第115話

心配事🐺-1
64
2026/06/06 11:01 更新
練習のために会社へ行きたいというあなたの下の名前と別れたのが数刻前。
僕はいつものように作業部屋で曲を作りながら、ふと時間を確認するためにスマホを開いた。
そのとき、たまたま目に留まったニュース記事を引き寄せられるように開き、眉をひそめる。
🐺「あなたの下の名前が、日本のドラマに……?それも……///」
思わず目を覆う。それでも好奇心で、また記事を見てしまう。
画面に映るのは、女装したあなたの下の名前の……否、本来のあなたの下の名前の姿だ。
……思うことはいろいろある。
やっぱり綺麗で似合っているとか、誇らしいとか、プラスの感情もあれば、ドユンを演じる俳優さんとの距離が近いとか、また可愛いあなたの下の名前が世間に見つかってしまうとか、そういう本音も当然ある。
そして、心配事もある。もちろん女装もそうだが、その役どころが問題なのだ。
🐺「あなたの下の名前なら、あくまでも演技だからと割り切ってそうだけど……」
余計なことかもしれないが、今でもたまに一人で抱え込むことがあるから心配だ。
それもたった一人、異国の地でナムジャに混じって活動している女の子だから。
🐺「……ちょっとだけ様子を見に行こう」
あなたの下の名前のことだから、一緒に会社に来た僕になにも告げずに帰るとは思えなくて。
まだ残っているとしたらあそこしかないと、僕は作業部屋の片付けを始めた。


向かったのは、長い練習生時代によく使っていた練習室。
ともに笑い合い、涙し、喧嘩こそしなかったが、本音をぶつけたり励まし合ったりした、思い出の場所。
そして、あなたの下の名前は今でもグループで一番と言っていいほど自主練をするが、そんなときにもよく利用している場所だ。
🐧『“……その程度の覚悟と優しさで、ドユナの邪魔しないで。あの人、誰かに振り回されるほど暇じゃないから”』
🐧『“……戻らないって決めたなら、未練まで連れてこないで。中途半端未練が一番残酷”』
練習室の前で、ほんの少し扉を開くと、中から透き通ったあなたの下の名前の声が聞こえてきて、そこで立ち止まる。
日本語の台詞だけれど、その意味を理解できて、言葉の重みが伝わってきて、苦しくなる。
目を伏せていると、あなたの下の名前がまた、同じ台詞を読み直した。
今度は少しだけ感情が違う気がする。
🐧『“……だって。……だって、いつか、いらなくなるじゃん。……ずっと、そうだったし”』
かと思えば、別の台詞へと飛ぶ。
1度目の“だって”のあと、小さく息を吸って、止まる。
それでも読み進めようとして、最後の声は消えそうなほど掠れている。
困惑したように、少し沈黙したあと、静かに鼻をすする音が聞こえる。
だから僕は、なにもなかったかのように扉を開いて、中に入った。
🐺「あなたの下の名前」
そうしたら、あなたの下の名前は慌てたように涙を拭って笑おうとするから、ただなにも言わずに近くにいく。

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