PD「今日来たのは、事務所の新しい企画のことで話したかったからだ。……知ってるよね?チャニからメンバーに誘われているのだから」
🐧「……はい」
PD「何故断った?」
🐧「それは……」
代表の声や表情はとても穏やかだった。
けれども有無を言わせぬ強さも感じられて、正直に話してしまう。
🐧「最大の理由は、性別です。男女の違いによる体格差は、パフォーマンスにも少なからず影響を及ぼしてしまいます。ファンにも嫌な気持ちを抱かせてしまうかもしれない。それに……男女混合なんて、クリスたちにとっても不利になるんじゃないかと……」
PD「なるほど。あなたの下の名前はチャニたちと同じグループでデビューを目指すこと自体に反対しているわけではないんだね?」
🐧「それはもちろん違います!私が男だったなら、寧ろ一緒にデビューしたかったと願っています。それでも、性別が違うから……」
PD「それならあなたの下の名前は、性別の違いさえなければなんの躊躇もなくグループに入れるわけだ」
🐧「それは……はい。そうなりますね」
PD「じゃあ、誘いを受ければいい」
🐧「いえ……あの、私が女だからそれは無理だって、さっきからずっと……」
PD「ああそう、大事な話を忘れていた。君は『ナムジャ』としてあのグループに入り、デビューするんだ」
🐧「それって……!」
話が食い違っていると思った次の瞬間には、とんでもない提案をされていた。
代表の言葉の意味を噛み砕くと、「男のふりをしろ」と言われているのは容易に理解できた。
PD「あなたの下の名前、図らずも多くの人に『男』だと思われているね?チャニも私と話さなければいつ気付いたことか。……要するに、男装すれば問題ない。ナムジャに混じってデビューするための実力なら、君はもう持っている」
🐧「それでも……ですが……!」
PD「信頼できるスタッフをつけよう。会社側から全力でサポートする。それに……もし問題になったときは、私がすべての責任を取ろう。あなたの下の名前はただ、望むように力を尽くせばいい」
長らくデビューできなかった自分が、代表にその実力を認めてもらえているのだと知った。
そのうえで、異例の提案をされているのだとわかった。
そのために足りない環境は補ってもらえる。
PD「厳しい道になるかもしれない。だから、君の答えを尊重する。やりたいかやりたくないか、答えはどちらだ?」
答えを出すのは簡単だった。
自分はすべてをこれに捧げてきた。
漸くチャンスを前にして、それも誇るべき人たちと一緒のグループになれるのだ。
可能性に賭けたチャニや代表のように、自分もその可能性に賭けたい。
『夢を叶えるために自分のしたいことをすればいい』
兄にもそう背中を押されていた。
🐧「やります。やりたいです。『チャニヒョン』にも伝えてきます」
PD「応援するよ。……但し、一つだけ注意点がある。デビューまでにもっと体を鍛えること。君には十分実力があると言ったが、身体については心配している。もし今のままナムジャと同じ激しいパフォーマンスを続けていたら、いずれ体がついてこなくなるだろう」
🐧「……はい」
PD「私はそうなる未来がわかっていて、大事なアーティストを送り出すつもりはない。体が限界を迎えないように適切なトレーニングをすること。それができないようなら、サバイバルで容赦なく君を落とすつもりだ。私は応援しているが、もちろん贔屓なんてしない」
🐧「はい、全力を尽くします。ありがとうございます」
「失礼します」と言って頭を下げ、代表を見送り自身も荷物を纏める。
廊下を小走りで進みながら、目的の人物を探した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。