ステージからの景色は、まるで光の海に溺れるかのようだった。
観客席全体がペンライトの無数の煌めきに包まれ、それでいて息苦しさはない。
それぞれの小さな光がリズムに合わせて揺れ、まるで呼吸しているかのようだ。
歓声が一斉に大波となって押し寄せる。
胸を突き上げる低音の振動が体全体に伝わり、空気が震える。
手を伸ばせば届きそうな距離に、大切なSTAYたちの笑顔がある。
その一瞬で、皆と同じ熱気を共有していることがわかる。
🐖🐇「やっぱりNYはあなたの下の名前ペンが多いな。可愛いペンギンもたくさんいる」
🐧「ほんとにね。日本でのライブも特別だけど、ここはまた別格なんだ。僕たちSTAYに愛されてるね」
曲の合間に、僕はそっとあなたの下の名前に囁いた。
慣れ親しんだアメリカだというのに、彼はMCの半分以上を同じく母語が英語のチャニヒョンとヨンボガに任せている。
その代わりに、僕らを優しく見守りながら、時折色素の薄い目を眩しそうに細めつつ、会場中のSTAYの歓声に応えている。
生まれ育った特別な地での公演で、その光景を忘れまいとする彼の動きが一瞬だけ異変を感じさせたのは、後半に入ってすぐのときだった。
急にある一点を見つめて動きを止め、すぐにぎこちない笑みを見せる。
ああ、両親を見つけたんだとわかった。大丈夫だと言いながらも、多分最初は緊張していたんだろう。
漸く余裕が出てきたときに、また体が強張ったのだ。
プロ意識の高い彼は、そんな素振りをSTAYに気付かれないうちにまたいつもの様子に戻っていたが、多分ステージ上の僕らは全員気付いていた。
だが、気付いたときにはあっという間に締めくくりのMCコメントの時間だった。
リノヒョンから始まったそれは、順番に回ってきて、やがて僕の番になった。
紡ぐ言葉にはSTAYへのたくさんの愛と感謝と、普段通りのノリで冗談も含めておく。
すると案の定、会場は光とともに笑いにも包まれた。
これは最後にコメントを控えるあなたの下の名前への、僕からのほんのちょっとの贈り物だ。
平気な顔してまた緊張しているだろうから、これで少しでも不安が和らげばいい。
そんな思いも込めてあなたの下の名前を見ると、マイクを握る手がほんの少し震えていた。
再び深呼吸する彼の様子に、STAYは励ますようにペンライトを振った。
🐧「デビュー前から今日に至るまで、たくさんの紆余曲折がありました。個人としても、グループとしても。一つひとつのステージに全力を尽くしながら、愛と感謝で終わることもあれば、悔しくて泣くこともあった。
それでも漸くこの地に……僕が生まれ育ったこのNYに帰ってきて、ステージの上に立つことができました。たくさんのSTAYがそばにいてくれたお陰です。心から感謝しています。ありがとう、STAY。愛しています!」
あなたの下の名前はそこで言葉を切る。喉の奥で言葉が閊えて、手の震えも少し目立つようだ。
ペンライトがさらに触れ、「OK」という単語が耳に届く。大丈夫だと言っているのだ。
🐧「……そして、今日は一つ、今までずっと話せなかったことをお話します」
あなたの下の名前はそこで、右手人差し指をそっと自分の唇に当てる。すると、それまで聞こえていた会場の大きなざわめきが一瞬にして収まった。自分の呼吸音すら聞こえてくるかのような静けさだ。
どこかで見たことがあるような神業だなと思っていたら、あなたの下の名前の母親・MIYABIさんらしき方が目に入った。
そうだ、あれは少し前のソウルでのコンサートで、彼女がHellelevatorを演奏する前にしていた仕草だった。
🐧「実は、今夜は僕にとって特別なんです。……初めて、両親が来てくれているから」
ざわめきが、再び波のように広がる。あなたの下の名前がSTAYの前で家族の話をするのは初めてだった。
あなたの下の名前は微笑み、再び人差し指を唇に持っていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!