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第116話

心配事🐺-2
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2026/06/06 10:00 更新
🐧「ここにいるってよくわかったね、チャニヒョン」
🐺「なに言ってるの、あなたの下の名前と僕の思い出の場所でしょ」
🐧「……そうだね。もう帰るの?作業は一段落した?」
🐺「ううん、違うよ。ここに来たのはただ……」
あなたの下の名前の手にある台本を盗み見る。
開いたページには、付箋と、たくさんの書き込み。
この子が一つひとつの仕事にかける思いの強さが伝わってくる。
🐺「初ドラマ、おめでとう、あなたの下の名前」
🐧「え……?ああ、そっか。今日が公式発表の日だったのか。……ありがとね」
一瞬きょとんとして瞬きしたあと、ほんの少し疲れたように表情を崩した。
その様子に、僅かにいつもと違う違和感を抱いて、あなたの下の名前のすぐそばに座る。
🐺「でも、ちょっとだけ心配かな」
🐧「……女装だから?」
🐺「それもあるけど……役のほう。どういうキャラクター?」
そう尋ねると、あなたの下の名前は台本を閉じ、長い睫毛を伏せて、少し考えるような素振りを見せる。
そして、息を吸って、小さく零した。
🐧「本当はまだ秘密にしなきゃなの。……でもなんとなく、自分に似てる気がする」
🐺「……それが嫌なんだけど」
僕が嫌そうな顔を見せると、あなたの下の名前は今日初めて笑ってみせた。
🐧「そんな顔しないでよ、クリス。……私ね、デビュー以来最初に来たオファーは必ず引き受けると決めてるの。だけど今回、このドラマだけは……正直迷った。……女装だってなんだって、STAYが喜ぶならいくらでもやる。それでもこのお話は、九条伊織という人物は、私の傷を抉るんだ」
🐺「練習性時代の話?それとも、もっと昔のこと?」
あなたの下の名前が『クリス』と呼ぶときは、なにかの合図のような気がする。
彼女はいつだって、無意識に呼び名を使い分けているのだ。
だから僕は出来るだけ優しい声で聞いた。
🐧「……全部だよ。今も、昔も」
🐺「全部?」
🐧「……澪、主人公の女性ね。彼女は三度もデビュー目前でその機会を失って、遂に夢破れて帰ってくる。でも帰国後もそれを引きずってるわけ。青春のすべてを捧げたのだから、当然と言えば当然だけど。……澪の未練が、痛いほどわかる。私じゃなくても誰だって理解できるだろうね。なのに伊織は、それを批判するの。『戻らないって決めたなら、未練まで連れてこないで』とか。それが凄く刺さる。だけど、伊織の言葉は全部正しいんだ。それに……だから、ドユンが伊織に怒るシーン、あれが一番しんどかった」
🐺「え、怒るの?ドユンが伊織に?」
🐧「ネタバレだから秘密だよ。でも、そう。最後、澪と結ばれて、日本での事業拡大もうまくいって、静かに去ろうとした伊織に気付いて、ドユンは初めて怒るの。『勝手にいなくなるなよ』……って」
……さっきあなたの下の名前が、台詞を読みながら泣いていたシーンのことだと、なんとなくわかった。
あなたの下の名前の境遇があなたの下の名前本人に似てるのはただの偶然だろう。
それでも……だからこそこんなにも苦しそうな表情をしているのだ。
あなたの下の名前のアイデンティティに関する問題、デビュー前の苦労、デビュー後の葛藤……。
それをあなたの下の名前自身がまだ整理できていない。
だから、今話してくれたことも、本音を曝しているようで、まだ核心には迫っていないのかもしれない。

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