第240話 オタク、待つ



 ノアさんとアイルマンさんが来なかったので、今日はクルスさんに搾り取られていた。

 ベッドに突っ伏してぴくぴく震えるぼくの背中を、クルスさんが、れる、と舌を這わせてくる。


 最近、ノアさんやアイルマンさん、ミリーさんに譲ってばかりだったので、独り占めしたくなったらしい。


「うふふ。オタクくんの肌、おいしい。ボクの指も舐めて?」


 うつ伏せているところにクルスさんが指を差し込んできたので、言われるがままに口に含んで舐める。


 その様子を見て、クルスさんはご満悦そうな笑い声を漏らした。

 ま、満足していただけましたか。


「……クルスさん。王都に来てからこちら、毎日誰かしらの相手をしてる気がするんですけど……」


「仕方ないよね。だって人数多いし、みんなオタクくんが大好きなんだもん。それは、順番がなかなか回ってこないから、毎日オタクくんに誰かを相手してもらわないと。ね?」


 ベッドの上で見上げると、クルスさんがヤンデレな笑顔で恍惚と、ぼくに舐めさせた自分の指を、ちゅぱっと口に含んでいた。


 初めて会ったときは、あんなに爽やかイケメン美女だったクルスさんだけど。

 ヤンデレ度が増すにつれて、妖しい色気が増しすぎているように見える。


 爽やかイケメン美女なのに、一皮剥いたら、ヤンデレ妖艶美女じゃないですか。

 それでも、隙あらば甘えてくるのは変わらないけどさ。


「うぅーん……オタクくんの背中、あったかくて好きっ」


 色気たっぷりな笑みを見せたかと思えば、寝そべるぼくの背中にすりすりと頬をすり寄せて、一緒に寝てくるクルスさん。

 あの。背中から覆い被されると、逃げられないです。


 そんなことをしていると、客室にシルヴァさんがやってきた。


「ステラ様が王城に招待される日が決まりましたわ。二日後のようです」


 ああ、もう準備ができたのか。

 二日後はちょっと早いけど、王家側もかなり急いで日程を速めたんだろうな。


 で、なんでシルヴァさんはショーツを脱いでいるんです?


「この別邸に匂いが染みつくくらい、オタク先生を受け入れたくございます」


「良いね。じゃあ、ボクはオタクくんの顔に乗るね? たくさんまき散らさないと」


 あの。なんでそんなに汚そうとするんですか。マーキングですか?

 クルスさんは男性のものは出ないので、女性の部分に奉仕しろってことですね?


 どのみち浄化魔法をかけるから、匂いなんて残らないんだけど。

 それでも、上下ともにべっとべとにされました。


 シルヴァさん、も、もう出ませんから。物足りなそうな顔しておっきくさせないで。



************



 で、ステラさんと辺境伯様一行が登城した当日。

 ぼくらは、登城を遠慮して別邸の客室で待機していた。


 代表は辺境伯様に任せて、シルヴァさんとリルカさんも一緒だ。

 驚いたのは、ノアさんとアイルマンさん、ミリーさんまで客室にいる。


「……シルヴァさんやリルカさんはともかくとして、憲兵や聖女様って、精霊と一緒に謁見しなくて良いんですか?」


「ミリー嬢の護衛よ。あと、シルヴァ嬢の存在と活動も、騎士団はとっくに知ってるから。みんなも重要人物だから、私とアイルマンが護衛によこされたの」


 なるほど。

 そう言えば、騎士団の副団長には、シルヴァさんの政治活動は報告してるんだっけ。


 ミリーさんも、まだまだ教会から狙われる側だ。

 なので、エカナさんもいるこの別邸で、まとめて護衛しようっていうことだね。


 一応仕事中だからなのか、ノアさんもアイルマンさんも、裸にはならずに服を着ていた。

 そんな空気もあって、みんなベッドには行かずに、ステラさんの帰りを大人しく待っている。


「ところでさぁ? 王家が精霊を迎えて、精霊がそれを承認するんっしょ? なにが変わるん? ステラさんが王城に住むとか?」


「エイジャさんの考えているようにはならない、と思いますわ。単に、王家の、民衆への権威付けです。……今までは、それを教会に頼っていたので」


 シルヴァさんが教えてくれる。

 民衆の支持を得るために、教会の力を借りてたってことね。


「民衆の支持を得るためには、王家が何か言うより、信仰してる身近な教会が褒めた方が、人気を取りやすいじゃないですか。だから、信仰は民をまとめる力になるんです」


「あー。それを、ステラさんの後押しでもらおう、ってわけね。なるなる。確かに、ふつーの人たちからの人気は、大事だもんねー」


 リーシャさんも納得してくれたようだ。

 なんせ、普通の人々たちからの理解が得られない、同性愛者だからね。

 その重要さは、みんな身に染みてわかってる。


「そうですねー。今回の場合は、大司教様じゃなくて、教会の奉る『精霊様』が、王家を認めることで、教会もこれからずっと王家を認めますよ、って保証することになるんです」


「ミリーちゃんの説明がわかりやすいね。……教会は、王家に従います、ってことを認めさせるために、ステラさんの了承を得たいんだよ」


 クルスさんとしても、王族の都合は読み取りやすいようだ。

 そこら辺は、貴族教育を受けた経験があるかどうか、の差かな。


「これで社会が、というか我が国が変わることになるのですが……元をたどれば、師匠が精霊のみなさまに気に入られたおかげ、とも言えますね」


「つまり、元はオタクくんの手柄だね!」


 ぼくは何もしてませんが?

 リルカさんもクルスさんもにっこにこだけど、主に動いたのはシルヴァさんとステラさんでは?


「……それも結局、シルヴァさんがぼくらに協力してくれたのが始まりだから、やっぱりシルヴァさんが全部の始まり、とも言えるんじゃ? 未踏地に行ったのも、シルヴァさんのために狩りをするためだったんですし」


「そう言っていただけるのは嬉しいです。ですが、わたくしはお姉様がたや、オタク先生に救われたから、活動を始めたんですのよ? オタク先生たちがレシピを献上に来てくださったあの夜、オタク先生に甘えられなければ、今のわたくしはここにいませんわ」


 ああ、そんなことありましたね。

 いきなり弱みを握られて、赤ちゃんプレイをさせられたとき。


 あのときのシルヴァさんは、婚約破棄されたまま、行き場もなく辺境伯邸に閉じこもってたままだったんで、精神的に相当追い詰められてたんだよね。


 ぼくが赤ちゃんプレイしたくらいで気が休まるんなら、まぁ、安いもんだと思うよ。


「まぁ、赤ちゃんならわたしが抱かせてあげますよ、お嬢様。オタクくんが誰かに取られちゃっても困るし。……みんなの赤ちゃん作るまでは、ね」


 そう言ったのは、メイドのサフィルさんだ。

 あ、はい。サフィルさんには、避妊魔法はまだ使ってません。


「はあぁー、私も世継ぎ作んないといけないのよねー。オタクくんに子種もらいたいんだけどなぁー」


「どうだろう。私も、欲しいには欲しいと思うけど……オタクくんが持つかな?」


 持たないと思いますよ、ノアさん。アイルマンさん。

 干からびると思います。


 毎日毎日搾り取って、まだ足りないんですか、みんな。

 ノアさんたち王都組には、ちゃんと避妊魔法使ってるけど。


「助けられたって言うなら、わたしだってオタクくんに助けられましたよぉー。聖女ミリオネラ・ミストルティンは暗殺未遂で処刑されてもおかしくなかったし、教会の真実を知っても異端審問部に立ち向かえたのは、オタクくんが心の支えだったからですっ!」


 ミリーさんからの信頼が厚い。

 手を組んで祈りを捧げるように、ミリーさんは優しい口調で言った。


「オタクくんは、みんなを助けてくれる、優しい人です。こんなに他人のことを思って許してくれる人、他に知りません……あんなにめちゃくちゃにしてるわたしが、許してもらえてるんだから、間違いないですっ」


 えへっ、と笑うミリーさん。

 その表情に、みんなほっこりして客室に笑顔が満ちた。


 そのときだ。


 ステラさんが。室内にいきなり現われた。

 瞬間転移だ。


「ステラさん!? どうしたんです、転移なんか使って!?」


 驚くぼくに、ステラさんはいきなり手を取って身体を引っ張った。

 そして、短く言う。


「オタク、来い。お前が必要だ」



 急すぎて、何が何だかわからない。

 ステラさんはそれだけ言って、ぼくを連れて転移魔法を発動した。


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