『何縮こまってンだ、オメエ。黙ってンじゃねえよ、感じ悪ぃ野郎だな、オメエ』
『──っ』
『はンっ。なンだ、オメエ、その面ぁよ。ビビッてンのか、オメエ。泣きそうかよ、オメエ。こンな気持ち悪ぃ部屋で、胸糞悪ぃ奴だな、オメエ』
『────』
『……オメエ、口が利けねえのかよ。オレの話が聞こえてねえのか?それとも、オレと話すつもりなンかねえって態度で示してンのか?それならそれで構いやしねえが、それならそれでもっと堂々としてろってンだろ』
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「スバル……! どうしよう、レイドはすごーく性格が悪いから……スバルが大変な目に遭わされちゃうわ」
エミリアが焦ったような顔で立ち上がる。
それに、スバルは一言も発していないのに、よくこんなに喋れるものだ。
レイドは人と話すのが好きなのだろうか。
「って、そんなこと考えてる場合じゃないわよね。それに、この世界では多分スバルは……」
過去は変えられない。
エミリアがスバルを救えなかった世界はスバルの中から消えない。
それでも、
「──私、ちゃんとスバルを守ろうとできてたかな」
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『眼帯、左目に、してた、だろ。なんで、右目だ……?』
『気分だ、気分! オメエ、眼帯なンざオレはどっちでもいいンだよ。こンなもン、お遊び気分で付けてるもンと変わりゃしねえンだ。付けてねえと見えすぎちまう。そンだけの代物なンだからよ。――なンだ、オメエ。肩、外れてンじゃねえか、不格好だと思ったぜ、オイ』
『──ッ!?』
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「スバル!!」
骨を無理やりに矯正する音が響く。
何もかもがめちゃくちゃな男に、ベアトリスはその可愛らしい顔を顰める。
「信じられないのよ……! 本当に、常軌を逸しているかしら!」
レイドに限った話ではなく、あの時代を生きた人間は、恐らく、殆どがそうなのだが。
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『大げさにすンなよ、オメエ。オレがイジメてるみてえに見えンだろうが。実際のとこ、オメエをイジメたのはオレじゃなく、あの激マブの方だろうによ』
『げき、マブ……?』
『あの銀髪の激マブに決まってンだろ、オメエよ。後ろの氷の檻と、オメエの外れた肩見りゃ大体のとこはわかンだよ。仲間割れでもしたかよ、面白ぇ』
『なんで、そんなことがわかる……?』
『こンなしみったれた塔にいりゃ、男と女のやることなンざ、必要以上に仲良くなるか、必要以上に仲悪くなるかのどっちかしかねえよ。オメエじゃムカつかせンのが関の山って思っただけだ。大した話でもありゃしねえ』
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「──肩が外れたのはエミリア様の関与していないところだけれどね。仲間割れに近しいことが起きていることは、否定のしようがないけど」
ラムが白く長い足を組み直し、そう吐き捨てる。
エミリアとベアトリス以外は心に余裕がないのが見て取れる。
余裕の無くなっている自分を見るのは、気分が悪いが。
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『――まぁ、そこそこ動くみてえだな。上等、上等』
『待てよ! あんたは……あんたは、上の階から降りてこられないって話じゃなかったのか? それがどうして当たり前みたいにこの階をうろついてる!?』
『オレがいつ、二層から出歩けねえなンて言ったよ? ……なンて、それ言い出したらちっとばかし卑怯だわな。安心しろや。オレが出歩けねえって前提は間違っちゃいねえ。ただ単に、今は出歩けるようになっただけだ』
『ただ単にって……その、前提がどうして崩れたのかを聞いてんだろ?』
『そこまで懇切丁寧にオメエにご教授してやるつもりはねえよ。オレは出歩ける。オメエはビビッて小便漏らす。以上、しまいだ。――いや、しまいじゃねえな』
『な、んだよ……』
『いいぜ、虚勢は張れよ、オメエ。それも張れなくなりゃ男はしまいだ。で、男落第寸前のオメエに聞くが、オレはこのしみったれた塔からおさらばするつもりなンだが、仲間割れしたオメエの連れはどこいってンだ?』
『は?』
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「──本当に、よく喋る人ですね。状況と噛み合っていないのが、気味悪さを増長させますが」
「そうですわね。まあ……何百年も前の英雄なんて、蓋を開けてみればこんなものというのはよくある話ですわ。とくに強い人間なんて、どこかおかしくないといけないのかもしれませんわね」
オットーが不快そうに、フレデリカが疲れを滲ませた顔でそう呟く。
肉体的な疲れではなく、精神的な疲れが響いているのだ。
「こんな経験をして、まだ前を向かなければならないなんて……」
フレデリカには、スバルが可哀想でならなかった。
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『オレはこっから出てくつもりだが、飯はいるし、水はいるし、酒もいる。ついでに女もいりゃぁ言うことねえ。オメエの連れの中じゃ、激マブとエロい格好の女が候補だ。激マブは口説くの罪悪感があっから、候補はエロ女が優勢ってとこだな』
『出て、いく……? この塔を? でも、それじゃ、お前……『試験』とか、いや、もっと色々あるだろ? この状況とか、全部どうすんだよ!?』
『いや、オメエの全部とか知らねえよ。オメエの身内の始末はオメエで付けろ。オレには何にも関係ありゃしねえ。ああ、待て。一個だけ気持ち悪ぃ放置はあンな』
『気持ち悪い、放置……っづぁ!?』
『言ったろうが。何でも答えがもらえると思ってンじゃねえよ、雛鳥か、オメエ。稚魚なのか雛鳥なのか、ちったぁ足下固めろや、オメエ』
『お前の、定義の問題で……』
『都合よく出てきたオレを、オメエの不安やら疑問やら後悔やらの隠れ蓑にしてンじゃねえよ。オメエのことはオメエで片付けろ。オレを使って慰めてンじゃねえ』
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「──身勝手、という言葉をそのまま人間にしたような性格だーぁね。……言っていることは正しいけれど、ね」
ロズワールが瞳を細めて笑う。
やることなすこと全てがめちゃくちゃで、まともな頭ではない。
ラインハルトがこんな性格だったならどうなっていただろうか、と侵入思考が頭に過ぎる。
「──そうなっていたなら、スバルくんはまた苦労をしたのだろうねーぇ」
やや楽しそうに声を弾ませるのを、ラムは穏やかな顔で見つめていた。
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『――ああ、きやがったな』
『薄気味悪ぃ魔獣がいたもンだな。オメエ、あれがなンだか知ってっかよ』
『……知らねぇ。俺も、でかいミミズ以外の魔獣は、初めて見て……ぁ!?』
『──ユリウス!』
『他の連中はどこへやら、だ。――ま、都合がいいっちゃいいわな』
『お、おい、どうする気だ?』
『オメエ、質問ばっかだな。オレに聞いてばっかじゃなく、たまにはオメエの方で予想外の行動してみろや。オメエと話してても面白くねえよ。見てて楽しい女でもねえ、話してて面白いわけでもねえ。オメエ、オレに何のつもりで話しかけてンだ?』
『────』
『オレに言わせりゃ、オメエの方がどうしてえンだよ。身内が下で、気持ち悪ぃ魔獣に囲まれてンのに棒立ちか? 弱ぇ奴は選択肢が少ねえな。言い訳だけうまくなりやがる』
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「──なんやろ、この状況からよくうちらが覚えとる世界まで持ってけたもんやね。もうほぼ絶望的やない?」
「私もそう思うわ。スバル、すごく頑張ったんだと思うけど……辛い思いしてるの、あんまり見たくないから」
アナスタシアの言葉にエミリアが賛同する。
だけど、スバルは頑張り屋さんだから、辛い思いや苦しい思いをしていたかもしれない。
エミリアは、それが不安でならなかった。
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『あなたは……何故、ここに』
『何故、何故、何故。聞くこと一緒かよ、オメエら。もっと他になンかあンだろ。女にモテる秘訣とか、うまい酒の銘柄とか、どうしてそンなに強いンですか、とか。女にモテる秘訣は顔。うまい酒は火酒『グランヒルテ』。――オレがどうして世界で一番強ぇのか、そいつはオレがオレだから』
『――そら、『試験』の続きだ。オレが飽きる前に、もぎ取ってみろよ、オメエよ』
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「──本当に、その理屈が通ってしまうのだから恐ろしい」
レイドが強いのは、それがレイド・アストレアであるからだと、そう思うのが結局一番早いのだ。
ユリウスがどれだけ研鑽を重ねようと、理解の範疇の外側にいる者に近付くことはかなり難しい。
この世界の全てに説明が着くほど、世界は単純ではない。
ユリウスだって、そんなことはわかっていた。
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『そらそらそらそらそらそらそらそら! どうした、オメエ! 遊ンのか、オメエ! こないだとは違ぇ状況だ、狙いどきだぞ、オメエ! 周りのお友達利用して、ちったぁオレに報いてみせろや! おらおらおらおらおらおらおらおら!』
『いったい、あなたは何を考えている!? これだけの魔獣が地下から湧いた! 今は塔全体の一大事で、力を合わせて対抗すべき状況です!』
『はンっ! お行儀のいい剣筋の奴は考えることまで行儀がよろしいな。オメエ、そンなンで人生楽しめてンのかよ? オレの経験上、やりてえこと我慢してる奴より、やりてえことやってる奴の方が強ぇし楽しンでンぞ、オメエ』
『何を……』
『大体、気持ち悪ぃ火炙りの馬が走り回ってるぐれえで何の問題がある? 雨が降ったのと変わりゃぁしねえ。雨の方が面倒臭ぇな。オレぁ癖っ毛なンでな』
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「──なに、言ってるの……」
フェリスが、無理解を示すように顔をしかめる。
「そういう話じゃないでしょ……」
めちゃくちゃな論理に、頭が痛くなる。
フェリスには到底、理解ができない。
いや、正確には違う。
理解はできても、納得ができない。
これは心の機微だ。
上手く例えられないが。
「──魔獣を……火炙りの馬、などと言えて、しまうのは……恐ろしい、ことですね」
クルシュが疲弊を滲ませた顔で呟く。
あんなのを相手にするユリウスとスバルが、気の毒でならない。
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『かっ! それだ、それ。悪くねえぜ、オメエのその面』
『──ぐ』
『けど、足下がお留守だ。まぁ、オレから見りゃどこもかしこもお留守番だがよ』
『く、ぁ!』
『――この期に及ンで、まーだ本気でやれてねえな、オメエ』
『待ってくれ、出掛けると? この状況で、この塔から出ていくつもりだと、あなたはそう言うのか!?』
『出てる結論を聞き直してンじゃねえよ。言っただろうが。雨が降ったぐれえで遊びに出掛けンのを我慢する奴がいるかよ。なンせ、塔の中にゃ退屈な奴しかいねえ。オレの遊び相手ができたのが激マブ一人……オメエらじゃ、今のオレの遊び相手も務まらねえ』
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「遊び相手……」
それすらも、運と状況が味方しただけだった。
レイドの遊び相手を真っ向からできる人間などいるのだろうか。
「──そんな人、ラインハルトくらいしか思いつかないかも……」
「レイドと渡り合える強さの人間がそう簡単にいたら困るかしら。世界が崩壊するのよ」
「た、確かに……」
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『どうにもなンねえな、その性分』
『――後ろだ、ユリウス!!』
『――エキドナを、アナスタシア様を頼んだ!!』
『――はン。本当に、どうもなンねえな、その性分』
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「──スバル……」
ユリウスが、黄色い瞳を揺らめかせる。
見殺しにするだけなら、スバルは手を汚さずに済んだというのに。
「──本当に、苦労する性分だ。君も私も」
そう、眉を下げて笑うのを、スクリーンの明かりだけが照らしていた。