法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

アニメ映画『百日紅~Miss HOKUSAI~』で、原作漫画と違って着物におはしょりをしているのは、考証ミスではないかもしれない、という話

 葛飾応為を主人公にした杉浦日向子の歴史漫画『百日紅』を、2015年に原恵一監督がアニメ映画化したことがある。

 アヌシーで審査員賞を受けるなど、ひとつの作品としての評価は高く、実際に視聴しても良いアニメだと思って2017年のオールタイムベストテン映画に私選したが、ひとつ引っかかる話題があった。
映画オールタイムベストテン:2017〜アニメ限定〜 - 法華狼の日記
 それは予告映像が公開された時、当時の女性は着物に長さを調節するためのひだ、通称おはしょりを作らないという指摘が原作の愛読者から複数あったことだ。
■篠田桃紅と百日紅 : Metropole Muffin★メトロポール・マフィン

画像、Trailerを見て愕然。主人公は葛飾北斎の娘・お栄(後の葛飾応為)なのだが、その姿がおかしい。きものにおはしょりがあるのだがおかしい。
江戸の町娘、それも北斎の娘だもの。自らも描き、北斎の面倒を引き受けていた気丈な娘の日常の姿、きもの姿におはしょり有りはおかしいでしょうに。
杉浦日向子が生きていたならば「そこは対丈で、戻しましょう・・・・」と言っていたと思うのだがなぁ。


映画化される「百日紅」の着付けについてまとめられてる…>RT
では、ここで原作の杉浦日向子さんの描いたお栄の着付けを見てみましょう。丈が短い時はおはしょりも腰紐も無しです。
漫画の抜粋画像。庭に立つ着物姿の女性の全身をおさめた画像で、おはしょりをしていない。


【百日紅】 杉浦日向子というより、わたせせいぞうの世界みたいだった。ハートカクテルお江戸編。櫛の挿し方がおかしいなと思ったら、それだけでなく、着物も江戸期にはない"おはしょり"があるなど、考証も雑。音楽もなんだか困惑するし、脚本もぼんやり。杉浦日向子が生きてたらと、思うほかない。


アニメの「百日紅」でお栄さんの着物がおはしょりしてるのが、まだ気になる。原作では紐でたくし上げてる場面があるんだけどね。事実、おはしょりは北斎やお栄さんの時代では作らずに着付けていた。

 たしかにコトバンクなどで確認すると、おはしょりが現代のかたちに成立したのは明治中期といった記述がされている。
おはしょりとは? 意味や使い方 - コトバンク

江戸時代前期までは、小袖(こそで)は対丈(ついたけ)(着丈)に仕立てられていたが、中期には身丈が長くなり、室内では裾を引いていた。外出のときは「裾からげ」といって、抱え帯(しごき)を締めてたくしあげ、裾を短くして歩行の便を図った。今日のような形におはしょりをするようになったのは、明治中期になってからである。

 そもそもフィクション性の高い時代劇だけでなく、それなりに考証にこだわった歴史劇でも女性が鉄漿をしている映像作品は少ないように、当時とは異なる情景が必ずしも作品の致命的な問題になるとは思わない。
 ……思わないが、少し引っかかる情報であったことも事実ではあった。


 しかし公開された十年前は批判か許容という評価ばかりだった記憶があるが、2018年になると、あえて着崩していることを普段着らしい描写として高評価するものがあった。


着物の着付けで思い出したんだけど、百日紅でお栄が着ている着物は基本的におはしょりの形が悪いのにめちゃくちゃ感動したんだよ。普段着てる着崩れが前提のものだからきちっとしてないんだってのがわかって最高なの

 そして先日、着物は過去は普段着であって、日常においては手軽な処理ですまされていたという話題で、江戸末期という着物の写真を見かけた。


着物なんて観光葬祭以外適当に着たらええねん 元々普段着やぞ

見ろ 幕末頃の写真を
着物姿の三人の女性が立っているモノクロ写真。三人ともおはしょりをしている。

 見てのとおり、帯の下におはしょりがあり、それもかなりゆがんでいる。
 体の向きや姿勢などが少しずつ異なっているので、かしこまった状況での撮影ではないとは思う。しかし写真に残すという過去には貴重な機会で、三人ともが極端にずぼらな姿をさらしているとも思いがたい。
 さらに『「おはしょり」形成の過程 』という論文で、浮世絵や写真を引用しながら変遷が考察されていて、江戸後期から末期には現在に通じるかたちもふくめた過渡期だと指摘されていた*1
https://bunka.repo.nii.ac.jp/record/590/files/001031649_02.pdf
 これならば江戸後期が舞台の『百日紅~Miss HOKUSAI~』で、特にかしこまった立場でもない主人公が日常でおはしょりをしていても、必ずしも誤った情景とはいえないのではないだろうか。

*1:ノンブル11頁。