5 現れた助っ人魔法使い
紫の煙が立ち込め、その中に三角帽をかぶったシルエットが浮かぶ。
「おお! 来た!」
目を輝かせ、期待に股間を膨らませる。
「あちきこそは大魔法使いゲルニカだわさッ!」
その言葉と共にさっと煙が消えて美少女魔法使いの姿があらわになった。しかしその姿を見て僕は絶望で膝から崩れ落ちた。
「僕がイメージしてたのは、巨乳でナイスバディ―のエロエロ女子高生だったのに・・・」
魔法陣の真ん中で腰に手を当てて胸を張っているのは、どう見ても小学生の年齢の少女だった。頭には、魔法使いがかぶるつばの広い三角帽、ハリーポッターのような丸メガネをかけ、手には竹ぼうき、黒いマントを羽織い、マントの下はスクール水着。胸には白い布にマジックで『ゲルニカ』と書いてある。巨乳どころかわずかなふくらみさえ見受けられない。
両手両膝を床につけてうなだれる僕を見て店員はくすりと笑った。彼女の笑顔を見たのは初めてだ。とてもキュートな笑顔だった。
「おいおっさん、お前があちきを呼んだのか?」
「僕はまだおっさんと呼ばれる年齢ではない」
「おっさんはおっさんだわさ。さっさと願いを言うだわさ。あちきは忙しいだわさ」
確かに顔立ちは整っているから、美少女であることは間違いない。それに、こんな見た目でも一応は魔法使いである。この際、外のゴブリンたちをやっつけてくれたらなんでもいい。
「コンビニの外にいるゴブリンたちをやっつけてくれ!」
「お安い御用だわさ。こんなやつらはあちきの魔法で消し炭にしてやるだわさ!」
子供ながらこの堂々とした態度。もしかして、ものすごい魔法を出せるのではないか?
魔法美少女ゲルニカは大股でコンビニのドアのところまで歩き、そこで仁王立ちをした。自動ドアの外には30匹のゴブリンたちがいる。
「頼んだぞゲルニカ!」
彼女はこくりとうなづき、ゆっくりと一歩踏み出した。自動ドアのセンサーが反応してガラスの扉が左右に開いた。ピロポン、ピロポンと音が鳴る。ゲルニカのただならぬ気配に、それまで騒いでいたゴブリンたちが静かになり、後ろに引いた。
「お前たちみたいなノータリンにいっても理解できないだろうけど、今からあちきが魔法を放って、お前たちを消し炭にするだわさ。悪く思うなだわさ」
砂浜に立つ女子小学生魔法使いの周りを、一定の距離を置いて取り囲むゴブリンたち。僕はコンビニの中からその光景を見ている。いったいどんなすごい魔法が放たれるのだろうか? 僕はごくりと生唾を飲み込んだ。
ゲルニカは目を閉じて詠唱しだした。長い詠唱だったが、ゴブリンたちは攻撃もせずに、防御態勢で警戒している。
「すべてを焼き尽くす地獄の業火よ。我に力を貸したまえ。森羅万象のなんたらかんたら、色即是空、空即是色、へのへのもへじ、天井天下唯我独尊、きたないはきれい、きれいはきたない・・・有象無象のノータリンどもよ、灼熱の業火で消し炭となれ! ファイナル・エレクトリック・ミラクル・ハリケーン・ディスティネーション・ファイア!」
カッと眼を見開いて、片手を前方に突き出した。しかし、彼女の手から放たれたのは、業火とは全く違う、マッチでつけた火ぐらいの小さな火だった。しかも、それは相手に届く前に失速して砂の上に落ち、すぐに消えてしまった。
「まじか・・・」
僕の口からため息混じりにその言葉が吐き出された。
「くっ、貴様たち、なかなかやるな! あちきの最大魔法が効かないだわさ!」
彼女は膝から崩れ落ちて砂の上で四つん這いになった。なにもないところに火を出現させたんだから、手品とか超能力とかだったら、まあすごいことではある。あるいは、雪山で遭難しててマッチやライターがないって状況だったら重宝される技だ。しかし30もの凶悪なゴブリンたちに対しては全く何の効果もない。
ゴブリンたちはお互いに顔を見合わせた。そして、次の瞬間、手にこん棒などの得物をもったゴブリンたちが、いっせいにゲルニカに襲い掛かった。
「ヤバイ!」
僕はコンビニから飛び出して行って、うずくまっているゲルニカを抱きかかえると、全力でコンビニに戻った。間一髪で間に合った。ゴブリンたちはコンビニの扉のところからは一歩も店内に入ることができない。まるで透明の壁があるみたいに、奴らはそこで立ち往生して悔しそうな顔をした。
「おい、あんなに自信満々で出て行ったくせに全然だめだったじゃないか!」
「そんなこと言うな! 言葉の暴力だわさ! 幼児虐待だわさ! 児童福祉課に通報するだわさ!」
「もういい、お前は役に立たない。帰ってくれ」
「言わなくても帰ってやるだわさ! もうお前なんか土下座したって助けてやらないだわさ!」
ゲルニカはぷんすか怒りながら魔法陣の中心に立った。しかし、そのまましばらくたたずんでからこっちを振り向いてぼそりとつぶやいた。
「帰り方が、わからないだわさ・・・」
「え?」
思わず僕は店員と顔を見合わせた。この島の住人がひとり増えたのであった。