権利・更新時期・公開範囲を見定めること。こうした幅をもった営みです。

レファレンスとDCEは、まさにこの点で結びつきます。DCEは図書館に付け足す啓発プログラムではなく、生成AI時代に図書館が公共的な情報環境を支える専門機関であり続けるための基盤なのです。

DCEは図書館の役割を更新する視点

DCEというと、情報モラル≒学校で子どもにネット利用のルールを教えるもの、と受けとられがちです。本稿でいうDCEとは、情報社会のなかで、自分と他者の権利を尊重しながら判断し、表現し、参加するための考え方を指します。

この考え方は、これからの図書館に欠かせません。要点は、司書が答えを代わりに出すことよりも、利用者が情報の出所・根拠・限界・権利・影響範囲を確かめ、自分の判断として引き取れるよう支えることにあります。

蔵書をもつこと、検索を代行することだけでは、その役割は説明しきれません。利用者の判断する力を支えるところに、生成AI時代の図書館の核があります。

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"Library for Creation"に必要な設計条件

"Library for Creation"を掲げるなら、制作機材や発表スペースをそろえるだけでは不十分です。創造と発信を公共図書館として支えるために、基本方針(案)の各項目に対応する六つの設計条件を提案します。

提案1 AI回答や要約を検証できるレファレンス
(対応:図書館像「知を広げ、学びを深められる図書館」)
利用者が生成AIの回答、文献リスト、要約、統計、画像、動画を持ち込んだとき、それが何に基づくのか、出典は実在するのか、古い情報ではないか、異なる見解はあるのかを一緒に確かめられる支援が必要です。

提案2 社会的課題を横断するテーマ型情報基盤
(対応:図書館像「知を広げ、学びを深められる図書館」)
東京の子ども・若者、教育、福祉、防災、都市計画、多文化共生、ジェンダー、生成AI、環境といった課題は、一つの分類では扱いきれません。図書、行政資料、統計、議会資料、新聞、研究成果、地域資料、デジタルアーカイブを横断して使えるようにします。

提案3 発信の前に整える相談機能
(対応:図書館像「誰もが知的創造・発信を生み出せる図書館」/創造・交流機能)
作品や調査成果を公開するときには、引用、著作権、肖像権、個人情報、アクセシビリティ、AI利用表示、公開範囲を考える場面が出てきます。これは表現を萎縮させるためではなく、公共に向けて安心して発信するための支えです。

提案4 管理運営の設計――専門性を分断しない
(対応:施設規模等「管理運営の在り方」)
基本方針(案)は、レファレンスや選書を都の直営とし、新たに加える創造・交流機能には指定管理者制度など民間活力の活用も想定しています。
気をつけたいのは、発信支援にともなう出典・権利・AI利用表示の確認という公共的な役割が、民間運営の創造・交流機能の側で軽くならないようにすることです。直営のレファレンスがもつ専門性と、創造・交流機能とを運営上つなぐルールを、設計段階で組み込むことを提案します。

提案5 人が集まることを公共的な対話へ深める空間
(対応:図書館像「世界都市東京の『知の広場』となる図書館」/交流機能)
人が集まることは大切ですが、集まりそのものが公共的な学びになるわけではありません。資料を見比べ、立場の違いを確かめ、専門家や当事者の声に触れ、結論を急がずに考える。調査、少人数の対話、公開発表、展示・記録が連続する設計が求められます。

提案6 子ども・若者を共同制作者として迎える
(対応:図書館像「誰もが知的創造・発信を生み出せる図書館」/旧こどもの城の立地)
旧こどもの城の場所に立つのなら、子ども向けプログラムを実施するだけでは足りません。子ども・若者が、自分たちの関心から調べ、展示し、発信し、図書館の活動や空間づくりに関われる仕組みが必要です。この点に関しては、ロジャー・ハート「子どもの参画」が示唆的です。

これらは、開館後のイベントに委ねればよい話ではなく、空間設計、資料構成、専門職体制、デジタルサービス、運営ルールにかかわる、基本設計の条件です。

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図書館ルネサンスを、にぎわいから公共性へ

近年の公共図書館は、居心地のよい滞在空間、イベント、ワークショップ、カフェ、展示、交流に力を入れるようになりました。これは大切な変化です。図書館が静かに本を読むだけの場所から、人が知と出会い、他者と関わる場へとおよんできたからです。

ただ、その変化が「にぎわい」や「おしゃれな複合施設」にとどまるなら、図書館の公共性は十分に生きません。生成AI時代に求められるのは、情報があふれる社会のなかで、根拠を確かめ、異なる立場を読み、権利に配慮して発信し、他者と考えを交わせる場所です。

基本方針(案)には、その可能性があります。豊富な蔵書、高度なレファレンス、東京資料、行政資料、デジタルアーカイブ、区市町村立図書館への支援といった強みを土台にできるからです。

だからこそ、"Library for Creation"は、創造や交流を促す施設コンセプトにとどめず、生成AI時代の公共図書館の役割として深めたい。

これからの図書館は、答えを手渡す場所でも、AIのようにもっともらしい答えを返す場所でもありません。私たちが答えらしきものを前にしたとき、それをどう確かめ、どう使い、どう発信し、どう他者と考え合うのか。そこを支える場所になっていきます。

その問いに向き合ううえで、都立中央図書館の基本方針(案)は、図書館が情報社会の公共インフラとして何を担うのかを考える、またとない機会です。


参考文献

  • 東京都立図書館. 《御意見募集》「都立中央図書館整備に係る基本方針(案)」について. https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/guide/information/7485_20260602.html

  • ロジャー・ハート著,木下勇・田中治彦・南博文監修,IPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)日本支部訳『子どもの参画――コミュニティづくりと身近な環境ケアへの参画のための理論と実際』萌文社,2000年.原著は Roger A. Hart, Children's Participation: The Theory and Practice of Involving Young Citizens in Community Development and Environmental Care, Earthscan / UNICEF, 1997.


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