『Time of Ring』(第十稿)Part.6

第六幕:地底世界

約三千万年前。

NOAは、地球の地殻深くの空洞へ実体化した。

そこには、
白亜紀に閉じ込められた恐竜の幼体たちが、
数千万年という途方もない時間をかけて築き上げた、
白く無機質な「地下都市」が広がっていた。

空間は透明なドームで覆われ、
巨大な空調パイプが静かな羽音を立てて
無菌の空気を循環させている。

大地と水原は、
ステルス迷彩を展開しながら
都市の中枢である指令タワーへと潜入した。

目的は、彼らが地上へ干渉するための
メイン演算装置を破壊することだ。

だが、タワーの最上階に足を踏み入れた瞬間、
四方の壁がスライドし、
数十人の重武装したレプティリアン兵士が現れた。

罠だった。

「……愚かな。
我々の完璧な秩序に、
外部からのノイズは不要だ。
排除しろ。」

奥から歩み出てきたのは、
他より一回り大柄で、
金色の装飾を施したスーツを着た
リーダー格の男だった。

弱者をゴミのように見下し、
他者の命を効率だけで切り捨てる冷酷な声。

そして、縦に割れた黄金色の瞳孔。

水原は理性を失い、
腰のブラスターを抜き放って
突進しようとした。

「やめろ、水原! 」

大地が彼女を突き飛ばした直後、
兵士たちの一斉射撃が
二人のいた空間を焼き払った。

大地は水原を抱え込み、
辛うじて物陰へ転がり込む。

圧倒的な武力の前に追い詰められ、
ジリジリと包囲網が狭まっていく。

もはや、万事休すかと思われた。

——その時だった。

チュウゥゥゥゥッ!

突然、都市の天井を這う巨大な空調のダクト群から、
無数の甲高い鳴き声が響き渡った。

直後、パシィィィンッ! という破裂音と共に、
地下都市全体を照らしていた照明が、
一斉にブラックアウトしたのだ。

同時に、無菌の空気を循環させていた
空調システムの羽音が完全に停止する。

「な、なんだ!? 何が起きた!」

「配電盤がやられた!
メインケーブルが……食いちぎられている!?」

過激派のリーダーが狼狽して叫ぶ。

予備電源の赤い光が明滅する中、
天井のダクトから、
無数の「影」が滝のように溢れ出してきた。

それは、白亜紀のあの日、
大地が閉じたコンテナに逃げ込んでいた
「ネズミ」の末裔たちだった。

数千万年の間、
与えられた無菌環境に甘んじて
ひ弱になったレプティリアンとは対照的に、
ネズミたちは都市のダクトという
過酷な環境の裏側で異常繁殖し、
強靭な生命力を持って進化していたのだ。

彼らは腹を空かせたまま配電盤を荒らし回り、
何千本ものメインケーブルを無惨に噛みちぎっていた。

空調が止まり、
数千万年分の地熱が
都市内にこもり始める。

そして、ネズミたちが体に付着させていた未浄化の雑菌が、
空気が滞留した空間にあっという間に蔓延していった。

「グギャァァァッ!!」

外の空気に耐性のない過激派の兵士たちが、
次々と喉を掻き毟り、銃を落として倒れ込んでいく。

「今だ!」

大地は立ち上がり、ブラスターを構えた。

だが、撃つ必要すらなかった。

リーダー格の男もまた、膝から崩れ落ち、
自らの鱗が黒く変色していくのを
絶望的な目で見つめていた。

水原は、苦しむレプテリアンのリーダーを見下ろして
銃口を向けた。

彼女の指が、引き金にかかる。

「……あなたたちと同じようには、ならない。」

水原は、三十年間の呪縛から
ついに解放されたように、
静かに息を吐いた。

「助けてくれ……」

部屋の隅で、
武装を持たない
水色のレプティリアンたちが怯えていた。

その鱗の色艶は、
あの白亜紀で大地に噛みついて警告してくれた、
優しい幼体たちの面影を残していた。

大地は彼らに、未来の抗生物質を渡した。

「これで時間を稼げ。
生き延びて、別の歴史を作れ。」

水色レプティリアンたちは、
深く頭を下げてそれを受け取った。

『警告。
空間崩壊の恐れあり。

白亜紀での隕石による損傷が
限界を突破しました。

時空ナビゲーション制御不能。

時間軸の慣性に流されます。』

NOAのシステムが無機質に告げる。

「脱出するわよ、大地!」

水原と共に
崩壊し始めたNOAに飛び乗る。

機体は激しい振動と共に制御を失い、
先の見えない新たな時空の暗闇へと、
真っ逆さまに転がり落ちていった。

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