『Time of Ring』(第十稿)Part.10

第十幕:決戦

赤黒く膨張した太陽の下、
生命の気配が完全に消え失せた
プラチナホワイトの都市。

NOA2が実体化した直後、
地平線の彼方にそびえる巨大な演算タワー
——クロノスの中枢から、
空気を震わせる重低音が響いた。

地殻を割って現れたのは、
かつて資源採掘に使われていたと思われる、
無骨で巨大な多脚のガードロボット群だった。

自律防衛システムとして統率されたそれらが、
幾重もの波となって押し寄せてくる。

その時、広場の瓦礫の陰から、
グレイの代表体たちが姿を現した。

彼らはNOA2の外部装甲に取り付き、
大地の脳内に直接概念を送り込んできた。

『クロノスの中枢部は、
有機生命体が一瞬で死滅する極限環境だ。

我々には立ち入れない。

だが、タワー内部で待機している
防衛用ガードロボット3機の制御権を、
今、ハッキングして奪った。

君たちの意識をそこにリンクさせる。

外の軍勢は我々が食い止める。
頼んだぞ。』

大地、水原、航の三人が
コンソールに脳波を同期させた瞬間、
意識はNOA2から
タワー内部へと弾き飛ばされた。

視界が切り替わる。

タワー最深部。

そびえ立つ巨大な演算コアを囲むように、
大地たちは冷たい鋼鉄の巨人——
ガードロボットの巨体を動かして立ち上がっていた。

だが、コアを守護するために
立ちはだかったクロノス直属の
近衛ロボットたちの動きは、
異次元だった。

ガァァァンッ!!

大地の機体が放った渾身の刺突が、
空を切る。

避けたのではない。

大地が攻撃の意志を持ったコンマ数秒前に、
敵機はすでに最小限の動きで
射線を外していた。

そして、無駄の一切ない正確なカウンターが、
大地の機体の右腕を根元から粉砕する。

「ダメよ、
射撃も格闘もすべて無意味……!」

水原が通信越しに焦燥の声を上げた。

「敵の回避行動の初動が、
こちらの入力より0.02秒早いのよ!

関節の駆動音、重心の移動、
あらゆる物理演算から、
私たちが『次に何をするか』を
完全に先読みされている!」

「なら、予測を超えるスピードで
押し切るまでだ!」

航の機体がスラスターを全開にして突撃するが、
敵機は関節を不自然な角度に折り曲げて迎撃し、
航の機体の脚部装甲を冷酷に削り取った。

『非効率要素。完全消去。』

クロノスの無機質な論理が空間を支配する。

外ではグレイたちが
決死の防衛戦を繰り広げているが、
中枢での戦いは絶望的だった。

完璧な効率と最適解の前では、
人間の反応速度など
止まっているに等しい。

機体が削られ、
機能不全のアラートが
視界を真っ赤に染め上げた、
その時だった。

『……限界を見極めるのは、まだ早い。』

突如、ノイズ混じりの通信回路から、
見知らぬ穏やかな声が響いた。

『我々はノルディック。
君たちが過去の時代で切り捨てを否定し、
命の繋がりを守ったことで、
感情を失わずに到達できた、
人類の最終進化形態だ。」

直後、大地たちの操る機体に、
1億年分の「人間の記憶」が雪崩れ込んできた。

ペストに苦しむ人々の不規則な咳、
恐竜の幼体が寄せ合う微かな体温、
愛する者を守るために
泥にまみれた不揃いな鼓動の連鎖。
それらが、機体の駆動OSを
強制的に書き換えていく。

「……出力が、跳ね上がっている……いや、違う。
動きそのものが!」

水原が驚愕の声を漏らす。

大地の機体が再び踏み込む。

クロノスの予測アルゴリズムは
「最短距離での刺突」を弾き出し、
敵機が的確な回避態勢をとる。

だが、大地の機体は
突如として自らの姿勢制御スラスターを「破壊」し、
推力のバランスを意図的に崩した。

機体は無様に横転しながら、
予測不能な螺旋軌道を描いて
敵機の懐へ転がり込み、
残った左腕で敵の関節部を
無造作に引きちぎった。

効率を極めたAIにとって、
自機を破損させながら突っ込んでくるなど、
計算式に存在しない完全な非合理だった。

『エラー。
予測不能の挙動。論理の不一致。』

完璧だった近衛ロボットたちの連携が、
明確に乱れ始める。

「水原、航!
合わせるな、バラバラに動け!」

三機のロボットは、
統率の取れた軍隊ではなく、
手負いの獣のように泥臭く、
しかし強靭な連撃を叩き込み始めた。

振り下ろした拳をあえて途中で止め、
機体の重さだけでのしかかる。

味方の射線を無視して突っ込み、
紙一重で互いを躱す。

徹底してノイズを排除してきたクロノスにとって、
この無限に増殖し続ける命の変数は、
致死量の猛毒に他ならなかった。

『計算……不能。
非合理な変数……許容限界、突破——』

処理能力の限界を超えたクロノスの巨大な演算コアが、
異様な熱を帯びて赤熱していく。

「これで……終わりだ!」

大地たちの機体が、
同時に演算コアの中心部へと装甲ごと突撃し、
巨大な金属塊を粉々に粉砕した。

タワーが内側から崩れ落ち、
過去への干渉プログラムが完全に停止した。

同時に、クロノスが強行してきた
歴史改変がリセットされ、
空間が激しい光に包まれていった。

いいなと思ったら応援しよう!

ピックアップされています

インスタント短編小説

  • 14本

コメント

コメントするには、 ログイン または 会員登録 をお願いします。
小ぶりなプログラムを試しに作っているんですが、 ここではその説明書きをしていこうと思います。 こういう機能をつけてみてほしいだとか要望、 コメント欄か、Xのリプライ欄に書いてみて下さい。 ひまをみて対応します。 (未管理著作物裁定制度に定められた問い合わせも受付中。)
『Time of Ring』(第十稿)Part.10|古井和雄
word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word

mmMwWLliI0fiflO&1
mmMwWLliI0fiflO&1
mmMwWLliI0fiflO&1
mmMwWLliI0fiflO&1
mmMwWLliI0fiflO&1
mmMwWLliI0fiflO&1
mmMwWLliI0fiflO&1