嬉しそうに笑うあなたの下の名前を見て微笑ましく思うと同時に、心が痛む。
🐺「……あなたの下の名前。今さらでしかないんだけど」
🐧「うん」
🐺「もし……もし、あなたの下の名前のデビューがナムジャとしてじゃなくてヨジャとしてとだったら……」
🐧「チャナ、そういうのだめだよ。僕は『スキズ』がよかったから。そしてそれは今の9人じゃないといけないんだ」
🐺「それはわかってるよ。僕も同じ意見だから。でも……まさか一度も考えたことない?」
🐧「考えたことないって言えば嘘になるけど、それだけだよ。ねえチャニヒョン、僕のことを思って心配になったんでしょ?……可愛いね」
🐺「ティニヤ」
🐧「あのね、いい?現実では、『もしも』なんてないんだよ。仮にあったとして、僕が『スキズ』を選んでなかったとしたら、そのときはアイドル自体やめていたから。これ、お世辞じゃなくて本気だからね」
揶揄ってきたと思ったら、次の瞬間大真面目な顔でそんなことを言われた。
嬉しいと素直を喜びたいのに、それよりも先に涙が滲む。
🐧「それに、嘘や秘密を抱えているのは僕だけじゃないからね。クリスも共犯でしょ?」
🐺「……はは、確かにそうだね」
🐧「なにかあったときはクリスに一番に相談するよ。だってクリスは……」
そこで言葉を切ったあなたの下の名前を不思議に思い、首を傾げる。
暫く黙っていると、リビングの扉が開き、リノが入ってきた。
聞かれていただろうかと身構えたけれど、あなたの下の名前は気にしていない。
恐らく本当にただ起きてきただけだろう。
大切なメンバーにまで慎重になっている自分に、罪悪感を抱く。
そっとあなたの下の名前を見ると、彼女は同じ気持ちだったのか、力なく笑みを返してくれた。
🐧「おはよう、リノヒョン」
🐰「おはよ、あなたの下の名前もチャニヒョンも」
🐺「うん、おはよう」
🐧「朝から電話してたから、朝ごはんなにも作ってなくて。今から作るね」
🐰「ん、なら手伝う。他のメンバーも多分何人か起きてたし、早く食べよう」
🐧「お、やった!リノヒョンとの料理だ!」
今度のあなたの下の名前は満面の笑みを見せてくれた。
やっぱり彼女は笑うと少し幼く見えて可愛い。
そういえばさっきなにを言いかけていたのだろうかと気にはなりつつも、今は聞けないなと、楽しそうにキッチンへと向かう弟たちについていく。
🐰「それで、こんな朝早くから電話かけてくる非常識って誰?」
🐧「ああ、兄だよ。確かに非常識かもしれないけど、怖いから包丁握りながら言わないでね」
🐰「お、お兄さんだったの?ミアネミアネ」
🐧「ううん、大丈夫。ニューヨークとは、今は13時間の時差だからね。ソウルの6時まで報告を待ってくれただけで有難いよ」
🐰「報告?」
🐧「うん。兄さん、半年後を目処に結婚式挙げるんだ。プロポーズ成功したんだって」
🐰「へぇ、おめでとうございます、だね」
🐧「そう。だから次の長期休暇は日本に帰るよ」
🐺「え、そんな話だったの?聞いてない!」
🐧「今初めて言ったからね。もちろんお土産買ってくるよ」
🐰「……あなたの下の名前、僕も行く」
🐧「え?」
🐰「ヒョンのブランドの大ファンだし、お祝いしに行く」
🐺「待って、それずるい!僕も行く!」
🐰「じゃあ皆で……」
🐧「流石に皆は無理だよ。帰るのは祖父母の家だから。でも、スケジュールが空いてるなら、二人とも一緒に行こう」
リノが起きてきて、また少し賑やかになった空間で、今までの不安も恐れも心配も薄くなっていった。
半分冗談のつもりで「あなたの下の名前について日本に行く」と言いながらも、本当にそうであればいいなと切に願う。
そうして他愛のない話を続けながら、久々のゆっくりとした朝の時間を楽しんだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。