『見殺しなら、自分で殺すのと違って感触が手に残らないはずでしょお?』
『──スバル! 捜したのよ! 今、そっちにいくのはマズいかしら!』
『べ、ベアトリス……!? それに……エキドナ!? お前ら、なんで一緒に……』
『……よりによって、ここで君と出くわすのか、ナツキくん』
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「──! 違うわ、エキドナ。スバルは……スバルが悪いんじゃないの。多分、エキドナだってわかってくれてると思うけど……」
状況が憎い。
これでは、スバルがこの事態を引き起こしたように見えてしまうではないか。
──エミリアなら、この世界でだってスバルを疑わないと思う。
それは、エミリアの胸の内にある暖かい感情が根拠だ。
だが、エキドナやラムは、エミリアと同じ想いを抱いてはいないから。
「──誰かひとりが悪いわけじゃないもの。仕方ないけど……」
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『ベアトリス、お前は……』
『――っ! 今はその話をしてる場合じゃないのよ! こっちにくるかしら!』
『ベアトリス、本気かい!? 彼は檻の外に出ている! この状況でだ! どくんだ、ベアトリス! ここまで怪しい行動をされて、彼と同行するなんて危うい選択はできない! 彼はラムが主張する通り、ナツキ・スバルではないんだよ!』
『そんなことないのよ! 手を繋げば……こうして触れているベティーにはわかるかしら! スバルと、ベティーとの契約は繋がったままなのよ。そのことは、ベティーと同じ立場のお前にならわかるはずかしら!』
『……だとしても、信用はできない! この状況下で檻の外に出ているんだ! いったいどうすれば彼を信じられる? 納得のいく説明はできないだろう!』
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「──信用なんて、スバルがスバルだってだけで十分かしら。それ以上、何も必要ないのよ」
スバルがベアトリスやエミリアにそうするように、ベアトリスもスバルに全霊での信頼を寄せる。
──それが、都合のいい話だということも、賢いベアトリスには分かっているが。
「──この世界がなかったことになっても、スバルは全部覚えている……本当に、救えない話かしら。スバルは、もっと酷いやつになったっていいのよ」
スバルが皆に信頼され、評価されるのは喜ばしいことだ。
が、それがいい方向にばかり転ぶとは限らない。
「──何があっても、べティーはスバルを信じているかしら」
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『もう、いい』
『スバル?』
『……どういうつもりだい?』
『見ての通り、降参だよ。……もう、お前らの好きにしてくれたらいい』
『殊勝な態度を見せれば、こちらの態度が軟化するとでも思っているのかな? だとしたら、それは大きな勘違いだ。ボクは君に、心を許さない』
『いいよ。それも含めて自由にしてくれ。――この塔は、もう駄目だ』
『この塔はもう……? つまり、君はすでに目的を遂げたということかい?』
『……目的?』
『とぼけないでくれ! 君たちの目的は、祠の『魔女』だろう!? それが叶ったから、こうして本性を現した。……アナの直感に従っておくべきだった。この場所へは、他の誰をも連れてくるべきじゃなかったんだ』
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「──諦めた方が、幾分か楽でしょうね。ラムからすれば、この後どう持ち直すのか疑問でならないわ」
ラムがそう呟き、桃色の髪を僅かに揺らす。
「──ナツキさん……」
オットーが苦虫を噛み潰したような顔で言葉を飲み込む。
なまじ、理解が早く聡明だからこそ、オットーにはエキドナを非難することが出来ない。
八つ当たりのようなことなら、出来るかもしれないが。
「──ッ! 大将……こんッな、こと……」
ガーフィールが悔しそうにそう声を荒らげる。
フレデリカは静かに肩を支え、哀しそうに見つめる。
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『スバル、スバル! どうしてしまったのよ! そんな言い方、スバルらしくないかしら! こんなところで立ち止まるはずがないのよ!』
『俺、らしい?』
『俺らしいって、何なんだ。お前らが見てる、俺らしさって、どこに』
『……記憶をなくした。そんな、出来の悪い演技をまだ続けるつもりなのかい。妹の記憶が消えたラムや、自分を忘れられたユリウス、大勢が大切な人の記憶を消されたことを知りながら、君はまだそんな残酷な演技を!』
『演技!? 演技だと!? ふざけるな! 演技なら、もっとマシに演じられる立場にするに決まってんだろ!? 誰が……誰が好き好んで、『ナツキ・スバル』になろうとなんかするかよ! なれるもんかよ、こんな気持ち悪い奴に!!』
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その言葉に、傷ついた者も、信じられないと口を開ける者もいた。
真っ向からの、自己否定と自己嫌悪。
大切な人がそんなことを言うのを聞いて、気分がいいはずもなかった。
だから、
「────」
最も傷ついているのが誰かということも、もはや自明の理であった。
「──昴、」
声が、震えていた。
手足が冷たくなっていき、喉の奥が痛くなる。
「──そんなこと、言わないで……」
涙で視界が歪み、声を上手く発することも難しかった。
──あの子の気持ちをわかってあげたかった。尊重してあげたかった。苦しみを取り除いてあげたかった。どんな時も、後ろから見守ってあげたかった。
あの子にこんなことを言わせるような世界に、あの子を奪われてしまった。その事実が、もはや耐え難いほどに不快感をまとったまま菜穂子たちの心を掻き毟る。
「やめてよ……こんな悲しい言葉、昴に言わせないで……」
恨みでもなく怒りでもなく、純粋な悲哀と後悔が、心に長い傷跡を深くつけていく。
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『お前らよってたかって、知らねぇんだよ! 誰なんだよ! 何もかもなくしたんだよ! 俺はコンビニ帰りなんだ! 今日一日、店員と口利いた覚えしかねぇんだよ! それがいきなり異世界? 砂の塔? 死体! 『試験』! 偽物! 『ナツキ・スバル』! ふざけるんじゃねぇ! ふざけるんじゃ、ねぇ! そうだよ! どうせ俺が悪いんだよ! ここじゃないとこにいきたかったんだ! 家に帰りたくなかったんだよ! 偽物の顔張り付けて、父ちゃんとお母さんに迷惑かけてんのが怖かったんだよ! だから、最初はワクワクしてたさ、最初だけな!』
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迷惑だと、昴がそう思っていたことに、気づかないほど愚鈍ではなかった。何とかしようと思っていたし、する手立てもあった。
──明日が、来てさえいれば。
「──偽物、か……」
心が、軋む音がする。
不登校になることくらい、思春期にはよくあることだ。それだけで、人生全てがダメになったりしない。
時間をかけて、ゆっくりと心を落ち着かせれば、問題なんてなかった。
──なかった、はずなのだ。
「────」
ため息が、低く響く。隣から聞こえる泣き声に、鼻の奥がツンと痛んだ。どうしようも無い絶望に、胃が痛む。
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『なんで、今いきなりキレてんだって思ってんだろ? 俺だってわかんねぇよ! でも、今いきなり限界がきたんだよ! 俺なんてこんなもんなんだって、ぶちって何かが切れたんだよ! 望まれたって何もできない! できやしない! だから! だから……もう、許してくれ。許してください。俺を、うちに帰してください……。神様が、俺に罰を与えようと、したんなら、わかりました……俺が、悪かったんです』
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スピーカーから、心の声が聞こえる。秘められた、嘆きの声だ。それを聞いて、銀鈴が動揺して息を詰まらせ、赤鬼が痛ましく瞳を逸らす。虎は泣きそうな顔をし──そして、
「すばる……っ!」
彼を、この世界でいちばん愛する存在が、それに心を痛めないはずがなかった。
「──嗚呼、やめて……! 昴も帰りたいなら、早く返して……! こんな世界に、昴を……」
顔を覆い、泣き伏せる。罰だなんて、この子に与えられていいはずがない。こんなに優しい子が、どうして──
「──すばる……」
想いは同じ色をしたまま、決して同じ場所にはたどり着かない。
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『……ボクは、君を信じない』
『エキドナ……』
『泣いて縋られようと、一欠片の疑念が拭い切れない以上、ボクの答えは同じだ。ボクは……ボクには、アナの体を借りている責任がある。彼女を無事に取り返すためなら、誰に憎まれようと、恨まれようと、構わない。……だけど、戻ったアナに顔向けできなくなることも、したくない。ベアトリス、君は彼といけばいい。ボクはユリウスのところへいく。彼と合流して、何もなければ上で会おう』
『……わかったかしら。ほら、スバル、今は立つのよ。立てないっていうなら、ベティーが担いででも連れてくかしら』
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「──流石に、これはきついわ」
アナスタシアは、エミリアやベアトリスのように、スバルに気持ちを寄せすぎていない。
そんな彼女でも、胃が痛むほどだった。
「──はぁ、これはあかんね。ナツキくん、まともなままなんが逆にまともやないんやない?」
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『――これは、何のつもりかな?ボクは、譲ったつもりだ。それがどうして、こうなる?』
『……ユリウスに、頼まれて』
『彼に? 馬鹿な。彼がそんな判断を……しかねないのは、わかるが。それ以前に、ここにくるまでに彼と会ったのか? 彼は五層の様子を見にいったはずだ。それなのに君と会っていたんだとしたら……いや、それより頼むとは? 彼は今は……ああ、埒が明かないな。とにかく、最後にユリウスを見かけた場所を……』
『──ぁ』
『は』
『スバル!!』
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スクリーンの中でスバルを睨むエキドナを、背後から赤い光が襲う。それは、巨大なサソリのような形をしていて──スバルを守ろうとするベアトリスを巻き込んで、空間を砕いていく。
「──スバル殿、貴方は……」
ヴィルヘルムが、頭を抱える。人間の本質は、記憶によるものではないのだ。結局、生まれ持った性根が、人間を形作っている。
「──苦労する、性分ですな」
キャプションに完全に同意します もう大興奮です