灘、伏見と並ぶ酒どころ広島 日本酒通・EXILE橘ケンチさんも認める実力派の蔵ぞろい

IWC日本酒部門で11部門ごとの最高賞を受賞した日本酒の蔵元ら=5月22日、広島市中区のシェラトンホテル広島(矢田幸己撮影)

世界でもっとも権威あるとされるワイン品評会の日本酒部門の審査会が5月、神戸の灘や京都の伏見と並ぶ酒どころとして名高い広島県東広島市の西条で開かれた。和食ブームや健康志向を追い風に、とどまるところを知らない「SAKE」人気。広島で受け継がれてきた吟醸文化をたどる。

品評会は英国の出版社が主催する「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)」。日本酒造青年協議会の働きかけで2007(平成19)年、日本酒部門が創設された。

ライフスタイルの変化や嗜好(しこう)の多様化で国内消費量が年々減る一方、和食の世界的な普及や料理の引き立て役としての存在が知られ、海外への輸出量、輸出額はともに堅調だ。酒造メーカーが海外市場を意識して久しいが、販路拡大を目指す中でIWCの「お墨付き」を得られるのは大きい。

今回は国内外の457社から出品された1738銘柄が純米大吟醸や純米酒などの11部門で競った。同22日には、最高賞に次ぐ金賞に輝いた195銘柄の試飲会が広島市内のホテルであり、関係者らが芳醇(ほうじゅん)な香りを楽しみながら、口に含んで甘みや酸みなどを確かめた。

「ゴールドメダル(金賞)を取るのは簡単ではないが、全銘柄の1割以上もある。小さな蔵元の酒も多い。ファンタスティックだ」

同協議会が日本酒文化の継承者として任命する「酒サムライ」の一人で、シンガポールで活動するエイドリアン・ゴーさん(45)の評価だ。

この日は部門最高賞も決定。今回は果実を使った酒の部門が新たに加わり、広島県呉市の林酒造が手掛けた「三谷春 梅酒 潤」が選出された。

県産八反錦を精米機大手のサタケ(東広島市)の「真吟」と呼ばれる革新的な精米技術で磨いた(精米歩合65%)。麹や酵母、梅も県産。6代目の林英紀社長(76)は「酒の五輪のような審査会で『オール広島』で受賞できた」と喜んだ。

銘酒を生む風土

時代とともに進化し、世界の視線を引きつける広島の酒造り。東広島・西条に劣らず、日本酒通をうならせる銘酒を生む風土が広島県竹原市にもある。

竹原は瀬戸内海沿岸のほぼ中央に位置し、製塩業や酒造業で栄えた「安芸の小京都」。江戸の風情が漂う町並み保存地区はどこかなつかしさを覚える散歩道だ。

「今は3蔵ですが、最盛期の大正時代には26もの蔵があったようです」とは、文久3(1863)年創業の藤井酒造5代目蔵元、藤井善文さん(71)。日照時間が長く、少雨で温暖な気候は製塩だけでなく、主原料の米づくりにも適したという。

日本酒は食の個性を引き立ててこそ-。藤井酒造の信念を体現したのが代表銘柄の「龍勢」だ。創業時の木造酒蔵を開放した交流館で、蔵に棲みつく酵母で醸す生酛(きもと)仕込みの純米大吟醸「龍勢 黒ラベル」を試飲した。

大正時代に作られたとされる木樽(貯蔵用)に触れる藤井酒造の藤井さんとエグザイルの橘ケンチさん=5月23日、広島県竹原市(矢田幸己撮影)

食欲を誘う芳醇な香り。キレの良い辛口の中に、山田錦らしい米本来の旨味も。濃い味の料理との相性が良さそうだ。旧家などを利活用した保存地区のホテルレストラン「LE UN(ルアン)」では、藤井酒造のほか、竹鶴酒造、中尾醸造の日本酒と瀬戸内の幸とのペアリングを楽しめる。

竹原は豊かな地下水に恵まれ、仕込み水としても使うという。藤井さんは「地域の酒蔵。土地の素材を生かし、自然の力が生きるように人智を絞りたい」と力を込める。

思いを伝えたい

広島都心の閑静な住宅街。たたずむマンションの地下に、創業文化2(1805)年の原本店(広島市中区)がある。

杜氏(とうじ)と6代目蔵元を兼ねる原純さん(66)によると、バブル期の平成2年に先代が亡くなり、賃貸収入を得られる、と蔵の跡地をマンションにする方向で話が進んだが、自分の代で伝統を絶やすのも忍びなく、ひらめいたのが全国でも珍しい地下酒蔵だった。

酒蔵は醗酵室も含め、作業スペースが140平方メートル弱。広さが限られるため、随所に工夫を凝らした。その一つがゴアテックス製の麹室(こうじむろ)だ。麹づくりで重要なのは温度と湿度の徹底した管理。地下は湿気が多い。水を通さず、湿気を逃す素材の特性を応用した。

「『雪山のテントの中でコーヒーを飲んでも結露しないよ』。ワンダーフォーゲル部の同級生からヒントを得ました」と原さん。ゴアテックスの麹室を考案したのは自身が初めてでは、という。

ゴアテックス製の麹室について説明する原本店の原さん=5月23日、広島市中区(矢田幸己撮影)

仕込みや瓶詰めは原さんと妻との二人三脚で、年間6千本(一升瓶換算)を醸造する。秋に収穫された酒米を使う「寒造り」が伝統的な醸造法だが、一年中酒を造る「四季醸造」で生産量を確保している。

資料館としても開放された蔵で銘酒「蓬莱鶴 純米吟醸 奏」を味わった。フルーティーな香りで飲み口が軽やか。夏本番に向けて冷たくして飲むのが良さそうだ。原さんは「名の通り、香りと味のハーモニーを楽しんでもらえたら」と話す。

藤井酒造と原本店。広島が誇る酒蔵とかねて親交が深いのが、広島初開催のIWC日本酒部門で広報アンバサダーを務めた人気グループ「EXILE(エグザイル)」のメンバー、橘ケンチさんだ。前出の酒サムライでもあり、著名な酒蔵とコラボし、日本酒をプロデュースした過去も。

街並み保存地区のホテルレストラン「LE UN(ルアン)」で楽しめるコース料理と日本酒とのペアリング=5月23日、広島県竹原市(矢田幸己撮影)

今回は自身が出演するテレビ特番の撮影で先の2蔵を巡り、藤井さん、原さんの酒造りに懸ける熱い思いの一端に触れた。

同23日、IWC日本酒部門審査会の関連イベントで県産日本酒を試飲した橘さんは「広島は実力派の蔵が多く、いずれの酒も個性的。世界に広がる日本酒だが、造り手の思いを解像度高く伝えていきたい」と意気込んだ。(矢田幸己)

味と香りを保つ新酵母、猛暑に強い酒米を開発 世界の視線を引きつける「広島発」の酒造り

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