「合法化」によって性産業がメジャー化…「ヨーロッパの売春宿」と呼ばれるドイツが抱える“闇”
ドイツのさまざまな性風俗
ドイツでは”買春は男性にとって必要であり、広く社会にとって良いこと”だと考えられていて、買春客であることは何ら恥ずかしくはないとされている。さらに法律によって買春という行為を奨励しているとさえいわれている。法律がお墨付きを与えれば利用する人は増える。高校卒業を祝う若い男たちが、性風俗店で一緒に買春をするようになったのはその一例であろう。 ドイツでは’02年の性売買合法化によって市場が拡大し、多くの人々が性風俗産業に参入した。その結果、約40万人ものセックスワーカーがいるとされ、これはフランスの約10倍にあたる。あらゆる形態の性売買が合法なドイツは「ヨーロッパの売春宿」と呼ばれている。 政府公認の風俗店は『エロスセンター』『FKK(エフ・カー・カー)』の2種類がある。エロスセンターは雑居ビルのような建物の中でサービスを受けるもの。FKKは大きなサウナ施設の中で女性と交渉してプレイするものだ。ハンブルクのレーパーバーンという風俗街では通り沿いに派手な色合いの巨大なエロスセンターが立ち並ぶ。銀行や飲食店の近隣に風俗店がある様子は、日本の札幌や名古屋の風俗街のようだ。 一度に650人が利用できる”メガ売春店”が、ミュンヘンやベルリンなどには存在する。このような店ではハンバーガーとビールと性行為がセットになった「早割プラン」を提供していたり、、「2人で1人分の料金」「ハッピーアワー」などの割引サービスを行っていることもある。 ある風俗チェーン店では客の獲得のために、無料で性行為ができるギャンブルゲームを実施することもある。また、ポイントカードを客に提供し、5回の来店で50%の割引が受けられ、10回の来店で1回無料になる店もあるという。さまざまな割引やイベントがある点は、日本の風俗店と変わらない。
ドイツの合法化の問題点
しかし、性売買の合法化には、多くの問題点がある。その最たるものは、移民や貧困層など最も脆弱な立場にある人々を「合法的な性売買」から排除し、結果的に彼らを再び違法な存在にしてしまうことだ。 ドイツでは業者を合法化したことに加えて、セックスワーカーを正規の被雇用者にして社会的給付にアクセスできるようにした。しかし、実際にセックスワーカーとして登録した人はごくわずかにすぎなかった。移民という立場上できなかったり、税金・社会保険・健康保険の支払いなど、登録の前提としてかかる費用の問題などから、大半は合法化に従えなかったのだ。 合法化から疎外された多くの人たちは、提供されるはずだった保護や利益を受けられない不安定な状態にある。規制を通して性労働を可視化させる目的だった合法化だが、現実にはけっして少なくない人たちが見えないまま取り残されるという二重構造が生み出された。 ドイツの性売買では搾取、強制労働、暴力の問題が常に指摘されている。貧困国からの移民の流入や人身取引の問題も深刻化しているという。性売買根絶を目指すフェミニストだけでなく、セックスワーク派の団体でさえ「ドイツの合法化は望ましいものではない」と言っているのだ。また、国内外から多くの人が集まり性風俗産業が大規模化してしまうことも、治安のうえで大きな問題となっている。 「性売買の合法化」は、実質的には「性売買業者の営業活動の合法化」を意味している。その結果、「買春客の増加」→「新規事業者の参入」→「業者間の競争の激化」→「セックスワーカーの安全や尊厳を考慮しない安くて過激なサービスの提供」→「セックスワーカーの安全と尊厳の侵害」ということが起きるのは、ドイツの例が示している。日本でも’98年に出張型風俗店が合法化されてから、同様のことが起きた。 理論上は上手くいきそうだが… 海外の例を見てみると、「性産業の透明化」「税金の徴収」など理論上は国家にとって大きなメリットがある合法化だが、実際には”すべてが丸く収まるわけではない”ということがよくわかる。細かな規制によって性売買を管理・統制するのは、机上で考えるほど容易ではなく、多くの問題をはらんでいるのだ。 現代の日本では、性売買の完全合法化は難しいだろう。明治以来八十余年に及ぶ廃娼運動が結実し、1956年に売春防止法が成立したのである。東京や大阪で街娼が社会問題となり売春者側だけでなく、買春者の処罰化までも検討されている現況において、性売買を国家が認めることはありえない。 現在、全国各地の自治体で風俗店の求人広告のアドトラックが「景観を損ねる」などとして問題となっている。そんな日本で、ドイツのような大々的な性風俗店の宣伝は不可能と思われる。現実的に考えて「売春防止法で禁止しての性道徳の乱れを抑えつつ、風営法で容認し治安の維持や税収の確保など合法化のメリットを得る」という現在の”曖昧な形”を維持するのが、当面は妥当ではないだろうか。 〔参考文献〕 『セックスワーク・スタディーズ』SWASH(編)、日本評論社、2018年 『<性の自己決定>原論』宮台真司、速水由紀子、山本直英、宮淑子、藤井誠二、平野広朗、金住典子、平野裕二、紀伊國屋書店、1998年 『セックスフォーセール』ロナルド・ワイツァー(編)、岸田美貴(訳)、松沢呉一(監修)、ポット出版、2004年 『残業ゼロ授業料ゼロで豊かな国 オランダ』リヒテルズ直子、光文社、2008年 この他、多数の書籍、ネット媒体などを参照しました。 取材・文・写真:生駒明
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