モラハラで妻を支配した男性 「僕は歩く加害者」別居後も葛藤の日々
妻(41)は3人の子どもを連れて実家に行ったきり、帰ってこなかった。
3年前の夏休み。東京都内に住む太助さん(45)は、当初は「そのうち戻るだろう」と思っていた。でも新学期が始まっても、妻子が戻ってくる気配はなかった。
妻に連絡すると、弁護士を通じてメッセージが届いた。
「離婚調停を申し立てる。一切連絡しないでほしい。子どもにも会わせない」
「家族のため」と信じて妻を支配してきた男性は、なぜ自らをDV加害者だと認めるようになったのか。加害者更生への期待と現実を追います。
何でこんな勝手な行動を取るんだ――。怒った太助さんは車で3時間かけ、妻の実家に向かった。玄関先で子どもの名前を叫ぶと、義父母から「警察を呼ぶぞ」と拒まれた。
「当時の僕は、自分を『連れ去りの被害者』だと思っていました」
でもいま、太助さんはこう話す。
「僕は、家族を支配するモラハラ加害者でした」
「妻を叱るべき」とらわれた理想像
太助さんには、結婚後は男性が外で稼ぎ、女性は家のことをするべきだという理想の家族像があった。
15年前に結婚したとき、直接、妻に「仕事を辞めて欲しい」とは言わなかった。でも「子どもが家に帰ってきたときに、親がいないのは嫌だよね」とは伝えた。今考えれば、誘導したのかもしれない。
子どもが生まれてからは、さらに「あるべき家族像」にとらわれた。
「夫は妻ができないことを叱るべきだ」
「家族は楽しく過ごすべきだ」
妻が歩道で子どもの手をつながないと、「危ないじゃないか。なぜつながないのか」と叱った。それでも妻が思い通りに行動しないので、次第に口調がきつくなっていった。
仕事で悩みを抱えていたとき、ふと「辞めようかな」と漏らしたことがあった。妻が「辞めたらいいじゃない」と言うと、「辞めたら誰が稼ぐの?」「そんな無責任なことを言ったら駄目だろう」と問い詰めた。
太助さんが叱るたびに、妻はうなだれて、うなずくだけだった。
正論で囲い込み、反論を許さぬ毎日
いつしか妻と子ども3人が談笑しているところに太助さんが現れると、ピタッと会話が止まるようになった。
子どもに対しても、自分の思い通りに行動しないと、大声で怒鳴った。太助さんと向き合うと、子どもたちは直立不動になり、目をぐるぐる回すようになった。
正論で囲い込む。反抗は許さない。相手に逃げ場を与えない。
「いま思えば、鳥かごの中に家族を仕込んでいる感じでした」
あえて嫌われ役を買っているのだから、むしろ感謝してほしい。自分がこの家を支配しなければ、すべてがダメになる。そう信じていた。
これほど全身全霊で、家族と向き合ってきたのに――。突然、子どもを連れ去った妻には怒りしか感じなかった。
「自分は加害者だ」気づいた瞬間
Xで「連れ去り」「離婚訴訟」といったキーワードをひたすら調べ、同じ境遇にある男性たちと交流するようになった。
ただ、誰の話を聞いても、再び子どもと会えるようになった人は一人もいなかった。
自分は今すぐ、子どもと会いたいのに――。少しずつ疑問を感じ始めていたとき、「99%離婚 モラハラ夫は変わるのか」という本をXで目にした。
読み進めるうち、ページをめくる手が止まった。
夫は妻を正論で叱る。妻は夫の機嫌を絶えずうかがう。ある日、帰宅すると家の中が真っ暗だった――。
「これ、自分のことだ」
もしかしたら自分は、「連れ去り被害者」ではなく「モラハラ加害者」だったのではないか。
本の原作者の中川瑛さんが主宰する「GADHA」というDVやモラハラ加害者のコミュニティーに参加してみた。するとそこには、自分と同じような葛藤を抱え、自身の加害性と向き合おうとしている人たちがたくさんいた。
本を読んだり、加害者プログラムを受けたりする中で、少しずつ、「妻や子どもに申し訳ないことをした」という思いがふくらんでいった。
妻への謝罪、返ってきた言葉
GADHAに参加して数カ月後、謝罪の言葉とともに、離婚に応じ、養育費も支払うことを、弁護士経由で妻に伝えた。
「あなたがここまで変わるとは思わなかった」。妻は心底、驚いていた。
以来、弁護士経由ではなく、妻と直接連絡が取れるようになった。調停はいったん取り下げることになり、年に数回だが、子どもたちとも会えるようになった。
なぜ自分は「あるべき家族像」に縛られたのだろうか。思い返せば子どものころ、父は仕事ばかりでほとんど家におらず、母もパートで一緒に過ごす時間があまりなかった。
「本当は、父と河原でキャッチボールをしたかった」
そんな原体験が、理想の家族像につながったのかもしれないと思うようになった。
家族との時間、気が抜けない
GADHAの活動は今も続けている。それでも、自分の「加害者体質」が変わったとは思えない。
理想の父親像を手放すことは、過去の自分を否定することでもあり、簡単ではない。そのせいか、ふとした瞬間、相手にマウントを取ろうとしてしまう。
家族と過ごすときは、自分の一言が加害になっていないか、常に気を張るので気が休まらない。家族と別れると、ホッとする自分がいる。
かつてのように家族5人で住む日は来るのか。太助さんには、わからない。
「自分は『歩く加害者』だと思っているので、気を休めない方がいいのだと思います」
「職場と家庭の悪循環を止める」カンファレンス開催
配偶者に身体的・精神的暴力をふるうDV加害者が変わるための支援をするコミュニティーGADHA(https://www.gadha.jp/)は6月22日、「職場と家庭の悪循環を止める」をテーマにカンファレンスを開催する。東京・浜松町の会場とオンラインの同時開催。参加費は無料。申し込みはhttps://we-transform-2026.peatix.com/view
から。
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- 末冨芳日本大学教授=教育行政学視点いまなら試し読み
【自分の加害者体質に気づいて謝罪するのは並大抵のことではないのですが、え?養育費払ってなかったの?】Xの連れ去りアカウント、やはりお子さんと会えるようになった人は一人もいないでしょうね。自分の加害者体質に気づいて謝罪するのは並大抵のことではないのですが、褒めません。 だってお子さんと奥さんの恐怖と心の傷はもっと深いですから。 お子さんに怒鳴って、パニック症状まで起こさせたんですね、お子さんと奥さん、本当につらい思いだったでしょうね。 私がお子さんなら、あなたのような男のことを心から信頼することは二度とないでしょう。 それに気づいているからこそ、家族との時間で気を張っているのでしょう。 お子さんと奥さんの傷つきに比べたら、あなたが気を張ったところであなたが深く傷つくことはないのですから、どうか努力を続けてください。 この記事でびっくりしたのが、養育費も払わないでいた男が、子どもと会おうとしたところです。 子どもに対し責任をもって生きる親なら、養育費を払わない、ということはありえません。 子どもに会いたいなら、まず養育費を支払ってから言ってください。 共同親権を求めたり、連れ去り被害者を自称するすべての養育費未払い親に言いたいです。 岡崎さんの立ち位置がよくわからないのですが、被害者の傷つきの視点が弱すぎるなと感じています。
2026年6月7日 18:00 - 伊藤和子弁護士視点いまなら試し読み
DV・モラハラを理由とする離婚相談は減る気配がありません。 DVは旧来、身体的暴力のみと考えられてきましたが、精神的DVや経済的DV、性的DVもDVの範疇に含まれると理解されています。そして、最近のDV法改正により精神的なDVに関しても保護命令が認められるようになりました。 精神的なDVと紙一重なのが、モラルハラスメントであり、記事にある「正論で囲い込む。反抗は許さない。相手に逃げ場を与えない。」というのは典型的なモラルハラスメントと言えます。妻のいかなる失敗も許さず、反論しても論破する、数時間にわたり説教を続ける、見下した言葉を投げかける、全てお前のせいでお前が悪い、といった夫の言動は、対等な人間関係とはかけ離れたもので、妻や家庭全体をコントロール・威圧するものです。一切暴力を振るわず、声を荒げていなくとも、自身のルールや正義感にこだわり、理詰めで妻を執拗に責め続ける態度は確実に妻を精神的に追い詰め、人間としての尊厳を毀損します。 限界に達した妻が、子を連れて別居すると、今度は「子の連れ去り」などと、離婚調停や訴訟でも人格攻撃し続けるケースが多く、いつまでも母子を自己のコントロールに置こうとする姿勢が垣間見えます。挙句、離婚後も自身の問題性に気づくこともないまま、子どもからも疎まれ、男性が一人孤独な人生を歩む結果になる事例を多くみてきました。誰にとっても不幸で、どこかでマインドセットを変えることができないのか、と痛感します。 この記事の当事者は、加害者コミュニティに参加し、気づきを得たようですが、そうした事例が増えてほしいものです。 日本では被害者支援も十分でないと同時に、加害者支援も非常に遅れており、加害者(特に自身が加害者であることを認めることができない当事者)へのアウトリーチが課題となっているように思います。自身の加害性に気付くことで、見えてくる景色はずいぶんと違うはずです。様々な取り組みが期待されます。 そして、記事にあるような配偶者のモラハラの被害者、特に女性にも、アウトリーチが必要です。罪悪感を植え付けられ、自信を喪失し、マインドコントロールされている女性が結婚生活を見直すきっかけとなるサインを社会のあちこちで発していくことが求められます。
2026年6月7日 18:00