今朝もばったりチャニに遭遇し、「一緒にデビューしてあの日の約束を果たそうよ」と誘われた。
その言葉に思い出されるのは、チャニと初めて会った日から続く記憶だ。
チャニとは互いに韓国以外の国から来たことですっかり意気投合した。
まだ韓国語の覚束なかった自分は、困ったことがあるたびに英語で質問し続け、その後も長く厳しい練習生生活を支え合った。
同期入社の子が、自分と同い年かそれより若い子たちが、どんどんデビューし韓国すらも飛び出て活躍していった。
もちろん耐えられずに辞めていく人もいた。
一緒に辞めようと声を掛けられたこともあった。
「まだ辞めないのか」と冷たい声で笑われたこともあった。
青春すらもこれに捧げ、それでも諦められずに泣きそうになったとき、チャニだけはいつも言ってくれたのだ。
『大丈夫だよ。この努力は無駄にならない。あなたの下の名前はうまくやってるよ。一緒にデビューして夢を叶えよう』と。
🐧「クリスがいなかったら、もうとっくの昔に挫折していたかもしれない……」
そんなチャニに誘われたとき、認められたと知ったとき、それだけで泣きそうなくらい嬉しかった。
チャニなら絶対デビューできる。
だが彼がいなくなったとき、果たして自分はどうなるのだろうか。
🐧「卑怯で臆病な自分には、それでもきっとここを去る勇気なんて持ち合わせていないんだ」
鏡を見て表情を引き締め、音楽をかける。
最初に流す曲は決めている。
何年も前にチャニにお勧めされたこの曲は、歌とダンスのウォームアップに使っているうちにすっかりお気に入りとなってしまった。
PD「凄くうまいね。その表現力とダンステクニック、迫力は他の誰にも真似できないものだ。歌も……成長したね」
数曲ぶっ通しで歌って踊り、漸く水分補給をしようと曲を止めたとき、自分を評価する言葉が掛けられた。
ペットボトルの水を慌てて喉に流し込み、姿勢を正して挨拶する。
🐧「その……いつからいらしていたんですか?」
PD「3曲ほど前だ」
🐧「最初からですか……声かけしてくだされば……」
PD「元から止めるつもりはなかった。集中しているようだったし、あなたの下の名前のパフォーマンスを見たかった」
🐧「ありがとうございます」
PD「ところで、今日は君に大事な話があって来たんだ」
🐧「大事な話……」
PD「そうだ。長くなるかもしれないから立ち話はやめよう。楽な姿勢で座ってくれ」
代表は自分の前をぽんぽんと叩いて言う。
だが私は、これからなんの話をされるのだろうかと緊張せずにはいられない。
辞めることも考えてはいるが、先に「クビ」だと言われたらどうしようとか、自然と不安は高まっていく。
そんなことを知ってか知らずか、笑顔で「あなたの下の名前」と呼びかけてくる代表の顔を、ただ一心に見つめた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。