──ハーフってだけで、自分はどこか特別なんだ。
そう思うようになったのは、まだ小学生になる前だったような気がする。
母方の叔父さんが緊急入院することになって、お見舞いのために初めて日本に行ったとき。
色素の薄いブルーグレイの瞳に、シルバーブロンドの髪、父親譲りの欧米風の顔立ち。
日本ではかなり珍しいその容姿は、当時どこへ行っても褒められた。
それは嬉しかったが、いつからか空虚な言葉として響き、苦笑いしてしまうことも増えた。
「きれい」「モデルみたい」「ハーフってかっこいい」
そういった善意の興味と強い好奇心は、次第に距離感のなさに繋がる。
見た目故に向けられる視線や言葉の連続に、疲れを感じていた。
期待されることに慣れてしまっていたのだと、今ならわかる。
だから、「なんで日本語が喋れるの?」「外国人なの?」「日本語おかしいね」なんて言われたときは、ひどく傷ついた。
アメリカに帰って学校に通うようになると、ハーフと知った友人は無邪気に反応する。
多様な人が集まるニューヨークでは、物珍しさよりも文化背景への興味が強かったようだ。
だが、その空気に安堵したのもつかの間、家族の仕事の都合で日本に帰ることが決まった。
その年の夏にショッピングモールを訪れたとき、モデル事務所の社長にスカウトされた。
雑誌モデル、テレビCM、ドラマ出演。
「日本×アメリカのハーフモデル」という肩書は、ひとつの強いブランドとなって、たった一年の活動期間だったというのに、かなり取り上げてもらったと思う。
🐥「え、じゃあ、日本でも活動していたってこと?」
🐧「その頃には既に兄がファッションに興味があって。兄弟モデルなんて言われて、ともに雑誌の表紙を飾ったことがきっかけで、気付いたときには断れなくて。ペイトン兄さんのためにも、1年間は仕方ないって覚悟を決めた」
🦊「……嫌だったの?」
🐧「“ハーフ”を売りにされるのが嫌だったんだ。当時の僕は素直な子どもじゃなかったから」
🐶「ヒョンが?……子供の頃から礼儀正しかったと思ってた」
🐧「失礼な、礼儀はちゃんとあったよ」
🐥「でも、人気だったんでしょ?」
🦊「見てみたい!なんて調べたら出てくるの!?」
その言葉に、スマホを手に取って検索画面を開き……
ふと文字を打とうとした手を止める。
あれは完全に“ヨジャ”にしか見えないだろう。
決してポジティブなだけではない過去の記憶が皆に共有されないことへの安堵と、少しの罪悪感。
それでも僕は首を振り、戯けて言う。
🐧「残念だね、僕の名前で調べても出てこないと思うよ。僕は完全に偽名で活動してたんだ。皆知らないんじゃないかな。日本人じゃなくて、アメリカ人っぽい名前だし」
🐶「えー……。チャニヒョンは知ってる?」
🐧「モデルをしていたことは知ってるかも。でも、活動名は知らないよ。教えてないから」
🦊「ヒョン酷いです」
🐥「当てるのはいいんだよね」
韓国に来て、以前のように“ハーフ”の肩書がブランド化されることは気にならなくなった。
自分のありのままのアイデンティティを受け入れられるようになったのは、ほかでもないメンバーとSTAYのお陰だ。
それでも──
本当の自分を知る人は、一体どれくらいいるのだろうか。
自分はこんなにも嘘つきで、秘密ばかりだ。
今も、昔も……。
カメラのレンズを通して映る自分を見たとき、メイクを落として素に戻った自分を鏡で見たとき、ふとそこに映る姿が別の誰かのように思えてしまうことがある。
歌って踊って、誰かと笑い合って、求められたポーズを真似して、愛されて。
その裏で、誰にも触れられない、触れられてはいけない部分を静かに抱えている。
もちろん選んだのは自分で、その選択は後悔していないどころか、こんなにも愛と幸せを享受している。
それでもほんの少し……
罪の意識というものが、ある。
それは少しずつ、それでも確実に、自分を蝕んでいくのだ。
不安も心配事も、なにもなかった頃には、もう戻れない。
だから僕はこうしてまた、とびきりの笑顔で綺麗な嘘をつくのだ。
🐧「じゃあ、当ててみて。正解に辿り着くのを楽しみにしてる」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。