「2040年までに私立大学を4割減らす必要がある」、財務省が示した今後の大学数の削減目標案が議論を呼んでいます。一方、文部科学省は大学の学部を「三つ星学部」といった形で、星の数で評価する方針を示しました。それぞれの背景をひもときながら国公立も含めた日本の大学のこれからを考えます。(松井裕子解説委員)
時論公論 “私立大学4割削減?” 学部を★★★で評価も? 大学の未来は
初回放送日6月1日(月)午後11:30
配信期限6月8日(月)午後11:40
相次ぐ大学の募集停止
大学をめぐっては、ここ1、2年の間でも学生の募集停止の公表が相次いでいます。
今年度から募集を停止した京都ノートルダム女子大学は「急速な少子化などで定員割れが続く中の苦渋の決断」としています。
ほかにも各地で募集停止が相次ぎ、先月には愛知県蒲郡市にある愛知工科大学が来年度以降の募集を停止すると明らかにしています。いずれも定員割れが続いていた私立の小規模な大学です。
2040年までに私立大学4割削減?
こうした中、ことし4月、財務省が財政制度等審議会の分科会で、大学削減の数値目標の案を初めて提示しました。その前提として、少子化の中でも大学が増えた結果、およそ600の私立大学の53%が定員割れをしていること。中にはかけ算、割り算といった四則演算など義務教育段階で学ぶ内容から始める大学もあり、学位を取得する人の質を確保するうえで適正な規模にすべきだとしています。
その上で、2024年度時点で624校だった私立大学を、18歳人口の減少にあわせて2040年までに少なくとも250校程度、つまり4割減らす必要があるとしました。
今はあくまで提示ですが、予算編成に関わる財務省が数字を出したことで、議論を呼んでいます。
背景にあるのは、今後の大学進学者数の減少です。
少子化の中でも進学率の上昇で維持されてきた大学進学者数はこれから減少局面に入ると推計されています。
具体的には、2026年のおよそ65万人が徐々に減り始め、2035年から大きく減って2040年には46万人に、つまり3割減ると見込まれています。
大学など高等教育を担う文部科学省は「大学の数や定員を減らしていく必要がある」という大きな方向性は同じで、すでに取り組み始めていますが、「定員割れの状況などで機械的に判断すべきではない」としています。
“機械的でない判断”なぜ必要?地方の私立大学は?
確かに大学といっても、定員が1万人以上のところから数百人のところまであり、多様です。
“機械的に判断すべきではない”という背景には、地方の小規模な私立大学から厳しい状況に陥るとみられていることがあります。では、どう判断していこうとしているのでしょうか。
文部科学省は、ことし2月に2040年を見据えた私立大学政策の方針をまとめ、重点支援の柱の1つとして「地域から必要とされる人材育成を担う地方大学」を挙げています。
その理由として、地域の私立大学は国立大学に比べ、地元での就職率が高い傾向にあるとし、中には教員や保育士、看護師など地域を支える人材の育成に欠かせない大学もあることなどを挙げています。
例えば、福井県越前市にある私立の小規模大学、仁愛大学は卒業生のおよそ9割が県内に就職しているといい、保育士や小学校教諭などの養成課程もあります。一方で定員割れが続いています。福井県は保育士確保の観点から授業料の減免などを始めています。大学と県が連携を進める中で、今年度は入学者が増えたといいます。
こうした中、各都道府県で「地域に必要な大学」を議論する枠組み作りも進められています。「地域構想推進プラットフォーム」といい、各都道府県の▼私立大学や国公立大学、短大や高専といった高等教育機関と、▼自治体、そして▼産業界などが参加し、国も支援します。
2040年を見据え、▼人口減少が進む中で必要になる人材や▼大学側の現状などを共有し、地域のニーズに応じた教育改革を進めるほか、地域にある大学間で役割が重なっていれば、その解消も検討します。
産学官の連携は従来から進められてきましたが、地域全体で厳しい状況も含めて将来像を共有し、取り組むねらいがあります。
一方、私立大学の経営指導の強化も進められます。
文部科学省は経営リスクの高い100程度の法人を指導対象とし、取り組みが不十分であれば補助金を減額するなどし、原則5年で改善が見られなければ学部廃止や大学閉鎖も勧告します。
限られた予算を有効に活用していくためにも、メリハリをつけて支援と指導を進めるイメージです。
「教育の質」 ★★★で“見える化”?
一方、社会や地域のニーズも踏まえて教育内容を改革しても、高校生などに選ばれるかという課題もあります。こうした中、卒業までの「教育の質」を評価して可視化しようという新たな方針が打ち出されました。
文部科学省が大筋でまとめた新たな大学評価の方針です。
国公立や私立の大学などを学部ごとに星の数で4段階評価し、広く公表するもので、2030年度からの開始を目指しています。
6年に1度のサイクルで行われ、学生が在学中にどれだけ知識や能力を身につけたかといった成果や学生自身の成長実感も含めて、認定を受けた評価機関が審査するとしています。
知名度や偏差値ではなく、卒業までの「教育の質」で進学先の選択や社会的な評価ができるよう可視化するねらいがあります。
高い教育成果をあげていれば「三つ星」、取り組みを通して今後、高い教育成果が期待されるなら「二つ星」、最低限の水準に達していれば「一つ星」、それにも達してなければ「要是正」とされ、ペナルティーも検討されています。
「質」をどう公平公正に評価していくのかという難しさもあり、今後詳細が検討される方針です。
ただ、例えば都市部の大規模な有名大学でも「一つ星」学部が多いとか、全国的には知名度が高くない大学でもすべての学部で「三つ星」といったケースも出てくるかもしれません。
偏差値などによる「入口」の評価から卒業時の「出口」の質の評価への転換を目指すもので、進学先の選択や、地域や社会が大学を評価する際の新たな“物差し”になるかどうか、注目していきたいと思います。
学ぶ側は?“激動する時代”の大学は
大学の「教育の質」を可視化したり、地域に必要とされる大学を議論したりしていく中、高校生や社会人など学ぶ側と、認識を共有していくことも欠かせないと思います。
大学を取り巻く状況を見ると、AIの急速な進化や人口減少などを背景に、就業構造が大きく変わると見られていて、国は高校や大学の理系転換・文理融合を進めようとしています。
また、大学だけでなく高専や専門学校など、ほかの高等教育機関の役割も見直されています。
一方、学ぶ側を見ると高校生や保護者の中には「就職には都市部の有名大学が有利なのでは」とか「女子は文系のほうがいいのでは」といった従来からの意識が残っているとも言われます。
社会情勢が変化する中で社会人の学び直しの必要性も増していますが、進んでいない状況があります。
大学は、どんな将来が予想され、どう改革を進めようとしているのか、産業界とも連携しながら、学ぶ側も変化を実感できるよう発信し、実績を重ねていくことが大事になると思います。
リクルート進学総研の小林浩所長は「社会情勢が大きく変わる中、生涯学び続け、『学ぶ』と『働く』を行き来することが求められる時代に、各大学はどんな役割を担うのか明確に“旗”を立てることが重要だ。国は単に“数合わせ”ではない人材育成を考える必要がある」と指摘しています。
予測困難な時代に、主体的に学び続ける力、みずから問いを立て課題を解決する力などが必要だと言われています。小中学校だけでなく高校の学びも徐々に変わってきています。
各大学はどう応えていくのか、その存在意義が問い直されていると思います。
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