【本城雅人コラム】武豊騎手の代打騎乗ほど怖いものはない 初騎乗でも勝てるのは、これからのAIに求められる「推論」にたけている
◇中央競馬コラム「ぱかぱか日和」 第76回安田記念(G1・7日・東京・芝1600メートル) 先週までは上位人気のアドマイヤズームに騎乗予定だった。それが出走回避になり、急遽回ってきたシックスペンスで武豊騎手が勝利した。完璧なポジション、追い出しも焦らない。熟練の味といえばその通りだが、この1週間、武騎手は何度もシックスペンスのレースを見返して、ここ3戦完敗が続いている同馬の力をどうすれば引き出せるか、考え抜いたのだろう。 フランス遠征するたびに、当時、騎手として修業していて、とても仲がよかった田中博康調教師とのコンビでの勝利。それ以上にシックスペンスは尊敬する国枝元調教師が育てた。国枝厩舎ではG1を勝てなかっただけに、武騎手も国枝さんも感無量だろう。 それにしても武豊騎手の代打騎乗ほど怖いものはない。そう思ってしまうのは、これまで武騎手の海外遠征で競馬場まで同行し、武騎手はジョッキールームに入って着替えて、そこで初めて調教師から馬の特徴を聞いたはずなのに、レースが始まったら勝っていた。こうしたシーンを何度も見てきたからだ。 初騎乗でも勝てるのは、これからのAIに求められる「推論」にたけているからだと思っている。過去のレースや特徴を理解するだけでは、これまでと同じ結果になる。調教師は過去から理想を導き出すが、武騎手はこう考える。「前も腕利きの誰々騎手が乗って負けている。同じレースをしても結果は変わらない」それが乗り替わりでの好成績につながっている。 海外の場合、初めて尽くしのことも多い。20年も前のフランス滞在時だが、エージェントから、明日はまったく知らない競馬場に1レースから乗るように言われた。普段は早めに競馬場入りして、馬場チェックするが、その日は渋滞でぎりぎりになった。どうにか1レースのパドックには間に合い、1番ゼッケンだったため、先頭で馬場入場する。そこで迷った。「えっ、この競馬場、左回り? 右回り?」。雰囲気から返し馬をするのだが、途中で後続がついてこないことに気づいた。「やばい、逆やった」。慌てて引き返したそうだ。 レースが始まるとAI級の完璧主義者だが、普段はおちゃめ。だからファンは武豊に魅了されるのである。
中日スポーツ