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大阪といえば、2025年に「大阪・関西万博」で世界から注目を集めた街。しかし実は、ドラマや映画の撮影地には「意外と選ばれていない」都市でもあります。そんな大阪を舞台に、文学と謎解きが交差するドラマが放送されました。
6月10日に最終回を迎える、ドラマ『月夜行路 ―答えは名作の中に―』(日本テレビ系列)。波瑠さん演じる文学オタクであるバーのママ「野宮ルナ」と、麻生久美子さん演じる専業主婦の「沢辻涼子」の異色バディが、数々の文学作品のストーリーを追いながら謎を解決するという、異色の「文学ロードミステリー」です。
事件の舞台を巡りながら、近松門左衛門や谷崎潤一郎といった数々の「文学作品の舞台」を追うのですが、視聴者も一緒に作品の世界観に浸ることのできる、まさに「聖地巡礼」の世界です。数々の名作をオマージュした現代のストーリー展開に唸る文学ファンも多く、筆者も毎回注目していました。
前半「大阪編」(第1〜5話)では、大阪の街を2人が訪れました。本稿でも、過去の名作の舞台地を巡礼してみたいと思います。
大阪の歴史と文学の香りを感じる「キタのロケ地」
まずは「キタ」の玄関口であるJR大阪駅前の「梅田新歩道橋」。谷崎潤一郎に憧れる「ルナ」が「卍」のポーズをとる場所が、この歩道橋です。
阪急うめだ本店や阪神梅田本店など、大阪を代表するデパートをバックにした大阪駅エリアを象徴する場所で、よくバラエティ番組の街頭インタビューにも登場しています。大阪駅の反対側には、今開発中で話題の新スポット「うめきたエリア」があります。
そんな大阪駅からすぐ、梅田新道を渡って反対側にあるのが、『曽根崎心中』に登場する「露天神社(お初天神)」です。
『曽根崎心中』は、江戸時代に実際に起きた心中事件をもとに、近松門左衛門によって書かれた浄瑠璃作品。遊女「お初」と商人「徳兵衛」による悲恋のストーリーですが、同所は、恋愛成就の神社としても親しまれてきました。
境内には「お初」と「徳兵衛」の像があり、作品の世界観に没入できる聖地巡礼スポットとなっています。ドラマ第1話では、大阪にやってきた「涼子」と「ルナ」が最初に訪れた場所として印象的に登場しました。
周辺はアーケード商店街や飲食店、ホテルが立ち並ぶエリアとなっていますが、ここだけが独立した別世界で、大阪の歴史を感じる貴重な場所です。
「谷崎潤一郎の名作」の舞台地が…
さらに、梅田駅から地下鉄御堂筋線で1駅、淀屋橋駅から歩いて10分ほどの場所にあるのが、道修町(どしょうまち)の「春琴抄(しゅんきんしょう)の碑」です。その名も『春琴抄』(谷崎潤一郎)ゆかりの地で、本作第2話に登場しました。
同作は、盲目の女性「春琴」と、彼女に仕える「佐助」によって紡がれた美しい作品で、その世界観は本ドラマのストーリー展開にもつながっています。
道修町は昔から薬問屋の街として栄えており、現在では多くがビル街に変わってしまったものの、武田薬品工業、塩野義製薬、小林製薬、田辺ファーマ、住友ファーマ、少し離れて小野薬品工業など、日本を代表する製薬会社の本社が並び、街角に当時の面影を感じることができます。
そして、大阪のシンボルといえば「通天閣」。大阪駅からはJR大阪環状線で新今宮駅、梅田駅からは地下鉄御堂筋線の動物園前駅で下車し、それぞれ繁華街を歩いて10分ほどで到着します。お膝元である「通天閣本通商店街」は、本ドラマでも登場しました。
江戸川乱歩による明智小五郎シリーズの1つ、『黒蜥蜴』の舞台地である通天閣。宝石の受け渡しをした場所として、今でもミステリーファンが訪れています。
また、お膝元の商店街にある「串かつだるま 通天閣店」もドラマ第3話に登場しました。食い倒れの街・大阪の「食」を代表する店舗で、新世界総本店は外国人観光客にも絶大な人気を誇ります。
「西成エリア」のイメージが一変
最寄りの新今宮駅周辺といえば、ディープな大阪を感じられる「西成エリア」。大阪市では21年に「新今宮エリアブランド基本戦略」を策定。近年は星野リゾートによって大型リゾートホテル「OMO7大阪」(総客室数)が開業し、それまでの街のイメージが一新しました。
最後に、新今宮駅からJR大阪環状線で1駅の天王寺駅から、路面電車の阪堺電車で向かうことのできる「住吉大社」へ。
全国に2300社ある住吉神社の総本社であり、初詣には200万人以上の参詣者が訪れます。「住吉っさん(すみよっさん)」として親しまれ、今作でもロケ地として登場しました。
第5話で「涼子」と「ルナ」が皆既月食を一緒に見たシーンのロケ地が、住吉大社の象徴である「反橋(そりはし)」です。
境内の正面神池に架かる太鼓橋で、朱色の欄干と石造りの橋脚が特徴。橋の長さは約20m、幅は約5.5m、中央の高さは約3.6mで、最大傾斜は約48度というかなりの急傾斜です。川端康成の短編小説『反橋』の舞台としても知られています。
ドラマでも、「ルナ」が作品にちなんで「この反橋はわたると心が浄化される、という言い伝えがあります」と、過去との決別を語るシーンは印象的です。
大阪でロケをした場合の「直接的経済効果」
大阪では00年に「大阪フィルム・カウンシル」が設置され、現在でも大阪観光局内で活動しています。
「映像による国内外への知名度向上」「集客力強化」「映像産業の発展」などの地域活性化を目的に、大阪府・大阪市・大阪商工会議所などの地元行政・経済界によって設立・運営され、大阪での撮影の受け入れや各種手配などを行います。
ではロケを誘致すると、どれくらいの経済効果があるのか。
12年の映画『黄金を抱いて翔べ・FLY WITH THE GOLD』での「直接的経済効果」は、35日間のロケで、地域に総額5530万円の経済効果が発生した(宿泊費・食事代・移動経費・製作委託費・機材利用費を含む)と発表されています。
また、アニメ映画『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 完結編 第2章』(25年)では、大阪府内の40カ所以上の場所が取り上げられました。
「舞台地は『大阪フィルム・カウンシル』が提案し、細かいコンテの制作も行いました。結果、『難波八阪神社』(浪速区)など、“聖地”と呼ばれる場所に多くのファンの方がお越しくださっています」(大阪フィルム・カウンシル担当者)
特に「西の秋葉原」とも呼ばれる日本橋の「コピマルコーヒー」には、ファンが殺到。交流ノートが設置されるなど、多くの「聖地巡礼効果」が生まれています。
担当者によると、全国放送のドラマや映画の撮影は、アクセスのよさからか圧倒的に首都圏が多い状況だといいます。映画『道頓堀川』(1982年公開)、『ナニワ金融道』(05年、22年)や『プリンセス トヨトミ』(11年)など、「大阪がメインの舞台になる作品」以外は撮影される機会が少ないとのこと。
それだけ大阪の放つ文化イメージのインパクトが大きい、ということでしょう。
「実は『月夜行路』でも、作中に出てきた場所以外に道頓堀などもっと多くの場所が候補地になっていました。ただ制作会社の方々も、大阪の繁華街がこれほどまでににぎわっていることは想定外だったようで、
「東京ではできないこと」を"義理と人情の街"で実現
では、大阪で撮影できる作品は限られるのかといえばそうでもなく、「東京での撮影が難しい」ロケについて多くの相談が来るといいます。
近年でも、大ヒット映画『国宝』(25年)が撮影されたことで知られています。
大阪市内にある昔ながらのキャバレー「グランドサロン十三」や、東大阪市のレトロな集合住宅「安戸文化住宅」、さらに藤井寺市と柏原市の間に架かる「玉手橋(たまてばし)」で撮影が行われました。いずれも東京での撮影は難しい、大阪らしいロケーションです。
大阪は『曽根崎心中』の時代から続く「義理と人情の街」。撮影NGの施設であっても、大阪ならば内容によっては無理を聞いてくれるかも、という制作側の期待感があり、地元側も要望には極力応えようという風土がある、と担当者は話します。
また、大阪独特のネオンの雰囲気など、国内というよりは「アジアの大都市的なにぎわい」が特徴で、海外の大規模作品の撮影も多く行われています。
日本のフィルムコミッション設立のきっかけにもなった往年の名作『ブラック・レイン』(89年)から、『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』(21年)まで、いずれも大阪の街を存分に生かしたシーンが撮影されました。
そんな大阪を舞台とした貴重なドラマ『月夜行路』。現在は「東京編」に移っていますが、これまでの“謎”がどのように回収されるのか、最終回の放送を楽しみにしたいと思います。