しゅみの部屋

suki na koto no hanashi bakkari

『ガンバレ!中村くん!!』とオリエンタリズム的BLヘイトについて

先日、『ガンバレ!中村くん!!』の原作者・春泥先生に作品批判の域を超えた誹謗中傷が集まりTwitterアカウント削除にまで追い込まれた件について、ちょっと以前から思っていたことを呟いたら、想像以上の反応があった。

『ガンバレ!中村くん!!』の原作に対してなされていた主な批判は、「教師と生徒の関係性がペドフィリア/グルーミング的である」というものだったが、真っ当に作品を読めば教師の側から生徒に対して性愛的な感情も搾取の志向もないことは読み取れると思う。

その上で多少職務とプライベートの境界を踏み越えた行動を心配な生徒に対して取る描写があり、それ以降、生徒がその教師を特に慕うようになる(恋愛とは明示されていない)様子が描かれている。

そういう描写を問題として見る人もいるのだろうが…

 

それくらいgleeにもあったじゃん?

 

と私はフツーに思ってしまう。まあgleeじゃなくてもそのくらいの描写って欧米作品にもいくらでもあると思う。

やっぱりこれは、アジアの作品でありBLであるということへの偏見によって批判が強化されている側面があるのではないかと。

と思ったら、それに関する研究をすでにしている方が、論文のリンクを送ってくれた。

www.academia.edu

私は英文をすいすい読める人ではないのでDeepL翻訳で読んだのだけれど、私が以前から感じていたBLヘイトとオリエンタリズムの関係について、よりディテールが明らかになったように思えた。

ぜひBLや今回の春泥先生の件に興味のある人は読んでみてほしい。

(ブラウザ自動翻訳だとかなり理解が厳しかったけどDeepLだとだいぶ読めました。ただしあくまで自動翻訳であることはご注意を。)

読んでみて思ったのは、オリエンタリズム的BLヘイトには複合的な要因があり、私が実感していたのはそのうちの一要因だということ。

そして、書かれているBLヘイトは、私がGLファンの間で見てきたことにかなり重なるということだ。

その2点について自分なりに考えをまとめておきたい。

 

(補足)

春泥先生は今日(4/22)HERO’S Webのアカウントを通じて謝罪文を掲載した

 

複合的なBLヘイトの要因

私自身がもともと実感していて、最初のツイートでも語っていたBLヘイトとは…

保守というよりむしろリベラルでクィアフレンドリーでいわゆる"woke"な価値観の人たちが、なぜかアジアのクィア作品の読み取り能力だけは壊滅的に低く、そのポリティカルな知識を誤用し不可解な作品批判をする

といったものだった。

なので、リプライや引用でいくつか言及されていた、キリスト教保守主義の価値観からの批判というのはちょっと私の言いたいこととは違うと感じた。

しかし、クィア支持者のBLヘイトとキリスト教保守主義者のBLヘイトは、まったく違うようで実はつながりがあることがこの論文には記されていた。そのつながりとなっているのが、なんとトランスヘイトであるという。

LGBTQ+に否定的なキリスト教保守主義の価値観の延長線上には当然トランスヘイトも含まれる。ヘイターたちがトランスジェンダーへの悪評を人々に植え付けるために喧伝していることの一つに、「BLに傾倒した異性愛者の女性たちが、そのフェティシズムを実現するためにトランス男性となる」というのがあるらしい。
トランス男性を「BLへのフェティシズム実現のためにゲイ男性の中に入り込む偽物のゲイ(異性愛女性)」とすることで、「ゲイ男性への加害者」に仕立て上げることができるわけだ。

それにより「BLはゲイを消費し加害するものである」という認識はさらに強められ、保守的なトランスヘイト思想と、マジョリティの侵害から身を守りたいクィア当事者の思いが、「BLは有害」という理解で一致してしまう。

また、ホモナショナリズムもそこに絡んでいるようだ。

最近ではトランプ大統領がイラン攻撃を正当化するため(米国では自身が性的マイノリティに差別的な政策を推し進める立場でありながら)イスラム圏のゲイ差別を非難しているのがわかりやすい例だけれど、欧米の白人中心主義を前提とした「西洋の先進的な価値観に比べて東洋(中東やアジア)は未開発で劣っている」という根強い歪んだ認識が、アジアから発信されるBLがまともなクィア作品であるわけがないという偏見を加速させているのは、私自身も肌で感じていたことだった。

GLファンのBLヘイト

前述した、

保守というよりむしろリベラルでクィアフレンドリーでいわゆる"woke"な価値観の人たちが、なぜかアジアのクィア作品の読み取り能力だけは壊滅的に低く、そのポリティカルな知識を誤用し不可解な作品批判をする

という現象は、最近では特に私はGLファンの間で実感することが多かった。

まずGLドラマファンというのが、私の実感としては私自身を含めほぼ全員サフィックなんじゃないかというくらい、当事者割合が高い。

そして日本のGLファンの中でも、BLに対して「なんとなくGLファンと相容れなさそう」「なんとなく軽薄なイメージ」くらいの偏見を感じることはあったが、欧米や南米のGLファンのBLへの反応はもっと苛烈で、憎悪すら感じられることが多々ある。

 

タイではGLドラマの主演俳優たちの多くはBLドラマにも脇役として出演しているし、逆もまた然りで、互いに親しい友人関係を公表していたり、そこにはシームレスな交流があるように見える。

しかし一部のGLファンは、BLドラマの俳優や関係者がGL俳優たちと関わる際、彼らを彼女たちから何かを奪いにきた侵略者のように最初からみなし、過剰な拒否反応を見せる。

俳優たちに対しては特に、運営側のミスや企業の体制を責めるべき時にも、なぜか権力企業よりもBLに出演する男性俳優たちに攻撃が集中するのを複数回見てきている。

これはむしろ俳優という立場の弱さを理解しているからこそより執拗に叩くのではないかと薄々感じていたが、ホモナショナリズムという観点を加味して考えると、西洋人よりは小柄で女性的or子どもっぽく見えるアジア人男性、しかもBLドラマで人気を集めている俳優たちへの蔑視から過剰な攻撃に転じるのは、よりわかりやすく思える。

 

そして、GLファンのBLヘイトは制作者にも及ぶ。

タイのドラマ監督の中にはBLとGL両方撮っている人が何人かいるが、その人が男性だった場合、作品批判は即ミサンドリー言説と接続する

私からすると物語や文脈の読みがあまりにも稚拙としか思えない「なぜこんなシーン/セリフを入れるのか」「ラブシーンが少ない/多い/気に食わない」などの不満が出た時、即座に誰かが「男が作っているからだ」と言い出す。

その様子は、トランス女性に対してTwitterで「男だから女の気持ちはわからない」と攻撃するトランスヘイターに重なる。

タイGLドラマのパイオニアといえる『GAP』を制作したA監督も、BLドラマとGLドラマを同数くらい作っている監督だが、理由も明らかにしないまま「BLだけ作っていろ、2度とGLに戻ってくるな」と中傷されていた。

Jojo監督に至っては、初のGL監督作『GirlRules』がまだ放映する前から、明らかに会社側の事情であろう制作の遅れについて、女性俳優への差別だと執拗に責められ、一時Twitterアカウントを非アクティブにしたことすらある。

なんだか『中村くん』への中傷と春泥先生のアカウント削除とも似ている気がしてしまう。

Jojo監督は近年『ThatSummer』や『OnlyFriends』などのBLドラマも監督しているが、それ以前からさまざまなジェンダーやセクシャリティの人々が登場するクィア群像劇の名作ドラマを多数生み出している人であり、自身も同性パートナーの存在を公表している。GLドラマブームが起こるずっと前に、すでに『FriendZone』でレズビアンカップルの関係性も描いていた。

BLとBL以外のクィア作品を切り分ける言説で考えれば、むしろ長くBL以外のクィア作品に携わってきた当事者サイドの人のはずだが、白人中心主義的ホモナショナリズムに基けば、「BLに手を染めたアジアの啓蒙されていないゲイ男性」と見えるのかもしれない。

「〇〇人だからわからない」のロジックにはまらないために

私自身は正直言って、かなり多くの欧米圏からのBL批判にオリエンタリズムは深く関係しているように見えるし、差別に基づく言説である以上まともに取り合う価値はないと思う。

しかし同時に、「BLは日本文化でありキリスト教文化の欧米人には理解できない」とか「文化が違う者同士は切り分けて互いに触れないのが良い」とかいう方向に行くのは間違いだと思う。

それはホモナショナリズム論者が「アジア人が自分たちの先進的な価値観を理解しているわけがない」と決めつけてアジアの作品を見ているために、誤読の上に過剰な批判や誹謗中傷を行うのと、同じロジックに陥ってしまうことだ。

むしろそういった決めつけを手放し文化的交流を深めていくことを、オリエンタリズムへのカウンターとしたい。

…だからみんな、面白いタイBLいっぱい見ようぜ。面白い日本のBL漫画もめちゃくちゃ読もうぜ。

と、急に単純な結論になっていいのかしら。

ま、でもそういうことじゃん。物語は閉じていた目を開いて心を豊かにするんだよ。

 

せっかくなのでおまけとしてA監督とJojo監督のおすすめクィア作品紹介します。

どっちも私の大好きな監督!

 

A Natthaphong Wongkaweepairod監督作品

『The Sign』 

刑事サスペンス&神話生まれ変わり、なんでもあり豪華詰め込みBL! 

www.telasa.jp

『Reset』

時間が巻き戻って二度目の人生を送ることになった俳優の逆転サクセスストーリーBL。劇中劇・景気抜群トレンディ演出・クセの強い悪役と見どころたっぷり。

www.iq.com

『Somewhere Somehow』

楽しい可愛いコメディGL、かと思いきや、中盤からのフェミニズム展開に震える…!映像演出の美しさ・面白さにA監督の個性が炸裂。

www.youtube.com

 

Jojo Tichakorn Phukhaotong監督作品

『Friend Zone』『Friend Zone 2: Dangerous Area』

仕事でも恋でも理不尽と闘う女子たちの連帯とフェミニズム、ゲイコミュニティの友情、リレーションシップの難しさ、一人になることを選ぶ勇気…。私はこれを超えるタイドラマにまだ出会ってない…!

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『3 Will Be Free』

逃避行とポリアモリー。ゲイセクシャルもバイセクシャルも友情もすべてを含んだクィアな関係性を嫌味なくエモく描き出す。トランス女性Maeの存在感も美しい。

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『The Warp Effect』

高校生が突然未来にワープしたら、産婦人科医になっていた!元に戻るために友人たちの性の問題を解決していかなければならない…タイムワープ性教育コメディ。主要な人物に明確なノンバイナリーが登場したタイドラマはこれが初かも?

www.amazon.co.jp

『Girl Rules』

現在放映中のJojo監督初のGL作品。監督お得意の群像劇だけれどオール女子なのがパワフル。GMMの人気女性俳優たちが他ではやったことのないタイプの役柄で見られるのも楽しい。

tv.rakuten.co.jp